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ワイバーンの翼膜6

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。


「おまたせした」


 そこでちょうどノーマンが次の料理を持ってきました。


「ワイバーンの翼膜スープだ」


 茶色のスープに茶色の翼膜が浮かんでいましたわ。


 見た目としては翼膜という見慣れないものが、同色のスープに浮かんでいる状態になっており、あまり美味しそうには見えません。


 だが、立ち上る香りはその辺の高級料理とは一線を画す……えもいわれぬ表現できない、かぐわしい匂いでした。


「……見た目は確かにちょっと抵抗感ありますが……む!」


「すごいプリプリ! こんなにも違うものですのね!」


 咀嚼して頷き、オルカは顔をほころばせました。


「……翼膜のダシというか、元からあった味がスープに溶け出してますね。これは干物では味わえない新鮮なうまみ」


「他の生き物にはない竜種の濃厚な甘味と塩味が合わさって波状攻撃を加える……食の火球連弾ですわ〜!」


「……意味わかりませんけど」


 さらに口に含むと、噛み締めた味とは異なる……鮮烈な味わいが舌に残りましたわ。


「……でも、本当にプリプリした食感で、あまり食べたことはありませんが、濃厚なホーンヴォンのホルモンのような味ですね」


「スープには魚醤を使っている。素材本来の味がさらに引き出せているはずだ」


 なるほど!


 魚醤とは!


 魚醤は魚介類を塩漬けにして発酵させ、魚の旨みを凝縮させるようにして作られた調味料です。


 独特の匂いがあるが、今回はそれが翼膜と見事にマッチしています。


 香りたつ匂いはそれら……翼膜と魚醤が合わさったものでしたのね〜!


 これは確かに……


「ごはんおかわりですわ〜!」


 になるしかないですわ!


「はいはい。良かったわね」


 ある程度の苦労があったからこそ、さらに美味いと感じられるのです。


 やってよかった……。


 初めての冒険でしたが……ここまで来れて良かったですわ。


 わたくしは深く、心で感じました。


「カルミールさんノーマンさん、ルティア……ありがとうですわ」


「すんごい喜んでるね。良かったねノーマン」


 ルティアの言葉に対して、ノーマンは「あぁ」と満足そうに応えました。


 フォークの進みが少しだけ穏やかになり始めたころ、カルミールがわたくしを見て言いました。


「それで、アリシアはどんな裏料理の情報がほしいのかしら」


「それはね……」


 ついに、裏の情報屋……アンダーグラウンドマスターから念願の情報を手に入れることが出来ます。


 聞く内容は決まってはいましたが、やや考えてから、口に出しました。


「ゴーレムですわ!」


 一瞬全員が固まります。


 そして真っ先に沈黙をやぶったのはオルカでした。


「……えぇー?」


「ゴーレムが食べたいのですわ!」


「なるほど……ゴーレム。良いわね……」とカルミール。


「……えぇ……?」


「ゴーレムは中々難しいわね。ダンジョンのゴーレムは印が壊れると砂になってしまうし、防衛反応が働いて襲ってくる。そもそも食べられる土じゃないかもしれないわ」


 ゴーレムが食べられる"らしい"ということは本当に風の噂程度でしか聞いたことがありませんでした。


 もちろん、アルバだったころにも聞いたことがありません。


 だからこそ、もしも、という気持ちで聞いたのですが……。


「カーレ地方に住むヌビア族のゴーレムは毎年作り直されるの。それは彼らの神なのだけれど、ギシキと呼ばれるイニシエーションを通過したもののみ、祭でゴーレムの聖体を食べることができる」


 感動ですわ〜!


 実際に食べられるようでした。


 まぁ、よくわからないですが、何かのギシキを通して……。


「……イニシエーション?」


「彼らの通過儀礼ね。死ぬほど大変だと聞くわ」


「なぁんだ! 簡単ではありませんの!」


「……話聞いてた?」とオルカ。


「次はカーレ地方の伝統料理食い倒れツアーですわ!」


 カーレ地方にどんな伝統料理があるのかさっぱりわかりませんでしたが、その内情は次のカルミールの言葉によって一瞬で判明しました。


「カーレ地方の部族料理は面白いわね。主に虫」


 虫!


 その言葉を聞いてオルカは思わず慌て、震えた。


「……はわわわ」


「楽しみですわねオルカ!」


「……はわわわわわ」


 ゴーレム……虫……私はどうなるんだろう。


 オルカはあまり考えないようにしていました。


 理解不能の波があまりに襲いかかってきて、思考が及ばなかったからです。


 彼女が後で語ったところによると……。


 今日、食べた料理はどれも美味しかった。


 新しい知識……新しい挑戦……オルカにとって今日ほど新鮮な日は無かったが、どうやらそれはこれからも続くらしい。


 と思っていたとのこと。


 オルカはワイバーンの翼膜をもぐもぐしながら、探偵事務所の窓から外を見ました。


 辺りは暗くなって、なおざわざわとしており、空には美しい星が輝いています。


 星も食べるのかな……?


 そんなことをオルカは思っていました。


 星も食べれるのでしょうか……?


 そんなことをわたくしは思いました。


 奇しくも、2人とも同じことを考えていました。


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