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ゴーレムを食べよう10

【主な登場人物】

アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。


オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。


ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。


ロロロ / カーレ地方ナビア族。青い肌で海棲生物に似た頭。ギシキの先導者。背が高い。

 

 暗闇の中、ツキノから声が上がりました。


「引いてます引いてます」


 ロロロの実況(?)も熱を帯びています。


「やはりねづりのチカラだ! むのキョウチによってツキノがヒットです。ちょっとビクッとしていたぞ」


「めちゃくちゃ引いてる音がしますわよ」


 声だけですが、ツキノが力を込めている音がします。


 オルカが初めて見たレベルのオーラだという強者のツキノが……。


「ぜんぜん引けませんよコレ」


「たいりょくしょうぶだからね。いとがキレないように、ムヴァンガのたいりょくをしょうひさせて」


「……ムヴァンガの体力は消費させるが、我々の体力は寝釣りによって消費しないようにするのですね」


 オルカはすっかりノリノリです。


「よしよし、来ましたよ。重いっ!」


 どたん! ぷしゅー!


 という釣りでは聞いたことのない謎の音が響き渡りました。


「釣りましたー!」


「すばらしいー! ツキノ! 200ポインツ!」


 そこまでポイントがインフレしませんでしたが、それでもバンジージャンプの10倍です。


「ツキノは468ポイントでギャクテンドクソウだー!」


「一旦目隠し外しても良いですか?」


「いいよ」


「うわー、こんな生き物、拙はどうやって釣ったんですか? すごくないですか?」


「耳だけで聞いていると訳わからないですわね」


「……そんな生き物を釣ってるのですか?」


「えー、これ、どういう原理で釣れてるのでしょう。だって歯が……?」


「混乱ぶりがすごい」


 するとそこで竿に振動が走りました。


 強い振動です。


「……あ」


 オルカの声が聞こえます。しかし


「……フィーッシュ!」


「来ましたわー!」


 どうやら2人同時に魚がヒットしたようでした。


「いっけー! わたくしのサイクロンマグナ!」


 わたくしは力一杯、木製のリール? を巻きまくります。


「あ! おふたりともしっかり! ムヴァンガですよ」


 ツキノの声が聞こえますが、わたくしは立ち上がって叫びました。


「こっからはオレッチたちと魚との戦いだぜ↑」


「あぁ、アリシアさんの画風が変わった……!」


「……画風ってなに!?」


「そろそろ上げるぜッ!」


「……私もっ」


 だしゅー! ばがん!


 ぷにゅ!


 という謎の音が連続します。


「おおー、ふたりともめかくしとっていいよ」


「……あれ?」


「なんか、わたくしの……?」


「……ちっちぇー」


「…………」


 わたくしのムヴァンガは明らかに小型の……ちょっとしたブラックバスぐらいしかありませんでした。


 引きはかなり強かったのですけれど。


「いやー、ね、釣りというのはねぇ。勝った負けたというそういうものではないですから、ねぇ」


 慌ててツキノがフォローします。


「そうですね。このシレンは、そういうことに気付くためのシレンなのですわ」


 わたくしはもうなんか悲しいやら疲れたやら、終わって嬉しいやらで……限界でした。


「釣りというものは、自然と一体になって、その先に向かうものなのですわ」


「……なんかシメた!」


 闇が辺りを包む中、ロロロが魚を焼く匂いと音、明かりだけが感じられます。


「さて、ムヴァンガをやいたよ。今回はシンプルにいきましょう」


 出てきたのはムヴァンガの焼き魚ですが、珍しく切り身です。


 流石に丸焼きは出来なかったようでした。


 わたくしのは丸焼きでしたが……。


「淡水魚らしいさっぱりしたお味ですわ」


「……ですが、この、肉汁というのですか? 脂が乗っていますね」


「わたくしのは小さい分しっかりしたお味ですわ!」


「本当ですね。あ、しかもこれは卵ですか?」


「ムヴァンガのたまごつきだ。これはめずらしい」


「やりましたわー!」


「これをしおづけにするとうまい」


「なるほどイクラみたいなものですね」


 ムヴァンガの卵は生焼けといった感じでちょうど良い状態……なので口の中でとろっととろけるのです。


 美味〜!


「……美味しい〜。つった労力が報われる気がする」


「ここまで6時間ぐらいでしたね」


「辛かった……」


「……誰かが時々マジ寝してた」


「オルカもですわ〜」


「たべたらけっかはっぴょ〜だよ」


 わたくしたちはほぼ2日徹夜した状態で村までの道を歩きました。


 この2日……いやもう3日ですが……はとても疲れましたが、基本的にいつもお腹はいっぱいでしたし、常に美味しいと言っていた、そんな気持ちがありましたわ。



 村に帰ったころにはすでに、翌日の明け方でした。


 もはやほとんど寝ておりませんので、自律神経が稼働しておらず、今が何時かも曖昧でしたわ。


「ケッカナッピョーン」


「けっかはっぴょ〜」


 似たテンションでロロロは長老の言葉を翻訳しました。


「わりとチョウロウもおちゃらけてるよ」


 長老は開会式の威厳を一切失っており、なんとなくただの酒飲み老爺といった感じでした。


「やっぱりそうなのですわね」


「……赤ら顔ですが」


「さんかしゃがギシキしてるあいだはずっとノンでるからね」


「お酒を?」


「そう。それがかれらのギシキだからね」


「そういう名目で呑んでるだけですの」


「……寝てないから軽くイライラしてますね」


 わたくしたちがあんな辛い目に遭ってる間長老たちは呑みまくっているとは……。


 でもまぁそれが彼らのやり方なのかもしれないのですわ。


「モノスゴーイ、ツキーノ」


「ゆうしょうは、ツキノ」


「おおー」


 会場中が歓声をあげました。


 ツキノは目をぱちくりさせながら立ち上がります。


 なんとツキノが優勝とは……最後にあげた竿がムヴァンガを釣り上げたことが大きかったのでしょうか。


「ファーアルバリックディアース」


「それではセイタイハイリョウです」


 聖体拝領……これが噂に聞いていたゴーレムを食べる最後のご褒美……わたくしは感動で疲れも吹き飛びましたわ。


「あれがゴーレムですのね」


「……大きいですね」


「どういう魔法の原理で動いてるのでしょう」


「……ゴーレムは使役魔法での契約ですね。ナビアの場合、契約が族長で更新されているのだと思います」


 ロロロがツキノの手を取って壇上へ向かいます。


「アーレリバスティギアバルバドス」


「ゆうしょうしゃによるセイタイハイリョウです」


 ゴーレムは腕を出して「ゴ……」と言っている。


 ツキノは木で作られたスプーンを使ってゴーレムの体を削り取ります。


「ツキノ、けっこうおおくとっていいよ」


 とロロロに言われるがまま、ツキノはわりと多めにゴーレムをスプーンに取り、口に入れました。


「いただきます」


 拍手と歓声が上がる。


 ナビアでも……それも、統一王国でもない……トコヨの国の姫がゆうしょう? したにも関わらず、ナビアの民は大喜びです。


「リファ、ギシキアルタラスンゴイー」


 突然シャキッとした長老が人々に向けて語ります。


「こんかいのギシキはナビアではないものがゆうしょうした」


「カゼナソワーレア」


「それはなぜか」


「ギシキタノシンダモノガカチ」


「ギシキはほんらいたのしむもの」


「ユウシャナーフォギシキリパルーダ」


「ゆうしゃナーフォはギシキをたのしくおこなってユウシャとなった」


 そして長老はわたくしたちを見て微笑み、掌でこちらを示しました。


「カレラタノソーン」


「きみたちはたのしんでギシキをおこなった」


「スンバラシィー」


「すばらしいこと」


 そして人々の顔を見回し、両手を広げました。


「カ、ファーンナミレ」


「えいこうあれ!」


「ヨルーハノミカーイ」


「よるはうちあげがある」


「カ、ファーンナミレ」


「えいこうあれ!」


「……やっぱり呑みたい気持ちを感じる……!」


「というか酔っ払ってますの」


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