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プロローグ

「両者そこまで!」


一人の若い青年の合図で二人の男性の動きが止まる、互いに姿勢を正し礼をいい距離を取り座る。


「なかなかいい試合でした、ですが田中さんはまだ体の軸が振れています、攻撃や防御の初動で頭を振るたび軸が振れています。遠坂さんは手の動き、足の運び、視線の動きで田中さんに動きが把握されています。ですがお二人共鍛錬の成果は見事です、今日から中伝に入ってもいいですよ」


青年に頭を下げ二人は退出した。


「・・・ふぅ」


ここは昔ながらの古ぼけた道場、使い古された畳には数十年の年季を感じる。もし縁側でお茶をすする老人でもいれば昔懐かし昭和の風景を思い描けるだろう。だがこの道場の持ち主でありこの道場で武術を教えている若き師範、神楽かぐら かなめまだ大学一年の未来ある青年だ。


「今日はこれでゆっくりできるな」


まるで仕事のし過ぎで疲れ果てた雰囲気を醸し出す要。門下生の昇級試合の審判、一仕事終えたあとだからなのか本人が老成なのかは判断はつかない。


「そういえばお隣の大婆さまからお漬物を分けてもらう予定だったな、夕飯のおかずの

ひと品にはあれで決まりだな」


ふと思いだし漬物のため片道五分のお隣に行く。要が住んでるのは町と言ってはいいが田舎町であり隣の家とは五分ほど歩く距離が空いている。


「こんにちわー、大婆さまいらっしゃいますか」

「あ、かなめ兄ちゃんこんちわ。ひいばあちゃんなら奥の座敷で畳の目数えてたよ」


出迎えてくれたのは隣に住む笹山ささやま一家の七歳になる少女、さくらである。


「かなめ兄ちゃん、今日はどうしたの?」

「昨日、大婆さまから漬物やるから来いって言われたの思い出してね」

「あー、なるほど。多分あれだ。ちょっと詰めて持ってくるから

、ひいばちゃんのとこいって待ってて」


そう言うとさくらは小走りに台所の方に向かって行った。奥の座敷に向かうと大婆さまが座敷中央にて瞑想していた。


「よく来たね、坊」

「お邪魔してます、大婆さま」


笹山家の大婆さまは今年で百歳のなる人生の先達である。近隣住民の悩みを聞いたり毎朝近場の公園で街の老人会を率いて健康のため太極拳をやっている。ちなみにこれは本人談だが健康のためと六十歳から始めた太極拳だが健康のためにアレンジされた体操のほうではなく実践で使う武術のほうを間違って習いそれに気がつくまで二十年間毎日やりつづけ気がついたら達人と言われる領域に足を踏み込んでいたうっかりさんでもある。


「坊よ、気づいておるか。最近空気がざわめいておる」

「ええ、気づいてます。大体十日くらい前ぐらいからですかね、丑三つ時と逢魔が時にですが特に騒がしいですね」

「気づいておったなら別にええ、原因はわからんが近いうちによくないことが起こる」

「やはりこの感じは神聖というより悪性に近いですからね」


そう、最近になって町の雰囲気がおかしいのだ、天気が崩れやすいとかではなく、獣たちが騒ぎ風が頬をなでると寒気がする。町の住人たちも感が強いものはこの雰囲気に気がつき始めている。


「坊、天槍流と柴田柔術の爺たちも見回りに参加しとる。坊も時間があったらなるべく見回りに参加しておくれ、なるべく腕が立つ人間がええ、できれば達人と言われる者がな」

「・・・・・・そこまでの事になりうると、総会で?」


総会とは町に住む老人会、その中にいる達人と呼ばれる者たちで行われている会議である。主に世間話だが町の異変に敏感であり悪さを働くものを許さないためこの町にはヤクザいないできるたびに即座に潰されており暴力団関係にはこの町は鬼門とされ近寄ってこなくなった。警察もおかげで平和になったと老人会に感謝状を送ってくるレベルだ。天槍流と柴田柔術は警察にも指導をおこなっており、基本この町の警察官はこの二つの道場の門下生と言っていい。


「うむ、爺共も長年この町で生きてきたが今回のようなことは初めてだと言っておる、わしも同じじゃ。すでに警察の連中も注意を促しておる」

「わかりました、今日から見回りに参加します。ちょうどそろそろ逢魔が時ですしね」

「かなめ兄ちゃん、はいお漬物」

「ありがとね、じゃあこれで失礼しますね、大婆さま」

「うむ、さきの件よろしく頼む」


漬物をもらい笹山家を出る、先ほどの話が気になり少し遠回りして帰ることにした要。漬物は容器に密閉されておりそんなにすぐダメにはならないだろうとの考えだ。

空気がおかしいと感じる要、空気が澱んでいるわけではなくただただおかしいとしか表現のしようがない。


「なんか最近変な感じがするんだよなー」

勇太ゆうたの気のせいでしょ、香菜かなちゃんはなんか感じる?」

「いえ、私もなんにも感じないわ」


前から高校生らしき男女が歩いてくる。要と彼らがすれ違い少し歩いたその時イヤな気配が急速に膨れ上がった。


「っ!? なんだよいったい!!」

「なに! なんなのこれ!!」


要が振り返ると突然、発した光に彼らは拘束されていた。足元には不思議な陣、魔法陣らしきものが描かれている。


「なんだあれは・・・・・・慌てるな! 飲み込まれるぞ!!」


要は一瞬の判断のもと声をかけるとともに彼らを助けるべく走り出した。あれはマズイと要は瞬時に思った、話すことはできても動きを拘束される光、そしてファンタジーな魔法陣。


だがその手が届くと同時に要を含めた四人はこの世界から忽然と姿を消した。

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