第88話 考察の時間 2
「そう、お兄ちゃんは全然気付いてなかったらしいよ」
「まぁ、そうだよね。普通、テストに集中してて同室の人の顔なんて見ないよね……」
ライから予想通りの答えが返ってきた時、分かっていた事だとはいっても悲しさが湧きあがってくる。
こっちは気付いていたけど、向こうは気付いて無いっていうのは、こんなにも悲しい事なのか……。
結局、ライには私が同じ学校に通っていて、偶然校内でお兄さんを見たと話す事にした。
理由は色々あるけれど、一番は隠し通して1人で考えるよりも、ネクラさんの妹であるライに協力を頼んだ方が効率が良いと思ったからだ。
それに、校内でばったり会った時、私には演技なんて出来そうもないからね。
今回ライに頼んだのは、ネクラさんにそれとなく私の事を聞いて貰う事だった。
前に家に行った時の髪型には気付いていたのか。気付いていたのなら、何で言ってくれなかったのかとか。
それに、今報告して貰ったように、テストの時の同室になった人の事を気にしていたかどうか。結果は……あまり芳しく無かったようだけども……。
「お兄ちゃんがここまで恋愛ごとに疎いって言うのは……正直予想外だね。どう手伝えばいいのか、私にも分かんない」
「ん~。私もだよ。相手に興味が無いんだったら興味を持たせるしかないんだけど……色仕掛けとか絶対無理だし……」
「まぁ、ハイネスは色仕掛けってよりは甘えて落とす方が向いてそうだもんねぇ……」
背が低いので未だに小学生だと間違われたり、そういう趣味の危ない人に声をかけられる事もある。なので、ライの言っている事は当たっている。
だけど、ネクラさんはそっち系の趣味は持っていないし、色仕掛けなんてされたら余計にその人の事を避けるだろう。
あの人は、異性に対しての警戒心がかなり高い……というよりも、色仕掛けなんてしてくる人はかなり苦手な部類のはずだ。
マイさんが前にファンクラブ内でチョロっと言っていたけど、テンションが高い人は少し苦手らしい。
それは、ネクラさん自身があまりテンションが高くないって言うのもあるだろうけど、純粋に性格の合わない人といると疲れるというのもあるだろう。
ネクラさんは普段から私達の何倍も頭を悩ませているはずだ。
その上でわざわざ心労の元――テンションの高い人――を近くに置こうと思うはずが無い。
やむなくそういう人が近くに居る時は、なるべく近くに寄らないようにしているはずだ。
「そうだね。ハイネスの言う通り、お兄ちゃんはテンション高い人は苦手だよ。お兄ちゃんの偏見が入ってるんだけど、ああいう人達ってすぐに恋人をとっかえひっかえするでしょ? それが理解出来ないから無理って言ってた」
「……それ、テンション高い関係あるの?」
「さぁ? でもお兄ちゃんの中では、テンション高い人=恋人と別れてもすぐに別の人と付き合う人。っていう式が成り立ってるらしいわよ? 要するに、浮気者とか、モテる人が嫌なんじゃない?」
「ネクラさんほど人気がある人、私知らないんだけど……」
「奇遇ね。私も知らない」
そういうと、私達は共に苦笑を洩らした。
学校でモテる人なんて、相手がいても高々数人から数十人だろう。
芸能人なら、これが何千や何万といった数になるはずだ。
なら、それがネクラさんなら?
恐らく、今存在している数えきれない程のネクラさんのファンクラブ。そこに所属しているのは、8割ほどが女性だ。
数えた訳では無いので正確な数値は分からないけど、少なく見積もっても数十万人のガチ恋と呼ばれる人がいるだろう。
いや、ネクラさんのSNSのフォロワー数が日本で1番であると考えると、それは過小評価すぎるかもしれない。
モテる人が嫌いっていう人の大多数は、自分がモテないのでそういった人達を悲願でいるだけだ。
だけど、モテる人がモテる人が嫌いって言うのは……なんというか、難儀だ。
「じゃあ、私が遊びに誘うっていうのは、やっぱり無理そうかな?」
「ん~、どうだろ。誘ったら行くんじゃない? 好きになる努力するとか言っておきながら、今のところなんもしてないし」
「それは……う~ん。でも、実は私も好きな人とか出来たことないから、出掛けるって言ってもどこに行けばいいのか分からないんだよね」
「別にどこでも良いんじゃない? 告白する前ならまだしも、告白してるんだからどこ行っても気にしなくていいと思うよ? それこそ、ゲームセンターとか?」
「え、いや~それは……」
新宿周りのゲームセンター、というか、都内のゲームセンターで、私は結構な数出禁を食らっている。
理由は単純で、クレンゲームで乱獲しすぎた為にもう来ないでくれと言われたからだ。
なので、普段行っているお店はかなり小さくてクレンゲームも数台しか無いようなお店だ。そんな所にネクラさんを連れて行くのはちょっと……。
それに、仮にネクラさんがお店を変えようと言って来たら、いきなり県をまたぐ移動をしなければならない。それは流石にありえない。
ネクラさんだって忙しいだろうし、貴重な時間をそんなことで奪う訳にはいかない。
「後、ベタなところでいうなら映画館とかカラオケ? ……ねぇ」
「うん、どっちも無理!」
「だよねぇ……」
お化けが苦手だから、必然的に暗いところも苦手だ。映画館なんて、特にそうだ。
お化け屋敷とジェットコースターの次に行きたく無い場所だ。
カラオケは別に問題無いけど、あの狭い空間で2人きりになるのはちょっとキツイ。
仮にライが来てくれるとしても、緊張して碌に話せないと思う。
「人間より動物の方が好きな人だからねぇ。ほんと、お兄ちゃんってめんどくさ!」
「……前に猫ちゃんとイチャついてるって言ってたじゃん? その写真とか動画、ある?」
「……なに、欲しいの? ほんとに?」
「うん。欲しい……」
「……ほんとに気持ち悪いよ? 幻滅しない?」
「大丈夫……。欲しい……」
ライバル?との差をハッキリ認識しておきたい。
その真意を隠しつつ、私は自分で可愛いと思っている声でライの反応を伺う。
数秒考えた後、ライは今度動画を撮っとくと言ってくれた。
猫だけど、人より動物が好きなのはなんとなく理解出来るので、マイさんよりよっぽど強いライバルになるだろう。
「そう言えば、今ネクラ杯ってどうなってるの?」
「あ~、お兄ちゃんの話によると、プロチームと危ないチームが勝ち残ってて、明日決勝って言ってたかな?」
「あ、危ないチーム……?」
「うん。なんでも、チーム名が完全にヤバい集団だって愚痴ってた。確かネクラ杯の非公式ページに名前が載ってたはずだから、後で見てみれば良いよ」
「分かった。それにしても、優勝したら何をお願いするんだろうね」
ネクラさんは大会前に、優勝者には自腹で賞金を払うと言っていた。
だけど、もうすぐ初の公式グッズの発売があるので、出来る限り優勝者の要望に答えるとも言っていた。
たとえば、サイン入りの公式グッズとかだ。
「ハイネスなら、何をお願いするの?」
「そうだなぁ。ネクラさんと交流する前だったら、ゲーム内で会ってお話ししたいって思ったかな?」
「あ~確かにそうね。プロチームの方は賞金を貰うだろうけど、そのヤバいチームっていうのがちょっと不安要素よね」
「ヤバいチームって、そんなにヤバいの?」
「お兄ちゃんが言う限りね~。まぁ、残ってるプロチームは最低でもプロになれる実力はあるんだし、そこら辺の有象無象みたいなチームには負けないでしょ」
「あはは。まぁ、それもそうだよね~」
その後少しして電話を切った私は、冷蔵庫の中から牛乳を持ってきて、コップに注ぐとパソコンを開いた。
ネクラさんのファンにはいろんな人がいるんだけど、その中のプログラマーの人がネクラ杯の結果を逐一纏めているサイトがあるらしいので調べてみる。
(あった。残ってるチームは……横浜ウェイターズ? ああ、確か、電機メーカーかどっかのチームだっけ。何回か大会で当たったよね)
負けた記憶は無いけれど、腐ってもプロチームなのでそこら辺のチームよりは強いはずだ。
残ってるもう1つのチームがヤバいんだろうけど……。
「ちょ!?」
もう1つのチーム名を見た瞬間、私は思わず口に含んだ牛乳を吐きだしそうになった。
せき込みながら、涙目でもう一度画面を見る。
そこに表示されている名前は、やっぱり見間違いではないようだ。
残っている、ネクラさんがヤバいと言っているチームの名は『ネクラさん攻略同盟♡』という名前だった。
なるほど、ヤバいチームだ......。
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やる気が、出ます( *´ `*)




