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ベヒーモスの睾丸8

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


エスティ / レイファ地区の翼を持つ種族シシリー族の少女。弱いが千里眼を持つ。ベヒーモスの感情を読み取ることができ、ベヒーモスのことを心配している。



 生命の声の合間、沈黙があたりを包みました。


 しかし、それも10秒ほどだったでしょうか。


 再び、エスティは口を開きました。


「そういえば、ルビーと別れて2年くらいしてワイバーンに襲われたことがあったの。交易ルートとしても使われてる道だから安全だと思って夕方ぐらいに通ってしまった」


 夕方はワイバーンが巣に戻る前に食餌する時間で、街道に出るには注意を要しますの。


「突然、2体のワイバーンが降ってきて、こちらに走ってきた。タベルって気持ちでいっぱいだったわ。私は使いはじめた羽を使って、逃げようとした」


 夕暮れで夜も迫る中、ワイバーンに襲われた子どもが生き残る確率はゼロに等しいですわ。


「その時、ベヒーモスに助けられた。ルビーだったわ。綺麗な鼻先のツノ。5年くらい前のことを昨日のことのように覚えてる」


「ベヒーモスが人を助けたのですの……」


「そう。ルビーはもう人よりも大きくなっていた。大体、ワイバーンと同じぐらい。それでも無事でいられる可能性は限りなく少なかったのに、向かっていった」


 モンスターが他の種族を守ることなど……それがブラウニーのように習性であるならまだしも、ベヒーモスが人を守るとはあり得ないことですわ。


「ワイバーンは逃げ出したけど、ルビーは傷ついた。私は必死になって、基礎を学びはじめたばかりの祈跡を……回復術を使ったわ」


 ワイバーンと渡り合う成長途中のベヒーモス……少ない負傷ではなかったでしょう。


「私は疲れて眠ってしまった……危ない場所だったけど……動けなかった。また朝が来たときにはルビーはいなかったわ。多分、朝まで私を守ってくれたんだと思う」


 お互いがお互いを思う気持ち……愛ですわ。


「その時、私は大好きだって……一生かけてあなたを守りたいって思ったの……」


 わたくしは思わず目を潤ませました。


 他の2人も感動しているようで言葉が出ません。


 沈黙の中、エスティが口を開きました。


「あなたたちはルビーの睾丸を食べたいのよね……」


「と、突然どうしたのですの……」


 そしてエスティは決心したかのように力強く言いましたわ。


「私も彼の睾丸を食べたいっ!!!」


 涙を流しながら、エスティは言いました。


 彼女にとって他に出来ることはないのです。


 それでも彼女は決断したのですわ。


「私も、ルビーの睾丸を食べたい……私が愛した……ルビーの睾丸を食べたい!」


「……お嬢様?」


「もちろんですわ! これであなたもわたくしたちの仲間!」


 ビシッとわたくしはエスティを指さします。


「睾丸仲間ですわ〜〜!!!」


「……睾丸フレンズ……」


「ウェルカムようこそ睾丸フレンズですわ!」


「そんな……いいの……?」


「良いも何も、睾丸はわたくしのものではありませんもの!」


「あなたが食べずに誰が食べられるというのでしょう」


「……あ、久しぶりにツキノがしゃべった」


「拙は寝ていませんよ」


 目はつぶったまま……。


「本当ですよ」


 とツキノは言いました。


「わたくしも限界ですわ……」


「あ、ドレープの町を救ってくれたからって町のシシリー族の人たちが宿代や食事代を無料にしてくれるって……いってたよ」


「こうしちゃいられませんわ!」


「早くお泊まりしましょう! ベヒーモスがいつ来るかもわかりませんし」


 わたくしは「ごちそうさまでした」と食器を洗い場にもっていき、駆け出しました。


「……お嬢様ー! 早いですよ」


「まってやるもんかーい! ですわ!」


「あ、ルビーは多分明日の夕方ごろになると……思う……」


 聞こえてないね、と1人残されたエスティは言いました。


「ルビー、私はここ……ルビー……聞こえてる?」


 やわらかな風が通り抜けていきます。


 夜は深く、空に濃紺と青のグラデーションを描いておりました。


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