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ベヒーモスの睾丸7

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


エスティ / レイファ地区の翼を持つ種族シシリー族の少女。弱いが千里眼を持つ。ベヒーモスの感情を読み取ることができ、ベヒーモスのことを心配している。



「ベヒーモス……ルビーと出会ったのは小さい頃で……ここ、ドレープの町から少し北の……小さい村。私の生まれた村よ」


 呼吸してから彼女は続けます。


「ルビーももしかしたらそこでの生まれなのかもしれない」


「なら他のベヒーモスはどこにいってしまったのでしょう」


 とツキノが質問します。


「他のベヒーモスが大陸から消えた理由はわからない。何かから逃げているらしいけど……」


 ベヒーモスが大陸に何故一頭だけになったのかはよくわかっていません。


 移動する理由すら不明なのです。


「……出産はしたけど、自分の身が危険だった……もしくは危険な目にあったか、亡くなったか……」


「あの巨大なモンスターを倒すなんて……ワイバーンなら確かにかなりの数がいれば可能かもしれませんが……」


 同じように巨大で強力な個体ならあるいは……。


 わたくしは前世で戦った赤龍を思い起こします。


「モンスター研究は結構進んでいますのに、あれだけ大きなベヒーモスの研究は進んでないんですの?」


「ベヒーモスの生態はよくわからないらしいの。まず数が少ないからね。とにかく、いわゆる安全地帯を生まれた時から種族として覚えていて、そこに行って大きくなってから繁殖するらしいの」


 なるほど……。


 もしかすると世界のどこかには、ベヒーモスの楽園があるのかもしれません。


 そこまでベヒーモスを運ぶ手段は無いのですけれど。


 わたくしはエスティに他の疑問を投げかけました。


「エスティ、なぜベヒーモスにルビーと名付けたのですの?」


「小さかった彼にルビーと名付けたのは、彼の鼻先のツノが、小さいながら綺麗な赤い宝石みたいだったからよ。彼は小さな木のウロに住んでいて、私がご飯をあげてたの」


「……うわぁ、小さいベヒーモスかわいい」とオルカ。


「ご飯というと……何をあげたんですの?」


「私は小さくて無知だったから、とにかく夕食の残りを全部あげたわ。そしたらサラダだけ、もしゃもしゃ食べはじめたの」


 エスティはふふ、と言ってから言葉を続けます。


「ベヒーモスは草食性なのよね。あの巨体を維持するために森ひとつが消えるっていうわ。カーレの砂漠地帯はベヒーモスが作ったなんて言われてる。ほら、ジャングルのとなりが砂漠だなんて……不思議でしょ」


「確かに不思議な地形だと思っていましたわ! そんな理由があったのですわね」


「多分、木のウロも自分で食べて開けたのね。……それから私はルビーを抱っこして湖や山、川、様々なところに行ったわ。重かったけどね」


「素晴らしい体験ですねぇ」


「ルビーは小さくてもこもこ歩いて、泥でぬかるみにハマってピーピー泣いたり、知らないところではすぐに足元に戻ったり、いろんなことがあった」


「……かわいい」


「ある日、山の中の湖に行ったの。そこには主がいて、何年かすると目を覚ますと言われていた。その日はよく晴れてた。湖には木々がないから、そこから木漏れ日がさしていた。少しだけ暑い日だった」


「主って、海竜種のモンスターですの?」


「うん。多分、シーサーペントならぬ、レイクサーペントの知られていない個体かな。そう。入江でね、遊んでいたら、突然その主が姿を現した」


 湖に棲むというサーペント……海竜種はあまり多くないですわ。


 元々海だった場所が陸が出来て囲まれてしまったなどがほとんどです。


「真っ白で、長い身体で、一口で私たちは食べられてしまうほどだったけど、主は私たちをじっと見て……」


 懐かしむようにエスティはひとつひとつ語ります。


「『お前たちは互いを姉弟のように、いやそれ以上に信頼しておるのだな。愛あるものたちなら、食いはすまい。存分にここで、ここ以外でも遊ぶことだ。いずれ別れるその時まで』」


 しっかり覚えているほどの素晴らしい思い出なのでしょう。


「って言って去っていった。彼も同じような経験があったのかな。その頃だと思うの。何となくある種のモンスターの意思がわかるようになったのは」


「確かに知られていないレイクサーペントですわね。恐らく幻獣種と呼ばれるモンスターですわ」


「……別れるか……その時があったんですね」


「ええ。ルビーが犬くらいの大きさになったころ、彼は突然姿を消してしまった。何日も探したけど、いなかった。周りに食べられる草がなくなってしまったからだと思うけど、当時の私は裏切られた、嫌われたと思って悲しかったわ」


 幼心に生き物の気持ちはわかりませんわ。


 例え心が読めても相手がいないのでは……。


「一緒にいた時間は少なかったけれど、きっと彼は私を覚えているはずよ。私が……どうにか彼を止める。私を見たら、きっと……ルビーも気付いてくれると思うの」


「そうですわね……確かに動いているだけならまだしも、暴れていては痛みなく睾丸を切り取ることは難しい」


「……この話を聞いてもあくまで切り取るとな!」


 オルカが声をあげました。


「だってそれが彼の、ルビーの願いなのでしょう」


「ええ。きっと。私は彼が望んでいると思っている」


「それで落ち着くなら、ルビーは最後のベヒーモスとして生きていける」


 エスティの心は複雑です。


 わたくしなら耐えかねてしまうかもしれません。


「私はね、別にモンスターを守りたいんじゃないわ。それなら愛護団体とかに入ってる。モンスターは大好きよ。でもね、ワイバーンのように諦めずに人と敵対するモンスターは怖いと思う。モンスターは生来、人と相容れないし、本当は敵対し続ける存在だからね。それに、モンスターは人間に愛護されるような小さな存在ではないわ」


 夜の虫たちが一層大きく鳴き、カエルたちの声も聞こえました。


「私はひとつの存在として、ルビーに生きていってほしい。それだけなの」


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