空を飛ぶ欲しがり妹~我が征くは欲しがりの大海
はい、それは、私の妹メアリーの欲しがりから始まりました。
『欲しーの!欲しーの!お姉様ばかりズルいの~』
当時、メアリーは6歳、私は10歳、我がビアート伯爵家は裕福ではありません。
私、エリザベスに一点集中の方針でした。
父、母はメアリーは放任主義で、私に一任します。
『これも総領娘の仕事だ。メアリーを大人しくさせなさい』
『ムチを使ってもいいわよ』
気持は半分分かります。私だって、家運を背負う重たい責任があって、ドレスや宝石、教育に差がついているのです。
だから、条件を出しました。
『メアリー、大陸共通語の文字を全部覚えなさい。手本はこれ。間違えずに全部書けたらご褒美としてこのブローチを差し上げてよ』
『グスン、グスン、分かったの』
ええ、一日、一生懸命に地面に文字を書いて練習してました。
「そこは石盤ではないのか?」
「殿下、それは・・・我家は貧乏でしたから・・」
「ほお、そうか、すまない話を続けてくれ」
「はい、承知しました」
次の日、全部覚えました。全て間違えずに書きましたわ。
それからもおねだりは続きました。
『お姉様、そのスカーフが欲しーの』
『はい、九九が出来たら差し上げるわ』
『お姉様、裏庭に住み着いた猫ちゃんに食事あげたいの~、一緒に暮らしたいの~、名前つけたのニケちゃんなの』
『ニャー!』
『正しいカーテシー出来たらお父様に話して差し上げるわ』
それからドンドンエスカレートしてきました。
『この計算が出来たら、キャンディー買って差し上げますわ』
『X=3,Y=-5なの~』
『即答?嘘仰い・・・本当ね』
『あら、メアリー、そのお辞儀は違うわよ。こうよ。お菓子買ってあげられないわ』
『あれ、両手をお腹の上に添える儀礼は淑女マナー辞典に書いてないの~』
『ええ、あの分厚い本を全て読んだの?』
私も調べるようになりましたわ。
『メアリーの言っている事は本当だわ。マナー講師に聞いたら、先代の王妃様が平民も優雅にお辞儀が出来るように制定をしたそうよ・・・それが貴族にも広まったのね・・平民儀礼事典ね・・』
『お菓子買ってなの~』
こんなことが続き。ついには・・・
『メアリー、地面に書いているそれは・・・何?』
『ピタゴラスの法則を幾何学を用いて証明しているの~』
『ピタゴラス・・・何かしら』
『夢で見たの~』
耳慣れない言葉を使うようになりました。そんなことが続き。ついには私の古い石版とノートを上げたらやたら書き込むようになり。
なんやら怪しい魔道炉も作り始めました。
『メアリー、何をやっているの?』
『お姉様、課題が欲し~の。魔道モーターの部品が欲し~の。鋼鉄が欲し~の』
『ヒィ、せめて、宝石箱が欲しいとかにしなさい!』
もう、手に負えなくなり。婚約の打診が殺到するようになりましたわ。こうして、殿下にご相談をしている次第ですわ。
・・・・・・・・・
「私もメアリーの相手をしているうちに学力やマナーが身につき。ついには、殿下の婚約者に推薦される次第になったのですわ」
「そうか・・・私の弟は出来が良くない。羨ましい限りだ」
「いえ、マッコリー殿下は本好きですわ」
「本好きだが、学力に反映されていないな・・」
「あれから6年、メアリーは12歳になりました。部屋に籠もり。デピュタントにも参加せずに、あの時の幼児言葉のままですわ。そして、評判を嗅ぎつけて・・・ちょっと趣の変わった殿方から縁談が来るようになりましたわ。年上の紳士・・ですわ」
「うむ。私の義妹にもなるからな。婚約先は慎重にならねばならない。父上から予算を頂いた。婚約者選びをしよう」
「はい、宜しくお願いします」
第三王子のストローグ殿下は我家に婿入りに来られることになったわ。多額の支度金と一緒よ。
メアリーは外に嫁入りに行かなければならないわ。
メアリーを学園に呼び。縁談を希望する貴公子たちと面会をする運びになったわ。
ちなみに、メアリーは卒業資格を取ったわ・・・論文が認められたの。
しかも、教養試験は一発合格、論文は『兵站輸送にかかる最適解に関する考察』よ。ペロペロキャンディーを舐めながら書いていたわね。騎士団が欲しがっていたわ。
もし、もう少し早く生まれていたら、王太子殿下の婚約者にもなったかもと噂されているわ。
ここまで来たら嫉妬はないわ。
生徒会室に貴公子が3人集められたわ。
メアリーは挨拶をしたわ。
「ビアート伯爵第二子のメアリーなの~」
「私は宮廷錬金術師が第三子、グレリーだ。君は少々頭が良いようだが、基礎研究をしてもらう。私の功績の内助をしてもらう」
「俺はオットー商会の第二子オスカー、本店に残って兄上の手伝いをする。君は美人だから俺の隣でニコニコしていれば良い」
「僕は宰相家の第三子、スリダ。君と結婚したら父上の代理で挨拶回りだ。君は綺麗なドレスを着られるよ」
もっと大勢いたが、殿下が家格から選んでくれたわ。それにしても長子はさすがにいないわね。
あら、殿下の後ろに弟君がいたわね。
マッコリー第四王子、メアリーと同年齢ね。
「あ、あの、マッコリーと申します。本を読むのが好きです。メアリー嬢と一緒に本を読みたいです」
まあ、殿下も婚約者に手をあげたの?
「すまないエリザベス、マッコリーは婚約者決まらないから、見学をさせたのだ。さあ、メアリー嬢、この中から誰と婚約前提で付き合いたい?」
すると、メアリーは・・・また、欲しがりが始まったわ。
「なの~、メアリーと婚約を結びたかったら、
グレリーは燃えないけど軽い気体を発生させるシステム。と腕の良い錬金術師が欲し~の
オスカーは軽くて丈夫で燃えない布を持ってくるの~、腕の良いお針子たちが欲し~の
スリダはお船を校庭に持ってくるの~。腕の良い木工職人が欲し~の
欲し~の。欲し~の!」
「何だ。そんなもの。父上の力なら簡単だ」
「すぐに持ってこられる。お針子は母上の命令なら飛んで来るさ」
「はん。船?校庭に?お安い御用さ」
皆、即断するわ。あら、でも、第四王子殿下は控えめに手を挙げてメアリーに話しかけたわ。
「あの、僕は?僕もメアリー嬢に何かしてあげたい」
「マッコリー殿下はメアリーと一緒にご本を読むの~、教えて欲し~の」
「え、僕が?教えることはないですが、もちろんいいですよ」
それから、貴公子たちはそれぞれ音頭をとって動き出した。学園の中庭で船を作る者。メアリーの指示に従って動く木工職人達。
布を集めメアリーの指示通りに縫うお針子達・・
メアリーはあろうことか、殿下をつれ、王宮の図書室に出入りしたり。
殿下の偉光をかり騎士団に出入りもした。
そして、何か異様な物が完成した。
中庭には小さな船がある。どうするのかしら・・・
「充填!」
大袋が膨らんだ。軽くて燃えない気体を注入したのね。
メアリーは船の横に翼をつけて・・・その翼に風車のような物を取り付けた。
「魔道モーターでまわるの~」
船に我家でメアリーが作った魔道モーターなる物を取り付けて、
その物体は空を飛んだ。
「皆様、全て満点なの~、だから婚約者は選べないの~」
「ニャアー」
猫を頭に乗せ。メアリーは手を振りながら、空を飛び。プロペラが回り船が動き出した。
「な、何だ。何だ」
「僕との婚約は?」
「父上に言いつけるぞ」
3人の貴公子を袖にして、東の方角に向かって飛び立った・・・
それ以来、帰って来ない・・・予感がするわ。
「おい、マッコリーがいないぞ」
「殿下が・・・」
・・・わたしゃ、メアリー、前世持ちだ。この世界は文明が遅れているように見えるが、魔法技術は独自の進化を遂げている。
モーターも簡単につくれた。ギアは風車だ。
いろいろ教えてくれたのはマッコリー殿下だ。彼は勉強が出来ないのではない。
分からないことを先延ばしにしない子なのだ。何故、分数の割り算はひっくり返すのか?考えるタイプだ。
こういった子は研究者に向いている。
いろんな本を紹介してくれた。もう少し、王宮の図書館にいたかったが仕方ない。
「ニャーニャー」
「ニケちゃん。どうしたの?一点を見つめて」
ニケちゃんが箱を見つめて鳴いている。あれ?
箱が開いた。中には殿下がいやがる。
「やあ、メアリー殿・・・僕も一緒に冒険に出たい・・もっと知識を得たいんだ」
「ヒィ、これは王子誘拐になるから帰るわ」
「もう、王宮に置き手紙を置いておいた」
まあ、仕方ない。今更帰っても捕まるだけだ。
「メアリーとお呼びしても・・・良いですか?」
「いいの~、マッコリーと呼ぶの。身分を隠すのです」
「メアリー様、幼児言葉が治っています・・」
「フンなの~!」
メアリーは行く。欲しがりの大海に出航した!
最後までお読み頂き有難うございました。