ブラウニーのブラウニー2
【主な登場人物】
アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。
オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。
ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。
ブラウニー / 家事妖精。基本的には幼い少女の姿で現れると言う。家主が家事できるようになると、他の家を求める。料理・洗濯・掃除……家事仕事を生きがいとする。
「ブラウニーは遠くに行くことはできませんの。探してきますわ」
そう伝えて、おばあちゃんの代わりにわたくしたちはブラウニーを探すことになりましたの。
たとえ何十年も経っていようと、ブラウニーはこの近くにいるはずですわ。
「……今回はいつになく真面目ですね」
「いつも真面目ですわ!」
「ブラウニーですか。どうやって探します?」
ツキノに対して、わたくしは自信満々で答えます。
「魔力の残滓を見つけるのですわ」
「…………」
皆が次のセリフを待つ中、わたくしは黙ります。
「…………」
「……ああ、私がやるんですね」
「わかってくれて良かったですわ〜! 魔法といったらオルカですので!」
わたくしは辺りを見回して言いました。
「人がまばらな村なので、魔力反応があれば、それは妖精かやばいやつに違いありません」
「後者でないことを祈りますねぇ」
もうすでにオルカは目を凝らして魔力反応を追っています。
「……む、ありますね」
オルカについていくと、そこはおばあちゃんの家から少し離れてはいるものの、やはり村の中でした。
「……お嬢様の推理は当たってます」
どうやら魔力残滓から人間のものではないと判断したのでしょう。
わたくしたちは探索を続けました。
この早さで見つかるとは……流石、統一王国付き魔法使い見習いといったところでしょう。
常人に妖精の魔力残滓はつかむことが出来ません。
「あ、こちらを見てくださいまし」
「小さい足跡……人間ではないですね」
するとすぐに小さい足跡……親指で軽く押したような……が見つかりました。
「……魔力を追ってみます。こんな少しの魔力、私じゃなかったら見逃しちゃうね」
実際のところ、そうなのです。
オルカは魔法学院に通っていないのですが、その必要がなかったから通っていないと言っていましたわ。
「……こっちです。村外れの……廃墟?」
その廃墟は森との境目。
家屋の後ろはもう森でしたわ。
「失礼しますわ」
と言って入るとすぐに反応がありました。
「来ないで」
そこには褐色の少女と……探していたブラウニーの姿がありました。
「大丈夫ですわ。わたくしたちはなんというか優しいひとたちで」
想定外のこと……少女の存在にわたくしは慌てます。
「……か、かわいい〜! なにこの生き物……!」
オルカが思わず声を出すほどの可愛らしさ。
まるで人形のような妖精の姿。
大きさは人間の腰ほどでしょうか。
「これがブラウニーですね」
ピンク色の髪に黄緑の服装、緑色の帽子。
本当にぬいぐるみと見間違うほどの愛らしさをもつ妖精です。
ブラウニーは2体おり、互いの手をとってわたくしたちを見ていました。
「あなたたち、見えるの?」
いっぽうで少女は不思議そうに言うと、こちらを見つめます。
「この子達が見えるってことは、悪い人達じゃないのかも」
ブラウニーと少女たちは、お互い頷いています。
「泥棒は見えてなかったから……」
「あなたは? どうして、こんな廃墟に?」
「……廃墟という割にはホコリひとつありませんね。美味しそうなオムレツもあります」
出来立てのオムレツの匂いが、わたくしの腹部にダイレクトに攻撃をくわえます。
お腹が減り出したわたくしをよそに、少女は語りはじめました。
「ノアは……孤児院で生まれたんだけど、その孤児院は子供をモンスターの生贄にしてるの」
「なんて酷い。どこにあるんですの」
「もうないよ。子供たちが逃げてモンスターの生贄を用意できなくなっちゃったから、本当にモンスターに破壊されちゃったの」
「……酷いけど、嘘じゃなかったんだ……」
モンスターはモンスターなので、腹がいっぱいになればそれで良いのです。
それでも、孤児院を開いてモンスターの餌にするなんて……悔しいことですわ。
わたくしが知っていたなら国外追放にしていますのに。
施設長はハンターに任せる金も惜しかったのでしょう。
恐ろしい守銭奴ですわ。
「私は逃げて……商人馬車に潜り込んで、気付いたらここにいたの」
しかし、彼女の落ち着きから、施設長がもういないことがわかりました。
「昼間はウサギとかを狩って暮らしてる。料理はこの子たちが作ってくれるの」
少女の話を聞いて、わたくしは良いことを思いつきました。(勝手に)
「あ! そうだ。あなた、このままこうしても、大変でしょう」
「冬は寒いし、夏は暑い」
「であれば、ブラウニーと一緒についてきてくださいませ」
わたくしは全てを解決する妙案を思いついたのです。
「オムレツを食べてからでいいですわ」
ブラウニーオムレツは気になりましたが、少女が美味しそうに食べるのを見守りました。
ブラウニーたちはおばあちゃんの家に近付くに連れ、明るい表情を強くします。
ついに家の前に来るとキラキラ輝いた目で「懐かしい……」という表情を見せました。
少女……ノアが問いかけます。
「ブラウニー、このお家、知ってるの?」
するとブラウニーは頷いて、満面の笑みを見せます。
「おばあちゃん、来ましたわ」
「はいよ」
おばあちゃんが扉を開けると、ブラウニーたちは口角を上げて飛び跳ねましたわ。
それを見て思わず、おばあちゃんは声を漏らしました。
「あ……」
そしてブラウニーたちはおばあちゃんに抱きつきます。
「わたくし、泣きます」
感動的な場面が訪れて、わたくし、それを見て今回はあんまりギャグとかそういうのは言わないようにしよう……と強く思いました。
「久しぶりだねぇ。元気にしていたかい?」
うんうん、と頷くブラウニー。
家事妖精としての宿命から家を離れた彼女? たちでしたが、やっぱり寂しかったのかもしれません。
「おばあちゃんも元気にしていたよ」
おばあちゃんもまた会えて嬉しそうです。
「嬉しいねえ。でも、どうしてだい」
「この娘が、村外れのお家に住んでいましたの。それでブラウニーたちはお手伝いしていたんですわ」
わたくしは中に入りながら、言葉を続けます。
「多分、ブラウニーたちはこの村についている妖精なのです。だからきっと色んな家をお手伝いして……流れ流れて、あそこにいたんですわ」
「この娘はどうしたんだい?」
その質問に、待ってましたとわたくしは答えましたの。
「この子はこれからおばあちゃんの孫として住みますわ!」
「……え?」
「おばあちゃん、もう一度ブラウニーのブラウニー屋さんを開きましょう。きっとこの子が助けてくれますわ」
突然の展開に目を白黒させたおばあちゃんでしたが、
「良いのかい?」
とノアに声をかけました。
「なんだかわからないけど……狩りして暮らすよりは幸せそう!」
ノアにとっては暖かい家と暖かい人は何よりも得難いものであったはずです。
「狩りもしてたのかい。じゃあ、狩りも教えてあげようねぇ」
「やったー! ありがとう!」
まさかこんな……トントン拍子で進むとは……わたくし、自分のプロデュース力にいささか恐ろしさを感じましたわ。
「嬉しいねえ……おばあちゃん、頑張るよ」
おばあちゃんは言いながら背筋を伸ばし、よし、と奮起しました。
「さて、忙しくて家事ができないかもしれないね。お店と家を……ブラウニーたちもお手伝いしてくれるかい?」
そしてブラウニーたちの頭を撫でながら、
「ブラウニーのブラウニーも作り方を忘れちまったよ。久しぶりだから、あんたたち作ってくれないかい?」
と笑いました。
「ブラウニー、良いよね?」
ノアとおばあちゃん、2人に対してブラウニーたちは涙を堪えるようにして頷きます。
「ようし、じゃ、おばあちゃんはこの娘をお風呂に入れてくるよ。名前は?」
「ノア!」
「ノア、行こうねぇ。おばあちゃんはバチャって言うんだ。バチャおばあちゃんだよ」
「うん。おばあちゃん、ありがとう」
そうしておばあちゃんたちはお風呂場に向かいました。
「……見事な解決ですね」
「普通に感動的ではないですかぁ。どうしたんですか?」
「いえ、こんなときもありますわ」
わたくしは涙をぬぐい、答えました。
返せなかった借りを、返したぞバチャさん。
アルバとしてのわたくしが心の中で呟きます。
「さて、ブラウニーたちのブラウニー作りを見ながら、正々堂々だらだらしますの!」
「……だらだら〜」




