第10着席 輝田作衛門/思い違い
〇~:柱
◆~:柱(回想)
二文字開け:ト書き
「」:セリフ
N「」:ナレーション
M「」:モノローグ
*~:その他の指示
*****
〇商店街(数週間後・午後)
太陽、住宅街を歩いている
太陽M「春休みになって一週間が経ちました。本当だったら家でゴロゴロしてるとこだけど、今日は用事があって、商店街にある小さな家具屋さんに向かっています。その用事とは―」
太陽、商店街の入り口に着く
商店街は人が多く騒がしい
その光景を見て引き気味になる太陽
太陽M「うわぁ、人多いなぁ……。まぁ、今日日曜日だし、仕方ないか」
太陽、身を縮こませて商店街に入っていく
大声で客引きをする肉屋の店主
魚捌きのパフォーマンスをしている魚屋に客が群がっている
読書をしながらレジに座る本屋の店員
【場面転換】
太陽、暫く歩いて家具屋の前に着く
中に入って声をかける太陽
太陽「ごめんくださーい」
店内には誰もおらず、静かで薄暗い
太陽「出かけてるのかなぁ」
店内には、大小様々な家具が所狭しと並んでいる
太陽、家具を見ている
すると、店の奥から鈴の音を鳴らし一匹の猫が太陽の元に向かってくる
太陽「お、作太郎~。久しぶり」
太陽、作太郎を抱き上げる
すると、店の奥から声がして、輝田作衛門(79)がやってくる
作衛門「お~、太陽。よく来たな」
太陽「うん。久しぶり、おじいちゃん」
作衛門「あぁ。ほれ、上がれ上がれ」
〇輝田宅・居間(午後・同日)
太陽、和室で正座をしている
背後から作衛門の声がして体を向けると―
作衛門「ほれ、太陽!お年玉だ、持ってけ!」
作衛門、札束の入ったお年玉袋を太陽に渡そうとする
太陽、それを押し戻す
太陽「だから、そんなに貰えないって毎年言ってるじゃんっ!」
作衛門「いいじゃあねぇか、一年に一度なんだからぁ!」
太陽「またお母さん怒られるからぁ!」
作衛門「ん~、それもそうじゃな。なら、出前頼もう!好きなの選んでええぞぉ!」
作衛門、寿司・ピザ・ラーメンのチラシを持ってきて太陽に見せる
太陽「お、俺一人でこんな高いの食べられないよぉ!」
作衛門「ええって、遠慮するな!」
太陽「そ、そんなに長居しないからぁ!大丈夫だからぁ!」
【場面転換】
机に和菓子が並べられている
太陽、和菓子を食べている
作太郎、餌を食べている
作衛門「ほいで、今日はどおしたぁ?」
太陽「うん。願いが叶うあの椅子についてなんだけど」
作衛門「あ~、あれかぁ。今まで何度か相談されたけどよぉ、ずっと分かんねぇまんまじゃ」
太陽「やっぱり、こんなにいっぱい家具作ってても?」
作衛門「あぁ。今まで数えきれねぇぐらい家具作って来たけど、あんなもんは見たこともねぇ。もちろん、俺が作ったもんでもねぇしよぉ」
太陽「そっか」
作衛門「にしても、態々相談しに来るなんて、何かあったのか?」
太陽「あ、うん。最近よく、あの椅子に座ってお願いしてるんだけど、叶わないお願いとか、叶うのに時間がかかるお願いとか出てきて……。今まではそんなことなかったのに、なんかよく分からなくなっちゃって……」
作衛門「あぁ、確かに叶わない願い事もあるなぁ。運命には、抗えないってことじゃ」
作衛門、仏壇に飾ってある妻の写真に振り向いて少し暗い表情をする
太陽「どういうこと?」
作衛門「いいか、太陽。例えば今、俺があの椅子に座って『栗羊羹が食べたいです』と願っても、いきなり目の前に栗羊羹がポンッと出てくるわけじゃあねぇんじゃ」
太陽「それは、何となくわかるかも……」
作衛門「そうだな。今から俺か太陽が店に買いに行ったり、将又ご近所さんから貰ったり……。あの椅子は、より自然な流れで願いを叶えてくれるんじゃ」
作衛門、自分が座っている椅子を指さして
作衛門「それで、叶った願いで手に入れたのが、この腰に優しいリクライニングチェア。この前、電気屋の抽選に応募したら当たったんじゃ」
太陽「ちゃっかり得してるじゃん」
作衛門、リクライニングチェアの振動に身を委ねる
作衛門「゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ~」
太陽M「不自然じゃない方法で、っていうのは今まで使ってきた中で何となく感じてた。そうじゃなかったら、椅子にお願いした瞬間、入浴中の戸成さんのとなりに瞬間移動、なんて言うどこかで見た光景にもなりかねない」
太陽、諏訪子の入浴シーンを想像して赤くなる
作衛門「そういや、そんな毎日、何を椅子に熱心にお願いしとるんじゃ?」
太陽「え!?あぁ、あ、それは……、その~、えっと……」
太陽、激しく動揺し、目も泳いでいる
作衛門、その太陽の様子に、何か勘付いたような表情をする
作衛門「もしかして、好きな子でも出来たんじゃな?」
太陽「うっ!」
作衛門「っしゃあ!図星じゃ」
太陽、恥ずかしそうに顔を赤くして俯きながら―
太陽「す、好きっていうか……、自分でも、よく分からなくて……!こんなの、初めてだから……。戸成さんのこと考えてると、どんどん自分が気持ち悪くなるし、ダメな人間に思えてくる……。でも、それでも、毎日お願いするくらい、戸成さんのとなりにいたいって思う……、ずっと」
作衛門「それが恋って言うんじゃ、太陽」
太陽「……」
作衛門「自分に自信を持て、太陽。椅子に願いを叶えてもらうのもええが、一番大切なのはお前自身の力でその子を手に入れることじゃ。そのためには、そんな俯いてはおれんじゃろ?」
太陽、顔をゆっくりと上げる
太陽「俺自身の、力……」
作衛門「その子の隣で、その子のことを一番近くで見て……、そして大切にしてあげるんじゃ。そうでないと―」
作衛門、仏壇に振り向いて悲しげな表情をする
作衛門「そうでないと、もうどんなに願っても、会えんくなってしまうからのぉ……」
太陽M「そっか……、俺、戸成さんのことが好きなんだ。だから、戸成さんと仲良くなりたいって思うし、会えない日は何してるのか気になるし、話せない日があると落ち込んで、他の人と仲良くしているのを見るとモヤモヤするんだ……」
太陽、体育館で自分に向けられた諏訪子の笑顔を思い出す
太陽M「あの入学式の日……、出会った瞬間から、俺は戸成さんに恋してたんだ……」
太陽「あろがとう、おじいちゃん。なんか、すっきりした気がする」
作衛門「おぉ、そりゃよかった!太陽、お前にはまだ十分に時間がある。お前の好きなように、思うようにやってけば良いんじゃ。じゃが、後悔だけはしないようにな!青春はあっという間に過ぎていく。気づいた頃には、あの時好きだったあの子にはもう二度と会えないー!なんてことにならんようにな!」
太陽「う、うん。ありがとう、頑張るよ」
【場面転換】
太陽、家具屋を後にする
作衛門、家具屋の前で作太郎を抱きながら太陽に手を振っている
太陽、歩きながら後ろを振り返り、作衛門に手を振り返している
太陽M「もうすぐ二年生だ……。これからは、もっと戸成さんと仲良く出来るように頑張ろう!」
〇学校・昇降口(数週間後・朝)
太陽N「そして迎えた、二年生初日。俺は、とんだ思い違いをしていたことに気づかされるのだった」
斜め上を見上げ、唖然とした表情で立ち尽くす太陽
太陽の周りには大勢の生徒が群がっている
その視線の先には、生徒たちのクラスが書かれた張り紙
2-C 諏訪梨太陽 2-A 戸成諏訪子




