第6着席 夏休み/手作り劣等感
〇~:柱
◆~:柱(回想)
二文字開け:ト書き
「」:セリフ
N「」:ナレーション
M「」:モノローグ
*~:その他の指示
*****
〇諏訪梨宅・自室(数週間後・午後)
外は太陽が照り付けており、蝉が鳴いている
太陽、自室のベッドに仰向けで寝転がりぼんやりと天井を見ている
太陽「……暑い」
太陽M「夏休みに入ってから、俺は一度も椅子に座ってない。だって夏休みだし、戸成さんと会えないし。もし仮に、戸成さんと夏祭りに行けますようになんて願って、それが叶ったりしたら、きっと緊張で何も話せないし、気まずい空気になって戸成さんを困惑させるだけだ。それだったら、何も願わない方が良い。というか、あの物置の中暑すぎて、少しでもお願い事に集中したら熱中症で倒れる……」
太陽、横向きに体勢を変える
消えたスマホの画面をぼんやりとみつめて―
太陽M「戸成さん、今何してるんだろう……。プールとか、花火とか、行ったりするのかな」
太陽、ベッドから起き上がって煩悩を振り払うように頭を振る
太陽「ダメだ、戸成さんのことしか考えてない……。ほんと、どうしちゃったんだろ、俺……。テレビでも見よ」
太陽、ベッドから起き上がって部屋から出る
【場面転換】
太陽、リビングのテレビの前に座っている
テレビの映像を眺めながら―
太陽M「海か、今年も人多そうだな。戸成さんも、行ったりするのかな……」
太陽、海で遊んでいる水着姿の諏訪子を想像する
太陽、鼻血を出す
太陽「くっそ、何やってんだ俺ぇ……!」
太陽N「こんな感じの繰り返しで、俺の中一の夏休みは幕を閉じた」
〇教室(数週間後・昼)
昼食の時間、太陽が眠そうにしながら机を動かしている
太陽M「う~、もうお昼なのにまだ眠い。夏休み中の夜更かし癖のせいで、昨日もあんまり寝てないんだよなぁ」
着席する太陽
諏訪子「あ、そうだ。太陽くん、はいこれ」
諏訪子、太陽に手作り弁当を渡す
太陽、不思議そうに受け取りながら―
太陽「ん、何これ?」
諏訪子「太陽くんのお弁当だよ。今度作ってあげるって、夏休み前の約束」
太陽M「あっ!そういえば、そんな約束してた!夏休みが虚無過ぎて、記憶に靄がかかってた!」
太陽「あ、ありがとう!大切に食べるね」
諏訪子「うん!あ、あとこれ」
諏訪子、キーホルダーを取り出して太陽に渡す
太陽「こ、これは?」
諏訪子「夏休みね、みさきちゃんとかほちゃんと海に行ったんだ~。その時に良いの見つけてね」
太陽「あ、ありがとう」
太陽M「待てよっ、戸成さんが海に行った……?」
太陽、海で遊んでいる水着姿の諏訪子を想像する
すると、諏訪子が太陽の耳元に寄ってきて囁くように—
諏訪子「最近、太陽くんとお話しすること多いし。私、太陽くんのこと好きだから、何かあげたいな~って思って」
太陽、鼻血を出す
諏訪子「わっ、太陽くん!?」
太陽「ちょ、ごめんっ!」
太陽、鼻を抑えて慌てて教室から出る
諏訪子、置き去りのお弁当を見て―
諏訪子「あ、お弁当」
〇学校・男子トイレ(同日・昼)
太陽、個室に籠っている
両鼻にティッシュを詰めながら、真剣な顔をして座っている
太陽M「馬鹿か、俺ぇ!戸成さんの前で鼻血出すなんて、何考えてんのか丸わかりだろぉ!戸成さんに嫌われたら俺、俺ぇ!」
太陽、諏訪子に罵倒されるシーンを想像する
諏訪子『私の水着姿想像して鼻血出すとか、太陽くんきもぉ。太陽くんの童貞ぇ』
太陽M「……あれ、全然アリだな。じゃなくてっ!」
太陽、個室から出て洗面台へ
鏡を見ながら鼻を洗う
太陽M「でも、お弁当もそうだけど、態々俺のためにキーホルダー買って来てくれるとは思わなかったな」
回想:諏訪子『私、太陽くんのこと好きだから』
太陽M「あれはどういう意味の好きなんだ~!?いや、十中八九ライクの方なんだろうけども!」
太陽、トイレから出て廊下へ
太陽M「はぁ。天然に距離の近さが掛け合わさって、俺には刺激が強すぎる……」
太陽、少し廊下を歩く
歩いた先の壁に諏訪子が弁当を持って凭れかかっており、太陽に気づく
諏訪子「あ、太陽くん」
太陽「と、戸成さん!?ど、どうしたの?」
諏訪子「その、お弁当……」
太陽「あ、今から食べるよ。急いで教室戻ろ」
諏訪子「ううん。偶にはさ、二人だけで食べない?」
太陽「え?それって……」
〇学校・屋上前階段(同日・昼)
太陽と諏訪子、隣同士で階段の上に座っている
太陽M「何だぁ?何なんだこの状況?」
諏訪子「急にごめんね。早く感想聞きたくて、頑張って作ったから!」
太陽「あ、あぁ、そうだよね」
太陽、緊張で震えながら弁当を開ける
中身を見た瞬間、思わず感心したように—
太陽「おぉ、凄い……」
諏訪子「えへへ~。食べて食べて~」
太陽「いただきます」
太陽、卵焼きを食べる
太陽「ん、甘くておいしい」
諏訪子「ほんと?良かった~。私も食べよ~っと」
太陽M「そう言えば、この前貰った時もおいしかったな。戸成さん、本当に料理上手なんだな」
諏訪子「何か、いつもと違う場所で食べてるから、いけないことしてる気分だけど、こういう時っておいしさ倍増するよね」
太陽「うん。分かるよ」
諏訪子「そう言えば、太陽くんは夏休み何してたの?」
太陽「いや、ほんと何もしてないよ。ゲームしたり、漫画見たり、アニメ見たり……、その繰り返し」
諏訪子「そうなんだ~。でも良いよね、夏休みくらいじゃない?無限にダラダラできるのって」
太陽「戸成さんは、海以外にどこか行ったの?」
諏訪子「うん!え~っとね、みさきちゃんとかほちゃんとプール行ったでしょ~?夏祭りはおばあちゃんと行ったし~。あとは~―」
太陽M「あぁ、凄いなぁ。俺が無駄に過ごしてた時間、戸成さんは色んなことしてたんだ。何か、自分がみっともなく感じる……。このままじゃ……」
諏訪子「その後はね~―」
太陽「戸成さんっ!」
諏訪子「ん、どうしたの?」
太陽「あの、さ……」
太陽、言い辛そうにして少し俯く
諏訪子、そんな太陽を不思議そうに見ている
太陽M「来年の夏祭り、一緒に行こう!」
太陽、意を決したように顔を上げる
真っすぐに諏訪子を見つめて―
太陽「次も、また戸成さんのお弁当、食べたいなって……」
諏訪子、少し驚いた後、笑顔で―
諏訪子「もちろん!また作ってくるね」
太陽「あ、ありがとう」
太陽M「なんて、言えないよなぁ」
太陽、もどかしそうに弁当を食べ進める




