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鐘つき聖堂の魔女  作者: 神谷りん
◆起章―謎の男―
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謎の男の正体



「何であんなところで倒れてたの?この街の人ではないみたいだけど…あなた何者?」

「俺はライル。隣の国の商人でドルネイには食料の買い付けに来ていたんだが、その途中で山賊に身ぐるみはがされてしまってね。買い付けのための資金も全部持って行かれた」

それで何も持っていなかったのか、とリーシャは納得する。


「商人だったのね。隣の国ってネイアノール?それともアルデリア?」

「ネイアノールだ」

「身ぐるみ剥がされた状態でよく検問を通ることが出来ましたね。ドルネイの検問は厳しくて有名なのに」

「まぁ何とか。入れたはいいもののあんな事になってしまったけどね」

肩をすくめた男、ライルは焦るどころかマイペースに笑っただけだった。

余程肝が据わっているのか、ただ鈍感なだけなのかは読めない。


「あなたすごく熱が高くて、尋常じゃなかったけど、大丈夫?」

「あぁ…多分風邪だ。ドルネイに入る前からこじらせてしまって、街に入って気が抜けたのかもしれない。早朝にはドルネイに入ったから半日は気を失っていたことになるな」

「半日もあんなところに…それは悪化しても仕方ないわね」

そうはいったものの、正直なところリーシャはライルの言うことを完全に信じたわけではなかった。

リーシャは魔女に生まれ、何度も人に騙され、裏切られることが多かったため、ある程度ならどういう性質の人間かも分かるようになったのだ。

ライルという男は一見柔和で優しそうな雰囲気だが、その完璧なまでの顔が象る笑みの裏に何か隠している様にも見えた。


「裏路地じゃなくてせめて表通りで倒れていたら誰か助けてくれたかもしれなかった」

「ドルネイは旅人を受け入れるだけの余裕なんてないから。道端で倒れていても誰も助けはしないわ。運が良ければ貴族が何か恵んでくれるかもしれないけど、それは女子供だけ。貴方のそのなりだったら放っておくでしょうね」

「けど君は助けてくれた」

ライルは綺麗な笑みを浮かべて、女が喜びそうな甘い台詞をサラリと口にする。

「ッ…私は一人暮らしだし、一日くらいだったら大丈夫だから」

「泊めてもらった身で言うのもなんだが、簡単に男を家に入れてはいけないよ。君はひとり暮らしみたいだし、少しは警戒しなかった?」

「それは大丈夫。いざとなったら何とかなるもの」

「すごい自信だね」

「べ、別に自信がある訳じゃない。病み上がりの人に負ける気しないだけ」

実際のところ、リーシャは外見こそ細身で華奢だが、魔法さえ使えばそこらを歩いている人間よりも力関係で優位に立つことができる。

といってもそれは最終手段であり、力を使わないことが一番であった。

「それに貴方は人を襲えるような人には見えない…と思う」

初対面ながらライルはどこか怪しくも、人に害をなす存在ではないとリーシャは判断した。

その判断に驚いたのはライルで、リーシャに向ける目が面白いものを見るようなものに変わる。

「いいの?自分の直感を信じて」

「今襲われてないということは私の直感が当たっていたということでしょう?まぁ…襲うに足りない魅力だとは思いますけど」

「そんなことはないよ。君はとても可愛らしい」

「なっ!そんなことさらっと言わないでください!」

さっき目覚めたばかりのくせに、と心の中では冷めた考えが浮かんだが、リーシャは顔を真っ赤にして反応した。

ライルは顔を赤くして反応するリーシャにクスクスと笑いながら「ごめん、ごめん」と、心のこもっていない謝罪を口にする。


「俺は助けてくれた恩人に手を出すような真似をするほど馬鹿じゃないよ」

ライルはベッドから足をおろし、足の感覚を確かめるように指で床を踏みしめる。

一瞬動揺したリーシャに気付いたライルは立ち上がったが、リーシャとの距離を保った。

先ほど威勢を張ったものの、顔にはやはり怯えも見えたためだ。


「大丈夫、君に危害は加えないから」

ライルは虚勢を張っているリーシャをからかうでもなく、両手を上げてリーシャを傷つけるようなものは何も持っていないと示す。

「そっちに行ってもいいかい?」

リーシャが頷いたのを確認してからライルはゆっくりとリーシャに歩み寄る。

一方、リーシャは右手中指にはめられた指輪に手を持っていく。

目の前に立ったライルは見上げるほど背丈が高く、リーシャは身をすくませるような想いを奮い立たせながら見上げた。

圧倒的有利に立つ力を持っていてもやはり不意を突かれれば一瞬で不利になる。

ライルがおかしな行動をとれば、吹き飛ばしてやろうと指輪に触れたまま構えていると、スッと差し出された手。

ごつごつとした大きな手を拍子抜けした顔でまじまじと見るリーシャにライルは「お礼が遅れてすまない」と口にする。


「昨日は本当に助かった。ありがとう、えっと…」

ライルが口ごもった理由が分かったリーシャは一瞬躊躇ったが、ゆっくりと口を開いた。

「リーシャ…リーシャ・リベリアです」

リーシャは自分の名を小さく呟いた後、差し出された手を見て差し出された理由を考える。

ライルから触れようとはしないし、何かを欲しているにしては会話と合わない。



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