新たな仲間
リンが亡くなりホフヌングが自身の魂を移してから数年が経った。
「ふむ、成長が止まったか?」
ホフヌングはリンの身体になってから成長する自身の身体に驚いていた。しかしその成長も恐らく止まったのだろうと気付いた
「しかし人間の身体は不思議だな、いきなり背が伸びるとは……」
人間は不思議なものだ……成長するにつれ
身体が変化して行く……龍でもあることだが、人間ほどではない
「服が少々キツイか……特に胸元」
ホフヌングは自身の胸を触りキツさを確かめる
バツンっとボタンが弾けた
「あ」
ボタンが弾け胸が露わになる
町中ということもあり視線を浴びる。特に男の
「ふむ、困ったな」
ホフヌングは特に気にすることなく立ち尽くす
「だ、大丈夫ですか?!」
すると一人の女の声が聞こえ、ホフヌングは声のする方へ視線を向ける。
そこには自分と同じくらいの女が立っていた
「貴様は?」
「うぇ?!わ、私ですか?」
「貴様意外に我と話している人間などいるのか?」
ホフヌングは女を睨見つけるが女は怯むことなく
自分の名前を言う
「私はこの町に住む【ルミナ】と言います」
「我は、リンだ」
「リンさん」
「なんだ?」
「とりあえず家に来てください、そのままでは注目を浴びてしまいます。特に男からの……」
ルミナは鋭い目でホフヌングの露わになった胸に視線を注目させている男達を睨見つける
ホフヌングはルミナに着いていき家に上げてもらい
傍にあったソファに腰掛ける
「少し待っててください」
ルミナにお茶を出されそれを飲み辺りを見回すホフヌングはタンスの上に置いてある写真に気付く
「…………」
そこには幸せそうに家族と映るルミナの笑顔が飾られていた
「リンとは真逆なのだな」
リンが生前話していたが母が心の底から笑っているのを見たことがないと言っていた。
確かにホフヌング自身もリンの過去を覗いた時、笑った母親らしき人の顔を見たことはなかった
「すいません、お待たせしました」
ルミナが手に服と下着を持ち戻って来た
「ついでですし、シャワー浴びてきますか?」
「貴様がいいのなら浴びさせてもらう」
「はい!是非どうぞ!服も置いときますね!」
「ああ」
「あ、服も下着も新しいものなので気にしないでください!」
「いや、別にそれは気にしないのだが」
「なんだというのです?」
「貴様は見ず知らずの我にどうしてそこまでするのだ?」
「なんだ簡単なことですよ」
ルミナは明るく笑い、親の教えです。と言う
「危ないやつもいるだろう」
「こう見えても私、結構強いんですよ?」
ふんっ!と鼻息をして両手を腰に当てながら胸を張る
「そうか」
「信じてなさそうですね」
数秒後、ホフヌングはルミナに不意打ちを仕掛ける
「ほう、やるな」
「言ったじゃないですか、"強い"って……」
場所を家の庭へと移動し
ホフヌングはルミナから少し距離を取り剣を抜く
「安心しろ、町に危害は加えない。最小限の動きで戦わせてもらう」
「そうしていただかないと、困りますよ」
ホフヌングとは違いルミナは丸腰で構えることなくその場にただ立っている
「舐めているのか……貴様」
ホフヌングは少し眉を引くつかせ怒りの笑みを浮かべる
「いいえ」
「はぁぁっ!」
ホフヌングはルミナに斬りかかるがいとも容易く交わされる
「何をしているんですか?本気でかかってきてください」
更に挑発をするルミナ。ホフヌングは一度深呼吸をして剣を構え直す
(普通にやっては奴には勝てん……どうすべきか。
真っ向勝負も無理、不意討ちも効かん)
「ならば……」
「ん?」
ホフヌングはルミナ目掛けて剣を投げる
しかし、剣はルミナを通過しそのまま地面へと叩きつけられる
「戦闘放棄ですか?そちらから仕掛けてきたクセに?!」
「やはりな、貴様……一度に二つのことをするの苦手だろう?」
ホフヌングはルミナに踵落としを仕掛けていた、少しのところでガードはされたがやっと攻撃を入れることができた
「図星のようだな」
にやりと笑みを浮かべるホフヌングに冷や汗をかくルミナ
「はぁぁぁぁぁっ!!!!」
ホフヌングを押し返し距離を取るルミナ
自身の弱点を見抜かれ一気に警戒をする
「貴様本当に強いのだな」
地面に転がった剣を拾い上げ鞘に戻す
「ルミナと言ったな」
「はい」
「貴様とは一度本気で戦いたい」
「なら、丁度いい場所がありますよ」
ルミナにそう案内され着いたのは闘技場。
この町ではたまに大会が行われるらしい
「ここなら思う存分にお互い戦えます」
「ほう、面白い。ならばやらしてもらおうか」
ホフヌングとルミナは闘技場に立ちお互い剣を構える。騒ぎを聞きつけた町の住人が集まって来る
「おい、他の町の奴がルミナに挑戦するらしいぞ!」
「は?やるだけムダだって」
「可哀想に」
町の人々はホフヌングが負ける前提で話をしていた
それほどまでにルミナは強いのだろう
「おい」
「あん?」
ホフヌングはすぐ近くで見ていた男に声をかける
「奴はそんなに強いのか?」
「当たり前だルミナはなぁ、この町最強の人間だ。アイツに手も足も出る奴なんざこの町に存在しねぇよ」
「ほう」
「アンタも可哀想な奴だ。こんな注目を浴びた中負けるなんて」
「勝負は始まってないが?」
「ムダだ。アンタじゃ勝てん」
ホフヌングはため息を吐き視線をルミナに再び移す
「ルミナ、準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
先程の戦いで弱点を見抜かれたルミナは瞳を鋭くさせホフヌングを睨む
(そういった顔も出来るのだな)
どちらかともなく攻撃を仕掛けた
その足取りは当然町の人々には見えなかった。気付いた時にはホフヌングとルミナは鍔迫り合いをしていた
「フラム!」
ホフヌングは炎魔法を唱え手から炎の渦を出す
それをルミナは剣で防ぐ
「くっ!!」
炎を防ぐことで気を取られていたルミナは次のホフヌングの攻撃を見切るのが少し遅れ頬を掠める。
ツーっと流れる血を拭い剣を構え直す
「ルミナが先制攻撃を許しただと?!」
「何者だアイツは!」
周りはざわめきホフヌングに注目が集まる
「我の名はリン!ルミナ、貴様には勝たせてもらう」
「そうは行きませんよっ!フラム!」
「なにっ?!」
ホフヌングよりも大きく渦巻く炎が視界を防ぐ
その中から現れたルミナのスピードはホフヌングを上回る速さ。ホフヌングは守ることが出来ずもろに攻撃を受け吹き飛んだ
「弱点を知っても突けないのでは到底勝てませんよ」
「ふふっ、やるではないか……」
ズキズキと痛む腹を押さえ攻撃態勢に入る
(先程とは条件が違う……ルミナは武器を持っている……
そのせいでリーチがあり、弱点を突くことが不可能だ)
「一気にたたみかけますよっ!!」
「やはりルミナだな」
「先制攻撃を許した時はどうなるかと思ったが、心配は要らないようだ」
「やはり最強だ」
ホフヌングはルミナの攻撃を交わすばかりで反撃はしない。それに見飽きてきた町の人々はもうルミナが勝つだろうと確信し帰る者も現れる
「もう逃げることはできないですよ?」
「……そうだな」
気がつくと闘技場は炎の柵で覆われていた
「負けを認めますか?」
「いや、この勝負は我の勝ちだな」
「なぁに言ってやがる!!」
「どう見たってお前の負けだー!」
ブーイングが飛び交う中ホフヌングはにやりと笑う
「ならば、見せてやろう貴様らに……この町最強のルミナが負ける姿を……!」
「これで終わりです!!」
ルミナはトドメを差しにホフヌングに斬りかかる
「油断、したな……」
ホフヌングは魔法を撃つ構えをする
「!!」
ルミナの顔色が変わる……フラムならもう見切れる。
そう"フラム"ならば……ホフヌングはフラムを撃つときは違う構えをしている。これが意味することは違う"魔法"ということだ。
「ルミナ、貴様の敗因は言わずともわかっているな?」
「……はい」
「ワッサー」
ホフヌングの手から水の球が発射される
それがルミナに直撃しルミナは場外へと吹っ飛ぶ
「……それにしても貴様は強い。弱点をつかせないようにする立ち回り見事だった」
「まさか、あなたがそんなに強いだなんて思いませんでした」
「まあ、もっと強い者と戦ったことがあるのでな」
「へぇ、大事な人、ですか?」
「親友だ」
「そうですか」
ルミナはそれ以上何も言わず立ち上がる
「さて、家に戻りますか。戦って服も汚れてしまいましたし」
「ああ、せっかく新品を用意してもらったのにすまないな」
「構いませんよ」
ホフヌングはルミナと一緒にルミナの家へと戻る
「我は待っておく、先に入ってこい」
「え?一緒に入らないのですか?」
「……ああ」
「わかりました、では先にいただきますね」
ルミナはシャワーを浴びに浴室へ向かいホフヌングはソファの上に寝そべっていた
(少し、疲れたか……眠気が)
ホフヌングは意識を手放し夢の奥底へと沈んでゆく
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『ここが龍の出る洞窟……』
(雄叫び)
『!!!!』
(炎のブレスが放たれる)
『くっ!!』
(剣を抜く音)
『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』
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「っ!!」
夢から覚めて飛び起きる。窓の外を見ると暗い
どれくらいホフヌングは寝ていたのか……
「おはようございます、ぐっすり眠っていましたね」
「ああ……」
「?」
ルミナが少し困った顔でホフヌングの顔を見つめる
「泣いているのですか?」
「え?」
頬を触ると涙をツーと流していた
「すまん、夢で親友が出てきてな……」
「……シャワー浴びてきます?」
「ああ、いただこう」
ホフヌングはルミナからバスタオルと服を預かり浴室へと向かう
「……リン」
ザーと流れるシャワーの音と共に響くホフヌングの声はルミナには届いていただろう。
夢に出てきた親友、リン。彼女とはいくつとの困難を乗り越え支え合って来た、だからこそリンがいなくなった寂しさを無意識に感じ涙を流したのだろう
「いつの間に我はこんなに情が熱くなっていたのだ?」
シャワーを止め、浴室から出て体を拭きルミナのもとへ戻る
「すまないな」
「いえいえ、暖かいココアでも入れたのでどうぞ」
「ああ、ありがたくいただく」
少し沈黙が流れるがルミナが口を開いた
「リンさんって、もっと冷たい人だと思っていました」
「なに?」
「なんというかクールというか孤高というか……どこか近づき難い雰囲気をまとっていたので……」
「まあ、親友と会うまではずっと一人で生きてきたからな……いや一匹か?」
「一匹?」
しまったと言わんばかりにホフヌングは顔を苦くする
バレても問題ないがここまで良くしてくれたルミナに怖がられてしまうのではないかとどこかで思っていた
「私、受け入れますよ」
「……元々我は龍だった。だが、ある日その親友に出会い戦い敗れ、呪った。だが、共に過ごしているうちに心を許してしまった……親友が命の灯火が消えるその時まで……今はその親友の体に我の魂を移しこうやって動いている。奴が……リンが見れなかった景色を見せるために」
「素敵、ですね」
ルミナは優しく微笑んでいた
「そうか……」
そこからまたしばらく沈黙が続きそろそろ寝ようとルミナが提案してホフヌングも眠りにつく
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朝、鳥の鳴き声で目が覚める
体を起こすとルミナが鼻歌を歌いながら朝食を作っていた
「あ、おはようございます。リンさん」
「うむ」
「もうすぐできるので待っててください♪」
机の上に次々と置かれていく料理を見て腹の虫が鳴る
「リンさんは朝食を食べたらもうこの町を出ていくのですか?」
「そうなる。次の町に行く予定だ、世話になったな」
ホフヌングは料理を口に運んでいきルミナの質問に返す
「寂しくなりますね……」
ルミナは少し寂し気に言葉を零す
チラリとルミナに目線を移しホフヌングは言葉を返す
「ならば我と共に旅するか?」
「え?」
ルミナは固まった。まさか、ホフヌングからそんな言葉が返ってくるとは思わなかったからだ
「貴様は強い。旅をするくらいどうってことないだろう?何かあれば我が守ってやる」
嘘を言っているようには見えない。まっすぐルミナを見つめている
「その、リンさんがいいのなら……」
「我が決めるのではない。貴様が決めるのだ
貴様がどうしたいのか。我と共にこの町を出て様々な景色を見たいのか、ここに残り平和に過ごすのか」
持っていた箸でルミナを指す
「箸で人を指すのは失礼ですし、行儀が悪いですよ」
「……すまん」
「……そうですね、私は」
ルミナは俯き口を噤む
ずっとこの町で育ってきたから外の世界をみたいという気持ちもある。しかし、その反面ここに残って平和に暮らしたいという気持ちもある
「我はどちらでもいいぞ。悔いのない選択をするが良い」
ルミナは深呼吸をしホフヌングを見つめる
「……リンさん。私、リンさんと一緒に色んな景色を見たいです。私を連れてってください」
「うむ」
ホフヌングとルミナは朝食を終え町を出る支度をする
ルミナは親に挨拶をしてから後を追うと言ってホフヌングは家の外にあるベンチに腰を掛け
空を見上げ流れる雲をただぼーっと見つめる。
空に手を伸ばそうとした時にルミナの声が聞こえ、ホフヌングはルミナを見る
「うむ、準備は出来たようだな」
「はい!」
「では、行くか」
ホフヌングとルミナは町を後にした。
ホフヌングにとっては誰かと一緒に旅をするのは数年ぶり、ルミナにとっては生まれ育った町から出るのは初めて。
これから何が起きるのか知る由もない旅がホフヌング達を待ち受けている