ゴーレムを食べよう5
【主な登場人物】
アリシア・テメラリオ / テリエルギア統一王国の王女。〜ですわで話す。探訪記の書き手。金髪。前世は伝説的ハンター。前々世は現世人。
オルカ・ストリエラ / 王国付き魔法使い見習い兼付き人。「……」をつけて話す。黒髪黒ドレス服。戦闘狂。
ツキノ / 統一王国外のトコヨの国の姫。「ですねぇ」みたいな感じで話す。銀色の髪。
ロロロ / カーレ地方ナビア族。青い肌で海棲生物に似た頭。ギシキの先導者。背が高い。
川から歩くとまた先の見えぬジャングルが広がっておりました。
ジャングルを歩いていると何を目的にここにいるのかわからなくなります。
何のために生まれて、何のために生きるのか……。
あぶなーい!
そうそう! わたくしたちはゴールデンヘラクレスの幼虫を探しに来たんですわ。
「だいぶ深いジャングルに来ましたわね」
「……ヒルとかいるから虫除けの魔法をかけておきました」
身体に向かってきたハエが消滅しました。
ゴールデンヘラクレスは大丈夫なのでしょうか。
「ここらへんでいいかな」
「こんなところで幼虫を探しますの?」
辺りは広大な密林で、先ほどから歩いてきた場所と何も違いがわからないのですが……。
「いるな」
「……なぜわかる」
「はい。ではさがして!」
「……スルーされた」
少しして、ツキノが何か見つけましたわ。
「これですか?」
そこには巨大な幼虫が銀色の光を放っていました。
大きい!
りんごパイぐらいのサイズはありますわ。
「それはシルバーヘラクレスのようちゅう」
おしい!
シルバーもいますのね!
「あ! みつけましたわ! これは!?」
「それはヘググゼン・キキクペパのようちゅう」
「あー! ヘググゼン・キキクペパのー!」
「……知ってるんですか?」
「知らないですわ。ナメられたら終わりですわよ」
「……なにが……?」
そこから数分探しても一向に見つかりませんでした。
流石のわたくしたちも見つからなすぎて諦めかかっていました。
「とりあえずこのへんで、すこしきってじゅえきをだしておく」
「樹液……!」
祈りながら樹液を出すロロロ。
「かみさまかみさま、かみさまのからだをすこしいただきます」
樹液に虫が集まるって……1時間やそこらで集まるのでしょうか。
というか幼虫ですわよね……。
ここにはいないのでは?
ロロロにそう言うことも出来ず、わたくしたちはさまよい歩きましたわ。
「……何時間ぐらいかかるのかな?」
6時間経過。
6時間ですわ。
わたくしたちがカーレからナビアに到着して大体14時間くらい経っております。
「疲れましたわ……」
もうすっかり暗くなったジャングル。
オルカの灯火魔法、ロロロの置いた松明がたよりです。
そんな中、遠くからオルカの声が聞こえました。
「……やったー! やったー!」
「何か遠くから聞こえますの……」
「……光ってるー!」
「光ってるそうですよぉ」
駆けつけると、明らかに金色に輝いている幼虫がそこにはおりました。
巨大!
シルバーヘラクレスより、ひとまわりほど大きく見えます。
「あ! これはゴールデンヘラクレスのようちゅう! すばらしい! オルカ! 100ポイント!」
「さっそくポイントがインフレしてますわー!」
10とか20とかのポイントが一気に100に……。
でもとにかく光っている場所を探せば良いことがわかりましたの。
「光ってる竹を探せば良いのですわね!?」
「そういうわけではない」とロロロ。
「そうですか……」
えぇ……どうすれば良いんですの……。
諦めかけて歩き始めたその時!
「ん? これ……あ! 見つけましたわー!」
もんのすごく光り輝いている地面を発見いたしました。
ツキノも驚きの表情でのぞき込んでいます。
「なっ! すごい光ってますねぇ」
「すばらしい! アリシア100ポインツ!」
「やったー! やりましたわー!」
希望の光が見えてきて、わたくしたちはよりいっそう奮起して頑張りはじめましたわ!
「……よし、あとはツキノだけ!」
3時間後。
「……もう帰ろうよー」
「きっともういないんですよ……」
「仕方ないですわロロロさん。終わりにしましょうよー」
ツキノもふくめ、全員が諦めておりました。
だってもう夜も更けて、そろそろ日が変わるかという頃でしたから。
「しかたないな。ちょっとまっててね」
そういうとロロロはジャングルでもかなり大きい木の後ろに行って……
「おらっ」
という声が聞こえました。
そしてすぐにこちらに戻ってきて微笑みます。
「さぁ、ツキノ、こっちきて」
疲労の表情を隠せないツキノが向かうと、そこは急に輝きはじめました。
「わ……わぁー! こ、これはゴールデンヘラクレスのようちゅうですねー!」
「わーすごいやったーみつけたーツキノ100ポインツ」
「や、やったー!」
「良かったですわ……諦めないことが肝心ですわね……」
わたくしは涙……これは疲労の涙ですわ……を流しながら、感動します。
そんな中、オルカが不穏な言葉を呟こうとしたので……
「……ヤ、ヤラ」
おおっと!
「……もが!」
無理矢理口をふさぎましたわ。
「皆さんのご協力ですよ」
「……なんだかんだツキノの分もあって良かった」
はぁーと背伸びをしたロロロ。
「ほんとは100たんいでだせるよ」
「……」
もはやツッコむ気力も起きない、わたくしたちなのでした……。
そしてロロロはテキパキと動き、料理の準備を始めました。
ジャングルの真ん中、辺りは真っ暗です。
「まぁそんなこんなでロロロが料理してますのですけども……」
「……これはちょっと……えー……食べるとは……」
「100ポインツはコレ込みだったんですねぇ」
「できた。ゴールデンヘラクレスのスパイス炒め」
さむしんぐの時に気付けばよかったのですけれど、ナビアの料理は基本的に丸焼きなのですわ。
幼虫も形そのまま、手足などの硬いところは切り取られていますが、そのままでした。
「……すんごいでっかい金色のイモムシ」
「美味しそうですけれどねぇ」
「トコヨには虫を食べるところもあるらしいですものね」
「蜂の子などは美味しいですし、栄養もありますよ」
会話でなんとか時間を稼ごうと思いましたが、ロロロに見透かされてしまいましたの。
「はい。きあいいれて。だいこうぶつでしょ」
「だ……」
「……だ?」
わたくしは一呼吸おいて気合を入れ直し……
「大好物ですわーーっ!!!」
一気に噛みつきましたわ!
「エイドリアーン!!」
「……誰ですか?」
「勝利した時にでる思わぬ声ですわ」
「何か感動的な音楽が聞こえてきそうですね」
ツキノの言葉にわたくしは鼻歌で返します。
「てれれーてれーててれれー」
いっぽう、躊躇しているオルカが恐る恐るわたくしに尋ねましたわ。
「……で、お味は?」
「美味しいですわ〜!!!」
「じゃ、拙も……あらぁ、これは! 本当に美味しいですよ」
「なんというかクリーミーですわ。何が、というとわからないほうが良いかもしれないのですけれど」
「ええ。魚類の肝のような、柔らかく、それでいて甘みのあるお味ですね」
出遅れたオルカに焦りの表情が見えます。
もう引くことは出来ないと……背水の気持ちで、オルカは息を飲みました。
「……ごくり」
「いっき! いっき!」
「……いっきは無理! そういうことしちゃダメ!」
「怒られた……調子こきすぎましたわ……」
「……む。そうですね……」
かぷり。
ゴールデンヘラクレスの幼虫にかぶりつきました。
見た目はパンみたいなのですけれどね……。
「……美味しいです。独特のクリーミーさで表現し辛いですが、スパイスが効いていて、何となく甘辛いです。スパイスの効いたハチミツを流し込んでいる様です」
オルカの形容は正しいのですわ。
確かに思ったよりも強い甘みがありますし、虫と聞いてイメージする苦味や臭みなどは一切ありませんの。
「ゴールデンヘラクレスはえいようも、まんてん。ナビアのユウシャがムヴァンガをすででつかまえるときたべた」
「ムヴァンガとは何ですの?」
「ムヴァンガは4メートルぐらいのさかな。キバがはえてて、かわにはいったにんげんもたべる」
わたくしたちは残りも食べ進め、すっかり頭だけを残して食べてしまいましたわ。
これはゲテモノ料理でしたが、現地の人の貴重な栄養源というのも頷けました。
味としてはさむしんぐよりも美味しいと感じました。
「いいかな。そしたらすいぶんをちょうたつして。きょうはジャングルのこやにとまるよ」
「たしかツタを切って気が蓄えた水分をわけてもらうのですわね」
「おいのりもわすれずにね」
火を消して、わたくしたちは深夜のジャングルを小屋を目指して歩きはじめました。




