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1,2話

 夢幻の中の世界で、俺はとある少女と邂逅する。


 




 俺は少しばかり苦労人かもしれない。


 両親は五歳の時に離別。父方に引き取られたが、父の教育は厳しく俺はあまり家に帰らなくなる。


 悪い奴らとつるんだこともあった。まあ今は手を切っているが。


 話は変わるが、高校2年生になった今、俺はとある書店に立ち寄っていた。


 そして、少しだけ運命的な出会いをするのだった。


 俺が書店に来た理由は『傭兵の雑務日記』というタイトルのラノベを買いに来たからだった。


 俺がお目当ての本を手に取ったとき、その少女は声を発した。


 「あのっ!その本買われるんですか?」


 「ええ?あっはい。ネット小説時代からのファンなので。」


 すると、少女は嬉々とした表情を浮かべる。


 少女は秘密ですよ。とまるで言わんばかりの小声で「私の作品なんです。それ。」


 その瞬間から始まったのだ。俺、高野哲也と矢上杏奈を中心としたドタバタラブコメディが。


 気がつけば、俺はその原作者殿と肩を並べて歩いていた。


 まるで夢幻の世界に引き込まれたようであり、特別感を否定できないこの時間。


 美少女と二人きりという要素で勝ち組なのに。大好きな作品の原作者様でもあられる。

 

 俺はこの運命的な出会いに完全に浮かれていた。


 「高野君はラノベが好きなのかな?」


 「はい!ラノベとか漫画、アニメめっちゃ好きです。」


 「いいねぇー!私も似たようなもんかな。」


 「本当ですか!?」俺はこんなにも美しい同士との邂逅に心躍らせていた。


 「えっとペロリーナ先生は...」


 「杏奈でいいよ。ペロリーナって恥ずかしいし。」


 「失礼しました!杏奈さんって言うんですね。」


 「ええ、そうですよ。」その笑顔はとても甘い甘い蜂蜜のようだ。


 「私の作品は書籍化が決まって間もありません。だから手に取って頂けたのが嬉しくて、つい声をかけちゃいました。」


 「そうだったんですね。」


 そして、俺も秘密を明かしてもいいのではないかと思った。


 「俺、実はイラストレーターとしての仕事をもらっていて...」


 「え?本当ですか?」少女は意外そうな顔をした。


 イラストレーターとラノベ作家はとても密接な関係のある職業と言える。


 特にラノベの表紙はラノベに取って最も気をつける部分である。


 お客に手に取ってもらえるかという点で表紙のイラストは何より重要な役割を果たす。


 「そういえばまだお名前を聞いてませんでしたね。」


 「高野哲也です。星蘭高校2年でイラストレーターもやってます。」


 「矢上杏奈です。星蘭ってことは同じ高校じゃないですか!私は3年生です。」


 まさかの同じ高校の先輩後輩だったのだ。


 いや確かに聞いたことがあったかもしれない。


 一つ上の学年に高嶺の花と言える存在がいたと。


 しかし、それは男子を簡単にあしらい、ファンクラブに身の回りの簡単な世話と護衛を任せていると。


 だが、そんなこと関係なく、まさかのラノベ作家さんだったとは。


 そして、おそらくその高嶺の花も杏奈さんのことを指しているのだろう。


 なぜなら、今見ても容姿端麗の彼女以外にもそんな存在がいるなら一つ上は恵まれた世代だろう。


 俺の夢幻はまだ続いている。その杏奈先輩が家に招待してくれるそうなのだ。


 どう言う流れでそうなったのかと言うと、


 「高野君。」「哲也でいいですよ。」


 「なら哲也君。」


 「はい。」


 「あなたのイラスト見せてもらったのだけれどそれでね!」


 俺はどんな感想がもらえるのだろうかと。少し気を引き締める。


 「私の他の作品の書籍化が決まると思うんだけど、どうも絵のイメージがあなたの物とピッタリなの。」


 ついに俺はラノベの表紙を飾ることになるかもしれないのだった。






 杏奈さんと連絡先を交換し、今度は杏奈さんの家にお呼ばれすることになった俺。


 帰りにコンビニに立ち寄ると。


 「いらっしゃいませー。って。てっちゃんじゃん。」


 「おお。今日は茜のシフトなのか。」


 「そうだよー。何だかとても機嫌が良さげに見えるよてっちゃん。」


 そうか。外に滲み出ていたか。あの運命的な出会いが。


 近藤茜。声優志望で日々養成所のためにアルバイトの激務をこなしている。


 ちなみに茜はモブキャラとしてだが有名作品「私の弟がこんなにかっけーわけないじゃない」にも出演している。 


 そして、一流の売れっ子声優を目指して日々努力しているわけだ。

 

 茜は都内でも有数の進学校にも通っているので、勉強もできる。


 もはや、俺からしたらスーパーマンだ。おまけにちょっと美人だし。


 いやはや、天は二物も三物も与えるのか...


 なんて、しょうもないことを考えていると、


 そこに好ましくない人物がやってきた。


 それは星蘭のイケイケグループのリーダー格の星野晴一だ。


 星野は茜を気に入っているため、コンビニに頻繁に出入りしている。


 他のバイト先にさえ顔を出すこともあったそうだ。


 やばくなったら俺にいつでも言うように。


 と俺は茜に言っていたのだが、


 どうやら思ってたのと違う方向に行きそうなのだ。


 というのも、星野にはオタクグループに一人幼馴染がいて、そいつは茜ともアニメなど共通の話題で交流を持っていた。


 星野もアニメや漫画、ラノベが好きで剣と魔法の世界に憧れているのだとか。


 星野の話を聞いているうちに茜も心を開いていったらしく。「狼と砂糖林檎俺も大好きなんだよ。」


 「わかる。私も原作持ってるよ!」


 と、和気藹々としている。


 結論。星野はオタク友達がえらく評価していた茜が好きになったらしく、茜もまんざらでもない様子だったのだ。


 俺が心配している方向とは違う方向に行ったがリア充爆発しろ!


 さあ帰って録画した「re:1から始めよう」でも見るとするか。







 俺は、早速約束の日になったので杏奈さんの家に向かっていた。


 っと、位置情報ではこの辺かなと見つけた。


 矢上家だ。


 では、インターホンを鳴らして。


 「はーい。」


 「あのー哲也ですー。」


 「哲也君だね。上がってー。」


 ガチャっと音がしてドアが開いた。そこにはカチューシャをした杏奈さんがいる。


 可愛い。


 俺は何て恵まれてるんだろう。


 そして、中に入ると綺麗なリビングを通り抜け、ダイニングでお茶を出してもらった。


 美味しい。


 何でこう人の家の麦茶はこうも美味いのか。


 わからない。だがそんなことは置いといて。


 そう仕事の話だ。


 無事に杏奈さんの新シリーズ。「あの角を曲がったら君に出会ってしまった件」のイラストを担当させてもらうことが決まったのだという。


 何でも杏奈さんの直談判によって筆の速い彼女の意見は難なく通ったそうだ。


 とりあえず一安心。


 俺もラノベのイラストを飾るとなったら箔がつく。嬉しいことこの上ない。


 そして、杏奈さんの新シリーズの構想を聞くこととなる。


 「今回のタイトルは主人公がヒロインに角を曲がった瞬間出会うベタなやつね。」


 「はい。」


 「でも、物語は斬新なものにしようと思ってるから安心して!」


 「で、キャラの構想なんだけど。」


 「主人公はイラストレーターということになってるの。」


 「そして、ヒロインはラノベ作家なのよ。」


 ん。どういうことだ?


 まるで今の俺と杏奈さんみたいだという台詞は敢えて言わなかった。


 「私は今ここに宣言するわ。このラノベで私は革命を起こすんだよ!」


 俺は少しだけ困惑していた。


 まるで現実とフィクションがごっちゃになってしまっている。

 

 そして、キャラデザの話に移る。


 だめだ。また夢幻の世界にいるような気分になってしまう。


 何とか気を取り戻し、杏奈さんの話に耳を傾ける。

 

 「主人公は茶髪で女たらしのイラストレーターね。そして、ヒロインは金髪帰国子女のラノベ作家。」


 良かった。今の俺たちとは正反対の印象のキャラだ。


 まずは表紙ね。...


 と、杏奈さんの構想はよく練られていて俺も問題なく最後まで注文を受け止められた。


 正直楽しみではある。杏奈さんと俺がタッグを組んでの小説。


 是非本屋で手に取りたい。


 こうして、俺のイラストレーターとしての業務が本格的に始まろうとしていた。






 次の日の放課後の昼下がり。


 今の季節は冬であり、家に植えてあるスノードロップという花に水をやる。


 そして、OUR SECOND STORYを聴きながら、注文を受けたイラストに取り掛かっていた。


 ピンポーン。


 誰だろうかと。インターホンに向かうと。杏奈さんだった。


 杏奈さんを部屋に上げるとちょうど世界の始まりの曲がかかっていた。


 「哲也君もセカハジ聴くの?」


 「はい。小学生の頃にブレイクしたじゃないですか?その時から好きなバンドです。」


 「いいねー。赤い太陽とか好きだなー。」


 「分かります!時々挟まれる英語の歌詞がカッコよくて!」


 と、音楽の話で盛り上がっていると、


 「いけない。本題に入らないと。」


 「そうでしたね。僕もつい盛り上がっちゃって。」









 仕事の話も終わり杏奈さんを暗くなった空の下送り届ける。


 「今日はありがとね。私ももっと頑張るよ!」


 「僕も負けませんよ。」


 俺は杏奈さんの拍子抜けの笑顔が移った。


 そして、帰り道のことだった。


 茜と星野が二人きりで歩いているのを見かける。


 雰囲気的に邪魔できないのでこそっと去ろうとすると、


 「あれっ?てっちゃんじゃない?」


 「ああ、確か隣のクラスの高野のことか?」


 「そうそう。あれ多分てっちゃんだよ。」


 俺は仕方なく二人の前に出て挨拶することにした。


 「茜...と星野君だよね?こんばんは。」


 「ああ。」星野の返事は星野らしいと言える。


 「あのね。私こちらの晴一君とお付き合いすることになったんだ!」


 「おお!めでたいな。二人がこれからも仲良く交際出来ることを祈ってるよ。」


 「ありがと!てっちゃん!」


 「ありがとな。俺も哲也って呼んでいいか?」

 

 「ああ、うん全然構わないよ。」


 「じゃあ俺のことはセイイチって呼んでくれ。」


 「わかったセイイチ!」


 こうして、俺は出来立てほやほやのカップルと邂逅していたのだった。


 リア充爆発しろ!





 そして、その夜俺は家でアニメを見ていた。


 すると、妹の花蓮がテレビのスイッチを変えやがった。


 「お兄ったらアニメばっか見てテレビ占拠して、たまにはドラマ見させてよ。」


 「ちぇっ。わかったよ。今日はもう好きにしていいから。」


 「やった。お兄わかってる〜!」


 こうして、俺は自室に戻る。


 そう。俺が家を飛び出し、イラストレーターとして生計を立てるようになったのは最近のことなのだ。


 そして、俺のアパートを発見した妹はこうしてたまに通っている。


 ちなみに妹は母方に引き取られているのだ。


 今日は妹が一台しかないテレビを独占となると。


 イラストを描くか、漫画でも読むか、どっちにしようかな。


 なんて思っていると、電話が鳴った。


 相手は杏奈さんだった。


 「あのね。哲也君。ちょっとしばらく泊めてもらうことってできないかな?」


 「なんですとー!!」と心の中で叫ぶ。


 女性と一つ屋根の下でしばらく過ごすことになるだって!?(妹除く)


 俺はテンパっていた。とても。


 いずれにせよ。事情を聞かないと。


 「今から四角公園で集合できる?」


 「分かりました。そこで事情を聞かせてもらいます。言いたくないことは言わなくていいので。」


 「大丈夫よ。じゃあまた後でね。」


 俺は急いで公園まで向かうことになった。


 そして、公園にたどり着くと。


 先に杏奈さんがベンチに座っていたのだった。

 


 

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