表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 歯磨き子
掲載日:2025/11/24

 私は私の人生の障害をなり得る危険因子を全て殺してやりたいと思っている。それは家族に対してだってそうである。所詮は血の繋がっているだけの他人なので、寧ろ交尾をしても劣等な子を残す可能性を大きく孕んでいるだけの、血の繋がりのない他人との下位互換であると思っている。だから必要がなくなった時は家族は一等若い者のみ残して他を殺すと効率が良い。察しはつくと思うが私は喜怒哀楽において『怒』の感情が強く面に顕現する。周りの野郎共は皆私を病気の気狂いだと嘲ったものだ。しかしまあ私は連中の評価など気に留めずそこそこに私の個性として認めていた。嫌いではなかったということだ。ある一人が私にこう言ってきた。「けれども、僕は楽しい顔した方が良いと思うんだけれどねえ」

「何を!君まで私を侮蔑するのかね」

「対等に意見を述べただけだ」彼には芯があった。それが私を見つめる真っ黒な瞳から燦々と煌めいていた。私はこんな奴を見るのは久しぶりであったので、その覇気に少々気圧されてしまった。「全く。あんたはきっと、ちょっと幼稚なんだよ。効率ばかり求めるんだからさ。余興にこそ意味を見出すのが大人だと思うよ。僕は」私は生きただけでは大人にはなれないことを知らなかった。


 子供が嫌いだ。奴ら、太陽が東にあっても、西にあっても、あるいは夜中の満月が空に宙ぶらりんと懸かっていてもびいびいと喚きやがる。それでいて親とやらは「子供達には、明るい未来へと羽ばたく翼がある」などとほざく。たわけ、と言ってやりたいところだ。私は決して子供に対しても容赦はしない。迷惑をかけていることは事実なのだから謝るというのが道理ではないのか。小さいだけで赦されるとは何事か。それが本当のことならば私だってずっと小さいままでありたかった。私は今まで何を以てずっと傷をつけられてきたのか。大きいからだとか、貌が恐いからであるとか、周りと違って起こりやすい気狂いだからとか、下らぬ理由によって巻き起こった全てが私の身体に古傷の名を冠して刻まれている。それでまたある一人が私に話しかけた。「その気持ちは、分かりますよ。私だってずっと子供のままでいたかったのです」

「なら、なぜ君は子をその腕に抱いているんだ」

「受け入れたからです」彼女は懐かしいものを思い出すように微笑んでいた。しかし口だけは固く結って、壮大な覚悟が見えた。「古傷も、嫉妬も、己の全て。それでようやく子供を愛して育てなければならないと思ったのです。あなたも、その古傷まで愛し、受け入れてみては如何でしょう。あなたの好きな『生産性』や『効率』という言葉は、自己肯定から始まると私は思うのです」私は私を愛していなかったことを知らなかった。


 何事も独りでいることが好きだ。集団でいると何かと軋轢が起こる。思い通りにいかんのは当然なので受け入れねばならんのだが、それはそれとしてどうにも疲労に苛まれて辛抱ならん。ならば独りでぶらぶらと放浪するのが良いだろうという魂胆で私は今を生きている。幼い頃よりは自由に動けるようになったので軛が解けたような、そういう開放感に包まれて大変満足である。誰にも私の邪魔はさせん。私がここに立って呼吸しているのは紛うことなく私の意志であり、他の誰の意向でもないのである。それで再び一人に声を掛けられる。「お前、恐れてるよ。そりゃあ独りが好きなのは勝手にしてくれて構わないんだがね、お前は人と関わるのを恐れている。今まで、沢山傷ついてきたんだろう。きっと、本質はそこにある」

「なぜそう言い切る」

「まあ、俺も同じだったからさ。人に初めて裏切られた時、二度と集団で行動するものか、と意気込んでいたものだよ。けれども、人と関わらずにはいられなかった。弱い人間だと自分を責めたよ。今思えばこれでよかったんだけどさ。俺という人間はこうやって生きていくのがいいんだって、嫁さん貰ってから分かった。お前も、もう少しその可能性を探ってみたらどうだ」私は他人を恐れていたことを知らなかった。


 鏡を見た時に私の頭に生えていた歪の三本角が無くなっていた。鳥がよく囀る朝であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ