ゴーレムを食べよう11
【主な登場人物】
アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。
オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。
ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。
ロロロ / カーレ地方ナビア族。青い肌で海棲生物に似た頭。ギシキの先導者。背が高い。
3人の目の前に四角に切られたゴーレムが置かれていきます。
「やっとここまで来ましたわね」
「まぁ簡単に食べられたら、ゲテモノ料理とは言えませんからね」
「……確かに。市場に出ないからこそですよ」
配り終えて、ロロロはわたくしたちの晴々とした表情を見回しました。
「はい、じゃ、それぞれゴーレムからハイリョウしたセイタイがいきわたったね」
わたくしたちは何故か壇上で食べていいというよくわからない許しを得て、ゴーレムの前で食べていますの。
「ゴ……」
ゴーレムは以前より3分の2または半分ほどのサイズになったように見えます。
「細くなってしまいましたが、大丈夫ですの?」
「だいじょうぶ。かみさまのからだはすぐもどるよ」
「ゴーレムの体は契約魔法を使えば1日で蘇るんですね。先ほどお聞きしました」
「ナビアのかみさまであるゴーレムはユウシャがさいしょのけいやくしゃらしい」
「ゴ……」
「あ、かみさまがおしえてくれるって」
ナビアの神らしいゴーレムは身振り手振りとゴ……という声? でナビアの神話を伝えました。
「ユウシャはナビアのさいしょのチョウロウ。かわくだりをして、ジャングルに入った。ばんじーでしょくりょうを手に入れて……」
「やりましたわねー!」
「……今や懐かしい」
やはりギシキというのは勇者の行ったことを追体験するものらしいのです。
「ゴールデンヘラクレスをさがした。これがもともとのユウシャのもくてき」
「ゴー……」
「そしてイッパクして……ラックブラッドをみつけた。アリをさがしてたべて、ムヴァンガと戦った」
「ゴ……ゴ……」
「そしてこのバショでゴーレムとであって、ナビアをおこした」
部族を起こした人間の追体験をすること自体がある種、神話を知ることにつながる……このギシキはとても良い伝統だと思いますわ。
内容は別にして。
「ゴー……」
「ゴーレムをたべたのはフクツウタイサクやショードクのためなんだって」
ゴーレムは土で作られていますからつまり、土食ということになりますの。
ゴーレムにはカオリンと呼ばれる鉱物が含有しております。
このカオリンが細菌や毒性物質を吸着するので、それらが排泄されることが期待できますわ。
また、豊富なミネラルが摂取でき、特に暑い地域では高い効能があるらしいですの。
つまり勇者に自分の体を与えたゴーレムはそのことを認知していた……もしくは経験則によりそれらを知っていたのでしょう。
「では、わたくしたちも食べましょう!」
この時、わたくしはもうウズウズして、いてもたってもいられない状況でしたわ。
「……これが……ゴーレム……長かったですね」
オルカもまた感動しております。
「では! いただきますわ!」
切り分けたバウムクーヘンのようなゴーレム。
口に含むと……。
「う〜ん! 独特〜!」
「……体内の水分がゼロになる〜!」
特別美味しい、というわけではないのです。
ですが、なんというかクセになる感覚なのです。
「きなこを口の中に次々といれている感じですね」
「でも和菓子にも似てますわ」
「確かに……そうですね。新鮮味がないのは拙が食べなれているからかもしれません」
ほのかに甘く、パサパサとした食感。
トコヨの和菓子に似ています。
「わたくしは好きですわ〜! おばあさまのオヤツを思い出しますわ!」
「こんな味だったのですねぇ。ゴーレムは。お茶菓子に最適かもしれませんね」
ツキノもお目当てのゴーレムを食べて(しかも2回目)嬉しそうです。
「素晴らしい……汗と涙が奪われていきますわ……」
「……これ、砂糖が入ってたらゴーレム絶滅してただろうな……」
オルカの呟きで思い出したように、ロロロは調味料を出しました。
「あ、これ、忘れてた。サトウキビをまぶしてたべてみてね」
「……もしゃもしゃ。ゴーレムとサトウキビ……やっぱり合う!」
「確かに東国のお菓子の感じが増しますわね!」
「この味と食感……トコヨのナハに似たお菓子があった気がしますよ。でもやはり、独特な珊瑚礁や貝殻を思わせる香りがあって……それが良いですね」
「……ゴーレム、美味しい!」
「素朴だからこそ、味変が輝きますわね」
「……しかも体にも良いんですよね」
良薬は口に苦し……の逆をいく食べ物ですわ。
忘れてしまうところですが、本来は解毒作用とミネラルの摂取が主な効能なのです。
「そうですねぇ。コレはトコヨでいうウィロウに近いかもしれませんね。元々は薬に起源がありますから」
「ウィロウ……それも食べてみたいですわ〜!」
「……いつ頃から食べられてるんだろう」
「ゴーレムを食べる文化は昔からあったらしいですわね」
「ユウシャもすんでたところでゴーレムをたべてたのかも」
「この独特のクッキー感は他では味わえませんわね」
ロロロは隠していた山盛りのゴーレム片を見せた。
「まだまだあるからね」
「おばあさまのオヤツ感〜!」
1時間後。
わたくしたちは様々な食べ方でゴーレムを堪能しました。
年配のナビア族の皆様も食べていましたから、どうやら1年に1度、ギシキの際に食べているのかもしれません。
ナビア族の皆様はこのギシキをクリアしないと大人になれないそうですわ。
「たくさん食べましたわね」
「……えぇ、ゴーレム大満足です」
「まさかスライムゼリーとも合うとは。拙もびっくりです」
そして、わたくしたちはよく考えたら2日もろくに寝てないことに気付きました。
「さて……では久しぶりに、夜までゆっくり休みましょうか」
ツキノの言葉に頷きます。だって、夜はノミカイ……打ち上げがあるのですもの。
きっとまた色んな伝統の虫料理が出てくるのですわ。
「そうですわね。おれたちの戦いはこれからだ!」
そして、大きく背伸びをして言いました。
「寝るぞーっ!」
「……おー」
「おー」
「おー」
「ゴー……」
この総勢3日間……とてつもなく疲れて、とてつもなくお腹いっぱいになり続けた日々でした。
わたくしは今でもこの経験があったからこそ、色んなことを頑張れるのだと思いますわ。
──日誌後記──
意味不明なほど疲れましたが良い経験になりましたわ。
まさかはじめての旅でこんな経験をするとは思ってませんでした。
特にジャングルで寝た……いや、寝てませんけど、あれは辛かったですわ。
全員が2度とやりたくないと言っておりました。
あれらを乗り越えてゴーレムを食べた方は統一王国内でも多くないでしょう。
カーレの文化や生活様式も少しだけわかりました。
何よりジャングルで過ごす体験はわたくしはじめてでしたので、貴重でした。
ちなみにジャージは記念にもらいましたわ。
嬉しい! お部屋に飾りますわ。




