第7着席 アルティメットヘルフレイム!!!/深夜の席替え大パニック
〇~:柱
◆~:柱(回想)
二文字開け:ト書き
「」:セリフ
N「」:ナレーション
M「」:モノローグ
*~:その他の指示
*****
○教室(数日後・午後)
先生(担)「夏休みも終わって学校も始まったし、心機一転するために席替えをしようと思う!」
クラス中が沸き上がる
諏訪子、嬉しそうに太陽の方を向いて―
諏訪子「席替えだって~、楽しみだね!」
太陽「う、うん。そうだね」
太陽、不満げに先生(担)を見ている
太陽M「来たよ、そろそろ来ると思ってたよ、このイベント。学校生活の醍醐味と言っても過言ではないけど、俺は嫌いだ。何故かって?戸成さんが俺のとなりから離れて行ってしまうかもしれないからに決まってるだろうがっ!」
太陽、教卓のくじが入った箱を見て―
太陽M「ごほん。見た所、席の決め方はくじ引きか。先生が勝手に決めてしまうよりかはましだけど。これで俺が戸成さんのとなりじゃなかったら呪ってやるっ!」
諏訪子、前の席の生徒と談笑している
太陽M「ごほん、落ち着け俺。俺には椅子の力という圧倒的なアドバンテージがあるじゃないか。あの椅子の願いを叶える力は本物……、夏休みが終わってからまた毎日祈り続けている俺が、戸成さんのとなりの席にならないはずがないんだ。さぁ、いつでもかかってこいっ!」
【場面転換】
数分後、廊下側最前列の席で隣の生徒と楽しそうに話す諏訪子
太陽、前回と同じ席で頭を抱えて机に突っ伏す
太陽M「あ……、あ、あり、えない……。あんなに……、願ったのに……」
前田くん(12)、太陽の隣に席を移動してきて座る
前田「おっふ、隣は諏訪梨殿でござるかっ!よろしくでござるっ!」
太陽「あ、あぁ、前田くん。よ、よろしく」
太陽M「となりは前田くんか。悪い人じゃなくて良かった、癖強いけど」
太陽、諏訪子をぼんやりと眺める
諏訪子、周囲の席の生徒と談笑している
太陽M「はぁ~。戸成さん、あんなに楽しそうに……。心なしか、俺がとなりだった時より楽しそう……」
前田くん、見づらそうに体を動かし眼鏡を弄っている
前田「こ、黒板が遠いでござるな……」
太陽M「いや、気をしっかり持て、俺!もしかしたら、椅子が俺の願いを叶えるのに少し手こずっているのかもしれない。今日じゃなくても、明日や明後日には、俺が戸成さんのとなりに座れる何かがあるんだ、きっと!」
太陽「ふへへ、楽しみだぁ~」
前田、太陽を見て驚愕している
前田M「隣の諏訪梨殿、ヤバい奴でござるか……?」
〇教室(翌日・放課後)
チャイムが鳴り、皆帰り支度をしている
太陽も、帰り支度をしながら諏訪子を見ている
諏訪子、帰り支度をしながら生徒と談笑している
太陽M「今日は、特に何も起きなかったな……。いやいや、まだ席替えしてから一日しか経ってないし!きっと、俺が今までお願いしすぎて、お椅子様はおパンクなさってるんだ!明日、明後日くらいには何かあるはず、弱気になるな俺!」
〇教室(数日後・午後)
太陽、教室に入ってくる
諏訪子、談笑している
太陽M「今日も、何もなさそうだな……。おかしいな、もう一週間は経ってるのに、どうして何も起きないんだろう……。もしかして、あの椅子壊れたとか?」
太陽、自分の席に座る
前田くん、ノートに漫画を書きなぐっている
太陽、諏訪子を眺めながら―
太陽M「思えば、戸成さんと席が離れてから、一言も話さない日がほとんどだな。折角仲良しになれたと思ったのに、席がとなり同士じゃなかったら、俺と戸成さんはその程度なのかな……」
前田「うおぉぉー!くらえ、アルティメットヘルフレイム!でござる!」
〇教室(数日後・午後)
太陽と前田くん、向かい合っている
前田くんが一方的に話しているのを聞いて太陽が苦笑いをしている
前田「百合というものは、女性同士が明確に恋愛関係に陥っているべきであると当方は思うでござる。故に、あくまで友達の域を出ずに仲良くしているだけの物は百合とは認めがたいのでござる。まぁ、それはそれで尊いのでござるが」
太陽「そ、そうなんだ」
前田「その点、体育科の村岡先生と保健室の姫森先生は確実に百合であると当方は考えているでござる!村岡先生のあの男勝りな性格と、姫森先生の色気溢れるお姉さん感が正にベストマッチでござる!放課後、保健室から二人のいかがわしい声が聞こえてきたという噂もあるでござるからなぁ。あぁ、是非ともこの目で、生百合を拝みたいでござるぅ!」
太陽、諏訪子の方をじっと見たまま固まっている
前田、そんな太陽に気づいて同じく諏訪子の方を見る
諏訪子、如月くん(12)と談笑している
前田「あぁ、クラス一―否、学年一イケメンの如月くんでござるなぁ。彼、陽キャの民でありながらオタク文化にも精通しているでござるよ。以前も、当方が授業中にこっそりと書き上げた漫画を面白いと言ってくれて、好感度爆上がりでござる。してあれは、戸成さんでござるなぁ。あのお二方がお話ししているのは珍しい気が―」
前田、太陽に視線を戻す
太陽、嫉妬に歪み、恐ろしい表情をしている
そんな太陽の表情を見て怖がる前田
前田「す、諏訪梨殿、大丈夫でござるか……?」
太陽「前田くん……、俺、決めたよ……」
前田「な、何をでござるか……?」
太陽「もう、我慢の限界だ……。こうなったら、俺がこの手で……」
前田「な、何を言ってるでござるか……?」
太陽「前田くんも、俺のこと応援してくれるよね……?」
前田「だ、だから何を―」
太陽、前田に顔を近づけて圧をかける
太陽「応援してくれるよね……?」
前田「あ、はは、はい……、応援します……」
〇廊下(同日・深夜)
太陽M「もう、この手しかない……」
深夜の学校
廊下を歩く太陽の足音が聞こえてくる
太陽M「夜の学校に忍び込んで、俺の席を戸成さんのとなりに移動するんだ!」
風にそよぐ葉の音、鳥の声が不気味に響く
太陽、少し身を縮こませながら歩いている
如月と諏訪子が話していた光景を思い出して―
太陽M「くっそ、如月くんめ~!ちょっと顔が良いからって。俺だって、もっと戸成さんとお話ししたいのに~!はぁ、なんかこんな気持ち初めてだ。これがやきもちって言うのかな。ほんと、どうしちゃったんだろ、俺。まぁ、今更なんだけど……。っていうか―」
太陽、廊下を見通して、我に返ったように不安な表情になる
太陽M「やきもちの勢いで来ちゃったけど、夜の学校超怖い!こんなん、絶対ヤバいの出るやつじゃん!っていうかそもそも、夜の学校って入っていいんだっけ?もしかしたら不法侵入とかで、最悪死刑!?」
保健室から村岡と姫森のいかがわしい声が聞こえて、太陽が怯える
太陽M「ひぃっ!な、何この声……?保健室から……?よ、よし、保健室の横は通らないようにしよう……」
太陽、急いで引き返し、近くの階段を上って教室へ
太陽M「も、もうここまで来たんだ。今更引き返すことは出来ない。日和るな、俺!」
〇教室(同日・深夜)
息を切らした太陽が、勢いよく教室の扉を開く
太陽M「はぁ、はぁ。よし、ようやく教室だ。あとは俺の席を戸成さんのとなりに移動すれば……」
太陽、諏訪子の席の近くによる
何かを考えるように、諏訪子の席を見つめたまま立ち尽くす太陽
太陽M「戸成さんの、席……」
太陽、諏訪子の席に躊躇いながら腰を下ろす
太陽、諏訪子の机に突っ伏しながら―
太陽M「はぁ~、やっちゃった……。俺は、とんでもない変態だ……」
太陽「戸成さん、会いたいな……」
諏訪子、突然太陽を覗き込んで声をかける
諏訪子「ん、私のこと呼んだ~?」
太陽「……。おびゃーーー!!!!!!」
太陽、暫く硬直後、悲鳴が学校中に響き渡る
諏訪子「ちょっと太陽くん、しーだよ!」
太陽、諏訪子の席から立ち上がり、諏訪子からも距離を取り狼狽えている
太陽「どどっどうして、と、戸成さんが学校に!?」
諏訪子「ちょっと用事を思い出しちゃって~。太陽くんが校舎に入ってくのが見えたから、私も着いてきちゃった、えへへ~」
太陽M「やることけっこう大胆だな」
諏訪子「太陽くんはどうして学校来たの?」
太陽「俺は自分の席を―」
太陽、すべて話しそうになって止まる
太陽M「あっっぶな!危うく全部言う所だった!俺が夜の学校に忍び込んだ目的、戸成さんにだけは知られるわけにはいかない~!」
太陽、目を泳がせながら言い訳を考えている
諏訪子、そんな太陽の様子を不思議そうに見ている
太陽「えと、その~ですね~……」
太陽が言い訳を考えていると、遠くから足音が聞こえる
その足音に太陽が気づいて―
太陽「と、戸成さん、足音が聞こえる……!」
諏訪子「……ほんとだ。もしかしたら、さっきの叫び声で気づかれたのかも」
太陽M「くっそ、やっちゃった!このまま何もできずに、見つかるだけなのか……!?」
諏訪子「太陽くん、こっち」
太陽「え?」
諏訪子、太陽の手を引いて掃除用具入れの中へ
諏訪子が太陽に抱き着くような形で密着している
太陽M「こ、これはぁー!」
諏訪子「大丈夫、ここならバレないと思う。太陽くん、しーだよ?」
諏訪子、太陽に密着した状態で、口に人差し指を当て太陽を見上げる
太陽M「いやこんなの、喋らなくても心臓の鼓動だけでどこにいるかバレるって~っ!」
太陽、必死に耐えるように目を瞑っている
諏訪子、太陽の様子を不思議そうに見た後、太陽の胸に耳を当てる
太陽、驚いて―
太陽M「ふわあぁー!何してんの、何してんの!?」
諏訪子「太陽くん、凄いドキドキしてる……。なんで?」
太陽M「なんで!?なんでって何!?」
諏訪子「このくらい普通だよ、ママもよく男の人にしてるし。だから、ドキドキ抑えて、ね?」
太陽M「無理でーす!そんなに可愛くお願いされたら心臓はちきれちゃいまーす!」
太陽、必死に耐えるように目を瞑っている
諏訪子、真剣な声音で太陽に話しかける
諏訪子「太陽くん、太陽くん」
太陽「んぅ……、はい……」
諏訪子「この声、なんだろう……」
太陽「え?」
太陽、耳を澄ますと廊下からうめき声が聞こえる
太陽「何だ……、この、うめき声……」
諏訪子「聞こえるよね」
太陽「うん……」
諏訪子「あと、何だろう……。ドン、ドン、ドンって、凄い速いの」
太陽「速い、ドンドン……?」
太陽、再び耳を澄ますと、廊下から高速の足音が聞こえる
太陽M「ほんとだ……、これ、足音……?いや、にしては速すぎる」
諏訪子「近くなってくる」
高速の足音が段々と迫ってくる
太陽「近い……。っていうかこれは、もう目の前に―」
教室の扉が勢いよく、大きな音を立てて開け放たれる
太陽「ひっ!」
諏訪子「……!」
太陽と諏訪子、短い悲鳴を上げる
「何か」がうめき声をあげ高速の足音を立てながら教室に入ってくる
太陽M「は、入ってきた……!」
諏訪子「何だろ~」
太陽が声を出さないように必死に耐えていると、諏訪子が太陽を軽く叩く
太陽、諏訪子に視線を落とす
諏訪子「わ、私ちょっと、外出て確かめてくるね」
太陽M「ちょっと楽しんでいらっしゃる!?」
諏訪子、怖がりながらも少し楽しそうに掃除用具入れから出ようとする
太陽、諏訪子を後ろから掴んで止める
太陽「絶対ダメ、戸成さんー!怖いもの見たさで死んじゃうかもしれないでしょー!」
掃除用具入れがガタガタと揺れる
「何か」が教室から去って行き、足音とうめき声が聞こえなくなる
太陽「……あれ、うめき声が聞こえなくなった」
諏訪子「ほんとだ。足音も聞こえない」
太陽と諏訪子、顔を見合わせる
掃除用具入れの扉を開き、恐る恐る外に出る
太陽「いなくなってる……」
諏訪子「何だったんだろう……。ちょっと見たかった……」
太陽、胸をなでおろす
太陽M「う~、戸成さんと密着したからか、それとも恐怖かどっちか分からないけどまだドキドキしてる~」
太陽、掃除用具入れでの光景を思い浮かべる
太陽M「あぁして密着してみると、戸成さんって見た目よりも小さいんだな……」
太陽、我に返り頭をブンブンと振る
諏訪子「ふぅ。早く用事済ませて、学校から出た方がよさそうだね」
太陽M「そうだ、忘れてた!見つからずに済んだけど、戸成さんに何て説明すれば―」
諏訪子「よいしょ、よいしょ」
諏訪子、自分の席を太陽の席の隣へ移動させる
前田の席を諏訪子の席があった位置へ移動させる
太陽、諏訪子の様子をただ見つめている
太陽「え、戸成さん、何して―」
諏訪子「前田くんね、毎回授業の時見えづらそうにしてたから、席変わってあげようかな~って思って」
前田「こ、黒板が遠いでござるな……」のシーン回想
太陽「もしかして、そのために学校に……?」
諏訪子「うん、言いそびれちゃったから。明日来たら急に席変わってる~みたいな感じかもだけど、喜んでくれたらいいな~」
太陽M「戸成さん、何て優しいんだ……。まるで女神さまだ……」
諏訪子「あと、やっぱり私のとなりは太陽くんの方が落ち着くな~って思って」
太陽、諏訪子に見惚れている
〇教室(翌日・朝)
太陽、期待と不安交じりの表情で廊下を歩いている
教室の扉を開けて、自分の席へ向かう途中―
諏訪子「おはよ~、太陽くん」
席に座った諏訪子が太陽の方を向いて挨拶をする
それを見た太陽も、ホッとした表情で諏訪子に挨拶を返す
太陽「おはよう、戸成さん」
前田、自分の席が前に移動していることに動揺している
前田「と、当方の席が、いつの間にか最前列に移動しているでござる!」
前田、席に座る
前田「むむっ、これは……!黒板の字が格段に見やすくなったでござる!これで学年末テストの成績は、学年一位も夢ではないでござるなぁ!」
チャイムが鳴り、先生(担)が教室に入ってくる
先生(担)「はーい、席座れ~」
クラスの皆がガタガタと席に座る
先生(担)、教室を見渡して疑問に思う
先生(担)「あれ、なんか席順が昨日と違う気が……」
太陽と諏訪子、緊張した表情で息をのむ
先生(担)「ま、気のせいか。えー、今日の予定は―」
太陽と諏訪子、安堵のため息をつく
太陽と諏訪子、顔を見合わせて笑う
その時、昨日と同じうめき声が太陽の耳に届く
太陽がハッとした瞬間、教室の扉が大きな音を立てて勢いよく開け放たれ―
伊藤「ぢごぐじまじだー!(遅刻しましたー!)」
先生(担)「お、おぉ、伊藤。もう風邪は治ったのか?」
伊藤「うおぉ……。ぅぐ……。いえ、まだぜんぜんなおっでないでずが、ぎょうのだいいぐがザッカーだどぎいて、ぎあいでぎまじだぁ!(いえ、まだ全然治ってないですが、今日の体育がサッカーだと聞いて、気合で来ました!)」
先生(担)「いや、今すぐ帰れ!みんなにうつしたらどうする!」
伊藤「ぐぼぉ……。ぶぎぃ……。ぞ、ぞんなぁ!いのぢがげでぎだのにぃ!(そ、そんなぁ!命がけで来たのにぃ!)」
伊藤、うなり声をあげ高速の足音を立てながら教室を後にする
先生(担)「え、えーと、どこまで話したか……。あぁ、そうだ―」
諏訪子「伊藤くん、大丈夫かな~」
太陽、昨夜学校で聞いたうなり声と高速の足音を思い出し、それが伊藤くんのものであったことに気づいて一人納得する
太陽M「あ、なるほど」
諏訪子「ん?あの声と足音、どこかで聞いた気が……」