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ブラウニーのブラウニー1

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


ブラウニー / 家事妖精。基本的には幼い少女の姿で現れると言う。家主が家事できるようになると、他の家を求める。料理・洗濯・掃除……家事仕事を生きがいとする。


 木材の匂いで溢れる家。


 夏涼しく、冬暑く……逆だったら嫌ですけれど、その点は問題なさそうです。


 いるのはアリシア、オルカ、ツキノと……バチャおばあさま、いえ、バチャおばあちゃん。


 わたくしはおばあちゃんに問いかけました。


「では本当にこちらで……ブラウニーのブラウニーを作っていたんですの?」


「えぇ、そうだよ。このおばあちゃんが、ブラウニーのブラウニーを作っていたんだよ」


「バチャおばあちゃん、もう一度ブラウニーのブラウニーを作ってくれませんか? わたくし、どうしても食べたくて……」


 今回はこのブラウニーのブラウニーを求めて参りました。


 情報屋であるカルミールさんから「妖精が作ったお菓子を作る人がいる」とのことで、ここサーダ村まで来たのです。


 ブラウニーのブラウニーは、家事手伝い妖精ブラウニーが作ったブラウニーというお菓子のことです。


 しかし、そのブラウニーのブラウニー屋はとっくに閉店しており、店主であるバチャおばあちゃんは静かに余生を暮らしているのでした。


「アリシアお嬢様……」


 わたくしのお願いに対して、おばあちゃんは悲しそうな表情を見せました。


「ダメだねぇ……もう作れないんだよ。おばあちゃんの村はもうほとんどお客も来なくなって、村人も少なくなっちゃったからねぇ。もう何十年も作ってないから……忘れちまったんだよ」


 ふぅ、と一呼吸置いてからおばあちゃんは話を続けます。


「あの味を再現できなきゃ、ブラウニーのブラウニーとは言えないからねぇ。ごめんね、お嬢ちゃん」


「確かにブラウニーのブラウニーでなければ、おばあちゃんのブラウニーですもんね」


「……職人のこだわりですね」


 現在はわたくしが見る限りブラウニーの気配はありません。


「妖精のブラウニーはなぜいなくなってしまったんですの?」


「そもそもねぇ、ブラウニーが来てくれたのはおばあちゃんがハンターだったからさ」


「なんと……」


 ハンター……バチャ……わたくしはその名前に聞き覚えがありました。


「モンスターハンターバチャといえば名の通ったハンターですわ」


 聞き覚えがあっただけではありません。


 わたくしは前世、伝説のモンスターハンターと呼ばれたアルバの頃に、このおばあちゃんに会っているのです。


 伝説て!


 自分で言うのもなんですけど! 


 本当だから仕方ないですわ!


「おばあちゃん、アルバという名を覚えておいでですか?」


「覚えてるも何も……懐かしいねぇ。アルバは一年おばあちゃんに弟子入りしたんだよ。それで、その後伝説の赤龍を倒して、英雄になったんだ」


「……すごい」


「伝説級のおばあさまですねぇ」


 60年も前のことです。


 わたくしがアルバからアリシアに転生したのは15年前。


 赤龍を倒してからは世界各地のレアモンスターや伝説級のモンスターを狩ったり撃退したりして回っておりました。


 テリエルギア統一王国内外でのアルバの足跡や人生を知るものはほとんどおりませんでしたが、各地の人々が(何故か)像を建ててくれたので、幾つの時にどこにいたかはわかります。


 それでも死の際にアルバの周りにいた人間はごく少数だったので、没年は正確には記載されていませんが、記憶をたどるなら60歳ごろに亡くなったと思いますの。


 おばあちゃんのもとで修行していたのは17か18の頃……前世のことなのに、懐かしい……ですわ。


「お嬢ちゃん、突然アルバのことなんて……どうしたんだい?」


 いえ、とわたくしは返しましたが、答えに窮しました。


「アルバさんに会ったことがありますの。忙しく出ていって、ロクにありがとうも言えなかったとおっしゃってましたわ」


「水くさいねぇ。良いんだよそんなことは。律儀なやつだねぇ……」


 おばあちゃんもまた昔を懐かしむように遠い目をしました。


「あれ? でも、年齢的に……拙たちの前には……アルバ様は亡くなっていたはずですが……」


「ツキノ! そ、それは誤報ですわ!」


「なんと……拙の歴史の授業は無駄だったんですねぇ」


 昔話から戻り、おばあちゃんはブラウニーとの思い出を話しはじめました。


「懐かしい話で、それちゃったけどねぇ。とにかく、ハンターだったおばあちゃんは、忙しかったのさ」


 モンスターとの出会いは予測できないのです。


 それは何日もまたぐこともありましたわ。


「だから自然に家にブラウニーが住み着いてくれたんだけどねぇ」


「ブラウニーはお手伝い妖精ですわ。忙しくて家事ができないお家に現れて、家事をしてくれるんですの」


「……なるほど」


 心の清い人間のもとにしかブラウニーは来ませんわ。


 狩人業は罪業を感じる仕事です。


 おばあちゃんはその罪業に向き合っていた、ということなのですわ。


「ある時、不漁の時期が続いてね」


「不良……ヤンキーということですわね」


「……お嬢様は不調ですね」


「オルカ、あのね、今回はあまりボケないようにしようと思いますの」


 良い話の時や真面目な話の時にボケたくなってしまうのは、わたくしの悪いクセですわ。


 また話を逸らしてしまいました。


 不漁の話でしたわ。


「モンスターが突然いなくなっちまって……それは赤龍のせいだったらしいんだけどね」


 60年前、赤龍は統一王国全体に災禍をもたらしました。


 それはもう、外国であるトコヨの歴史の授業でも出るほどの。


「もうそれこそ生活がままならなくなっちまったのさ。おばあちゃんは困ってたんだけど……」


 モンスターが逃散してしまっては、ハンターの仕事はあがったりです。


 それどころか、あの頃は赤龍によって統一王国は滅ぼされるとさえ言われていました。


 事実、消滅した小国や民族がいくつもありました。


「だから、ブラウニーがブラウニーを作ってくれたんだねぇ。それで、ブラウニーのブラウニーを真似て作って売ることにしたんだよ」


 食材の無さや、動物相手の狩りのままならなさ……ブラウニーは見かねたのでしょう。


 恐らく、時期的にはアルバが赤龍討伐の準備を進め、装備を整えていた頃。


 赤龍討伐はアルバが23、24ごろのことです。


 おばあちゃんのもとで修行を終えたアルバがいなくなってから、2年後ぐらいのことでしょう。


「ブラウニーも良いっていう風に頷いてくれてねぇ。それで狩人をやめて10年くらいブラウニーを売ったね。この日々が幸せだった」


 恐らく本当に落ち着いた日々だったのでしょう。


 おばあちゃんはとても幸福そうな、穏やかな表情を浮かべました。


「生活が安定してきて、家事もできるようになった。そして……安定して家事ができるようになったから、いつのまにかブラウニーはいなくなってしまったのさ。けして悪い別れじゃぁない。それでまた、20年ぐらいやってたんだが……」


 平和な時代……アルバに憧れたハンターも増え、商業が活性化し、村に住む人々は……。


「村も寂れ、人も少なくなっちまってね。閉店してからはもう長い間……こうして服を作って生活してるのさ」


「そうだったのですね……」


「気付いたらもうハンターにも戻れないし、家事は出来るけど、次病気になったら終わりだろうね」


「そんな、そんなことはないのですわ」


 おばあちゃんはもう、緩やかに自分の最後を待つばかりのようです。


 しかし、それはおばあちゃんも望んでいないようで、どこか悲しい表情をしておりましたわ。


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