第2着席 願いの叶う椅子
〇~:柱
◆~:柱(回想)
二文字開け:ト書き
「」:セリフ
N「」:ナレーション
M「」:モノローグ
*~:その他の指示
*****
〇諏訪梨宅(同日)(午後)
太陽の自宅の外観
玄関の扉を開けて太陽が入ってくる
太陽「ただいま~」
母(太陽)「おかえり~」
太陽、靴を脱ぎ階段を上っていく
自室の扉を開けて中に入ると、鞄を雑に投げて制服のままベッドに仰向けになる
ぼんやりとした表情で—
太陽M「戸成……、戸成、諏訪子さんか……」
太陽、教室での諏訪子の笑顔を思い出す
太陽M「なんかもう、めっちゃくちゃ可愛いんだよな~」
太陽、近くにあった枕を顔面に押し当てて悶える
太陽M「うぅ~、気持ち悪いぞ俺~っ!ってか、何でこんなに戸成さんのこと考えてるんだ~っ!?」
太陽、枕を顔から離して―
太陽「あ、そうだ」
太陽、ベッドから起き上がり、自室から出て行く
太陽の自宅の庭の外観
庭に隅に大きな物置があり、太陽がその建付けの悪い扉を開ける
中に入り、一歩一歩進んでいくと、目の前に大きな椅子が現れる
太陽N「この椅子は、どんなお願い事も叶えてくれる、特別な椅子だ」
◆諏訪梨宅・物置(夕方)《回想》× × × × ×
太陽N「俺がこの椅子と出会ったのは今から五年前―小学二年生の頃。それは、とても不思議な出会いだった」
太陽(小二)、物置の扉を開けて目を丸くする
物置の真ん中に大きな椅子が佇んでいる
太陽N「ある日、物置を見に行くと、それはそこにあった」
太陽(小二)、キッチンの母に話しかける
母は料理をしていて、顔は見えない
太陽「お母さん、あの椅子なにー?」
母(太陽)「椅子、何のこと?」
太陽「え、あの物置にある……」
太陽N「買ってきたわけでも、貰ってきたわけでもない。家族の誰に聞いても、心当たりはなかった。もしかしたら、心霊現象的な何かかとも思ったけど、俺以外にも椅子はちゃんと見えてたからその線は消えた」
物置にて、警戒した表情で椅子をジロジロと見つめる太陽(小二)
椅子にゆっくりと腰を下ろす
太陽N「ちょっと怖かったけど、好奇心の方が勝って座ってみた」
太陽「お~」
太陽N「その椅子の大きさは、当時の俺の体をすっぽりと包み込むような大きさだった。ひじ掛けに吊るされた十字架のアクセサリーもかっこよくて、俺はすっかりその椅子のことが気に入った」
太陽「よし、今日からここが俺の秘密基地だぁ!」
太陽(小二)の腹が鳴る
腹をさすりながら―
太陽「お腹減った……。今日の夜は何かな~、ハンバーグがいいなぁ~」
椅子、一瞬だけ光る
太陽(小二)は椅子の閃きに気づいていない
母(太陽)「太陽~、晩御飯できたよ~」
太陽「は~い!」
太陽(小二)、駆け足で物置から出て行く
物置の暗闇に椅子が怪し気に映る
【場面転換】
食卓に座る太陽(小二)
母が出したハンバーグを見て驚く
太陽「あっ、ハンバーグだ!食べたいと思ってたんだ~!」
母(太陽)「そう?良かった」
太陽M「ラッキーなこともあるんだな~」
◆小学校(昼)《回想》
先生(担)「ここがこうであるから—」
算数の授業中、太陽は頭を抱えながら机に突っ伏している
太陽M「うぅ~、まずい。次の問題、全然分かんない。でも、次指名されるの俺なんだよな~!」
先生(担)「昨日やったここがこうだったから—」
太陽M「隣の人に答え教えてもらうか……?」
太陽(小二)、チラと横の席の生徒を見て、またすぐ突っ伏す
太陽M「む、無理だぁ!まだ一回も話したことない人だぁ!そう言えば、昨日席替えしたばっかだったぁ!」
先生(担)「じゃあ次の問題を~」
太陽M「うわぁ~!みんなの前で間違えたら、笑われちゃうよ~!」
授業終了のチャイムが鳴る
太陽M「……あれ?」
先生(担)「おっと、今日短縮授業だったな。じゃあ、次回この続きからということで」
太陽M「た、助かった~!」
◆下校道(夕方)《回想》
太陽(小二)、下校道を一人で歩いている
太陽M「最近、ラッキーなことが沢山起きるな~。今日も指名されなくて済んだし」
太陽(小二)、徐に立ち止まり、空を見上げて考える
太陽M「そう言えば、ラッキーなことってあの椅子に座りながら考えたことが多いような……」
太陽(小二)、昨夜椅子に座りながら『算数の授業で当たりませんように』と願ったことを思い出す
太陽M「もしかしたらあの椅子は、僕のお願いを叶えてくれる椅子だったりして……。だったら、今日の夜ご飯はシチューだよね。今日の朝、椅子に座ってお願いしたから……」
太陽(小二)、何ともなかったかのように歩きだす
太陽M「ま、そんなわけないか!」
太陽N「案の定、その日の夜ご飯はシチューだった」
〇諏訪梨宅・物置(同日)(午後)× × × × ×
太陽N「それからも、俺が椅子に座りながら考えたことはすべて実現した。そして俺は、これが願いを叶えることの出来る椅子だと結論付けた」
太陽、椅子に腰かける
太陽N「それが分かってから、俺は毎日のようにこの椅子に座っては、色んなお願い事をしている」
太陽、目を閉じる
太陽M「素敵な出会いがありますように—戸成さんと出会えたのは、昨日のお願い事が叶ったからなのかな。だとしたら、凄く嬉しい。なんでこんなに嬉しいのかは分からないけど」
太陽、目を閉じながらボソッと呟く
太陽「戸成諏訪子さん……、もっと、仲良くなりたいな……」
太陽M「よし、今日のお願い事決まった」
太陽、祈るように手を合わせて—
太陽「明日も、戸成さんのとなりに座れますように」