Back to the Future
トンデモ理論、トンデモ武器、トンデモ技術。
この作品は、これらの成分を多分に含みます。
それでも宜しければ、ご愛読ください……
しょうせt―――――――。
柔らかな光、
――――――い。
それは、一つのプリズムを通し、
―――――さい。
赤橙黄緑青藍紫へと、色を変えた。
――――ださい。
それらは別々の方向へと延びていき、
―――ください。
最期は闇へと飲まれていった。
――てください。
深い深い、闇の中。
―きてください。
終わりなく感じたそれは
起きてください。
やがて、新たな光を迎え入れた――
「起きてください!!!!」
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「ぅ……ん?」
目が覚めると、見慣れた天井。
目に差し込んでくる日の光に顔をしかめながら、首をひねり、頭上の時計を確認する。
「……やっべェ!?」
その目ざまし時計は8時丁度を刺していて……
それは、自らの遅刻を意味していた。
暫くショックに固まっている間、残酷にも時計の秒針は回っていく。
「やばいやばいやばい」
飛び跳ねるように起き上がり、つりさげられた裸電球に頭を強かに打ち付けるのを無視し、身に着けていた衣類を脱ぎ棄てる。
――しまった……また、制服のまま寝てしまっていた……
少し黄ばんだカッターシャツに、蜘蛛の巣のごとく皺がしっかりと付いている。
これは、今日中にクリーニングに出さなくては。
よれよれになってしまったシャツを見やりながら、手早くズボンを脱ぎ捨てる。
こちらも同様に、皺が大量についていた。
「飯は……事務所のを適当に食い漁るか……あッ!!」
やたらお菓子の類を仕事場に持ち込み、溜めこむ同期の女性の顔を思い出しつつ、舌打ちをした。
……確か今日は……
「上司の結婚式のご祝儀収集日……」
確か、来週のライブの金を内ポケットにはずだ。取りあえず、今日はそれを持っていこう
思わぬ出費に頭を痛めながら、その痛みは先ほど電球に打った結果と思いだし、再び舌打ちをする。
窓にかけてあったスーツを着終えると、
たばこの吸い殻の詰まったビール缶を蹴散らし、ドアに立てかけておいた抱え鞄をひったくるように取ると、四畳半の部屋を後にした。
鍵は、しめていない。
どうせ、盗まれるものなどないのだから……
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「……ふぅ……」
無事、目的の電車に乗り込むことに成功し、ため息をつく。
「……ぁ~……アッチィ~」
シャツを第三ボタンまで開け、膝に手を置いた。周囲が好奇の視線で見てくるが、気にしない。
やはり、高校を出てからの不摂生と運動不足が祟ったのか。
開け広げた服から垣間見える少したるんだ腹を見つつ、再びため息をついた。
一升瓶にたまるほどの勢いで噴き出す汗をハンカチでぬぐいながら、どこか座れる席は無いかと探す。
途中、何度か顔を上げ、広告を見ていた人と目が会ったが……どうだ?
――あった。進行方向側の、一番奥の席だ。
そこの長椅子に、一人が何とか吸われる程度のスキマがあった。
嬉々としてそちらへ足を向けると……
その前に立つ、一人の老婆の姿も見えた。
……これは……
さらに、席をもう一度見てみると、そこにはデカデカと優先座席の文字が……
……畜生。
口の中で悪態をつきつつ、元いたドア前に寄り掛かる。
――と、
「素晴らしい!!」
何処からともなく、甲高い、しわがれた声が聞こえてきた。
「素晴らしい!!いやはや、素晴らしい!!」
声の聞こえた方向……電車の進行方向側に目を向けると、先ほどの老婆が手を叩いていた。
「素晴らしい!!いやホンットすごい!!」
――こちらを向いて。満面の笑みを浮かべて。……その笑顔は、柔和な笑顔……というより、感激しているのか?
「……俺?」
鞄を持った方の手で、自らを指さすと
「そうそう!!君だよ君!!」
激しく肯定されてしまった。……どうしたものか。
依然、賞賛の言葉を紡ぎ続けるこの老婆に対して、行った行動なぞ、一つも身に覚えがない。……いや、しいて言えば、優先座席を譲った……?
「ホント、私は感動だよ、ぇえ?いやいや、彼の……いや、彼が先祖通りで……」
全く状況が理解できていない自分を余所に、彼女は言葉を紡ぎつつ、真紅のケープから伸ばした手を叩き続ける。正直、気味が悪い。
……それによく見ると、彼女はほとんど全身赤系の色でコーディネイトされた服を着ていた。
真紅のケープにオレンジ色のワンピース?……耳にしているイヤリングは、ルビーをはめ込んである、三角形の物だ……。髪の毛の色は、白髪がチラホラと見受けられる赤色。ソレをパンチパーマにしている。……大阪のおばちゃんか?お前さんは。服がヒョウ柄だったら満点だ。
……というか、彼女、何か妙な事を言っていなかったか……?
「……先祖?」
「うん、そうだよそう!!彼が先祖通り……で、君が孫の孫の孫の孫の孫の孫のそのまた孫の……まぁ要は、君が君で本当によかった!!」
先祖……彼?孫の孫の……?……うん?
依然、感動したという旨の言葉を紡ぎ続ける彼女は、剰え、その双眸から一筋の涙を流していた
……どうやら自分は相当面倒な人に絡まれたようだ……。警察のお世話には、なりたくない。
周囲の人に助けを乞う様に視線を向けると、老婆を見たままみな固まっている。……あたりまえか。
「いやいや本当に感動だよ……ぁあ、君、心配することはないよ?みんな、時間が止まっているから」
……は?
何を言ったんだ?この婆さんは?
視線をいぶかしげなものに変え、視線を元に戻す。老婆は、いつの間にか目の前に歩み寄っていた。
そばによると、180cmある自分の胸元程度の身長しかない。……おそらく身長は、156cmほどだろうか?
……いや、そんなことは今関係ない……
「いやぁ、ホント、私は安心したよ?鏡谷……」
……は?
余りの衝撃に、目を丸くして表情を硬直させ、目の前の老婆を見る。すると老婆は、悪戯気に笑ってきた……。
『きょうや』は、俺の名前だ。……なんで俺の名前知ってるんだ……?まさか、何か本当に自分の血縁者と関係があるのか……?
思考をめぐらしながら、なおもニンマリと笑い続ける老婆に悪寒を感じて、振り払おうと腕を動かそうとする。――が、
……は?
――本日、二度目のわぁビックリ。
……体が、動かない……?
……いやいやいや、オカシイ。ンなわけない。喉から、声が……
「…ヒュー……ヒュー……」
……絞り出されるようになる、風の音しか、出ない。
ウソだろ?金縛り?こんな間昼間に?ババァに抱き着かれた状態で?
……そうだ、ババァ。あいつ、なんて言ってた?たしか……
見下ろすと(眼だけは、何とか動くようだ。)その婆は、俺の体に抱き着き、満足そうに顔をこすりつけている。……虫唾が走る……前に、怖気が走った。
……そう、たしか、この婆、時間を止めた……とか、言ってなかったか?
おそるおそる、視線だけで窓を見やると……
――外の景色が止まっていた。
電信柱から今まさに飛び立とうとしている小鳥。通学路を友人とともにふざけ合いながら歩く小学生。
全て、すべて止まっていた。
「うん、大丈夫。時間はちゃんと止めてあるから」
ショックを受けている自分に、婆は満面の笑みでこう返してきた。……その声は、いつの間にか、艶の有る、美しい音色へと変わっていた。
なんだ、なんなんだこの婆は?これは夢か?夢なのか?
必死に、頬をつねろうとする。だが、体が動かない。
必死に、目をつむろうとする。だが、瞼が動かない。
――夢だ。これは夢だ。それも、性質の悪い。だから、早く。早く、早く覚めろ。早く、覚めろ、覚めろ、早く覚めろ。覚めろ、早く。覚めろ。覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ早く早く早く!!!!!!!!!!!
電車内外に、かろうじて動く眼球で、狂ったように視線を動かしながら、必死に、叫ぼうとする。……が、
「……!!ッヒーィ!!……ッ……ヒュー……!!」
その叫びはすべてただの口からこぼれる風切り音に変わってしまい……
「ッヒーィ!?ヒッ!???ヒッ…ヒッ!!?ッ…ヒ!?……ヒッ!?」
そして、いつの間にか、過呼吸になり、上手く、息がはけなくなっていた。
助けて助けてたすけて苦しい苦しい助けて苦しいくるしい!!!???????
その言葉は、矢張り、唯の風切り音に変わってしまっていた……。
「落ち着いて!!!!!!!!??」
――その言葉とともに、口が、赤いレースに包まれた手で、ふさがれた。
「モガッ……!??……モガガ……!!……!!……。……。」
「大丈夫……そう、大丈夫よ……。……ぁあ、……この変装の所為ね……きっと……」
突如、呼吸ができなくなったことによりさらにパニックに陥ったが……何か、彼女の手袋から甘ッたるい香りがするとともに、徐々に呼吸が落ち着いてきた……。
視線が自分の下へと戻ったのを確認した老婆は、顔の縁に手をかけると『ソレ』を、あっさりと脱ぎ捨てた。
「……ふぅ……ぁ、ごめんなさいね、怖がらないで。私はマリア・サンジェルマン・フォン・クリアフォール。……ホントはロッソリアとか、エシュトロッホとか続きがあるんだけど……まぁ、単にマリアと呼んでくれればいいわ。」
中からは、まるで鮮血のような長髪を煌めかした、傾城の美女とでもたとえようか……そう、とんでもない。とんでもなく妖艶で、華やかな美人が、現れた。
長いまつげを持ったアーモンド型の瞳は、炎でも灯しているのか。力強くこちらを見据え、
細い筆で書かれたような凛々しい眉は、目から近すぎず、そして離れすぎず。
桜色の唇は一文字に、しかし、力を感じさせずに結ばれていて……
極め付きに、煌めく真紅の長髪。そう、鮮血が流れ落ちるようなしなやかさを持った、膝につくほどの長髪。
自分が見とれている間、いつの間にか崩れた言葉使いで彼女は言った。
「言いたいこと、聞きたいこと、いろいろあると思うけど、ちょっと待ってね?家に帰ってから、全部教えてあげるし、全部聞いてあげるから。だから、今はお願い。何も聞かないで?」
……どういうことだ?
家に帰る……?
ようやく落ち着きを取り戻した自分は、彼女の言葉の意味を探る。
家に帰るっていうのは、俺の家……?彼女の家……?……どこだ?
そして、考えつつ、思わず脳内で苦笑する。
……確かに、彼女の言うとおり、聞きたいことは、数多あるが……そもそも声が出ず……というか、口が開かないから、伝えられねぇんだが。
聞かないでも、糞も、ねぇだろうに。
今の自分の状態は、依然としてほぼ棒立ち状態で、何やら怪しい人物に抱き着かれているという、非常にシュールなものだ。
……一体これから、これ以上の何が起こるのかと彼女を見下ろしていると、
それを待っていましたとばかりに、彼女は忙しげにケープの内側から何やら取り出した。
「それじゃぁ、いくわよ~?準備はイイ?……ぇい!!」
彼女が何を取り出したのか確認を終える前に、彼女は片手でそれを握りつぶした。
……これもまた、準備をするも糞もないのだが……『心』の準備……か?
妙に冷ややかな意識を持ちつつ、指の間からこぼれる、粉々に砕かれたナニカを見送る。
それは、地面……というか、自分と彼女の間、そのフロア部分に接すると、淡く、青く、光って消えた。
「それじゃぁ、めくるめく、タイムスリ~ップ!!」
彼女は楽しげに言い終えると、動かない自分に抱き着いてきて……
同時に、淡く消えたナニカの残骸らしきものが、自分たち二人の周囲を回り始る。
「それじゃぁ10億年後へ行きましょ~う!!」
彼女は、これまた楽しげに言った。
周囲は、ナニカの残骸から尾を引く青い光でもはや何も見えなくなっている。
そんな中、彼女の感触、匂いを堪能する間もなく自分の意識は遠ざかっていき……
――全ては、真っ黒に塗りつぶされた。
―――い。
どうも、遠坂浮雲です。
今後とも、この作品をよろしくお願いします……
今回の話は、少々硬い言い回しが多くありましたが、
次回より、もう少し読みやすい書き方にしていく所存でございます。
それでは、また次のお話で。