突撃、我が校の格納庫
更新が遅れました、申し訳ない
「さて、聞きたい事が幾つかあるんですが……構いませんよね? まあ、ダメだと言われたとしても聞きますけど」
「あうぅぅ、その、アレよ。お手柔らかにね?」
「内容にもよります」
椿はその弱気な発言に溜め息を吐きながら、並ぶ三機を見据える。
両手にパイルバンカーを積んだヴェルデ、両腕がガトリング砲そのもののモリュブドス。この二機はもう……後回しだ、色々と聞きたい事があり過ぎる。
だが逆にこうも見る事が出来る。残った一機の黒鉄が、余りにも普通過ぎるのだ。
「黒鉄……むしろ逆に浮いてるような気がするんだよな」
「あうぅ……あの、それはその僕の機体で」
「え? えーっと、この前のイベントに出てた時、黒鉄に乗ってたのも?」
「はい、嘘だと思うでしょうけど僕です」
ここで「はいそうです」と答える選択肢は無いだろう。いやでも何と言うか、嘘臭いと言うのは確かだ。
イベントの際にたった数十秒程度だが戦って分かったのは、確実さを優先する攻撃と冷静さ、そして反応の良さだ。高速で接近する機体に対してグレネードと銃撃による多方向からの同時攻撃を選択し、それをお手本の様なコースで撃ち込む。
そんな技をあの状況でやってのけた、それだけでなく一発はゲルブの蹴りを盾で受け止めたのだ。
そんな技術を持っているのが……こう、何と言うか、オドオドと。もっとどっしりと構えている奴を期待していたんだが。
「シロりんは凄いんだから! 見てくれはこんなだけど、馬鹿人形に乗ったらガラッと変わって馬鹿に出来ないんだから!」
「何だその多重人格みたいなの、それにシロりんってオイ……」
「あ、はい。僕は一年の城羽仁 楓って言います、以後お見知り置きをー」
「あ、ああ。俺も一年だからそんな気にしなくても……倉掛 椿だ、よろしく」
そう言いながら椿は楓へと手を差し出す。その手を楓は両手で包み込みブンブンと振りながら握手をした。まるで有名人にでも会ったみたいだ。
何でも彼曰く「あそこまで強い人は見た事が無い」のだとか。そう言われると正直恥ずかしいものがあるが、褒めてもらっているのだから喜ぶべきだろう。
「で、機体の方だけども……盾持ち第一世代機でアサルトライフルに、他には?」
「他にはハンドガン一つと火鉈とグレネードだよ」
「火鉈? 何でまたそんな物を」
火鉈、と言うよりも発熱武器と言うジャンルを説明するべきだろう。
接近格闘武器には大きく分けて二種類存在する、質量武器と発熱武器だ。質量武器は文字通り質量で叩き潰す武器で、ハンマーやら大型剣が含まれる。多く流通している刀類はギリギリ質量武器である。
発熱武器は武器そのものに発熱機構を組み込み、熱により敵装甲を焼き切る(溶かすとも言う)武器である。質量武器とは違い重装甲相手にも甚大な被害を与える事が出来るが、武器に機構を組み込むと言う構造上どうにも脆いのだ。
他にも、熱を安定させるため全体的に発熱武器はサイズが小さい。ナイフを基本として、どうやっても鉈が最大サイズだろう。
「あのね、僕の黒鉄は軽装型にしてあるから耐久度は盾頼りなんだ。だから接近戦は一瞬だけでも当てれば効果のある発熱武器が良いと思ったんだけど……ダメだったかな?」
「合ってる、多分それが一番正しい。……軽装型だから軽めの挙動だったのか」
「重装甲なら先輩のモリュブドスがありますし!」
「うむ、装甲なら我に任せよ!」
黒鉄乗りの城羽仁楓はしっかりと考えて装備を組んでいた、恐らく彼がこのチームの中で一番まともなのだろう。
そしてこの話の流れでは、次に見るのはモリュブドスか。そう椿は思いながら片膝立ちをする機体に目を向ける。
モリュブドス、騎士系統第一世代機にして硬さと重さの概念を突破した謎機体である。通称亀、ガチタンと呼ぶ者も多い。タンク脚じゃないのに何がガチ『タン』か。
武装は両腕の肘から先のガトリング砲、それと両肩のグレネードランチャーの二種類だろうか。少ない様な十分な様な、この感覚は何だろうか。
「見惚れたか、我が愛機に」
「……コンセプトは? それを聞かなきゃ何も言えそうに無いんですが」
「城羽仁の援護、それと並行して敵のヘイト稼ぎだ。微妙な距離から飛んでくるガトリング弾、そしてランチャーから放たれるチャフなど鬱陶しくて堪らんだろう?」
この人マジの人だ、それが椿の感想だった。
ガトリング砲は高い威力がある反面、強い反動と重い重量をもつ重火器である。それを腕そのものにする事により反動を軽減し、機体重量により砲の重量を無視する用法をとったのだろう。その上グレネードは通信阻害用のチャフである。
モリュブドスと言うこともあり、もし狙われたとしても長時間耐える事が可能だろう。これが相手に居たら鬱陶しい事この上ない。
「ああ、名乗り忘れていた。我は吉霧 桂だ、二年生であり君たちの先輩である事を忘れずに、だ」
「……先輩だったんですか」
「うむ」
言葉を間違えていた様だ、今度から気を付けなければ。
さて、さてさて本題である。
残った一人は女子生徒。先程からチラチラとこちらを見る視線があるが、こっちから見ようとすると露骨に目を逸らす。
そんなにヴェルデの事を聞かれるのが嫌か! なら両腕にパイルバンカーなんて積むなよ! そう叫びたくなる気持ちを全力で抑えて、普通の口調を意識しながら声を掛けた。
「あー、最後に、ヴェルデです……ね」
「は……い、一年、虎斑 杏です。好きな物は学食のチャーハンで……」
「そこは良いからとにかくまず聞きたい事がある」
急に好きな物を言い始めた杏の口を止めさせ、最初見た時からの疑問を投げ掛ける事にした。
「銃は、積んでるのか?」
頭の悪い質問である。基本的に射撃戦を主体とするクロートザックに於いて銃を使わない者は、舐めプか本気で近接しか出来ない奴の二択である。ちなみに椿の知り合いには後者が一人居る。
「積んでない、です」
ハンドガンすら無いとは、確かにパイルバンカーは当たれば一発で撃破判定が取れる程に強力な質量武器だ。もっとも、射程が腕の伸びる範囲と杭の伸びる範囲を足した程度しか無いので当たらないのだが。
だがここで一番重要なのは、何故銃を積んでいないのかである。
「それは何故」
「ぱ」
「ぱ……? ぱが何?」
「パイルバンカーってカッコいいじゃん!」
「それが理由か!? そんなだけか!?」
彼女、虎斑杏はどうやら筋金入りーーいや杭入りの杭打ち信者だった様だ。
当たれば勝てるという美酒に酔ってしまい、杭で思考が停止した連中の一員とは驚いた。人は見かけに依らないものである。
いやしかし厳密には武装はもう一つある。ヴェルデの腰辺りに備え付けられている爪型アンカー発射機構、通称バトルフックである。撃てば刺さり、かなりの重量まで巻き上げ可能と言う面白い武装だが、これでトドメは流石に刺せない。
つまりこれを壁や天井に刺して利用すれば、ブースターを使わずとも三次元機動が可能になるのだ。そこから繰り出されるパイルバンカーはさぞ強いだろう、当たればな。
「あ、相手はみんなシロりんとキリー先輩の事で頭が一杯だから当たるもん! 横っ腹風穴だらけだもん!」
「そりゃ余所見してる相手になら当たるでしょうよ、本来なら動き回ってる相手に当てられるようにと」
「あー、それはちょっと難しいかなー?」
この杭打ち信者、相当信仰心が低い様だ。しかし武装は当人の自由である、椿がとやかく言う必要も無い……無い事を祈りたい。