ゴーレムを食べよう8
【主な登場人物】
アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。
オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。
ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。
ロロロ / カーレ地方ナビア族。青い肌で海棲生物に似た頭。ギシキの先導者。背が高い。
次の日の朝日を浴びながら、わたくしたちは深い絶望の中にいました。
「おはよー。げんきそうだね」
「おかげさまで……こんな感じですわ」
ボロボロになったわたくしたちを見て、ロロロはグッドサインを出した。
「たのしかった? ドウブツたくさんみれた?」
「ええ……すごいギシキでしたわ……」
「……ある意味動物的だった」
オルカも何とか声を出した感じで、ツキノにいたってはニコニコ笑ったままでした。
死んでるんじゃないですわよね。
「さて、じゃ、みずうみをみて、メをさまそう」
連れて行かれた場所は湖でした。
しかし、そこは普通の湖ではありません。
なんと水がピンク色なのです。
「確かに、目が覚める光景ですね」
ツキノの言うとおり、わたくしたちはすっかり目が覚めてしまいました。
「キレー! 遠くから見るとピンク色ですけれど、近付くとバラ色になりますわ!」
「……なるほど。これは塩分濃度が高いのですね。そのため、特殊なこのピンク色の藻しか生息できないために、全体が藻の生合成によってこの色になっている……」
「詳しいですね」
「……えぇ。錬金術を学んだ時に祖父が言っておりました。金よりもピンク色の鉱石が儲かるのだと……」
「金儲けからの知識! 素晴らしいですわ」
ここは観光地でもあるようで、ちらほらと普通の姿の方もおります。というかナビア族の方が少ないのです。
ジャージ姿もわたくしたちだけでした。
「ラック・ブラッドにはこんなかなしいはなしがある」
ここはラック・ブラッドと呼ばれているそうでした。
悲しい話……ナビアの民話にわたくしたちは耳を傾けます。
「あるむすめがギシキをおえて、すきなおとこにコクハクした。しかし、おとこはケッコンできないとこたえた」
ラック・ブラッドが美しく陽の光を受けて輝きます。
「おとこはリュウジンで、じぶんのツグナイのために、イイコトをひゃっかいやらないといけないと、つたえた」
それから、ロロロは遠くを見つめて話を続けました。
「イイコトとはひとだすけのこと。しかし、おとこはツグナイができずにラック・ブラッドでしんだ。それから、このみずうみはリュウジンのチでピンクにそまってるらしい」
「娘はどうしたのでしょうね」
「むすめはラックをきれいにした。ひゃっかいきれいにすれば、おとこはよみがえるらしい」
「そのあとはわからない」
ラック・ブラッドを見ていると、この民話も本当なのかもしれないと思います。
それほどまでに見事な光景なのです。
世界にはまだまだ様々な光景があって、例えば空が映し出される湖ですとか、アースドラゴンが掘った大穴ですとか、多くの場所があります。
わたくしはそれらも観たい、と思いましたわ。
「……100回ゲテモノ料理を食べれば、お嬢様の願いも叶うかもしれませんね」
「わたくしの願いですか……」
「100というのはたとえ。ほんとうのカズはわからない」
わたくしたちは何かエンディングのような雰囲気で話はじめました。
「なんでも継続して頑張れば願いは叶うということですわね」
「そうなのかも知れませんね。トコヨにも似た話はあります」
「……世界中、いつもどこかで頑張ってる人がいるんだね」
その雰囲気の中、ロロロが言いました。
「しんみりしてるとこ、わるいけど。つぎのシレンがありまーす」
ピンクの湖からジャングルを歩くと、だんだんと木々が少なくなっていき、ついに緑がほとんど無くなりました。
「これからココココをかいしします」
次に連れてこられたのは砂漠の広がる場所。
「ココココはアリをつかまえるシレン。スをみつけたら、こうポイント。アリならたまごもおーけー」
アリ……?
そこら中にいるではありませんの?
とわたくしは思いましたが、このギシキはそんな簡単なものではありませんでしたの。
「アリ見つけましたよぉ」
ツキノがアリをつまんでいました。
そしてロロロが衝撃の言葉を発します。
「1ポイント! さぁたべて」
「えぇ……」
呆気にとられるわたくしに反して、ツキノはもはや超然としておりました。
「いただきます」
「良い子は真似してはいけませんわ!」
「……すげぇー」
「たべたらポイント」
わたくしはどこか昔の……魂に刻まれた……前々世の小学生の頃を思い出しました。
「こいつぁ面白くなって参りましたわ!」
数分後、探し回ったオルカはひとり静かに探索しておりました。
「……む。あれは……アリヅカサガシ」
みると、ふわふわの小さい生き物がとことこ歩いています。
「……アリクイの仲間……」
遠くからはわたくし……アリシアとツキノの声が聞こえます。
「虫かごいっぱいのアリを食べることなんか出来ませんよぉ。危険です」
「出来らぁっ!」
「あぁーー!!」
「アリシア50ポインツ!」
「……なんかやってるな……」
遠くで聞こえる叫び。
オルカは黙々とアリヅカサガシを追います。
「……あ……!」
すると現れたのは……。
「蟻塚だ!」
その声を聞いて遠くの3人……ロロロ、アリシア、ツキノはオルカのもとに駆け寄りました。
「やるねオルカ」
ロロロがグッドサインを出します。
「クリームアリはたまごを1かしょにあつめる……」
オルカはそれを聞いて探しました。
「……あそこだ……」
手にはいっぱいのクリームアリのたまごがありましたわ。
「とれた……!!」
足元ではアリヅカサガシがまったく気にせずアリを貪っています。
わたくしは探偵のように口元に手を当て、オルカに言いました。
「カーレでは昆虫食として、クリームアリが多く食され、主に雨期に出現する兵隊アリを捕まえて食べる……」
そうなのです。
これら兵隊アリは蜜を身体に多く取り込んでいますから、特別に美味なのです。
「とくにノノバ族の村人達はクリームアリ……兵隊アリ出現の有無、出現時刻を……天候や巣に出入りする仕事アリの行動などから予測する……」
兵隊アリは特殊な環境でしかパトロールを行いません。
しかも、それは蟻塚ごとに異なったシステムなのです。
「なお、アリヅカサガシを見つけることも、これら昆虫食のために必要なことで、とくに村の子供達の鋭い観察眼は、猛禽類のようである」
そして、わたくしは結論付けました。
「わたくしの大好きな旅行記『灼熱大陸』を読みましたわね……オルカ」
「……くっ」
「ここからは協力ですわ!」
わたくしは蟻塚に駆け寄り、力を込めて目一杯揺らします。
「地震ですわ! 地震ですわ!」
振動により、アリを強制的に外に出す……これは灼熱大陸に記載されていたノノバ族の知恵ですわ。
「……よし、兵隊アリが出てきた」
すると兵隊アリはパニックに陥り、一度蟻塚の外で集合するのです。
「拙が虫網を……」
そこを狙う!
「こんなところでしょうか」
「すばらしい。きょうりょくしたね」
ロロロが満足そうに人差し指を立てました。
「じつは、このギシキはきょうりょくがウラテーマでした」
本当かなあ?
まぁ確かに協力しないと、クリームアリの大群は取れませんから……。
正しい知識、技術、協力……なるほどそう考えれば、英雄に近付くためのギシキとして建前はよろしいですの。




