プロローグ
人は死ぬとどうなるのか?誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。
天国へ行くのか、地獄なのか。
私は昔、親に『いい子にしてれば天国へ悪い子は地獄へ』そう言われて幼い私は親に苦労をかけないように努めてきた。
勉強、家事を卒なくこなし親の期待に応えて来た。
学校でも頼られる存在になった。
でも、いつからだろうか?しんどくなってしまった
私は私らしく生きていけてるのだろうか?そう考える毎日だった。
朝起きて、学校に行って勉強をして家に帰って手伝ってお風呂に入って予習して寝てまた起きて学校へ行く
そして私は耳にした、他の生徒が私のことを話していることを
『新妻さんって頼りになるんだけど、なんだか近寄り難いよね……』
『うん、優等生過ぎて私達じゃ…ね』
私には友達がいないわけじゃない。
でも、遊びに行ったり帰りにコンビニに寄ったりと友達としたことがない。学校が終ればすぐに家に帰る
親が心配するからだ。
『今日くらいは……』
私は午後のチャイムが鳴り、帰り支度をした。
いつもならすぐに帰る。けど、今日だけは
『あ、あの!私も一緒に行ってもいいかな?』
寄り道をさせてほしい。
私だって学生の内に寄り道をしたい、大丈夫。
お母さんならわかってくれる
私は人生で初めて寄り道をした。
とても楽しかった。こんなに楽しかったんだ
『新妻さん、今日はありがとう〜!また行こう!』
『うん』
私は友達が帰るのを見送った
帰り際に友達が『新妻さんって面白い人だね!』
なんて話してるのを聴いて頬が緩んだ
『よし、帰ろう』
私は軽くなった足を家へ運ぶ
『ただいまー』
家に帰るとお母さんが暗い部屋の中椅子に座って俯いていた
『なに、してたの?』
『……友達と遊んでただけだよ』
『寄り道?危ないわよ、すぐ帰ってきてっていつも言ってるじゃない』
『たまには友達とも遊ばせてよ!!』
『学校で会えるでしょ?!』
『会えるけど、私だって友達と寄り道して遊びたいよ!!!大人になったら会えないかもしれないんだよ?!』
『あなたには勉強があるのよ?!』
『勉強ってそんなに大事?!』
『勉強していい大学に入っていい職について稼ぐのよ!』
『……そんなのつまらないよ!!』
『鈴!(りん)!』
私は母親と喧嘩して家を飛び出した。
親と喧嘩して飛び出すなんて定番すぎる
行くとこもなく私はとぼとぼ道を歩く。
夜が明けるまではまだまだ時間がある
『カラオケ行こ……お風呂も入らなきゃ……でも、着替え……』
私は夜が明けるまでどうやって過ごすかを考えることにいっぱいで信号を見ていなかった。
プーーーというクラクション音で現実に引き戻される
気付いた時には数ミリ先に大型トラックがいた
ガシャーーーンと音と共に意識が途絶える
________________________
「はっ!」
私は目が覚める。
夢だ……前世の……【新妻 鈴】の
私はあの日、トラックに跳ねられ命を落とした。
そして、異世界へ転生した。【リン】として
「嫌な夢……」
私は苦笑をこぼし起き上がる
今、依頼を受けている。洞窟に龍が出たから討伐してほしいと……そして、その龍を倒した後に疲れて気を失っていたみたいだ
「帰ろう」
私は立ち上がり洞窟を後にしようと背を向けた時、
ドクンーーと鼓動がなった。私はその場に蹲る
「ゔ……ぐ……」
頭が痛い、呼吸がしづらい、目がグワングワンする
『我はホフヌング。貴様が倒した龍だ』
「な、なんだって……」
『貴様が死ぬまで呪ってやる、我を討伐したこと悔やむが良い』
龍の声が消えると共に痛みが引いてゆく
「はぁ……はぁ……ん?」
首に違和感を感じ、近くの水溜りで確認をすると
紋章が浮き出ていた
「な、なにこれ?!」
『呪の証だ』
「ふ、普通に出てくるのね」
『まぁ、呪っているからな。死んだ魂を貴様に移してるだけだ』
「!!」
『安心しろ、乗っ取ったりはしない』
「とか言って、油断した隙に乗っ取ったりして」
『フリか?』
「そんなわけないでしよ」
『まあ、何でも良いが。ああ、そうだ貴様に魂を移す時に過去を見たぞ』
「え?」
『辛かったな、自由に出来なくて』
「……」
『親が嫌いか?恨んでいるのか?』
「どうだろう……」
『分からないのか』
「うん」
『そうか』
ホフヌングと名乗った龍はそれ以上言及する事なく
ただ黙っていた
「戻りましたー」
結局、何か言葉を交わすこともなく私はギルドへ帰って報酬を受け取りギルドを後にする
『これからどうするのだ?』
「とりあえず宿に戻って寝ようかな。疲れたし」
『ほう』
「そしてまた明日、依頼を受ける」
『楽しいか?』
「いや、楽しくはないかな。仕事みたいなものだし」
『仕事?』
「うん、依頼を受けてこなして報酬を貰う。その繰り返し」
『過去と同じではないか?』
「え?」
『誰かが望むから貴様はそれに応える。自身のために動いていないではないか。貴様の命、貴様の人生だろう自由に生きぬのか?』
「…………」
『ここにはお前を阻むものはいないだろう?』
確かに……この世界の母は私を産んだ時に命を落としたらしい。だから私はこの世界の母の顔を知らない
『貴様はどうしたい?』
「私は……自由に生きたい」
『ふん』
ホフヌングが少し笑った、ような気がした
私はギルドへ行って旅に出る話をする
「そうですか、それは寂しくなりますね」
「そう言って頂けて嬉しいです」
「たまには顔、出してくださいね」
「ええ、勿論です」
私はギルドを出て町を出る
これから知るのは未知の世界、どんなことが待ち受けているのだろう?心を躍らせて軽くなった足を走らせる
_________________________
あれから随分と時が経った。
私も歳を取った
「そろそろゆっくり過ごすのもいいかもね」
『うむ、そうだな』
「ホフヌングもいつもありがとうね」
『まあな』
「よし、戻ろうか。私達の最初の町に」
『ああ』
私は最初出発した町へ戻るため準備をする。
充分にこの世界を謳歌した。もう、のんびりするだけでいい
____________________________
更に時は進み私は天井を見つめる
もうベッドからは自分の力では降りられない
「どうやらお別れの時が来たみたいだねぇ」
『……そうか』
「私が死んだらホフヌングはどうするの?」
『特に何も決めてはないが……』
「そうかい、なら私が死んだら焼くなり煮るなり好きにするといいよ」
『そうか……』
意思が朦朧とする中真っ白い天井を見つめ外ではしゃぐ子供たちの声が微かに聞こえるのを感じながら目を瞑り眠りにつく
____________________________
『……死んだのか』
ホフヌングがリンに声をかけるも返事は返ってこない
死んだ人間を呪う必要もない。
ならば離れるのみ、だが
『リンよ、貴様が死んだ後は我の好きにしろと言ったな。ならば、貴様のその体。我が貰い受けよう』
その瞬間、リンが横になっているベッドが炎の渦に取り込まれる。何事かと町の村長が駆けつける頃には炎の渦は収まっていた
「あ、あなたは……」
「ふむ、どうやら上手くいったようだな」
ベッドの付近には年老いたリンの姿は無く、代わりにリンによく似た姿をした13歳くらいの少女が一人
「少し、いや、かなり若返ったか」
少女は手を握る、開くを繰り返しながら体の動きを確かめる
「人間の体はこんなにも軽いのだな、服が少し大きいか?おい」
「は、はい!」
「この体に合う服を持ってきてくれないか?」
「わ、わかりました!」
村長は急いで服を取りに行き少女に渡す
「ふむ、ピッタリだ礼を言う」
「あの……」
「なんだ?」
「あなたは、リンさんでしょうか??」
村長は目の前の少女に問う
「リンは死んだ。我はリンを呪っていた龍だ」
「と言いますと……?」
「リンが死ぬ前、我の好きにしろと言った。ならば我がリンの体を貰ってやろうと決断したまでだ」
「は、はあ……」
「我も人間の体で世界を観てみたいと思ったんだ。
まだ、リンとは観れていない世界も含めてな」
「なるほど……」
「とりあえず腹が減ったな、飯をくれ」
「わ、わかりました」
「さて、と」
ホフヌングは先ほどまでリンが横になっていたベッドを見つめ手を触れる
「リン。貴様が見せてくれたもの全て美しかったぞ。礼を言う。ありがとう」
ホフヌングは村長に呼ばれその場を後にする
「うむ、満足だ。礼を言う」
「は、はい。それでこれからどうするのです?」
「町を出る」
「も、もうですか?!一日くらい休んで行っては?」
「いや、いい。早く外に行きたいんだ」
「そうですか……」
「では、達者でな」
ホフヌングはリンが使っていた剣を手に取り腰にかけ、町を出る
「リン。貴様が観れなかった世界は我が受け継ごう。まだ、この世界には我らも知らない未知が広がっている。人はそれを知りたい、観たいという。そういうのを好奇心と言うのだろう??」