懇願は涙と爪と揺さぶりと胸で
「とにかくっ!!」
そう叫んで女子生徒は椿の肩をがっちりと掴み、期待の眼差しを向けながら言葉を続けた。
「実力を見込んで、って言うかもう実力あるから! クロートザックを一緒にやろう! やって! お願い、じまず、がらぁぁぁ!!」
「気味が悪いし爪食い込んで肩痛いし揺すられて首痛いしもう一度言うが気味が悪い!」
椿の頼みも虚しく、爪が食い込み頭が揺すられていく。これはお願いと言うより懇願、それすらも通り越して脅迫の域に達している気すらする。
「ぞんなごど言わないでざぁぁぁ!!」
「止めろ虎斑! 彼が仲間になる前に再起不能になるぞ! 城羽仁、貴様も見ているだけでなく止めぬか!」
「止めるって、こんな状態の虎斑さんを止められないのは知ってるよね!?」
彼曰く、止められないらしい。つまり承諾しなければ離してくれないのだろう。何と言うことだ、これでは断る選択肢が無いではないか。
だからと言って大人しく連行されると言うのもーー物凄く癪だ。既に昔の話ではあるが、椿には双頭の魔眼などと呼ばれていた時期があったのだ。それなりのプライドと言う物はある。
ハッキリと言ってしまえば『弱い奴とは組みたく無い』などと言う非常に身も蓋も無い話なのだが、椿はほぼ初対面の人間にそんな事を言える様な精神を持ち合わせている訳ではなかった。
「分かった! 条件付きだけど考えるから、離してくれ! な!」
「え゛!? ぼんど!?」
「条件付き! 条件付きだけどな!?」
「ありがとうー! 愛してるー!」
そう叫びながら女子生徒は椿に抱きつく。あまりに咄嗟の事だったので避けられなかったが、それなりに育った胸が押し付けられている感覚や年頃の女子の匂いが鼻をくすぐるのはご馳走様ですと言うべき……。
違う、断じて違う。このまま条件を『もっと抱きついてもらう』にしてしまおうかなどとは断じて考えてはいない。
「して、条件とは……一体何を突き付けるつもりか答えて貰わねばな」
あの流れで女子生徒が抱きつくところまで予想済みだったのか、全く動じていない我君が話を催促する。
助け舟を出して貰えるのは非常にありがたい、その言葉への返答を椿はすぐに返した。
「馬鹿人形だ。お前ら三人の機体を見せてくれ、それで考える」
そう言い切った瞬間、体がーー椿に抱きついている女子生徒の体がビクッと震えた気がしたのは、気のせいなのだろうか。
授業が全て終わり、放課後。
椿は三人に連れられて学校の敷地の隅、錆が目立つガレージへと案内される。
「……はい、ここが私たちクロートザック部の部室です。はい……」
「ああ、安心したまえ。目に見える部分はこうだが、一応地下ガレージと射撃場は整備されている」
何ともまあ、必要最低限だけ残したような場所である。それにしても……何故か放課後になってから女子生徒の元気が感じられない。絶望した様な、諦めかけているような、何だろうか。
その件は置いておくとして、椿は三人に案内されてガレージの中へ入り地下への階段を降りていく。そして最下層に足を踏み入れると、そこには三体の巨人ーー馬鹿人形が片膝立ちで並んでいた。
黒鉄、ヴェルデ、モリュブドス。右からそう並んだ三機は一目で分かる程に使い込まれており、強者が乗っている風格を醸し出していた。
そこまでは、良かった。
第一世代機の比率が多いのも、別に良かった。
そこじゃない、問題はそこじゃない。今すぐにでも怒鳴りたい気持ちがあるが、彼等なりの考えあっての事だろう。武装は人の趣味だ、とあるエース選手が雑誌のインタビューにそう答えていた気がする。
そうだ、多分何か考えてあるのだろう。
そうでも無ければ武装がパイルバンカーだけなどと言うブッ飛んだ物も、両腕がガトリング砲その物になっている事も、理由があるに違いない。