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ヲタッキーズ105 帰って来た狙撃兵

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第105話"帰って来た狙撃兵"。さて、今回は内部告発の末に海外逃亡した脱走兵が突然の帰国!


犯罪歴のある彼女を警察が追う中、家族を誘拐された脱走兵は、ヲタッキーズと共に戦友達との最後の対決へと…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 開戦前夜


その家族は、神田リバー沿いの古いボロアパートの1室に住んでいる。陽気な父親に22才と19才の娘。母親とは死別。


「よし行け!入れろ!クソ何やってんだょもう!」

「パパ、落ちついて…ってかウルさい」

「何言ってンだ。奴は年収3000万円だぞ!」


プラズマ画面に映し出されているのはランジェリーバスケ。

早い話が下着姿で闘うバスケだが画面は男子リーグの方だ。


「今の子が出てる下着メーカーのCF、見たコトないの?」

「ない!俺はバスケの試合が見たいだけだ!」

「良かった。パパはゲイじゃなかったわ」


笑い転げる若い姉妹に父親は渋い顔。と、その時…


「ん?火災報知器が鳴ってるぞ。キッチンだ」

「あ、ゴメン!ブラウニーを焼いてるの」

「てか、焦がしてルンでしょ?」


妹が飛び上がってキッチンに行くと薄く煙が立ち込めてるw

慌てて脚立に登り、天井で鳴動中の火災報知器を停止スル…


「動くな!全員、床に伏せろ!」


薄い木製のドアを文字通り蹴破り、突撃銃タイプの音波銃を構えた覆面強盗が2人乱入!武装強盗?この安アパートに?


「撃たないでくれ!何でも持っていけ!」

「床に伏せろと言っている!」

「パパ!」


強盗は突撃銃の台尻で父親を殴り倒す!

もう1人は姉妹の姉に突撃銃を向けるw


「コレが最後だ。黙って床に伏せろ!」


言われた通り両手を上げて床に伏せる姉。


「他に誰かいるか?」

「いないわ」

「奥のキッチンを見て来い」


強盗の1人が突撃銃を構えてキッチンに入る。

焦げたブラウニーの臭いと微かな煙が漂うw


「誰もイナイ。引き揚げだ」


妹は、天井裏に息を殺して潜んでいる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"潜り酒場(スピークイージー)"。


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良く、僕を含む常連が居座って客単価が急降下だw


メイド長のミユリさんは渋い顔←


「おかえりなさいませ、テリィ様」

「ミユリさん、ただいま。今から72時間休暇だ…あ、あれ?ボルデ博士、なぜ御帰宅してるの?」

「プリカ副所長に頼まれてね」


僕は、第3新東京電力の宇宙発電所"TEPCO-3"の所長で宇宙勤務を終えるとアキバに戻る。

その間は、インド系の俊才にして副所長のプリカ・ヨプラが

"TEPCO-3"の指揮を執ってる。


ボルデ博士は宇宙発電のスペシャリストだ。


御屋敷(メイドバー)をエコ化スル相談に乗っていただいてるのです」

「へぇ。そりゃ名案だけど…まるで太陽発電衛星プロジェクト並みの布陣だな。博士、お忙しいのにスミマセン」

「太陽熱を最大限利用するためには、ソーラーパネルを緯度と同じ角度に傾斜させ、つまり地軸と平行になるよう設置スル必要がある。さらに、可動式にして太陽を自動追尾スルひまわりシステムにしてはどーかと思っている」


いや。余計なお世話です、博士←


「…素晴らしい!で、コレは?」

「新型炉だ」

「え?まさか官邸肝入りの革新型原子炉?」


ニコリともしないで首を振る博士。


「冬に使う暖炉だ。第3世代バイオ燃料を使い、GHGsの抑制につなげたい」

「でも、博士。まるでミサイルサイロみたいだ。温室効果ガスは抑制出来ても、代わりにイラン製の神風ドローンとか突っ込んで来そう。コレを御屋敷に置くの?」

「レイアウト図の作成を手伝ってくれ」


今世紀最大の気の乗らないプロジェクトだw


「高さ6m?」

「6.4mだ」

「あ。あれ?スピア?お寺にいたんじゃ…」


スピアは、ストリート育ちのハッカー。

ジャージ姿の下は、恐らくスク水だな。


で、顔に青アザw


「問題が起きたみたいだね」

「世界洪水教シスターとモメた。教会にお酒を持ち込んだら、ドロップキックを喰らった」

「え。スピア、いつから飲酒を?」


と、常連は聞くけど、もっと大事なQがアル。


「シスターは、いつからプロレス技を?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その日の深夜遅く。


「出ないで」

「でも、出なきゃ!」

「ねぇ出たら損しますょ絶対」


そもそもミユリさんのスマホだ。ラギィ警部からの着信。


「ミユリ?神田佐久間河岸町で家宅侵入。被害者の家系が"blood type BLUE"。直ぐ来て。どーせテリィたんも一緒でしょ?」

「わかりました。30分で…テリィ様も」

「どいてくれ」


またがっていたミユリさんをどける←


「せっかくの休暇なのに。キレイ目の警部から電話だとテリィ様は直ぐイソイソと…」

「妬くなょ。僕だって休みたい。でも、ビジネス優先さ」

「ナゼお気に入りのシャツをお召しに?」


え。思わズ手が止まる僕←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田佐久間河岸町の現場。


「警部!微弱なテレパスである父親と姉妹の姉がさらわれました。家主はグレナ・ポータ」

「半年前の音波銃を使う狙撃兵と同名?確か恋人の敵を取ってから脱走した宇宙作戦群のスーパーヒロイン。確か、半島に逃げたと聞いたけど」

「拉致されたのは、テレパスの父親です。3人組で白いバンで逃走。鮮やかな手際だったけど1つだけミスを犯した」


万世橋警察署のラギィ警部に情報が集まる。


「あら。何かしら」

「目撃者です…センナ、コチラはラギィ警部だ」

「大丈夫?ラギィって呼んでね」


誘拐?事件の現場でゴッタ返す中、救急車の後部ドアを開けたトコロにチョコんと座っているハイティーンの女子1名。


「警部さん。あっという間だった。キッチンにいたら声がして。パパとお姉ちゃんを助けたかったけど怖くて」

「当然ょ。でも、力を貸して。覚えているコトを何でも良いから話して欲しいの」

「私、犯人を見たわ。親玉は見えなかったけど、もう1人はちゃんと見た」


有力な目撃情報だ。


「顔を覚えてるの?」

「YES。姉の部隊にいた仲間ょ。写真で見た覚えがアル」

「誘拐犯は…元宇宙作戦群なの?」


幼い目撃者は、うなずく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


さっそく万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。


「ジェム・ピクニ。カルロ・ルイソ。共にグレナと同じ宇宙作戦群の作戦部隊(BTG)に所属。休暇中に無断で離隊し脱走兵扱いに。隊長のライア・フラロは3ヶ月前に軍法会議にかけられる予定で送還されました」

「容疑は?」

「異次元人捕虜の拷問と殺害容疑」


アキバは今、マルチバースを完全支配し人類の歴史を根本から改竄しようとスル謎の異次元人組織の侵略を受けている。


「隊長のライア・フラロは、ルイソ達の手助けで昨日脱獄したばかりです」

「グレナの家族を誘拐した理由は?」

「恐らく報復でしょう。異次元人捕虜殺害を市ヶ谷(ぼうえいしょう)に告発したのがグレナでした。脱走兵達は、家族を人質にしてグレナを呼び出す気だと思われます」


本部のモニターに神田リバー水上空港のカメラ画像が出る。


「グレナは、もう連絡を受けたようです。5時間前に偽造パスポートで入国。その後、姿をくらました」


入国審査の列に並ぶ目深帽をかぶったグレナの画像。


「過去の殺人2件で指名手配されてるというのに」

「家族を取り返すために命がけで帰って来た」

「こりゃ…戦争になるわね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズは捜査会議にSATO司令部からリモート参加。


ヲタッキーズは、僕の推しミユリさん率いるスーパーヒロイン集団。南秋葉原条約機構(SATO)は官邸直属のアキバ防衛組織だ。


「フラロは、心臓発作を偽装、蔵前橋(の重警備刑務所)から病院(外神田ER)へ向かう途中、ピクニ達が護送車を襲撃してフラロを奪還?」

「韓流映画みたい。首都高を車で逃走?」

「ソレなら首都高HP(ハイウェイポリス)が逃がさない。ヘリボーンだって。パイロットの顔は監視カメラにも画像がナイ」


ヲタッキーズのリーダー、ムーンライトセレナーダーは、僕の推しミユリさんが変身したスーパーヒロイン。

メイド服で下はバニーガールという作者の妄想満載なコスプレなんだがヲタッキーズの他の2人もメイド服w


エアリは妖精担当でマリレはロケットガールだ。


「薬で発作の症状を誘発したみたい。誰かがコッソリ差し入れたのね」

「蔵前橋(の重警備刑務所)の面会者から調べましょ」

「ソレはラギィ達の仕事。私達はフラロの奥さん辺りから当たらない?」


ムーンライトセレナーダーの言葉にエアリとマリレは頷く。


「ソレはソレとして、姉様。脱走と要人拉致。侵入の手口もミリタリーだわ。宇宙作戦群の戦闘偵察部隊ってルールブック通りにコトを進めたがるらしいけど」

「つまり、フラロとグレナもそーゆー訓練を受けてるってコト?ソレなら次の行動が予測出来るわ」

「YES。多分ルイナの何とかって言うアルゴリズム…」


ルイナは、史上最年少で官邸アドバイザーとなった超天才。

SATOの科学顧問でもあり、ラボは司令部の直ぐ隣にあるw


「チリプロファイリング…えっと何だっけ?ホットゾーン…」

「うーん忘れたわw」

「ルイナの知恵を貸りましょう。返さないけど」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「話は聞いたわ。OK!姉様、対立する2つの勢力の行動予測をしたいのね?ピッタリのモデルがアルわ」


司令部のお隣のラボでルイナはファイルをくれる。

因みに彼女はゴスロリに車椅子がトレードマーク。


「OODAループょ」

政府開発援助(ODA)?」

「惜しい。Oが1つ足りないわ。観察。判断。決定。行動のループ。アメリカ空軍が考えた航空戦闘における戦略モデルとして考案された理論」


同じ空軍上がりのマリレが口を挟む。


「私はドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)だけど…」

「何処の空軍にも通じる。勝利に必要な意思決定サイクルを繰り返せば良いの。最近流行りのランジェリーバスケットボールのゲームで例えるわね。チームは、敵のスキルや傾向を観察する。ディフェンスが左の攻撃に弱いなら、フェイントして徹底的に左から攻める。でも、ディフェンスも学ぶから、次はさらに半回転してシュートをキメる。その不断の繰り返しにより、ゲームに勝つコトが出来るわ」


マリレは、長い溜め息をつく。


「戦闘は、ソンな単純じゃナイけど」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕とムーンライトセレナーダーに変身したミユリさんとで、フラロの妻を駅近マンションに訪ねる。

宇宙作戦群の礼服姿がキマってる立派な額入りの夫の写真を無造作に段ボールの中へ投げ捨てる妻。


「今はもう、夫とは何の連絡も取ってない。月面から戻って、あの人は変わった。まるで別人ょ」

「何があったの?」

「月面での戦争が彼を変えた。酒に溺れて、暴力を振るうようになったわ」


月面に"リアルの裂け目"が開き、宇宙作戦群と異次元人組織との間で激戦があったが…マスコミには伏せられている。


「御主人から連絡は?」

「最後に彼と連絡をとった時のコト?」

「ええ。いつですか?」


妻の答えはニベもナイ。


「離婚届を送った時ょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバー沿いの安アパートで、ヲタッキーズのマリレは、センナと誰もがうらやむ幸せな家族の集合写真を見ている。


「そんな写真しかナイの。ゴメンなさい、メイドさん」

「助かるわ、センナ。貴女の家族の救出に全力を尽くすから」

「…グレナも?」


3姉妹が笑い合う眩しい写真だw


「YES。でも、上のお姉さんのグレナは逮捕して、罪に問うコトになりそうょ」

「人を殺したンだモノ、当然ょ。刑務所に入れちゃって」

「そんな…」


溜め息をつくマリレにキッパリと告げるセンナ。


「グレナとは、もう2度と会えなくても構わない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。ルイナのラボ。


「ミサイルサイロか。面白そう…」

「スピア!捜査に集中して」

「ゴメーン。何?」


ストリート育ちのハッカー、スピアはルイナの相棒だ。


「今、貴女の魂は何処を彷徨ってた?」

「漠然とした質問に敢えて答えるなら…後ろめたさの世界。「誤魔化さないで。貴女、ダークマターの探求チームに入ってからズッと落ち込んでる。世界洪水教のシスターにドロップキックを喰らう前からおかしかった」


車椅子の超天才はビシバシと指摘スル。


「まさにそのダークマターょ。実は、神の物質とか言ってるけど、心の何処かで見つけたくないと思ってる。神の心を覗き、全ては神の思し召しというコトになったら…その時、大統一理論という夢は打ち砕かれ、後には謎だけが残るわ。ソレって虚しいと思わナイ?」

「見つけてみなきゃワカラナイわ。ねぇダークマターの探求、ヤメたりしないわょね?」


ハッカーはモニョモニョと口ごもる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「ラギィ警部!昨夜、神田山本町の銃器店が襲撃され、突撃銃タイプの音波銃が強奪されました。犯人の特徴がグレナと完全に一致!」

「彼女が再武装したってコト?」

「父親の住所録にグレナの連絡先がありましたが、プリペイドのスマホでした。GPSも追跡不可能です」


ラギィは腕組みして唸る。


「うーん行き詰まった?」

「いいえ。通信会社から、グレナの通話履歴を手に入れました。ソレによると誘拐当日、別のプリペイドスマホから何回か電話が入ってます」

「きっとフラロがスマホで脅したのね?」


身を乗り出すラギィ。


「彼等は、頻繁に連絡を取り合ってます。GPS追跡は無理でも、スマホの中継基地局から大体の居場所は掴めます。フラロは東秋葉原に入り、ソレをグレナが追ってる」

「グレナも東秋葉原に入った?」

「恐らく」


ラギィの鋭い指示。


「そのデータ、ルイナにも入れといて!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「みんなからのデータで、OODAループ分析により、グレナの次の行動を予測してみたわ。コレは、過去14時間に使われたスマホ中継基地局のカバーエリア。フラロが青。グレナが赤。フラロが人質をエサにワナを張ってる。グレナが誘き寄せられてるパターンがキレイに出たわ」


捜査本部のモニターに図示するルイナ。

全捜査員がスクリーンを見つめている。


「人質を餌にしてる?」

「YES。銃器店の襲撃もグレナの足取りも予測と一致してるわ。ソレから、グレナは音波銃の他に、身を隠す場所が必要ね。あと、手軽な高カロリーフードも。軍の携帯レーションがベストだけど、なければチョコレート菓子でもOK」

「チョコバーは?"ブラックパンダー"とか?」


おお!あの有名な国民的チョコバーか!


「移動は、人目を避けて夜だから24時間営業のコンビニね。"ブラックパンダー"を調達スルなら、絶対セブンが便利。最近までアイスも扱ってたし…特に秋葉原のセブンは"ブラックパンダー"に力を入れてる」

「ヲタクの常識ょ!で、予め可能性の高そうなセブンを何軒か予測しておいたわ」

「手分けして張り込んで。ヲタッキーズも!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ヲタッキーズの担当は、セブンの電気街口店だ。


マリレとエアリは、自分の御屋敷ではメイド長なので、いつもメイド服だ。今も張り込みはビラ配りのフリをしながらw


「グレナは20分前から中にいるわ」

「何やってるの?トイレで着替えてるのかしら」

「あら。待って。出て来たわ」


大きな有料レジ袋を2つも抱えて出て来るグレナ。


万世橋(アキバポリス)のSWAT到着まで15分」

「精算を終えて店を出るわ。間に合わない」

「私達でやりましょう。マリレは裏へ回って」


ビラを投げ捨て、銃口がラッパ型に開いた音波銃を抜き、コンビニに突入!

迫るメイドを見て、グレナは買い物袋を投げ捨てて、店の中へと逃げ込むw


「店員さん、外へ出て!」

「わかりました。お客様、外へ出てください!」

「キャー!」


全員が退去したコンビニのドアをロックするマリレ。音波銃を目線で構えて、店の奥へと歩く…

次の瞬間いきなりコカコーラの棚が崩れて来てマリレは下敷きに!逃げる犯人がミラーに写るw


「待て!」


飛び出したマリレの目に、電子レンジの中で回転するライターオイルの黄色い容器が…大爆発!


「もらった!死ね、ヲタッキーズ!」


マリレの音波銃がフロアに転がり、ソレを見たグレナが殴りかかるがマリレがコレを1本背負い!

しかし、足を払われ転倒したマリレの顔を目掛けグレナはノンアルビールの缶を叩き込もうと…


「缶ビールを捨てて!捨てなければ撃つ!」


裏から入ったエアリが音波銃で狙う。缶を捨てるグレナ。


「手は頭の後ろ!ほら、立って!」


グレナを手荒くショーケースに叩きつけ、後ろ手に手錠をかける。マリレが耳元でささやく。


「お買い物は済んだ?」

「ええ。アンタは?」

「今、済んだわ」


第2章 君のヘリには乗らない


万世橋(アキバポリス)の取調室。


「偽造パスポートは不味かったわね」

「ウッカリしただけ。急いでて従姉妹のと間違えたわ」

「銃器店もウッカリ窃盗したの?」


顔色1つ変えないグレナ。


「あら?私、音波銃を所持してたかしら」

「2人も殺してるのに帰国スルなんて」

「2人とも殺人犯でしょ?天罰ょ私はやってナイ」


訓練された兵士は手強い。内心舌を巻くラギィ警部。


「前の事件で、音波ライフルに恋人の写真が飾っえあったわょね。私達にワザと見せつけるため?」

「さて。誰の仕業かしら」

「もう2度と貴女に勝手な真似はさせないわ」


すると、グレナはラギィを正面から見据える。


「私は、月面で身をもって知った。月でも地球でも自分以外は信用出来ないって。私の家族は私が救い出す」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


引き続き、万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「警部。残念ながら、過去のグレナの殺人2件に関しては、指紋も目撃者もナシです」

「状況証拠ばかり?お手上げなの?」

「でも、今回は不法入国に暴行、窃盗罪もアリます。ご安心を」


ニンマリするラギィ警部。


「OK。釈放ょ」

「What?2人も殺したんですょ?」

「状況証拠だけでしょ?弁護士が来たらお終いだわ」


ラギィは涼しい顔だw


「警部!何を言ってるかわかってますか?」

「ホンキょ。文句のアル者は?」

「ぐっ…」


いるハズがナイ。ただし、捜査員の半数が本部を去るw


「この前は不当逮捕。今度は指名手配犯を逃す。ラギィ、コレじゃみんなついて行けナイわ」

「じゃコーヒーでも飲んでて」

「今夜は遅くなりそうね」


グレナを捕まえたエアリ&マリレもギャレーに去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ラギィ、危険な賭けね」


廊下に出たラギィを追って、スーパーヒロイン"ムーンライトセレナーダー"に変身しているミユリさんが声をかける。


「ムーンライトセレナーダー、わかって。グレナを拘束すれば、彼女の家族が殺される」

「わかってる。家族を救いながら、グレナにフラロを追わせる作戦でしょ?でも、危険過ぎる。そもそも、SATOの方は構わないけど、警察じゃ規則違反でしょ?」

「じゃ上に報告しても良いのょムーンライトセレナーダー」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、署内では当のラギィの計らいで姉妹の対面が発生←


「センナ!私ょ!」


"偶然"の再会を喜び、歩み寄るグレナを制するセンナ。


「グレナ姉ちゃん。大人しく半島へ帰って。あとは警察に任せてょ」

「ソレは出来ないの。センナ…」

「お姉ちゃんは、いつも自分のコトばっかり。パパや妹達はどーなっても良いのでしょ?」


信じられないという顔のグレナ。


「お前のコトは大事ょ。だから、ローリとパパを救いたい。なんとしても」

「だったら、お姉ちゃんは何もしないで。そんなに2人を死なせたいの?」

「そんな…」


絶句するグレナ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「テリィ様。その後、配置図の作成は?」

「ソレが、不都合な真実がわかったンだょミユリさん。貯蔵庫に最適な場所は、僕達の寝室のすぐ外ナンだ」

「ご不満ですか?」


僕は、興奮しないようユックリ話す。


「いつも眺めて楽しんで来たアクアリウムの水草が見られなくナルんだ」

「時には犠牲も必要なのでは?」

「そうだけど…僕と水草の間にアル特別な絆を断ち切りたくないんだ。数少ない共生相手だから」


ミユリさんは、完全に"何ソレ顔"だw


「温暖化でココまで海になったら、一緒にユラユラ出来ます。わかりました。もぅいいわ」

「もともと、気候変動問題は僕のアイディアだったのに、ミユリさんが勝手に進めるから…」

「社会システムのエコ化には反対なのですか?原子力の再評価にもつながるのに」


カウンターの中で肩をスボめるメイド服姿のミユリさん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


セブンの電気街口店は、店頭に狭い駐輪場があり、グレナはソコにバイクを止めて、ニヤニヤ笑いながら周囲を見回す。


「1晩中さんざん振り回して、また電気街口店か。バカにしてるわね」

「あいつムカつく?」

「元市ヶ谷(ぐんじん)だから何でも許されると思ってる」


"釈放"されたグレナを張り込み中のエアリとマリレ。

果たしてコンビニパンを手にしたグレナがやって来る。


「ヲタッキーズのお2人、お腹が空いた?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


最高検察庁の次長検事ミクスのオフィスをノックする僕。


「キャラメルマキアートのLサイズにチョコクロワッサンも?」

「大好物をお持ちしましたょ次長検事」

「まぁ!努力は認めるわ」


デスクに積まれた書類の山に花が咲くようなミクスの笑顔。


「…昨夜、検事総長からグレナ・ポータの起訴準備を進めるよう指示が出た。でも、今朝になったら既に釈放されてた。テリィたん、何で?」

「さぁな。所轄の判断だろ?」

「前には同じ被疑者を不法逮捕までして拘束したのに」


ホント、何ゴトも良く勉強してるなw


「も1度、ミクスのヒーローになれるかな?あの時みたいに」

「必要ナイわ」←

「あの夜、君はそうは逝わなかった」


間合いはとったつもりだが、急にヨソヨソしくなるミクス。


「…関係を少し早まったのかしら、私達」

「悪かった逝い過ぎた。でも、ヒドいじゃないか」

「セフレとして聞いてるの?」


最悪だ。僕は回れ右←


「あ、ごちそうさま。テリィたん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、同じチョコクロワッサンをパクつくグレナ。

セブン電気街口店の駐輪場でエアリ達に話しかける。


「ビラ配り御苦労様。バレてるからメイドのフリ、ヤメたら?一緒に"香るカカオのクロワッサン"食べない?」

「もぅアンタにはウンザリょ」

「あら、マリレさん?さすが元ナチね。ベルリンでも国民突撃隊相手にそうやって威張ってたの?ダチに頼んでSATOのファイルを見たわ。汝の敵を知れってね」


エアリが割って入る。


「あら。私の経歴は?」

「アンタは妖精。メイド服で音波銃を振り回してるだけ。軍人じゃ無いから興味ナイわ」

「あらあら。勝手な御都合なのね」


そう逝いながらも唇を噛むエアリ。


「家族が殺される。アンタ達SATOに任せたんじゃ何ゴトもヤバくなる一方。ソレを月面で学んだ」

「タフなランボーを気取っても家族は戻って来ないわょ」

「知った口を叩がないで。今の月面は地獄なの!」


次第に興奮してくるグレナ。


「月面の"リアルの裂け目"は、もう閉じたンでしょ?色々話には聞いてるけど」

「でも、見てナイでしょ?戦友が宇宙服ごと木っ端微塵に吹っ飛ぶのを見た?半殺しの拷問をされる異次元人の捕虜を見た?耐えかねて殺してと懇願スル目を見た?ソレが戦争ょ!」


興奮の余り、シートの上のクロワッサンが地面に落ちる。

忌々しげにゴミ箱に投げ捨てると…突然蒸気がモクモク!


「しまった!サイキック抑制蒸気?」

「あ、待て!止まれ!」

「あらぁ飛べないの?じゃ走って追いかけて」


エンジンをふかし急発進で走り去るグレナ。

その後ろ姿を呆然とし見送るヲタッキーズ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「グレナが逃走!」

「フラロの脱獄現場にヘリボーンした操縦士(パイロット)が特定出来ました。ジェイ・ナレク。今は、観光ヘリ会社勤務だけど以前"リアルの裂け目"の向こう側で戦闘ヘリに乗ってた。月面戦線以前にフラロの部隊に所属してた時期アリ。フラロの妻が脱走の前後と、翌日にも連絡してます」

「あの奥さん、グルだったのね」


ガックリ肩を落とすラギィ警部。


「警部。フラロのスマホから不動産業者に発信多数」

「え。人質を抱えて隠れ家探しでも始めたのかしら?」

「いいえ。その不動産業者はフラロの妻の勤め先です。電話番のパートですが…とにかく、連絡を取り合ってます。あの妻の証言は全部ウソでしたね」


長い溜め息をついてから命令するラギィ警部。


「とにかく!連れて来て頂戴。妻もヘリパイも!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ヘリ観光会社のCEOの話じゃ、ジェイは日頃からつきあいが悪く無愛想なタイプだって」

「ココだわ。3で突入。1, 2…」

「ヲタッキーズょ!ジェイ・ナレク!いる?」


音波銃を目線で構えて突入するエアリとマリレw

雑然とした独身男性の部屋。PC画面で何か明滅。


"コピー完了"のサインだ。


「ファイルを盗んだ奴がいるのね」

「コイツのヘリには乗りたくないわ」

「…ん?コルトレーン?」


洗面チェアに乗ったデバイスから流れるジャズ。

音波銃を構えながらバスルームへと飛び込むと…


バスタブの中で死んでいる…恐らくジェイw


「どーやらコイツのヘリに乗る心配はなくなったわ」


音波銃をホルダーに収めると通りでバイクの音。窓から外を覗くとグレナがバイクで走り去る。尻ポケットには音波銃。


「必要なモノは手に入れたってコト?」

「証拠の死体がまた1つ増えたわ」

「またしても後手後手。姉様に叱られそう」


第3章 パパ死す


万世橋(アキバポリス)に呼ばれたフラロの妻は取調室へ。

もはや事情聴取ではナイ。内心、焦る妻。


バスタブの死体の写真を突きつけられる。


「ジェイ・ナレクが死んだわ。もしかして、最後に話した相手は貴女?」

「彼とは、ただの友達ょ」

「フラロとも連絡をとったでしょ。あのね。殺人を幇助したとなれば、貴女の出所は早くてアラ還ょ」


明らかに動揺スル妻。


「待って、フラロに言われたの。やり直そうって」

「あらぁ認めるの?じゃ貴女も脱走を助けた?」

「脱走の話は知らない。ただ、ジェイに1000万払った」


自白スタート。


「発作の誘発剤は?」

「医務官を500万で買収して薬を手配してもらった」

「貴女、オケラでしょ?そんなお金、何処で工面したの?」


スラスラ答える"夫"。


「フラロが月面から約5000万を送って来たわ」

「え。ソレ、どーゆーお金なの?」

「知らない。でも、もっと手に入ると言ってたけど?」


妻は頭をかきむしり、顔を両手で覆う。


「今、どこにいるのカモ知らない。脱獄の後で1度話したキリ。ジェイから追加ボーナスをせびられた時ょ…グレナの家族を誘拐するナンて私は知らなかった。夢にも思わなかったの!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


今宵も捜査本部は眠らない。


「ジェイ・ナレクの検視結果です。ジェイは2日前の夜に射殺されてますね」

「となると、現場で見かけたグレナはシロ?」

「ジェイは、脱獄が成功した後でフラロに追加ボーナスを要求。ソレでフラロに消されたのね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、超天才ルイナのラボ。


「あら。世界洪水教の教会から撤収?」

「ダークマター探究のデータ。ルイナから官邸に返却しといてくれナイ?」

「え。私から官邸に?」


スピアは、大きな箱を続々持ち込む。

数式を立てていたルイナが振り返る。


「ルイナ、OODAループは?」

「行き詰まってる。予測モデルと結果が一致しないのょ。フラロは今頃、グレナーを誘き出してるハズなんだけど」

「十分なデータがあれば、何ゴトも予測可能…ルイナの口癖だったのに」


車椅子のルイナは溜め息。


「スピアのダークマターへの情熱を失うコトも予測出来なかったしね」

「ルイナ、ソレ逆ょ。情熱が私を見放したの」

「バカバカしい。ホントの理由を言ったらどーなの?」


ギクリとするスピア。


「スピアは、ダークマターの発見で、さらに謎が深まるのが怖いんじゃナイ。世紀の大ハッキングと同様、やり遂げてみたら大したコトなかった、と思えてしまうのが怖いんでしょ?」


またまたモニョモニョと口ごもるスピアw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌朝の捜査本部。徹夜で書類に目を通したラギィにムーンライトセレナーダーに変身したミユリさんを連れて訪問スル。


「テリィたん?グレナの足取りなら不明ょ。フラロも。薬を出した医務官は黙秘…ねぇ2人して私の判断を責めに来たの?」

「まさか。リーダーは貴女。捜査方針は多数決じゃないんだから仕方ナイわ」

「検事のミクスにも、そう言っといてょ。この前、寝たんでしょ?」


あのなー。推しの目の前でソレ逝うかな、普通←


「寝てない(よーな気がスルw)!ミクスは、僕"達"を疑ってルンだ」

「テリィたんが女子に手を焼くなんてクスクス…でも、原因は私ょね。当然だわ。私は、容疑者を手放した。そりゃ思うわょ。しかも、テリィたんは寝てるから余計ヤヤこしい。他のヲタクのようには割り切れナイわ」

「誰の話だょ。ソレに寝てない(よーな気がスルw)し!」


ココで神の声に救われる僕←


「ねぇねぇ手がかりゲットょ!OODAループ分析、ソレ自体が問題だったの!」


ラボからアプリで話に割り込むルイナ。大歓迎←


「ソ、ソ、ソ、ソイツは大ショックだなぁ!何てこったー。どーしよー」

「テリィたん、ウルサい。話がわからなくなる。ソレでなくてもルイナは何を言ってるか不明ナンだから」

「ヒドいわ…今回こそわかりやすい例を交えて話すから。先ず、間違っていたのはフラロとグレナの対立関係は、今まで決まったモノだと想定していたコト」


え。違うの?


「でも、家族の救出を望むグレナ。その彼女に報復をしたいフラロ。どこかおかしいの?」

「私も、最初はそう思ったけど、実は2人は違うルールでゲームしてた」

「ゲームのルールが違う?」


段々話がわからなくなって来るw


「例えば、最近流行りのランジェリーバスケの試合でルールを無視してゲームをスルようなモノ。ランジェリーを脱いでヌードでプレイするとか、相手のランジェリーを剥ぎ取った方が勝ち、とかね」

「そりゃ完全に違うゲームになってしまうな。そもそも、スポーツじゃなくなって、ソレは風俗だ(だから何だ?)」

「でしょ?現行ルールでは反則となるプレイばかりを重ねると、ゲームの流れや結果は大きく変わってしまう」


ヌードバスケ!流行りそうw


「げ。今の状況がそーってコト?ランジェリーバスケでボールをキックしたり、相手を脱がせたりしてるワケ?」

「YES。お陰で、統計的意思決定理論に基づき、Xファクターを特定するコトが出来たわ」

「Xウィングファイター?」


瞬時に、全員が魚の死んだ目となり慌てるルイナ。


「あのね!あのね!フラロの目的は、報復のためにグレナを殺害するコトだと思ってたけど違った。私のアルゴリズム分析だと、むしろ生かしたがってると出た。つまり、生け捕りね。なぜ生かしたがってるのか、その理由はワカラナイ。ただ、変数を殺害から誘拐に変えてアルゴリズムを回したら、場所の予測が出来た。今から戦場となる確率の高い場所が特定出来たの。今から出すわね。コレが今後2人が出逢うと思われる場所ょ。スピア、出して」


本部のモニターに映るアキバの地図に赤い囲い込みが出現。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地下アイドル通りの1本、裏通り。パトカーと救急車が集まって、通行は閉鎖。黄色いテープで規制線が張られている。


「不審な車がダッフルバッグを投げ捨てて行ったそうです。因みに、グレナ・ポータの家が襲撃された夜に目撃されたバンと特徴が類似しています」


そう報告しながら、制服警官はバッグを地面に下ろす。

チャックを開けると…中は人質になってたグレナの父w


「人質の1人は殺された。コレは犯人からのメッセージね」


死体の胸ポケットのスマホを抜き、録画を再生すると…


「なかなか見事な捜査だ。まぁワザワザ白昼に遺体を捨てたのだから、嫌でも目につくけどな。私は、ライア・フラロ。今夜のニュースでコレを流せ」


グレナ3姉妹の次女が映る。口のガムテープが剥がされる。


「お姉ちゃん、お願い。私、殺されたくナイ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「コチラは"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"7時のニュースです。痛ましい死体遺棄事件が発生しました。被害者は53才のルイグ・ポータさん。次女ローリさんと共に自宅から誘拐され…」


捜査本部のモニターでエンドレスに流れる画像をジッと見ているヲタッキーズのマリレ。相棒のエアリが話しかける。


「何度見ても同じでしょ?」

「でも、何か手がかりがあるんじゃナイかと思って」

「何か引っかかるの?」


マリレは、過去を振り返る。


「私は…確かに陥落寸前のベルリンに、多くの戦友を残してきたわ」

「その戦友は戦後を生き抜いた?」

「何人かは死に、捕虜になった戦友も心をヤラれてボロボロになった」


マリレは、陥落寸前のベルリンからタイムマシンで現代のアキバに脱出して来た"時間(タイム)ナチス"だ。彼女は国防軍だが。


「私は、地球が冷え固まった頃から秋葉原にいる妖精で、人生そのものが戦場みたいなモノだけど、免罪符にはならないわね…でもね。背景を理解スルのは私達の仕事じゃナイわ。とりあえず、犯罪行為と動機を調べてラギィ達に逮捕させる。ソレが私達の仕事ょ」

「ソレ本心?」

「概ね?」


声を殺して笑う2人…マリレは、フト何かヒラめくw


「何?どーしたの?」

「行為と動機ょ。ヘリパイのジェイは3週間前に億ションの頭金を払って、新車も買ったばかり」

「フラロの妻がジェイに払った報酬の1500万から?」


メイド2人が頭をヒネる、実にアキバ風の景色で和む…


「1500万じゃ全然足りナイんですけど」

「ジェイは知ってたンだわ」

「YES。フラロが大金を手にスル可能性がアルってコトを」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


決定的情報は、アプリ経由でSATO司令部から。


「ラギィ?聞いてる?」

「レイカ?SATOの沈着冷静な最高司令官が何か御用?余り大きな事件にして欲しく無いンだけど」

「ライア・フラロが拷問して殺した異次元人捕虜は"リアルの裂け目"の向こう側の反社会性分子で、SATOが供与した異次元復興費35億を強奪、秋葉原のどこかに隠匿した模様」

「何なのソレ?もしかして、フラロが手にした1500万は35億の1部なの?」


レイカ司令官はうなずく。


「フラロは、35億のありかを吐かせようと拷問を繰り返した。ホントにありかを知ってたかどーかは結局分からズ仕舞いだけど、2日後に捕虜は独房で死に、その時に見張りに立っていたのがグレナだった」

「で、フラロは異次元人捕虜が今際の際にグレナに取り入り35億のありかを教えたと思ってるワケね?」

「そうそう。もし逃してくれたら分け前を弾むから、とか。実際既に手に入れてるカモ」


ラギィ警部は、ポンと手を叩く。


「だから、フラロはグレナを生け捕りにしたいのね。やっとわかったわ!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋警察署(アキバP.D.)


「私は、グレナ・ポータ。投降します」


何と正面玄関から堂々と入って来るw

警備の警官が慌てふためき右往左往←


「な、な、な、な、何か御用ですか?!」

「待て!コイツは連続殺人犯で確かスーパーヒロインだ!」

「そこで止まれ!動けば音波銃で射殺スル!」


たちまち無数の銃口に狙われるグレナ。

慎重に膝を折り頭の後ろで両手を組む。


「お願い。パパに会わせて」


第4章 さよならパパ


万世橋(アキバポリス)の死体安置所は地下室だ。


「たった1度だけパパは罪を犯した。17才の時、年齢を偽り中央即応連隊(CRF)に入った。ハイチやソマリアを転戦。だから、私が月面戦争から生還した時も何も聞かなかった。戦場って何かを知っていたから」

「事情を説明して欲しい。35億のコトは?」

「フラロがかけて来た電話で初めて知った。家族と引き換えに金を寄越せと脅された時に」


死んだ父親を前に自供が始まる。


「で、貴女は知ってるフリをした?」

「YES。さもなければ、みんな殺されてしまう。だから、妹を助けて。2件の殺人も認めるわ。何でも自供スル。次女のローリを無事救出してくれるなら」

「約束は出来ない。今となっては司法取引も無理だけど」


グレナは即答だ。


「構わない。ローリさえ無事なら」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ルイナのラボに最新の"脅迫画像"が持ち込まれる。


"グレナ姉ちゃん。何があっても愛してる"

"ソコまでだ。グレナ、親父さんの死に顔はもう見たか?"

"次はコイツだぞ!"


ローリの首にナイフが当てられ、画像は終わる。


「リミットは24時間ょ。で、背景のノイズを抜き出したらこんな音が入ってた」

「爆音?羽田34R/Wに降りるジェット機?Airbusね?」

「恐らく。でも、わかったのはソレだけ」


画像を持ち込んだラギィ警部は思案顔。ルイナが引き取る。


「羽田便の着陸ルートが近くにあるのなら、騒音予測モデルを使って場所を特定出来るわ。例えば、地質学者がクレーターを作った隕石の形を知りたいとする。クレーターの直径や深さ、形を調べれば、衝突した隕石の大きさや落下速度がわかる。同じ方法で飛行機の音波を分析スルの。飛行機のサイズと速度や録音場所まで分かると思うわ」

「エアルートがわかれば、隠れ家もわかるってコト」

「スピア、明快な解説thank you!早速頼むわ!」


後は超天才とハッカーに頼んでラギィ警部は退室スル。


「そうょ!音波のクレーターょ!クレーターは、ビックバンの証明でもアル。人類誕生と宇宙の神秘を解き明かす鍵ナンだわ。つまり、終わりは始まりに過ぎないってコトね」

「スピア。またダークマターの懐に飛び込む気になった?」

「飛躍した解釈だけど…そうカモょルイナ」


スピアは、ジャージの上下をハラリと脱ぎ捨てる。

下はトレードマークのスク水だ。彼女は本気出すw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


続いて最高検察庁の次長検事室。ミクスは、本棚に向かって調べ物をしているトコロ。無理矢理割り込む。苦手な役だw


「ミクス。ラギィにグレナを釈放スルよう助言をしたのは僕だ。人質を助けるための賭けだった」

「だと思った。ねぇテリィたん。確かに…法律を無視しなきゃナラナイ時ってアルわ」

「助かった。実は頼みがアル」


ミクスは、スラスラ話を先取りスル。


「グレナが協力の見返りに司法取引を持ちかけてるのね?」

「惜しい。持ちかけてるのは僕だ」

「私…何度も犯罪者に甘い顔は出来ないの。コレでも鬼の検察なのょ?」


おぉ脈アリだ←


「大丈夫だ、ミクス。今回だけさ」

「この前もそー言ったわ。ねぇねぇ2件の殺人に自供アリでしょ?難しいわ…でも、あくまで状況証拠だし、アルのは自供だけと考えれば…無理に強要されたコトにして宇宙作戦群での功績を酌量すれば、ギリギリで減刑を望めるカモって、こんな線でどうかしら?」

「スゴい。また頼むょ」


急に"女"になってネチッコい視線を投げるミクス。


「私、検事なのょ…」

「そっか」

「テリィたん。私、未だ何か足りないかしら?」


うん。かなりね←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌朝。徹夜明けのラボから good news。


「ラギィ!奴等の隠れ家が分かった。場所は神田花岡町の再開発地区にある廃ビルょ!」

「ありがとう、ルイナ。SWATは?」

「出動させました!」


急に慌ただしくなる捜査本部。


「待って。私も行くわ」

「グレナ?冗談でしょ?」

「感情的な理由じゃナイ。戦術的に私が必要なハズ。この廃ビルを選んだのは、周囲から孤立してて四方に発砲出来るから。警察のSWATじゃ何処から攻めても失敗スル。ねぇ。そーしたらローリも死んでしまうの」


ムーンライトセレナーダーに変身したミユリさんが尋ねる。


「突入はヲタッキーズょ。でも、何か貴女に作戦でも?」

「フラロに連絡して私が1人で中に入る。1分で交渉を済ませ私が新しい人質になってローリは解放。その後は、突入でも狙撃でも好きにして。爆撃しても構わない。ねぇ。また私を餌に使って!」

「残念だけど、ソレがルールブック上はベストね。ラギィ、ソレでOK?」


防弾ベストを装着しながら敏腕警部が条件付きで許可。


「OK。ただし、フラロは音波銃ナシょ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田花岡町の廃ビルに、バイクで颯爽と乗り付けるグレナ。

シャッターを薄めに開け見張っていたピクニ元宙曹が叫ぶ。


「バイク接近中。単騎!」


グレナは、廃ビルの前でバイクを止めエンジンを切る。


「グレナだ。お迎えに行ってやれ」


ピクニとカルロの2人の宙曹の肩を叩くフラロ。

ドアが開いて、音波銃を構えた2人が出て来る。


「グレナ。ヘルメットを取れ」

「フラロに逢わせて」

「先ず身体検査からだ。いひひ」


ピクニ元曹長が女性らしいラインに手を滑らす間、ニコリともせずグレナの側頭部に音波銃を突き立てるカルロ元曹長。


「OK。丸腰だ」

「中に連れて来い!」

「ホラ、歩け!」


廃ビルの裏側から忍び寄るヲタッキーズ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


背中に音波銃を突きつけられ、廃ビルに入るグレナ。奥の部屋に口にガムテープを貼られたローリを発見。目配せスル。


「おい!手錠して座らせろ…遅かったな、グレナ」

「ちゃんと来たわ。満足でしょ?」

「金は何処だ?」

「ローリを解放して。そーしたら教えるわ」


銃口がラッパ型に開いた音波銃を抜き、裏から忍び寄るヲタッキーズ。台に乗り高い窓から中を覗く。ローリが気づく。


「やっぱり金の隠し場所を知ってやがったか。だから、俺を内部調査部に売りやがったンだな?お前、あの異次元人から死ぬ前に35億のありかを聞いたな?で、独り占めを企んだ。そーだろ?で、金は何処ナンだ!」


エアリが廃ビルの中に潜入。ローリに静かにしてのサイン。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SWATチームの指揮車。ラギィ警部が吠える。


「よっしゃ!踏み込むわよー!」

「配置完了」

「GO!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「フラロ。先ずローリの解放が先。話はそれからょ」

「取引出来る立場か?グレナ、パパさんの二の舞だぞ」

「隊長、敵襲!警察だ!」


次々とSUVがサイレンを鳴らして殺到!

完全装備のSWAT隊員が続々展開スルw


「チクショウ!何もかも終わりだ!全員ココで死ね!」


フラロが叫ぶ。ローリを解放したエアリの目配せ。

グレナが椅子ごと床に倒れる。ソレを合図に突入!


万世橋警察署(アキバP.D.)万世橋警察署(アキバP.D.)!」


ローリを始末しに来たピクニ元曹長をエアリが、SWATを迎撃しに窓際に出たカルロ元曹長をマリレが音波銃で射殺w


「銃を捨てろ、フラロ!お前、1人だ!」

「フン!お断りだ!」

「フラロ、音波銃を捨てるんだ!」


フラロは、床に倒れたグレナの頭に音波銃を突きつける。


「俺を外に出せ。国外に逃亡させろ!」

「行かせるか!諦めろ、お前はもう終わりだ!」

「諦めないから月面戦争も生き延びたんだ!」


突入したSWATの全銃口がフラロに向けられるw


「人質を解放しろ」

「撃って!ムーンライトセレナーダー、フラロを撃って!」

「グレナ?クソ!ヲタッキーズとグルだったのか?騙したな!」


次の瞬間、ラギィ警部が発砲!実体弾がフラロの右肩を撃ち抜く!壁に吹っ飛ぶフラロ。

今度は、フラロが落とした銃を拾ったグレナが壁で肩を押さえるフラロに銃口を向けるw


「よくもパパを!」

「やめろ、グレナ(せっかく減刑の手配してるのにw)!」

「どうせ私は蔵前橋(の重警備刑務所w)行きょ!」


この厄介な現場を収めたのは、ムーンライトセレナーダー…いいや、ムーンライトセレナーダーが連れて来たローリだw


「お姉ちゃん、ありがとう。もう十分ょ」

「コレ以上、亡くなったパパさんを悲しませるな!」

「フフ。刑務所で会おうぜ、グレナ」


主に妹の言葉に音波銃を降ろした犯人だが、フラロの余計な一言を聞いた瞬間フラロの膝を撃ち抜き…僕は頭を抱えるw

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


コレは、ホント、神田明神に誓って"またまた偶然の奇跡"ナンだけど、捜査本部のエレベーターのドアが開き、ローリとセンナの姉妹が出て来ると…連行中のグレナが"いる"。


実は内心とても心配してたけど、ローリから一部始終を聞いたセンナはグレナの胸に真っ直ぐに飛び込み大泣きに泣く。

連行中のグレナは後ろ手に手錠をかけられ身動き出来なかったが、護送中の警官が思い切りグレナを妹達に押しつける。


ローリが抱擁に加わり、泣き声の合唱は一段と大きくなる。

僕達は1つの旅が終わり、新しい旅が始まったコトを知るw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「あれ、ボルデ博士?しまった、ダッジオーブンのチャーシュー麺、1杯足りないや」

「あ、テリィたん。お構いなく。私はベジタリアン」

「テリィ様。暖炉のコトですが、とても良い燃料が見つかったのです!」


ミユリさんは、明らかにハシャいでるw嫌な予感←


「絶対的に環境にやさしい第17世代バイオ燃料。遺伝子組み換えした藻で、御屋敷のアクアリウムで生育スル」

「アクアリウムで藻の生育を?」

「とても地球に優しいのです、テリィ様」


イマイチ素直に喜べナイ。何か裏がありそーだ。


「あれ、スピアは?いないけど…」

「スピアは、謹慎が解けて世界洪水教のシスターのトコロに舞い戻りました」

「え。あのドロップキックのシスター?」


カウンターの中で微笑むミユリさん。


「今頃、教会です。瞑想の儀式をして、心の平安と調和を取り戻すとか逝ってました」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その頃、スピアはロープ際まで追い詰めたシスターに、容赦なく空手チョップを見舞ってるw

同じスク水同士、華やかな技の応酬は延々と続き、深夜遅くノンアルビールの乾杯で終わる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


明け方近く。またまた不粋にもミユリさんのスマホが鳴る。

ミユリさんは羽織っていた僕のシャツを脱ぎ着せてくれる。


僕達は…キスをする。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌朝。マリレは御屋敷でベルリンに残して来た戦友との古い集合写真を出す。

カウンターの上に立ててみる。セピア色の写真の中で、戦友達は笑っている。

 

朝の淡い陽光が、アキバの全てを包み込んで逝く。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"脱走兵"をテーマに、海外逃亡中の伝説の女狙撃走、その妹達、その父、月面戦争を共に戦った戦友の隊長、宙曹達、戦闘ヘリのパイロット、犯罪歴のある脱走兵を追う超天才やハッカー、ヲタッキーズに敏腕警部、最高検察庁の次長検事などが登場しました。


さらに、主人公による次長検事への色仕掛け、御屋敷のエコ化計画などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、コロナ下のハロウィンに沸く秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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