ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
前回『彼女』の一人称を、謝って『私』にしていました。
正しくは、『僕』です。
……次からは、気を付けよう……
「あぁ……もぅよく考えたらアレじゃん!!別に記憶喪失って特に喜べることじゃないじゃん!!」
記憶喪失とか、普通めちゃくちゃ嘆くわ。あほか。
……実際のところは、どうせメンタリストの仕業なのだろうが。
いくらなんでも、もともと日本がこういうものという考えはナイ。流石にどうかしている。
「糞……」
壁に手をやり、ため息をつく。足元を見ると、いつの間にか両足ともスリッパが脱げていた。……さっき走ったときか。
畜生め。ドッキリを受けている人はこんな気分なのだろうか。というか、すべてヤラセなのでは……?
……あ~~~……だめだ。
「もぅ……こんがらがってきた……!!」
ドッキリなのかメンタリストなのか、はたまた現実か。
体を壁に預け、再び頭を掻き毟る。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
一体どうしてこうなった……
「……大丈夫ですか?」
掻き毟るのをやめて顔を上げ、先ほどの衝撃が収まったのか、心配げに顔を覗き込んでくる彼女を見る。畜生。こいつが仕掛け人か?
この世の純情を詰め込んだような曇り一つない眼が余計腹立たしい。
「いぇ……その、先ほどトイレの中でも何やらぶつぶつと……」
何を、白々しい。どうせ腹の内では、なんなんだこの狂人は、とか、こいつドッキリにマジでかかってやんのとか思ってんだろう。
「……大丈夫じゃねぇよ……」
「はい……?」
顔を寄せてくる。眉を心配げに寄せあげているのが、哀れんでいるように見えてしょうがない。
「だから……!!」
「だから……?」
詰め寄って、叫ぶ。もう限界だ。ドッキリにせよ、マジにせよ、これでハッキリする。そうだ、最初から、こうすればよかったのだ。
「いい加減にしやがれ!!」
「ふぇッ!?」
ビクリと体を震わせ仰け反る彼女に対して、容赦なく詰めかけ、畳み掛ける。彼女の表情は、髪に隠れてよく見えない。
「目が覚めたらいきなりわけのわからねぇ所に寝かせられててよ!!訳分けんねぇよ!!!赤の国!??馬鹿言え、冗談はよせ!!!そんな妄想に付きあっている暇はねぇ!!!!」
そう言えば、自分で勝手に病院と見当をつけて、此処がどこなのか聞くのを忘れていた……
そんなことを思いつつ、もう遅いとばかりになおも畳み掛ける。依然、彼女に一切の動きは見られない。……手にしていたバインダーを持つ力が少し強くなったくらいか?
「ドッキリなのか!?ァア!?なんなんだ一体コレは!!!なんで俺が自分の記憶を忘れてんだ!?俺は何をしていた?俺は何の事務所で何をしてどうやって働いていた?俺はどんな友人関係を持って、俺はどんな人と結婚してどんな人生を送っていた?あぁ?わかんねえか?俺はもっとわかんねぇよ!!!」
ビビっているのか放心しているのかわからない彼女に、不満、疑念、すべてをぶちまける。
……結婚しているという確証はないのだが、口が勝手に言葉を盛っていた。
「……大体あの飯はなんだ?わけのわからん乳白色の飲み物に訳の解らん薬だけ?馬鹿にしてる!!!!ドッキリだか何だか知らねぇが大概にしやがれ!!!!」
自分は、怒りっぽい性格だったのかもしれない。もしくは、それより酷いクズだったのかもしれない。……解らないが。
忘れてしまった記憶を探りつつ、そう思う。口先だけはくるくる忙しなく回るのに、不思議と脳内は冷ややかに現状を見届けていた。おそらく、当時の自分はこうではなかっただろう。もっと、本能の赴くままに、気に入らないことは全てぶちまけていただろう。……今も、そうか。
「とっとと、俺を!!家に!!返せ!!!!!!」
最低だと思いつつも言いきり、彼女を上から見下ろすようにして肩で荒く息をする。
彼女は背を一杯にのけぞらせていて……髪が床に付きそうになるほどだった。
「ぁ……ぁの……、その……」
彼女の表情は、すっかりおびえ切った小動物のソレを思わせた。……固まっていた表情が、たった今融解されたかのような気がしたが……おそらく、言い切るとともに我に返ったのか。
「何だ?やっぱりドッキリか?うん?そうなんだろ?」
先ほど散々自己嫌悪しながら暴言をぶちまけてなお、まだ自分の『口』は、減らず口を叩いている。畜生。此処は普通、謝るところだろうが。
そんな、まだいきり立った表情の……幾分マシになったが、俺に対して彼女は
「すみません……ドッキリがなんなのかわかりせんのと……その……」
俺の後ろを指さして、こう言った。
「親父が……その……後ろにいます……」
――へ?ビックダディって……
嫌な、というか最悪な予感と悪寒を感じつつ、急にうすら寒くなった割に、とんでもない圧迫感を覚える後ろに振り返るよりも先に――
「うちの子に何してんだァ!?この糞野郎がァ!!!!!!!!!!!!」
なまじ振り返ろうとした結果か。側頭部に、全速力の自動車にはねられたような、強い衝撃を感じた。
豪快な轟音と、自らの頭蓋骨越しに脳に直接響く振動を感じながら、その轟音が自らの頭蓋骨が陥没したものだと気づいた時には、すでに足は地面から浮いていた。
次に視界いっぱいに赤を感じつつ、自分はトイレの中に吹っ飛んで行った。自らを殴った?者の姿は、視界の端で真っ赤な赤としか、捉えられなかった。
赤に包まれた世界で、激痛は遅れてやってきた。
トイレの洋式便器に顔を突っ込んだ自分の頭全体に。首は、関節が外れたようだ。
……そのあまりの痛みに自分は声を上げることもなく気絶して……
追い打ちに水を流されたのを最後に、自分の記憶は途絶えた。
どうも、遠坂です。
gdgdですね。はい。
ほとんど即興なので、物語があらぬ方向へと飛んでいきます。
……まぁ、もうそろそろでこの境谷くんは、自らが日常とは違う何処かに飛んで行ったことに気付くでしょう。
それでは、また。