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ゴーレムを食べよう1

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。


聖暦1892年 緑の月


 わたくしは西方の島国エルドランドの公王とのお食事会に参加していましたの。


 きらびやかで美味しそうな……そう一般的には夢のようなとも形容できるお料理がテーブルの上にところせましと広がっていました。


「アリシア姫は食に興味があると聞いてな」


「ありがとうございますわ。エルドランド公」


 緑色の貴族服に身を包んだエルドランド公。


 堅苦しい空間に、わたくしは既に限界を感じていましたわ。


「エルドランドの宮廷料理だ。給仕長ボンくんとうちの料理長に無理を言ってね」


「きのこのテリーヌです」と給仕長。


 またこれですの……。


 宮廷料理というのか何故つきつめると同じものになってしまうのでしょう。


 飽き飽きの食感に笑顔を作っておきましたわ。


「リドヴォーにそよ風を添えて、です」


 次に出てきたのはリドヴォー……エルドランドに住むシカの胃でした。


 そこにさわやかな香草が添えられ、お得意のフルーツソースがかかっていますの。


「あっ! これは良いですわね」


 うっかり“これは“とか言ってしまいまして、わたくし……まぁ、これで気づいてくれますかしら……なんて思ったのです。


「ホーンヴォンのロロンド・パギュー風です」


 ホーンヴォンの料理……まぁいわゆる牛に似た生き物なのですけれど……。


 わたくし、魂的には前々世、前世からの記憶がありますので、もうホント、ホーンヴォンには飽きてしまっていますの。


「なるほどー」


 なんて嘘くさい反応を返してしまいました。


 いえ、味自体は本当に美味しいのですの。


 もちろん、味も一流なのですけれど、わたくしがわるいのですわ。


「素晴らしいコースでしたわ。料理長をお呼びくださいませ」


 言われて現れたのはエルドランド公のつれてきた料理長。


「どれも珍しい……中々味わえないものでしたわ。特にリドヴォーは絶品でしたわ」


「ありがとうございます」


 まぁ中々味わえないは嘘ですけれど、リドヴォーは珍しくて美味しかったですわ。


「喜んでもらえて良かった」


 心が痛い!


「ありがとうございます。エルドランド公。わたくしはこの幸せに包まれながら、おいとまさせて頂きますわ」


 丁寧に挨拶をして、自室へと向かいます。


「ふぅ」


 一息つくと、幼馴染兼王国魔法使い見習い兼付き人のオルカが現れました。


「……お疲れ様です。お嬢様」


 すっかりわたくしの気持ちを解していたであろうオルカに、わたくしは本心をさらけ出しましたわ。


「むしろこれはゲテモノ料理を美味しく食べるための修行とも思えますわ」


「……誰もが羨む高級料理コースですが」


「少ないですし、食べてる気がしないですわ。全部フルーツかグレイビーソースの味ですし……」


 わたくしの魂にこれでもかと刻み込まれてしまっているのです。


 とは流石に言えませんけれど……。


「出てきた瞬間に味がわかってしまいますわ」


 もうそんな感じなのです。


 わたくしは気持ちを切り替えるようにして、前を向きましたわ。


「ではオルカ! ゴーレムを食べに行きますわよ!」


「……カーレ地方の部族のギシキを受けて、ゴーレムを食べるんでしたね」


「そうですわ! いきましょう!」


「……転移魔法を使います」


 言うと、オルカは詠唱を始めます。


 すると転送門が開かれました。


「ごーですわ!」


 転送門というのは面白くて(不快だという人もいますが……)通ったという知覚がありませんの。


 そのため、次の瞬間には違う場所についているのですわ。



 目を開けるとそこは……荒れた地面、乾燥した空気、暑い気温、見なれない人たちが闊歩する場所でした。


 わたくし、丈の長いドロワーズを履いてきたことに後悔を感じはじめましたわ。


「完璧ですわね。ここはカーレ地方の中心自治区ドンゴラですわ」


 屋台や市場、カーレが積極的にものを売るというのは珍しいのですわ。


 この人の多さから、ここがドンゴラだとわかります。


「……カーレの唯一の商業区域ですね」


「部族にも色々ありますから。他民族との交流を積極的に行っていない部族もあるそうですわ」


 カーレ部族の皆さんはみな、澄んだクリアブルーの体色で、部族によってタコであったりイカであったりの海棲生物のような印象を受けます。


 カーレは乾いた土地とジャングル、川沿いの地域と海側に別れているのですが、彼らはそんな場所でも適応できるのですね。


 一説には彼らは海棲生物が人に進化し、大陸でもっとも最初に文明を築いたとされます。


 その多くは地殻変動で海や川に消えてしまったそうですが……。


「……早速ナビアに向かいますか?」


 ナビアとはゴーレムを部族の神または精霊とみなしている、カーレの1部族ですの。


 わたくしはオルカのことばに首をふります。


「いえ、まずはドンゴラでカーレ料理を食べますわ」


「……ちょっと楽しみ」


 オルカもだんだんとモンスター料理や地域の料理が美味しいとわかって来たようで、表情もやわらかく見えます。


「ここにしましょう! すみません! クララのぺぺスープとフフをお願いしますわ!」


 ドンゴラの市場料理については調べてありますの。


「……統一王国は様々な文化がありますが、長耳族のオーパとカーレの部族はかなり毛色が違いますね」


 オーパ出身の方は先日、グラン・バリテでお見かけしましたが、確かに〈毛色〉は違いますね。


「オーパは特に国を持たぬ民ですわ。カーレも元々は大陸の先住民ですが、一度龍災か災害によって文明が崩壊してしまって、今の方々は何百年も前に大陸外から戻ってきたら方々ですわ」


 市場前のイスと机で話していると


「ほい。クララのぺぺスープとフフね」


 と市場のお姉様が料理を運んでくれました。


 皿には魚料理と、白い塊がのっています。


「……クララって魚ですか?」


「カーレの歩くナマズですわ! ぺぺというのはトウガラシに似たスパイスですわね」


「……真っ赤!」


「辛っ! でもウマっ! ですわ!」


 暑さに負けないように、でしょうか。


 クララのぺぺスープはとても辛いですが……。


「……ナマズの臭みがスパイスで消えてますね! でも身の食感と味はしっかりしてます。ナマズはコショウみたいな味がします。しかし……」


「このフフってのは何ですか? 白くてもちもちしてますけど」


「フフはモチに似てますけれど、もち粉ではなく芋類を臼でこねて作ったものですの。これは本当は噛まずに飲むのがカーレの作法なのですけれど」


 カーレの作法通り、噛まずに飲み込む……!


「んー!!」


 流石に胸元で詰まったので、右手で力強く叩きます。


 この動作も実はカーレの作法なのです。


「結構大変ですわ……わたくしたちはやめておいた方がいいですわ」


「……なんかすごい顔になってた」


「要するに原料としてはタピオカと同じですわ。だからモチモチしてるのですのね」


「……フフ、私好きですコレ」


「ぺぺスープの辛さは少し甘みのあるもちもちしたフフに合いますわね」


 屋台前で食べていると「これもどうぞ」と通りすがりのおばさまが何か、手料理をくれましたわ。


「なんと! ありがとうございますわ!」


 パンのような……白いモチモチしたものをくださりました。


 ちょっと冷たそうなおばさまですがこんなものをくださるなんて、あったかいですわね。


「これは何というか芋……ナガイモ? のような何かを練り合わせた……やはりフフと同じ感じですわね。何という料理ですか?」


「ビチェだよ」


 言ってからおばさまは間髪入れずに


「1ギルだよ」


 と言いました。


「……お金とるんですね……」


「よくあることですわ。ありがとうございます奥様」


「ありがとう」


 わたくしがお金を渡すと風のように去っていきましたわ!


「……甘い! やわらかくてまったりしてて甘い。……まったりしてて甘い!」


 なにやら興奮気味でオルカはもぐもぐ言っていました。


 オルカはもしや甘党なのでしょうか?


 たしかにココナッツのような甘味がします。


「フフとはちがいますの。また異なる部族の方の料理のようですわね。でも違っても美味しいですわ」


 同じような見た目の料理でも部族によって全く味付けが変わります。


 これはとても面白い変化ですの。


 たしかに地域によって名前が変わるだけでほとんど同じ……な料理や、名前は同じのにまったく異なる料理もあります。


「さて! ナビアに参りましょう。少し歩いてジャングルの中ですわ」


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