四時間目
「次の時間、必ず!お前、小沢を倒す!」
そう誓った僕は、シリアルキラーと化してしまった小沢の犯行を止める事を心に誓った。
「小沢君、どうしちゃったんだろうね……」
僕の腕に寄り添うように立っていた、美羽が小声でつぶやく。
「私たち、友達だったよね……」
僕にも小沢の行動は理解不能だった。
なぜに、クラスメイトを必要も無く殺しているのか?
なぜに、昨日まで友達だったクラスメイトを殺せるのか?
なぜに、騙してまで勝ち抜こうとしてるのか?
なぜに、シリアルキラーと化してしまったのか?
小沢の言っていた「死んだ者達には法則性が有る」と言う言葉も気になる。
死にたく無いって事なんだろうけど。
やっぱり死にたくないよな……。
生き残る為なら何でもやる……。
僕はともかく……。
美羽を生き残らせるためなら……。
僕も何でもやる。
親友だった、矢部を殺すことも躊躇しない……。
次の時間、奴を絶対に倒す!
そう意気込んで、次の時間のチャイムを待った。
四時間目の始業のチャイムが鳴った。
そして校内放送が流れ始める。
──キーン コーン カーン コーン!
『それでは四時間目のテストを始めます。
四時間目は体育のテスト『身分制度』を始めます。
ルールは簡単、鬼ごっこです。
クラスメイトを鬼と子に分けて、鬼が子を倒すだけです。
鬼の人は全員のクラスメイトを倒せば合格。
子の人は制限時間迄逃げ切れれば合格です。
さすがにこの教室だけでは狭すぎるので、校舎内全域で行います。
広いので、子が有利になってしまうので、鬼の皆さんには武器も用意しました。
武器は掃除用具入れのロッカーの中に入っています。
制限時間は30分。
皆さんの机の中に、鬼と子のグループ分けのカードが入っています。
なお、校舎から出た場合は即退場なのでご注意ください。
それでは始めます』
「鬼だ!」
「子か!」
「やった!」
「くっそー」
クラスの中からさまざまな喜怒哀楽の声が聞こえる。
僕の机の中を調べると1枚のカードが入っていた。
子だ。
「美羽のカードは?」
「子」
「僕も子だよ。よかった~」
「うん!」
「もう始まってるんだよな?」
「早く逃げよう」
僕たちは足早に教室を出ようとした。
他の生徒も教室から逃げようとして入り口が大混雑して出れない。
ふと、教室の後ろの出口に目をやると、
鬼役のクラスメイトが武器を求めロッカーに集まっている。
6人ほどが鬼だった。
小沢も鬼なのか、ロッカーの周りに立っている。
「この武器……こんなもの使っていいのか?」
「マシンガン、鉄砲、日本刀……これなんだ? バズーカ砲って奴?」
「マジ? こんなもの使ったら、死んじゃうんじゃね?」
ロッカーから出てきたのは有り余るほどの殺傷能力を持った武器だった。
アサルトライフル
サブマシンガン
ライトマシンガン
ハンドガン
日本刀
RPG
日本では所持さえ禁止されてる武器だった。
鬼の一人が青ざめた表情で言う。
「これじゃ、本当の殺し合いじゃないか」
「こんなものどう使うんだよ……」
鬼の一人がアサルトライフルを取り構えた。
陸上部の藤田だ。
「こう使うんだよ!」
藤田はいきなりアサルトライフルを構え、引き金を引き弾を乱射し始めた。
発射の反動を制御できないのか、銃口が跳ね上がり上を向き、天井に向けて激しく弾を乱射し続ける。
天井からは、剥がれ落ちたモルタルの天井が雪のように降る。
「やめろ!」
小沢が静止に入り銃口を下げる。
藤田は大声で怒鳴る。
「俺たち、制限時間以内に全員の子を倒さないと死ぬんだぜ! 弾を打ち尽くしたら俺たちの負けだ! 死にたいのか? 俺は死にたくない! 死にたくない! 死にたくないんだよ!!」
その言葉を聞いた鬼たちは次々に武器を手に持ち、銃を乱射し始める。
ババババババ!
ズダダダダダダ!
パンパンパン!
入り口の団子状態になった生徒に向かって弾を乱射する!
「きゃ~!」
「ぎゃ~!」
「あ~!」
「ぐあぁぁ!」
撃たれた生徒から断末魔の悲鳴が上がる。
うずくまり、床の上で痙攣を起こしている生徒もいる。
そこにRPGが打ち込まれ、爆炎爆風に出口に詰め寄せた生徒を襲う。
銃撃は、弾が尽きるまで続き、大半の生徒が命を落とした。
新たな殺人ゲームが始まった…………。
僕と美羽はRPGの爆風に吹き飛ばされ、廊下の壁に激しく叩きつけられるものの、間一髪のタイミングでドアから出ることが出来たので、難を逃れた。
僕は気絶してる美羽を叩き起こす。
「う~ん……」
美羽は生きているが、意識は戻っていなかった。
美羽を肩に背負い、その場から逃げる。
僕達は放送室に立て籠もった。
放送室は窓が無く、入り口の鉄扉も厚い。
時間切れまで耐えられるかもしれない。
そう思ったからだ。
僕と美羽を含め八人ほどの生徒がこの部屋に隠れる。
泣いている女生徒もいた。
血だらけになって虫の息の男子生徒もいた。
「なんで僕たち、こんな殺し合いしないといけないんだ?」
昨日までは修学旅行を楽しんでいた仲じゃないか……。
ダン!
ダン!
ダン!
消火器らしき金属物で放送室のドアを激しく叩きつけられる。
どうやら鬼の銃火器の弾は先ほどの乱射で尽きているようだ。
少しは時間が稼げるが、それも時間の問題だろう。
どうすれば……。
このドアを破られたら、確実に僕たちは殺される。
──僕は美羽を守るためなら何でもする……。
それが嘘であっても……。
僕は放送室の放送機器のスイッチを入れ、マイクを手に取った。
そして鬼に向かって全校放送を流した。
「お前らは気が付いてないだろうが、終了条件は『全員殺したら』だ。鬼も含めて全員殺さないと生き残れないんだぞ!」
あのルールからしたら、子を全員殺せば鬼の勝ちになるはずだが、あえて嘘でハッタリをかましてみた。
鬼たちが、冷静な判断が出来なくなっている事に賭けた。
すると、激しくドアを叩きつけていた音が止む。
そして、数秒の後、鬼同士の殺し合いが始まった。
「ぐあぁ~!」
「死ねい!」
数分後にはすべての鬼が半死半生になっていた。
鬼たちの呻き声が聞こえる。
小沢らしき鬼の声も聞こえる。
「げほげほ……。いいか時間が無いよく聞け。目を覚ますんだ、真二、美羽」
「目を……覚ます?」
「この世界は現実の世界じゃない。考えてみろ、今日は何曜日だ?」
「土曜日……」
「土曜日に学校の授業が今まで有ったことあるか?」
「ない……」
「それに俺の席の位置がおかしいだろう」
小沢の席の位置を思い出す。
最後尾の列の真ん中。
何故か、小沢の前には誰も座っていない。
「あの席は、教室の席か?」
「えっ!?」
「他で見たことないか? あの席の配置」
「え??」
「思い出すんだ、思い出せ! つい最近の事だ」
僕は記憶の海の中をフル回転で漁った。
「修学旅行?」
「そうだ、思い出せ!」
僕は、昨日までの楽しかった修学旅行を思い出す。
「修学旅行は何処に行った?」
「京都」
「じゃぁ、何処を見た?」
バスの車窓から見た富士山、
アルプスの山々、
美羽の笑顔、
既に死んだ加藤の笑い顔、
クラスメイトの楽しそうな顔……。
京都なんて行ってなかった。
思い出すのはバスの中の事だけで、
なにも思い出せなかった。
「もう時間が無い、思い出せ! 修学旅行の朝からの出来事を思い出せ!」
「朝の事?」
僕は修学旅行の朝の事を思い出す。
早朝から雨が降っていた。
始発電車から降りた僕と美羽はびしょ濡れになりながらタクシー乗り場を目指す。
大雨で、少し電車が遅れて学校行の始発バスに乗り遅れたからだ。
タクシー乗り場は水たまりと言うよりも池の様になっていた。
「凄い雨だね」
「こんな大雨で修学旅行行けるのかな?」
びしょ濡れになりながらタクシーに乗り、学校に向かってもらう。
「凄く濡れちゃったね」
「濡れ髪の美羽は可愛いよ」
学校に着くと、着いているはずのバスがまだ着いていなかった。
大雨で遅れるという。
「バス来ないね」
「タクシーに乗って急ぐことなかったな。バスで来ても十分間に合ったな」
校庭にバスが来た。
6時半に到着して7時に出発の予定のバスが。
僕たちの乗るバスだけが、8時前になってやっと到着した。
僕たちは大急ぎでバスに乗った。
バスの運転手は斎藤先生に謝っている。
「こんなに遅れてもらっちゃ困るよ。予定があるんだから~」
「すいません、車体のトラブルで遅れてしまいました。途中で速度上げて休憩時間も削りますので、到着時刻は遅れないように頑張ります」
バスに乗る。
みんなはしゃいでる。
そりゃそうだ、高校最後で最大のイベントの修学旅行だもんな。
美羽も僕に笑顔を振りまいてくれる。
小沢とも、楽しい会話をした。
隣の席、小沢だったな……。
そう言えば、教室も……。
「バスの座席か?」
鉄の扉の外でか細くなった小沢の声が聞こえる。
「少しは思い出してきたようだな。続きを思い出せ。もう時間が無い」
僕はその先を思い出した。
思い出してはいけない気もする。
バスは通常よりも速度を上げて走ってたように思う。
道中で後れを取り戻すつもりなんだろう。
「なんか、このバス揺れてない?」
「すごく揺れてるね。美羽酔わない?」
「少し気持ち悪い」
「このバス、蛇行運転してる?」
前方の運転手を見ると、運転手がハンドルに伏せていた。
居眠り運転だ。
気づくのが遅かった。
蛇行運転したバスは、道路から大きくハミ出しトンネルの入り口に激突した。
右側の運転室がトンネルの壁にぶつかり大きく潰れる。
グシャグシャ!
嫌な音だった。
スローモーションのように、記憶の中で映像が続く。
運転手が潰れ、
割れたガラスで、斎藤先生が血を吹き出し、
運転手の後ろの席の生徒が次に潰される。
「うぎゃ~!」
耳に残る断末魔の悲鳴。
衝撃でバスから放り出される生徒もいた。
加藤だ。
加藤は壁に叩きつけられて血だるまになった。
バスの右半分が潰れた。
僕のすぐ横では、潰れたバスに右半身挟まれ息絶えた小沢の顔が見えた。
僕はその時全てを思い出した。
乗っているバスが事故に遭っているその最中に戻った。
死んだはずの小沢の声が聞こえる。
「伏せろ!」
僕は美羽の頭を抱え席に伏せた。
その直後、僕の元有った頭の位置を大きなフロントガラスの板が、刃物で薙ぐように前方の生徒の首を跳ねながら飛び込んで来た。
──ドゴン!
激しい衝突の衝撃。
美羽の頭を抱え、色々な物が凶器となって飛んでくる中、伏せて耐えた。
そして気を失った。
俺は闇の中で声を聞いた。
「どうやら俺のターンで、どうにか間に合ったようだな」
小沢の声が聞こえた。
「俺は助からなかったが、俺のターンでお前達だけでも助けられて満足だ」
そして僕の意識は完全なる闇の中に落ちた。
気が付くと、眼前にはレスキュー隊員の顔。
俺たちは救助されたようだ。
美羽も直前に救出されて助かったようだ。
横を見ると轢死した小沢が居た。
彼は微笑みながら死んでいた。
僕が見たあの教室はなんだったんだろうか?
三途の川や、黄泉の世界だったんだろうか?
死の直前に見る走馬灯だったのだろうか?
今となっては僕にはわからなかった。
二年四組 座席表
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[後 藤] [---] [---] [---]
[近 藤] [石 井] [---] [---]
[遊 佐] [矢 部] [---] [---] [---]
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