ベヒーモスの睾丸4
【主な登場人物】
アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。
オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。
ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。
エスティ / レイファ地区の翼を持つ種族シシリー族の少女。弱いが千里眼を持つ。ベヒーモスの感情を読み取ることができ、ベヒーモスのことを心配している。
まずわたくしたちの目に入ってきたのは、倒れた家屋、えぐられた道、破壊された像……。
「大変な有様ですわね」
「……遅かった……」
巨大なモンスターが暴れたにしては、人々の被害はあまり無く、どちらかというとベヒーモスは道や木などを破壊したという印象を受けました。
「シシリー族の血の跡がない……むしろ緑色のベヒーモスの血しか無いですね」
「ルビー……」
エスティは悲しそうな表情を浮かべ、唇を噛みます。
「あの子の声が聞こえない……どうして……」
「人との交流を絶って、自ら敵になろうとしているかに見えます」
ツキノの言う通り、どこか放ってほしいとでも言うかのようです。
「倒れてる方々はいますけれど、皆様大事なさそうですね」
「シシリー族は飛べるの。恐らく避難後の家屋の倒壊などでケガをしたものと思うわ」
「まだどこか地鳴りが聞こえるような気がしますわ」
そんな中、足から出血し、痛みを耐えているシシリー族の少女が、壁にその身をもたれかけていました。
「大丈夫!?」
優しく声をかけるエスティ。
「あなたは……?」
ケガをしている少女はエスティに応えます。
「回復術師。まかせて。地脈と時の神の名の元に。円環の終始に在るものよ、応えよ。生き急ぐ者に救いを。滑り行く者に停滞を。魂の行方はそこに在らん」
詠唱が始まると、あたりに祈跡特有の金色の輝きが満ちていきます。
「ノアルレント」
すると、傷は完全に癒え、傷跡もすっかり消滅しました。
回復術……あまり目の前で見ることはありませんでしたが、これが神と契約した祈りの力も。
魔法とは異なる論理を用いる、祈跡と呼ばれる神の力。
「これである程度は動けるはず」
「痛くない……」
感動する少女にエスティは問いかけました。
「ベヒーモスはどこに?」
「あっち……」
わたくしたちは指さされた方向を見ます。
ちょうどその方向は、城砦都市ドレープに向かう方向でした。
「……なんか空気感が変わってしまいましたね」
「おちゃらける余裕がありませんわ」
歩いて村の端に向かうほどに、ズンという地面を揺らす音が聞こえます。
視線の先に……目標が歩いていました。
だいぶ遠くなってはいますが、まぎれまなくベヒーモスでしたわ。
サイを大きくしたような緑色の巨体。
頭部のツノは後ろにのびる2つ、鼻先には1本のツノがあり、計3つの突起が確認できます。
鼻先は紅色に光っていて、それが夕陽を浴びて輝いています。
「あっ! いましたベヒーモス!」
「行ってしまう……ルビー!」
追いかけて駆け出すエスティ。
「ルビー、どうして答えてくれないの!?」
『グオオオオオオオ』
「ルビー……」
西陽にシルエットとして浮かんだベヒーモス……彼は大きく咆哮しただけでエスティに答えることはなかったようです。
エスティは何かを理解したように崩れ落ちます。
「あの子はきっと人間の敵として討伐されようとしてるの。もう私の声は届かないかもしれない。アリシア、助けて……」
大粒の涙を流す少女に対して、わたくしは空に向かって叫びましたわ。
「当たり前ですわ!!!!」
エスティとは出会ったばかりですが、人の思いは過ごした時間に関係ありません。
わたくしはまっすぐ前を見据えて決意します。
「どうやらわたくしも本気にならないといけないようですわね」
「……お嬢様……バトルものみたいになってきましたね」
わたくしたちは赤く染まる大地へと強く足を踏み出しました。
剣撃の音が響きます。
真っ直ぐな片手剣と魔法、それがオルカの対人の戦い方のようです。
息をつかせぬ連続攻撃がまるでモンスターのそれを思わせます。
「ワイバーンは脚を使う。この連撃はそれに似ていますわ」
わたくしはガードを解いて身をかわし、大剣……バルディエル・ソルガを振ります。
重い一撃を片手剣だけで受けるオルカ。
「……お嬢様がこんなに使うなんて」
「わたくしは老ストリエラに直々に鍛えられていますのよ。しかし、対人戦は後手に回ってしまいますわ」
下から袈裟斬りに大剣を切り上げますと、オルカは大きく飛ばされました。
「……ぐっ!」
間髪入れず、彼女は魔法を発動させました。
「……炎よ」
人1人を飲み込んでしまうくらいの巨大な炎が、わたくしの身を襲います。
しかし、わたくしは魔法を大剣を使って防ぎます。
でも……これ……練習なのですけど……?
殺る気満々すぎません……?
「火竜の戦い方に似てますわ。老ストリエラはモンスターに似せた戦い方を使っていましたが、オルカもそうなのですわね」
「……楽しい! 久しぶりに血湧き肉踊りますよ!」
オルカは笑みを浮かべながら高く跳躍すると、詠唱をはじめます。
「……雷鳴。竜脈を穿つ雷。我より落ち、彼を撃て。天明となる輝きよ、灰と為せ」
「お待ちなさいませ! 雷の魔法はやばいですわ!」
「クラヴノス」
ガガガガガガガガ!
轟音が辺りを包み、続いてドォンという重い音が響きました。
オルカの戦闘狂〈バトルマニア〉〜!
わたくしで無かったら死んでましたわー!
わたくしはなんとか雷撃の上位魔法を大剣に隠れてやり過ごしました。
「覇王剣バルディエル・ソルガでなくては危なかったですわ!」
まわりにピリピリと電気が残っています。恐ろしい威力です。
「……あーすっきりした! お嬢様、ありがとうございます」
「危うくアフロのダンスパーティになるところでしたのよ! まったく!」
「……失礼しました。流石です」
「見惚れてしまいますね。かっこいいです」
安全な位置で見ていたツキノが近付いて言いました。
「トコヨの剣術とはまた異なる……対魔物に特化した戦い方なのですねぇ」
「特にわたくしのは対モンスター特化ですわ」
「……私のは対人対モンスター、どちらも戦えます」
痺れた手を振って、ストレッチしながらわたくしは口を開きました。
「わたくしもリハビリをしなくては行けませんから」
「……別に昔ハンターだったわけでもないのに……」
「感覚と身体……脳で出来ると思っても体は動かないものですわ」
自分自身がモンスターハンターアルバとして生きてきた記憶があるため、頭ではどう動けば良いかわかっているのですが……。
中々体がついてきてくれません。
そこで買い物に行っていたエスティが戻ってきました。
「これ……買ってきたわ」
わたくしたちはまだアーヴァリの村にいました。町外れのベンチと机に座ると、エスティが買ってきたものを置きます。
大きな葉っぱに包まれた料理でした。
そこには魚の姿煮がありました。
「ナマズ……? ですか?」
ツキノが呟きます。
「食べられるのですのね……!」
「この辺りではナマズ料理はスタミナ料理として有名なの。どうぞ」
口に入れるとピリピリとした、味わったことのない味が広がりました。
「……不思議すぎる味がします!? なんですか」
「これよ」
エスティが取り出したのは小型の実。
しかし、まわりはトゲトゲしており、中央には目のような器官がありますの。
目はつぶっていますが……。
「まがまがしいですわ〜!」
「あ! これはデビルアイですねぇ」
「デビルアイってあの植物モンスターのデビルアイですの!?」
わたくしたちの驚きに対して、エスティは満足そうに微笑みます。
「そう。デビルアイの種。デビルアイシード。大人になるとデビルアイになる」
「デビルアイって食べられるんですのね! それにしてもまがまがしい種ですわね!」
「……目をつぶったトゲトゲの実! 怖い!」
「この目から芽が出て目になるんですねぇ」
「……ややこしい」
デビルアイシードは毒々しい見た目ですが、毒があったり体調が悪くなったりするわけでなく、むしろ魚の臭みを消したり、味付けに使えるようですわ。
「でも不思議な味ですわ〜! 美味しいですわ! ナマズも臭みがなく、骨張ってますけれど白身として美味しいですの」
「デビルアイのソースがスパイシーですが、果物的な酸味と甘味のバランスがとれてますね」
「……でもこれがデビルアイになるのかー。目から木属性ビームを放つ……」
「デビルアイのプラント……成体も美味しいらしいの。是非食べてみてね」
こうなったらデビルアイも食べてみたいですわ。
デビルアイシードの効果か、体もなんだか活力が湧いてきました。
鍛錬の疲れに効きそうですわ。
「やる気が上がってきましたわ〜! 全力で睾丸を刈り取りますわ!」
わたくしは睾丸への熱意を更に高めましたわ。




