仕事を終えたら家が心霊スポットになってました
県境の山奥にある祠のお祓いを終えて、一週間ぶりに帰宅できる。
プロの霊媒師も、楽じゃない。
電波の届かないぬかるんだジャングルから、コンクリートジャングルを踏みしめられる感動たるや。スマホが圏外じゃないとか最高か。
早く家に帰ってソファーにふんぞり返って、ビールを飲みたいものだ。想像しただけで喉がゴクリと鳴る。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
俺は自宅の敷地内に足を踏み入れた瞬間に、居ると察知した。
悪霊ではないが、厄介そうな霊の気配だ。
手付かずの鬱蒼とした庭を抜けて、建て付けの悪い玄関扉を、俺は勢いよく開けた。
「オラァ! 強制成仏させられたくなかったらさっさと玄関まで出てこい!!!」
二階まで響き渡るように腹の底から声を張り上げた。
オーブのように埃が舞う中、奥からひょっこりと男たちが顔を覗かせた。
まだ若いそいつらは、大学生くらいだろうか。苛立って片足をタンタンと鳴らす俺の前に、恐る恐る三人かたまって雁首そろえてやって来た。
「え〜っと……どちらさまですか?」
「ここの家主様だクソガキども」
黒髪の片目が潰れて血を流している幽霊に、俺は舌打ちしながら腕を組んだ。
続いて隣でふよふよ浮いている、茶髪で首が不自然に曲がった幽霊が目を瞬かせた。
「え? ここって心霊スポットじゃ……?」
「ゴリゴリに人ん家だクソガキ二号」
最後に全身血塗れの幽霊が、坊主頭を掻きながら首を傾げた。
「庭の雑草ボーボーで人気が無いから廃墟かと……」
「独り身の出張多忙で手入れも掃除もしてないだけだよクソガキ坊主」
「埃まみれで子供の手形もたくさん床にあったし……」
「屋根裏から忍び込んだアライグマの手形だよクソガキ」
「えぇ〜……?」
目を丸くしてお互いの顔を見合わせる若い幽霊たちに、俺は盛大なため息を吐いた。
「お前らいつからここに居着いてんだよ」
「四日前にここに肝試しに来て全滅しました」
「普通に不法侵入なんだよクソガキども」
組んだ腕を指先で叩きながら、俺はちらりと階段横を見た。
すると片目が潰れて血を流している幽霊が気まずそうに話し出した。
「えっと……オレは風で窓がガタガタッて音がしてビックリしちゃって、パニくって走ったら飛び出てた錆びた釘に気づかなかった感じです」
廊下の老朽化した壁から、錆びた釘がいたるところで飛び出ているのは、俺もわかっている。
だから当然だろうな、としか言えなかった。
そして続くように茶髪の首が不自然に曲がった幽霊が口を開いた。
「僕は彼が驚いた声に驚いて、慌てて二階から降りようとしたら階段を踏み外して転落しました」
「お前は単純に当たりどころが悪かったんだな」
最後の全身血塗れの幽霊は、もっと単純だった。
「おれは二階の腐った床を踏み抜いて、下のガラステーブルにダイブしました」
「あのガラステーブル高かったんだぞクソガキがあっ!」
思わず足で玄関床を強く踏みつけた。
坊主頭の幽霊を見るかぎり、居間のガラステーブルは粉砕されているに違いない。
ソファーに合わせて良いテーブルを買ったのに、なんてことしてくれやがるこいつら。
「──ってことはお前らの死体はまだそこらへんにあるわけだな?」
面倒な事をしてくれる。
ただでさえ一週間の大仕事明けで疲れてるのに、ひと息もつけやしない。
忌々しく髪を掻き上げる俺に、クソガキ幽霊どもは声をそろえて明るく言いやがった。
「「「いえ。死体は三人とも庭の井戸に仮置きしてます」」」
「なんで俺が警察のお世話になりそうなことしてやがるんだよ!!?」
「いや……井戸なら縦にすれば三人分入るし」
「室内よりかは冷たいかなーって思って」
「虫とかに食われてるの見たくないし」
至極どうでもいい理由に、俺は天を仰いだ。
「……一応聞くが、成仏せずにここに居座ってる理由はなんだ」
「心霊スポットで幽霊見たいんで……」
「ちょっと本物の幽霊見てみたいんで」
「なんかここなら本格的なの出そうみたいだし」
「お前ら自身がマジもんの幽霊になってんだよクソガキども!!! お互いを見れば十分わかるだろうが!」
「いや見慣れた顔よりもマジの幽霊が見たいんですよ」
「心底どうでもいい!!! 普通の人ん家だから出ねえよ!!!」
俺はついにポケットからスマホを取り出した。
もうこいつらに付き合ってやる義理はない。
「おい──今から警察を呼ぶから、その間に死体を元の位置に戻しておけ」
「「「え〜面倒くさ〜い」」」
「さっさとやれクソガキどもが! 強制成仏させるぞ!?」
「うぇ〜」
「虫食いされてるの見るのやだな〜」
「──てか、なんで自分の家なのに靴も脱がずにつっ立ってるんですか?」
スマホの画面ロックを解除しながら、俺はジロリと三馬鹿クソガキ幽霊を睨んだ。
「俺がお前らの死体に近づいた痕跡を残さないためだ」
「「「おぉ〜!!!」」」
「感心してないで終わったらさっさと成仏しろぉ!!!」
俺の怒鳴り声にも動じず、こいつらはそろいもそろって呑気に拍手しやがった。




