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プロローグ2

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。


「翌日!」


 叫びながら、わたくしは女中の方と着替えを済ませましたわ。


 昨晩は部屋の中に、魔女の地獄のかまど飯みたいな匂いが充満していました。


 が、その匂いはオルカの魔法〈ファルブリーズ〉によって消し去ることができました。


 朝食の準備すら始まる前に、父と母……王と王妃に向かって声を上げました。


「お父様! お母様! 大切な話があります!」


 面食らった両者に対して、言葉を続けます。


「わたくしね、旅に出ます!」


 あわわわ、と慌てる父と母。


「なんと! いったいどうしたんじゃ可愛いアリシア!」


「アリシア、わたくしたちが嫌になってしまったのですか?」


「違いますわ。お父様お母様は大好きですの。でもね、わたくしも……知らない世界を知る必要がありますわ」


「うーむ、しかしなぁ……」


 父は快諾とはいかずに、考え込みました。


 こういう時には間を置かずに、冷静なそれっぽい主張をするに限ります。


「わたくしはこれから王国を背負う身……きっとそうなったら気軽にどこかにいくことは出来ませんのよ」


「確かにそうですけれど……」


 母は娘のことを心配しながら、わたくしの言うことに耳を傾けました。


「国のことを知らないなんて、王国を背負う人間として良くないですわ。それにわたくしは国民の皆さんが何を食べているかもわかっていません」


 ききき、詭弁ではないですわ。


 実際そう思っていますわ。


 ゲテモノ料理を食べたいのはもちろんですが、そこから、王国の皆さまの文化を知りたいとも思っています。


 ……思っていますわ!


「ふむ。確かにアリシアはこの辺りか城下くらいしか知らん」


「公務を行うようになるまで、もう少し……わたくし、外の世界から学びたいのですわ!」


 もうひと押しです。


 父はやや、わたくしの言葉にほだされかけています。


「可愛い子には旅をさせろ……確かに素晴らしい学びになるじゃろう。だが、ひとりでは……」


 来た!


 ここで、必殺の一言を入れますの。


「オルカが一緒に行きますわ」


「……は?」


 驚いたオルカは思わず素の声を上げました。


「オルカは王国付き魔術師になるのでしょう。それなら、これも修行ですわ」


「……え?」


 その言葉に頷いて、王妃の顔は明るくなりました。


「なるほど。オルカが一緒なら安全ですわね。どう思います? 老ストリエラ」


 老ストリエラは「ふむ」とひとつ考えてから、微笑んで返しました。


 断れ! 断れ! というオルカの心の声が聞こえてくるようです。


 しかし……。


「姫様も私めのもとで鍛錬を積みましたので、そこら辺の魔物には負けますまい。オルカも、我が孫ながらワイバーンの1匹や2匹ならたやすく倒せるでしょう」


 老ストリエラは執事でありながら、わたくし、アリシアの教育をも請け負っていました。


 また、剣術や体術に対しても、幼い頃から老ストリエラから修練を受けていたのです。


 それに加え、オルカは彼から魔法まで学んでいます。


 孫にして1番弟子。


 最近は座学が多くなっていましたが、教えるべきことは教えた……ということだったのでしょうか。


「老ストリエラ……」


 老ストリエラは能面の翁面のような笑顔を作り、頷きました。


「警鐘魔法を使えば、転移魔法でどこででも私が向かえます。それに、お嬢様がその気であれば、断れますまい。まぁ……まずは1カ所ほどで様子を見てからでしょうな」


「ありがとう! 老ストリエラ!」


「……え」


 オルカを置いてきぼりにしながら、話はトントン拍子で進みました。


 悪い気はしますが、第1.目的のためには仕方があらませんわ!


「ふむ。そうじゃな。で……アリシアはどこに行きたいんじゃ?」


「グラン・バリテですわ!」


「!?」


 わたくしの言葉に全員が息を呑みました。


「グラン・バリテは……」と父。


「初めての旅にしてはレベルが高すぎませんの?」と母。


 グラン・バリテは〈大陸の台所〉とも言われる食の聖地。


 そしてセントラルと呼ばれる大陸の商業の中心地に位置しています。


 それゆえ、様々な稼業人や犯罪なども多く、スラムや裏通りなどでは刃が光っておりました。


 そこで、沈黙を破ったのは老ストリエラでした。


「ですが、まぁ……グラン・バリテより危険な場所はいくらでもありますわい」


 ふふ、と笑い声をあげて老ストリエラは言葉を続けました。


「グラン・バリテならキマイラの森に入るほうが危険なぐらいでしょう。裏通りに入らなければ……」


「キマイラの森ですわ! じゃなくてよかったですわ」


「裏通りには行かないでくれよアリシア」


「ももももももちろんですわ」


 嘘です。


 ごめんなさい。


 行きます。


「……あれ?」


 いつの間にか自分がついていくことになっていたオルカが、現実逃避から戻ると、やっぱり自分がついていくことになっていました。


「ではオルカよ。お嬢様をしっかり守るんじゃぞ」


「……はぁ、ええ、はい」


 師にして祖父の命令に、オルカは力なく応えました。


 そして数分後。


「……では、準備よろしいですか? お嬢様」


 理解がおよばないまま、転移魔法の門の前で、オルカが声をかけます。


「ええ! 行ってきますわ! 何日かかるかわかりませんけど!」


 手を振るわたくしに対して、父と母が涙を流しながら、返しました。


「気をつけて行ってくるんじゃぞ〜!」


「無事を……無事を祈ってますわ〜!」


「……今生の別れかな?」


「行ってまいりま」


 そして一歩踏み入れた瞬間、転送門は閉じました……。

 格好良く最後まで言わせてよ……。


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