これは夢か現実か……
よろしくお願いします!
俺の名前はウィット。公爵家、長男。
ハッキリ言って、モテる。モテる。モテまくる。
何故なら、俺は文武両道・眉目秀麗(と使用人も言う)の超・優良物件だからだ!
まあ?賞という賞はとりまくり?流れる金髪に澄んだ青い眼だし?
貴族が通う学院にいけば、「ウィット様は今回の試験も学年トップですのね」とか「ウィット様は婚約者がいらっしゃらないって本当なのですか?」とか。麗しい姫君たちに囲まれてお相手が大変だ。
実際俺に婚約者はいない。
まぁ、公爵家だし?選び放題なんだけど?この娘だ!って娘に出会ってないんだよなぁ。何でだろう?学院であんなに姫君に囲まれるのに。
*********
ある朝、俺は驚いた。ああ、それはもう驚いたさ。
通常ならば侍女が誰が俺の元に行くか喧嘩になるようなシチュエーションだ。
俺の着衣が乱れていた。
一夜にして俺は肥えていた……。これでは、うわさに聞く東洋のスモウレスラーというものではないか?うん、性別の変化はない。
息子の無事はとりあえず確認した。男としてこれ重要。
昨夜着て寝ていたパジャマのボタンが全部はじけ飛んでいた。尚且つ、パジャマの下のズボン(?)の部分のウエストのにあるゴムが伸びきっていた。
俺は、現実逃避した。「そうさ、これは夢に違いない。さて、二度寝をしよう。幸い今日は学院も休みだ。」
起きた。変化がない。
いつもは先を争うような侍女達が遠目で俺を見ている。
「おはよう、みんな。今日も可愛いね」
と、俺はいつもの朝の挨拶をした。これをいつもしているのだ。
「貴方は誰ですか?」と侍女頭に言われた。
「いやぁ、ウィットだけど?なんか?」
「いえ……不審者かと……。あの、お鏡をどうぞ」
俺は現実を見せられた。
何てことでしょう? あの綺麗な肌が一夜にしてアブラギッシュに! 適度に筋肉に引き締まったカラダが一夜にしてブヨブヨに!
学院に行けば、「ウィット様はどうしたのでしょう?」「代わりに出席をなさってる方でしょうか?」と普段なら俺を囲む麗しい姫君達が言う。
俺の数少ない友人も「どうしたんだ?体調不良……じゃないよなぁ。……にしては奇病だし」と親切(?)に会話をしてくれた。
こいつは、こいつと呼んではいけないな。このポスクタ王国の王太子殿下だ。しかも一人しか王子がいないから、次期王か?という人材。いや、逸材だな。
「殿下と親しく話してるから本人よ……多分……信じられないけど」「ええ……」等の内緒話(?)は筒抜けで聞こえてるんですけど?……悲しくなってくるな。
************
今の俺に残されているのは、知性と爵位だけだな。
俺は決意した。
容姿について、もうひたすらダイエットに励む。嫌いなものだって食べるぞ!そう、この頭脳を駆使して、栄養も摂りながらの健康的なダイエットをするのだ!
運動について、地味だろうと地味なトレーニングから始める。
そして、目指すところは容姿端麗という当初の体だ! そしてモテる!
「お前さぁ、『モテる』ばっかりじゃなくて、まともに恋愛したら?婚約者はいいぞ?」
「あぁ、殿下は昔から婚約者がいますもんねー」
「敬語になってるのが、なんか腹立たしい。ウィットは婚約者とか作らないのか?」
「あ、それな。この娘!って娘がいないだけだ」
「でもなー。今のお前に言われても、笑えるだけだけど?」
「けっ、今に見てろよ?元のように、いや元よりもパワーアップしたネオウィット様をおみまいしてやるからな」
「なんだよ、その技の名前みたいなのは(笑)」
**********
その日から俺は走った。
最初は屋敷を1周するので息があがった。
徐々に屋敷を2周・3週とできるようになって、走るのが楽しくなってきた。若干イヌみたいだなと我ながら思いもした。
腹筋については、腹筋もしたが背筋もした。
体幹は、バランスよく鍛えなければな。
腹筋も最初は体が曲がらなかった。……悲しい。
徐々に5回上がるようになった。それも10回・20回と増えていった。ちょっと楽しくなった。
背筋については、自室で体を反っていただけなのに侍女に「陸に揚がった魚みたい……」という感じの目で見られた。口で言ってくれた方がいい。
そりゃ、寝台の上でうつぶせでバタついてた俺に非があるケドよ?
あと、骨盤の位置にも気をつけた。足を組むなど、言語道断!骨盤がゆがんでしまう。いくら足が長くてもそれはNG。太ってしまった俺は足組めないけどさ。っへ。あ、いかん!心がやさぐれてしまう!
骨盤の前傾・後傾の動きを寝台の上で四つ這いでしていたら、またしても侍女に「動きがエロい……」と言われてしまった。
今回は直接口で言われたが、仕方ないじゃん動きが本人(俺)がわかりやすいんだもん。
*************
そして、数か月後もう季節も移り替わってしまった。
俺は元のように容姿端麗となった。
栄養にも気を使ったせいだろうか?肌艶とか、髪質もよいようだ。
「殿下?俺は元の容姿になったつもりですが、どうして姫君達は遠目なのでしょう?」
「あー、お前のそばによると、自分も一夜で肥るという噂があるんだな、コレが」
「なんてウワサでしょう?そんなことないのに!俺はなんのために……」
「モテるためだろ?」
「あっさり言うなーー!!」
「あのー、ウィット様?」
捨てる神あれば拾う神あり!と俺は思った。
「なにかな?」
「私もダイエットをしたいんです。是非指導をしていただきたく思います」
あぁ、残念。この娘は俺の琴線に触れることはない。
「俺の指導は厳しいけど、ついてこれるのか?」
「そのつもりです!」
マジかよ?令嬢ならあきらめると思ったのにな。是非とも諦めて欲しかった。
「おい、ウィット。この令嬢、磨けば光るタイプだ。お前が磨けよ」
「それも面白いか、やってみるか」
「えーと、名前何て言うの?」
「あ、申し遅れました。申し訳ありません、殿下の御前で。ウィット様の遠縁であるローグ伯爵家が次女、ショークリアと申します」
「長い名前だな。以後リアでいいな、俺はリアと呼ぶぞ」
「じゃあ私はリア嬢と呼ぶとしよう」
「殿下まで……畏れ多い。以後、よろしくお願いします」
**********
俺が令嬢を連れて屋敷に帰った。ダイエットの指導目的なんだけど。
使用人は通常なら「あの女は誰?」とかなるようなものだが、俺が一度肥えたから明日はどうなるかわからない俺を戦々恐々と見ているようだ。
結果、リア嬢は特に使用人に嫌がらせを受けたりもせずに屋敷に入った。殿下まで。こっちの方が使用人が恐縮してしまった。「え……全く準備してない……」みたいな?
「えーと、こちらの令嬢はローグ伯爵家の次女のショークリア嬢だ。ついでに殿下」
「おい、俺はついでか?」
「だって、ついてきたんじゃん?」
「そうだけどさぁ。言い方があるんじゃない?」
「そうですね!殿下!」
「あのー、恐れ入ります。殿下と我が屋敷の主人は親しいのでしょうか?」
「あぁ、所謂マブダチ?ってやつ?」
「‘殿下’が市井の言葉遣いマズいんじゃない?親しくしてもらっていますよ?殿下とは」
「でなぁ、こちらの令嬢がダイエットをしたいそうだ。経験の豊富なウィットを指名してきた。英断だな。で、ウィットが指導することになったんだ」
殿下がほとんど使用人に説明してくれた。助かると言えば助かる。
「は、承知しました。我らにすることは?」
「んー?特にないよ?ね?ウィット」
「まぁ、ほとんど伯爵家でしてもらうし、今日はやり方説明だな。俺がダイエットする時も俺は一人で頑張ってたじゃん。ああ、厨房には注文してたなー。その節は世話になった」
「光栄至極にございます」
**********
「そういうわけで、ダイエットの説明だが……。俺の助言は主に適度な運動と食事だ」
「ダイエットなのに、食事をしてかまいませんの?」
「んー、ダイエットでリバウンドをする人はたいてい食事制限とかしてるんだよね。ストレス貯めると、痩せるもんも痩せないから。それに食事制限をすると肌とか髪とか艶がなくなるでしょ?それはよくない」
「確かに……」
「へぇ、お前は結構頑張ったんだな。」
「殿下、お言葉ですが、血のにじむような努力です」
「何故敬語?まぁいいや、努力したんだんだな」
**********
「早朝ランニングだが……、リア嬢の履いてるようなヒールの靴でそこらを走り回るのは危険だな。ほら、靴擦れとかおこすだろ?そこで!俺が開発した俺用の靴だが……革靴だと走り回れないだろ?かといって乗馬用でもなぁ……。
というわけで、開発しました。ちょっと固い布でできた靴!」
俺は会心の出来をドヤ顔で披露した。殿下曰く、「スラム街の者が履いてそうだな……」
俺は軽く咳払いをしたのち
「布に足を突っ込む。それから、編み上げブーツのように紐を結ぶ。あ、それからこの靴は水を吸うから、雨の日とかは注意!あとなぁ、足の裏って意外と汗をかくもので……足にも布を巻くなりをしてから靴を履くべし!」
「はい!先生!」
おお、‘先生’という響きがいいな。
「次に腹筋だが……。世の中では腹筋だけ鍛えていればいいという考えがあるが、答えはNO。背筋も同時進行で鍛えるべし。寝台の上で体を反るんだ。まぁ、侍女からは奇異な目で見られるだろうな」
「おお、経験者は語るってやつか?つまり、お前は侍女に奇異な目で見られたんだな」
「殿下は黙ってろ」
「あとなぁ、骨盤を前傾したり後傾したりなんだが……。殿下、ちょっと協力して」
「なんだよ、仕方ないな。この国にとって大事な体だ。そのことをしっかりとわきまえてだなあ……」
「わきまえてる人はここまでついてきません!
このお尻のあたりにある骨なんだけど、背中を反った時と丸めた時と傾きが違うんだよ。そのうちなんとなくわかるよ。こんな感じ」
俺は殿下の体で実演した。寝台の上で腰を動かしたから卑猥だ。殿下が……。
「あー、あと足組むのもダメ。体がゆがんで体の全体のバランスが悪くなる」
「ほう、初耳だ。父上にも言っておこう」
「陛下に助言か?畏れ多いな」
「俺だといいのか?俺泣くぞ?」
「うーん、親しいからなぁ。なんかもう家族みたいじゃん。俺、兄貴な」
「なにおう!俺が兄貴だ!」
「あの……、畏れ多いのですが双子でよろしいのではないのでしょうか?」
リア嬢は見かねたようだ。
「それと、食事なんだけど、メニューとか伯爵家の厨房に連絡しておく。あと、あんまりお茶会とかダメなんだけどなぁ。お茶はいいけど、菓子が……」
「菓子がいけないのですか?」
「ああ、菓子は甘いだろう?疲れてるときとかいいんだけど、過剰な摂取はよろしくないなぁ。外で食べるなら、屋敷の中では食べないようにするとか?そこは自分ルール作るしかないな。お茶会も社交だろ?出席を断ることはできないもんな」
「ええ、断ることもできますけど、相手によっては断ることが出来ない方もいらっしゃいます」
「俺が教えたのは、俺が実践したことだ。でもいきなりドーンとできたわけじゃない。最初はちょっとしかできない。少しづつ出来るようになって、それが楽しくなってくるんだよな。まぁ、俺の場合だけど。続けることが出来れば痩せることも可能だろう」
「はい!がんばります!」
**************
俺はその後、伯爵家に食事のメニューを届けた。
「お嬢様はこちらを好まないのですが……?」
「俺が渡したと伝えてくれ。俺も食べたとな」
「承知いたしました」
*******
俺謹製特訓メニューのかいもあって、リア嬢は美しく変化した。殿下が言う所の磨かれたというやつだ。俺が磨いたみたいなもんだけど?
「殿下、ありがとうございます。殿下の助言もあり、このように変わることが出来ました」
俺は?
「ダイエットメニューを渡したのは俺なんだけど?」
「もちろんウィット様も感謝しております。……ただ……食事が好ましくなかったもんで」
それかよー。
「はっはっはっ。やっぱり普段の行いの差だな!人望の差?」
何気に悔しい。
「腹筋とかも楽しくできたんだ。良かった。ダイエットのために開発した靴とか売り出そうかな?」
「貴族の嗜みとして商いをすることはどうだろうな?」
「いやぁ、そこは殿下!先駆者というのかなぁ?なんか先駆者って響きがかっこよくない?それもいいかんじだなぁ」
こうして俺はダイエット用の靴などを売り出し一躍商いで……まぁ儲けた。うん、そうだね、領民に楽してもらえる程度に。領民に楽してもらえるのっていい感じだと思うんだけど?辛いより良くない?
了
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