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ベヒーモスの睾丸6

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


エスティ / レイファ地区の翼を持つ種族シシリー族の少女。弱いが千里眼を持つ。ベヒーモスの感情を読み取ることができ、ベヒーモスのことを心配している。



 夜が辺りを包み、涼やかな風が吹いています。


 わたくしたちはドレープの飲食店街のテラス席に座っておりました。


「日もすっかり暮れて、虫の声が聞こえはじめましたわ」


「……疲れたのか、ご老人めいてきましたね」


 エスティが料理を運んでまいりました。


 わ〜! まさしく両手に華ですわ!


「もらってきたわ。これがレイファのワイバーン料理」


 並べられていく料理……。


 わたくしたちは目を輝かせます。


「すごい! これがレイファのワイバーンのコースですのね!」


「ワイバーンのコースというほどじゃないかもね。指定されてたから」


 次々と並べられていく料理たち。


 まだ続いています。


「……まだ少し耳がおかしい」


「ワイバーンと戦う時は耳栓必須ですね。わたくしもまだ少し痛いですわ」


 咆哮を何度も聞けば流石に厳しい。


 わたくしは感覚的に距離をとって直線上を避ける動きをとっていたから良かったのですが、普通なら今ごろ聞こえなくなっていたことでしょう。


「しかし、すごいですねぇ。本当にレイファ料理のコースみたいです」


 いつのまにかテーブルは料理で埋め尽くされていました。


「……ワイバーンの尾の丸焼き、ホルモン炒めと……これは?」


「それは火炎袋と呼ばれるワイバーンの火球を生成するホルモンね」


「……なるほど?」


「タンが無いのは失敗しましたわ。そこも指定しておくべきでしたわ」


「……カルビとかハラミとかじゃないんだ……」


 ワイバーンの身肉はハンターグルメとしてはかなり人気の部位です。


 値段もかなり高く取引されます。


 なので普通は身の肉を所望するところですが、そこはやはりゲテモノ料理として尾やホルモンを狙います。


 ワイバーンのタンは捨てられてしまいますが、これが意外と美味しいのです。今回はないですが。


 ツキノが手を合わせたので、わたくしたちもならいます。


「まずはワイバーンの尻尾からどうぞ」


「……美味しそう」


 よく焼けた尾は3分割されており、匂いからもう美味しさが伝わります。


 「戦いの後はよりいっそう美味しく感じますねぇ」


「美味ですわね〜甘みがすごいですわ!」


「丸焼きにした尻尾は表面の皮の硬さが、肉汁やダシの元になる栄養素をしっかり閉じ込めてるんですねぇ」


 そう!


 実はワイバーンの肉の味をしっかり味わえるのは尾なのです。


 尾は脂身が多いのですが、丸焼きにすることでその脂身をしっかり味わえるのです。


「あまり栄養があるわけではないようですが、とかく美味しいですわ〜!」


「……これは本当に珍味として、オヤツ的な味ですね。お酒のツマミなんかにも合いそう」


「あれだ! イカの燻製に似てますわ。ということは燻製にしたらもっと美味しいかもですわね」


 骨もキレイに取られているのでとても食べやすいです。


 雑食性なので、ワイバーンは身肉は臭みがあるのですが、尾にはそれがありませんでした。


「くどいほどの甘みを感じたら、次は火炎袋いってみようか」


「火炎袋ー! すごいですねぇ」


「……ツキノ、辛いもの好きなんですか?」


「えぇ、拙はレイファの辛い料理も修行のメニューに入れてあったのです。つまり、様々な料理を研究すると題目に入れたもののひとつです」


「火炎袋は唐辛子を刻んで一緒に炒めてあるものよ。これは昔は宮廷料理でしか出せない高級なものだったらしいわ」


 宮廷料理……ウッ頭が……。


 しかし、火炎袋はわたくしの想像する宮廷料理とはまったく異なるお味でした。


「辛い!! でも我慢できる辛さですわ!! うまぁ〜〜ですわ!」


「ワイバーンは火炎袋が2つしかないから、半分にしてもらったけど、ファイアドラゴンいわゆる火竜とかは火炎袋4つと大火炎袋もあるからね。本格的に味わいたいならそっちも探してみてね」


「いつか食べたいですわ〜!」


「……うまい」


「うん、美味しいです」


 ツキノも珍しく一筋の汗を流します。


「無言になりますわ、これ」


 わたくしたちは汗をかきながら、ご飯を片手に黙々と召し上がりました。


「……しかし、これ、私好きです。スープが美味しい」


「必死すぎて喋るの忘れてましたね。辛さとうまみのバランスが最高です」


「もっと辛いのが好きな人はこれ。リューズっていうの」


「何ですのこれは!?」


 エスティが出して来たのはツボに入った真っ赤な何かでした。


「シシリー族の調味料。タコとイカとオキアミとかを唐辛子と一緒に塩漬けにして発酵させた食べ物。辛いから火炎袋に入れて食べて」


「かかかかか辛っ!」とわたくし。


「……直で食べたらそりゃね」


 エスティが笑うたびに顔の左右にある翼が揺れます。


「火炎袋に入れたら、リューズの味の深みがしっかり感じられますねぇ」


「火炎袋は辛味を抑える働きがあるんですわね。そりゃそうですわ。辛味は痛みらしいですので、炎の暑さや痛みを防ぐための火炎袋が抑えてくれるんですわね」


 火炎袋とリューズを一緒に食べると、不思議とそこまで辛くなくなります。


 どころかリューズの辛味の奥にある甘味やだしの味が何となく伝わってくるようですの。


「……要するに舌に直接当たらないようにする効果があると……」


「でも、このリューズは慣れたら火炎袋にいれてちょうど良いぐらいですわ! これは美味しいですの」


「ご飯が食べたくなるよね」


 エスティがおかわりを差し出します。


「たくさん頂きましょう」


 普段よりもツキノはご飯を食べています。


「ワイバーンの火炎袋スープと尾を交互に食べて、ご飯もモリモリ食べてしまいますわ」


「……甘みと辛味が交互に感じられてヤバい」


「脳が震わされる美味しさですね」


 感動している様子のツキノ。


 東国の海の向こうには唐辛子の名産地があり、そこでは唐辛子料理が多いと聞きます。


 それに似ているのでしょうか。


「シシリーのみなさんの料理手腕は素晴らしいですねぇ。何を作っても美味しくなりそうです」


「……美味しいー」


「本当に中毒性がある組み合わせですねぇ。フルコースも気になりましたけど、この後ベヒーモスと戦うことを考えたら、装備を整えて頂かないと」


 ドレープの方々にはワイバーンの素材で武具を揃えてほしい。


 また、ワイバーン料理で英気を養ってほしい。


 市場に出れば修繕費用の足しにもなるでしょう。


 本当は様々な部位を試したかったですが、これからのことを考えて、わたくしは捨てられる部位を食べることにしたのです。


「お腹いっぱいになりましたわ〜!」


「じゃ、食休みに、私とルビーの話をしちゃおうかな」


 魔力を灯りに変える植物、ランプ草の光がエスティの顔を照らしています。



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