親父の腰痛がご縁となるの巻
24歳になった私は2年前に両親から譲り受けた一軒家でいつものように休日を
満喫していた。
両親は引っ越したが、引っ越したと言っても私の家から300メートルも離れて
いない。母は連絡なしにしょっちゅう家に来るし、仕事が終わり帰宅すると
勝手に上がり込んでいる事もざらだ。言わば高確率の親による抜き打ちの視察が
入るので、彼女を家に連れ込むなんてこともできない。いやそもそも私は彼女が
居ないのでそこは問題ではない。
10月の上旬。肌寒くなってきた頃、仕事から帰宅すると母が家に来ていた。
「おかえり~!!!」
待ちわびていたと言わんばかりの母からのねぎらいの挨拶。同時にお願い事が
あるのだろうと私は悟った。
「困りますな~アポもなしに家に上がられては」
私はいつもの調子で母に冗談を返す。
「まぁまぁコーヒーでも淹れたってくれや」
すかさず母も冗談を返してくる。母と二人で猫舌にも関わらず無駄に熱々に
淹れたコーヒーを啜りながら本題に入った。
「もうすぐだんじり祭の町会の会合やけど、お父さんの代わりに出たって」
山田家は町会の役員にあたっているのだが親父は腰痛が酷く、会合には母が
出席する事が多かったのだ。私は母からの急な話に驚きながらも乗り気だった。
「ええ!なんで私が?青年団にも入ってないのにいきなり町会デビューなの?」
なんだか自分が偉くなったような気分だった。
「いつもいつもワタシが出席してたらやらしいかなと思ってな。せやけどあんたが
嫌やったらええんやで。」
「やりましょう!」
母が話し終える前に私はかぶせ気味に承諾した。小さな町の町会の会合に出席する
だけなのに、何か特別なものにでもなったつもりだった。この時の決断こそが
後にそこそこ重要な人物との出会いに繋がる事になるのである。