Be my escape
――よし、彼を終焉世界に強制転移させる事に成功したか。
――ぇえ。全て、首尾よく行っているわよ。彼女、境界に墜ちたし。
――行ってくれなきゃ困る。なんせ、行かなかったらこれまでの行動すべてが無駄になるからな。
――……しっかし、難儀だねぇ……彼も、彼女も。
――『彼』はともかく、何故『彼女』?
――だって、どう足掻いても成功する可能性のないムリゲーに挑戦し続けてるんだもん。その挙句……
――馬鹿言え、俺たちは何度あいつに……
――何度も、じゃない。実際は一度もないことになっている。
――それが気にくわんのだよ。君。
――まぁ、我々ができる事と言えば……
――今回に、期待する。
――……前任者も頑張ったんだけどね……
――おい、なんだ?やっぱり、お前あいつと……
――あーあーあー!!聞きたくない!!
――おいおい、最期まで締まらねぇ奴だなァ。
――……とにかく、彼が居なければ、今回の計画は成功しなかった。
――ま、これまでもずっと成功していたのかもしんねぇけどな。
――それをいっちゃぁいけんでしょうに。
――とにかく!!彼が居なければ……
――だから次の世界にも彼はいるっての。
――もっとも、小さな羽ばたきによって世界の構造は変わりますが……
――うん?テメェはんな古典を楽しむ趣向でもあったか?
――ありませんが、これは一般教養の範囲内でしょう……
――そっか……ッ!!とぉ……
――来ましたか。
――来ましたね、というかお前にも来てるな。てか全員に。
――……怖いねぇ。
――怖い?お前がそんな感性を持っていたとは驚きだ……
――フン、最期まで減らず口を……
――まぁ、いいんでねぇの?最期まで俺ららしかったというか……
――……というか、正確には最期じゃないですけどね……
――まぁ、なんにせよアレだ。
――次が、最後であることを祈……――
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「起きてください!!」
目が覚めると、見知らぬ真っ白な天井。
覗き込んでくる顔に、寝ぼけながらも脳味噌がピントを合わせようと努力している中、俺は思考する。
――酔っぱらってなんかやったか……?
警察に保護されたり……もしくは、誰かと喧嘩してとか……
いや、違う。酒は絶対に違う。
誰だったか忘れたが、あいつとそんな感じの約束をした筈だ。
何だったかの帰りだったかになんだったかに乗って、そんときだったかになんだったかとなんかになって、そんときに誰だったかがなんだかなんかいって、それでなんだかなんかになって、んでなんだったかをなんだったかで降りて……
……?
だめだ、まったく思い出せん。というか、昨日何をしていたかの最後の記憶すらない。
……。
「あ、起きましたか……?」
記憶を掘り起こそうと、脳内を必死に模索する中、再び覗き込んでくる顔から声がかかる。
「ぁ……はい、起きました……」
ピントが合わせ終わり、ようやくどんな顔なのかを見れるようになった。
顔立ちは……どこか幼さを感じる、女の子のようだ。
特に、長いまつげと大きな目がそう感じさせる。まさに、お人形さんのような顔立ちだ。
黒い髪の毛は、すべてこちらに垂れ下がっていてわかりにくいが、
おそらく肩には余裕でつく程度の長さだろう。
……前髪だけで。後ろ髪の長さは解らない。
「よかったです……あなた、地上の路地裏で、気を失ってたんですよ?……もし見つけるのがもう少し遅かったら……」
ぁあ、どうやら、路地裏で寝ていたらしい。……ヤッパリ酒か。
「それに、腕番号も無いし……これから、僕たちの親父から直接詰問を受ける予定です。パパはちょっと怖いから、気をしっかり持ってくださいですね?」
……うん?何やら聞きなれない横文字が聞こえた気がしたが……気のせいか?
「それじゃぁ、昼ご飯持ってきますね……安静にしておいてくださいよ?」
そういうと彼女は顔をひっこめ、スリッパをパタパタと鳴らせながらどこかへ歩いて行った。
……昼ご飯を持ってくるという事は、ここは病院……?でも、あんなに親密に看護士が対応するものなのか……?
まぁ、知らないことを考えてもしょうがない。
体を起こし、左を見やると窓越しに太陽がてっぺんに上っていた。
……昼の、12時くらいか。というか……この部屋、時計は無いのか……?
辺りをぐるりと見渡すと、右側に丸テーブルに萎れた花の活けられた花瓶、奥に目をやれば開きっぱなしのドア。奥には白い廊下が横切っている。……部屋にはソレ以外何もなく……今一度自らが身を任せていたベッドを見ると、所々ボロ布のつぎはぎがあった。
……ふむ。真っ白な部屋ではあるが、どこか薄汚れている……
しかも、ボロイシーツのベッドときたものだ。
気が付いてみると、なんだ。ベッドのバネが少々固い。……枕も低反発ではあるが、決して上物とは程遠い……というか、自分の体に何もかかっていない……。
一応、病人服らしき、緑色の寝巻にはなっているが……。
うん。ここは、病院ではないな。
少なくとも、日本にこんなに不衛生極まりない病院はないはずだ。
すると、此処は一体どこなのか……?
……。
解らん……。
勝手に動くと不味いだろうと思い、暫くそうやって考えていると、パタパタとスリッパを鳴らせながら、先ほどの少女らしき人が戻ってきた。
「お待たせです~」
手には、何やらお盆を持っている。
……。彼女を見る限り、矢張りここは病院じゃないなぁ……
彼女はナース帽をかぶっておらず、服装もナースの物とは程遠い……黒い、ダスターコートの様な物を着ていた。……一応、首から聴診器は下げているが、何やらビジュアル的に難がある。……?白衣を黒く染め上げているだけなのか?もしかして。
長い髪の毛……腰ほどの長さがあるのにあいまって、どこか不気味さを感じさせた。
……まぁ、顔は非常に血色の好い、かわいらしいものなのだが……。
「はい、どうぞ」
盆を受け取り、中身を覗きこむ。
「……マジで……?」
中には、乳白色の液体を入れた椀一杯と、丁寧に折りたたまれた青い薬包紙に、小さなペットボトル一杯の水があるだけだった。
「……?……あ、こちらのお薬は症状があらわれたとき……というか、外出の際に必ず飲んでくださいです。効能は、女性ホルモンの活性化です」
「……女性ホルモンの活性化……?」
……何のために?
というか、この乳白色の液体も気になるのだが……
「はい。そうです……あ、あとこれがあなたの暫定の腕番号です」
そう言いうと、内ポケットから何やら腕輪を出して、渡してきた。
持ってみると、意外と重さは感じず、くすんだ銀色の表面に浮かび上がった00674-01-DDという、緑の文字が目立った。反対側にはAbsolute-Rankingと銘打たれている。
「ぇっとその……アブソリュー……?」
「アブソリュート・ランキング。いわゆる身分制度の為のシステムですね。この国、赤の国では基本となっているシステムです」
「……は?」
身分制度?……赤の国?…共産?……身分制度あるから違うか。
「それは通常、男性のみの物となっています。……ほら」
混乱する自分を余所に袖を捲り、彼女は自らの手首を見せる。
そこには自分の持っている者と同じような腕輪がつけられていて……
00024-01-VUと、緑の文字で浮かび上がっていた。
「最初の5ケタの数字は生まれを現していて……次の二ケタは身分です。01は、奴隷ですね。最後のアルファベットはその人物の危険度を現しています」
袖を戻しながら、彼女は続ける。
「ちなみに示すのに使われる色は、その人物の状態を表します。たとえば赤は死亡、緑は健康といった具合です」
……アレ?なんで彼女、女性なのにコレつけてんの?……うん?いや、真面目に考えるのもアホらしいか。
「さて、これまでに何か質問、言いたいことはありますか?」
何かある?と、彼女は澄ました顔で聞いてくる。
もう、聞きたいことがあれば、なんでも聞いてください。そしたら満足いくように答えます的な、
何処か自信満々なオーラを感じる。
……まぁ、自信がついているのは別にいいのだが、
自分としてはすでに自分自身でこの状態に折り合いをつけてしまっている。
それはつまり、ドッキリ。もしくはメンタリスト系の番組か。
おそらくきっと、何やら怪しい薬品でも嗅がされるか、携帯電話越しに催眠にかけられたのだろう。
まぁ、催眠は完璧にかかっていなかったようだが。……というか、催眠なんてものは本当にあるのか?
……ふむ。
「そうだね……とりあえず……」
言う事は、決まっている。一発で鼻を明かしてやる。というか、製作者側を顔真っ赤にしてやる。
おそらく、ドッキリというだけでは不十分だ。何らかの手立てを打たれてしまうだろう。
つまり――ドッキリを継続させられない状況を作ればよいのだ。
脳内で粗造りな作戦を立て、たっぷり間をおいて、一呼吸。
……そして――
「すみません、トイレ貸してください」
――一気に言い切った。
――これで、ドッキリは中止だな。
そう、心の中で確信しながら。
どうも、遠坂です。
今回は大分、砕けた文章になりました。
……さて、最初のわけのわからない会話は、おそらくきっと、後々わかるでしょう。
そして、主人公のたどり着いたよくわからない場所のよくわからない部屋。
ソコはいったい何なのか。
次回あたり、判明すると思います。
では……
P.S.
副題は、映画、もしくは曲から取っております。
自分では、洒落た名前を考え付かないので……。