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ベヒーモスの睾丸2

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


エスティ / レイファ地区の翼を持つ種族シシリー族の少女。弱いが千里眼を持つ。ベヒーモスの感情を読み取ることができ、ベヒーモスのことを心配している。



「……というわけで統一王国南西部、レイファの連絡拠点アルノーにやって来ましたが」


「レイファは羽のある種族シシリーが多いですわ。シシリーは頭羽か背羽があって、ハーピーとの違いは両手があるという違いがありますの」


 シシリーは人の中でも飛ぶことが出来る珍しい種族。


 郵便屋や配達屋、急ぐ仕事人は空路と呼ばれるシシリーで定められた空域を飛んでいます。


 そのため、町は立体的な構造となり、中でも要塞都市ドレープなどは凹凸のある土地に何層もの壁がある特殊な都市構造をしていますの。


 家々の内部も吊り床があったり面白い構造をしていますわ。


 もちろん歩行する老人や観光客のために、階段や歯車式エレベーターもあります。


「ハーピーは食べられますが、シシリーは食べられません。人類とチンパンジーの違いですねぇ」


 レイファの独特な町に驚いていると、ツキノはさらりと怖いことを言いました。


「……っていうかハーピーって食べられるんだ」


 ハーピー……食べたいですわ。


 わたくしはアルノーの町の中で、くるりと振り返り2人を見ました。


「体内に魔法を取り込んで、貯められる器官があるものは魔物と呼ばれます。つまり詠唱無しで魔法が使えるのが魔物……モンスターですわ。我々はそのモンスターを狙っておりますけれど」


 人とモンスター、またはモンスターと動物の違いなのですわ。


 まぁわたくしたちは種類やイメージでなんとなくわかりますし。


 他には既存の獣と比べて類型できないものをモンスターと呼ぶなどありますが……。


「探している少女はエスティという名前のシシリー族ですわ」


 ですが……その前に!


 せっかくレイファに来たのですから……。


「とりあえず、レイファといえばスイーツ、スイーツといえばレイファですのでスイーツを食べますわ!」


「……いえーい!」


「良いですねぇ」


 わたくしは連なる伝統的な店構えの飲食店からひとつに狙いをさだめ、入店。


 思い切ってお聞きしました。


「すみません、こちらにココナッツ脳はありますかしら?」


「おぉ、あるよ。ちょっと待ちなね」


「3人分お願いしますわ」


「はいね」


「……なんですか?」


「スイーツですわ!」


 店主らしきおばさんは奥に向かい、調理して……数分後……。


「はいよー」


「……う、うぼぁー!」


 オルカが聞いたことのない声を上げます。


「ココナッツ脳ですわー!」


「……スイーツ……???」


 出てきたものはココナッツに脳みそが入っていて、クコの実が散りばめられた食べ物でした。


 そう、これがココナッツ脳ですわ。


「ココナッツにレイヨウの脳を入れて蒸して、甘みをつけたものですわ!」


「インパクトありますねぇ」


「なんでこんなピッタリなのでしょう! 不思議ですわ!」


 召し上がります。


 わたくしは大きく、脳をスプーンで掬いました。


「ココナッツプリンみたいなのに、主菜のエネルギーを摂取出来そうですね」


「……うわぁ、食べてみると美味しい」


「これは確かに見た目で損をしてしまうところがありますわ」


「……虫とか虫とかで、見た目とか気にしないようになってきたと思ったけど、世の中は深いなぁ」


「でもホント、プリンみたいで美味しいです」


 そうなのです。


 ココナッツ脳はこう見えて(どう見えて?)スイーツなので、プリンのような甘みがあるのです。


 脳は生食できる部位のひとつですわ。


 クコの実を入れて、ココナッツの容器で蒸すだけでレイヨウの動物的な匂いを消し去ることができます。


 単純な調理ですが、それゆえ、素材の甘みとココナッツの甘みがよく混ざり、まったりとした甘みをつけることが出来るのです。


「ここに来たらあなたたちに会える気がした」


 そこで、奥から少女が現れました。


「あなたは?」


 わたくしたちは彼女の言葉を聞いて驚愕します。


「私がシシリー族のエスティ。あなたたち、私を探してるんでしょ」


「……!? 探しものが歩いてきた」


「すごいですわ! 鴨葱ですわ!」


「あら……不思議なこともありますね」


 まさかの、探している方……シシリー族のエスティでした。


 長めの茶系の髪……亜麻色といったら良いでしょうか。


 頭の左右には同色の、猛禽類を思わせる翼が生えており、シシリー族であることを示しています。


 どこか達観した表情ですが、冷たい印象ではありません。


 わたくしは落ち着いて自己紹介します。


「わたくしはアリシア。こちらが最強魔法使いオルカ、鉄腕料理人のツキノですわ」


「……最強魔法使いオルカです」


「鉄腕料理人ツキノですねぇ」


「よろしくね。色々とお世話になるようだから……」


 言いながら彼女は後ろ手に持ったものを、わたくしたちに差し出します。


「じゃ、まずお近付きのしるしに、ね。これをどうぞ」


 出てきたのは、大皿に乗った幾つかのもちもちした目玉とパイナップル。


 テーブルに置かれたココナッツ脳と相まって、あるのがスイーツとは思えない……突然のゲテモノテーブルになりましたわ。


「もちスライムですの? すごい! なぜわたくしたちの食べたいものがわかりますの!?」


「……目ん玉……!」


「えへへ。私、千里眼なんだ。自分のためになるものがちょっとだけわかる。だから、これをあげたら喜ぶかなって」


「それに……わかる。世界の命運を握ってるってことも」


「……世界の命運」


「そうですわ……世界か金玉か……ですわ!」


 わたくしたちが世界、という言葉に酔っていると、ツキノが話を進めました。


「エスティさんはこちらのお手伝いを?」


「この店は親戚のおばさんの店なんだ。ここを選んだことがまず、あなたたちを運命が選んだってとこかな」


 わたくしはもうオアズケをされた犬状態でした。


「それは嬉しいのですが、その、もちスライムを頂いても……!?」


 スライムの目玉とパイナップルを前にして、わたくしは興奮の色を隠せません。


「あ、ごめん! 私、自分で出しておいて……どうぞ!」


「美味〜ですの〜!」


 もちスライムの食感はまさしく餅で、見た目さえグロテスクですが、素晴らしいスイーツでした。


 思いもよらないサプライズですわ。


「餅の目玉商品ですの〜!」


「餅をたべさせたスライムの目玉とパイナップルよ。あなたたち、美味しそうに食べるね」


「これは毎週食べたいですね」とツキノ。


「……また毎週食べたいものが出た!」とオルカ。


「毎日でもいいですわ! スライムはどこにでもいますし、もち粉でこんなに美味しくなるのでしたら、城下でも養殖できますわね!」


 どう調理したのかわかりませんが、スライムの目玉はプルプルもちもちで、なんとなくソーダやラムネの味がします。


 恐らくこの味はスライムの目玉でしか味わえないものでしょう。


「体の方はココナッツプリンに使うの。これもいつか食べてみてね」


「……なるほど。スライムは捨てるところがありませんね」


 スライムの体はゼリーやプリンに利用されます。


 体の方はほとんど無味……種類によりますが……なので、味付け次第でどんな料理にもばけることができるのです。


「それであなたたちは、私と会ってベヒーモスをどうする気なの? 私はぼんやりとこれから起こることがわかるぐらいで、正確なところはわからないの」


「エスティ、あのね、わたくしたちはベヒーモスの……」


「ベヒーモスの?」


「睾丸を切り取って供養しますわ」


「!?」


 さすがのエスティも目を白黒させていましたわ。


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