第87話 テスト終了
ようやくテスト期間が終了し、2日間の休校となった。
僕達が通っている高校は期末テストの後の2日間は休校となり、テストの3日後にはテストの返却と学年順位が発表される。
学年順位は各学年の廊下に貼り出されているはずだけど僕は見に行くつもりは無いし、どうせ1番上に名前が載っている。
今回のテストは、警戒していた僕がバカだったとつくづく思い知らされる結果になった。
まぁ、やっぱり勉強不足が原因でいつもより時間がかかってしまったけれど、間違っている可能性はほとんどないと言って良い。
今回も僕がここら辺が出るだろうなと予測したポイントから綺麗に出ていたっていうのもあるけれど、仮に数問間違っていたとしても学年1位は変わらないと確信している。
というのも、なぜか今年度は去年に比べて問題のレベルが高かったからだ。
あれでは、うちの学年の人だと各教科の平均点は60点とか70点になるだろう。
「それが普通なの! 私もそのせいで周りから浮くかも知んないじゃん!」
「……だったら、わざと数問間違えるとかすれば良かったじゃん……」
現在、僕は春香に正座をさせられ、リビングに呼び出されている。
今回の”罪名”は、先ほど春香も言ったように試験範囲をぴたりと当てすぎたという事だった。
先生と寝て出題範囲を教えてもらったのかと言われた時は、冗談だと分かっていても『こいつバカじゃないの?』みたいな顔をしてしまった。
そのせいで、僕は既に顔に一発貰っている。
いや、そんなありえないような冗談を言う方にも責任があると思うんだ?
それに、高得点を取って周りから浮くのが嫌なのなら、数問わざと間違えればいいのだ。
夏休みの宿題で答えを写す場合、全部を正解してしまうとバレる可能性がある。なので、いつもの自分の成績と照らし合わせ、上手い感じに調整する必要があるのだ。
言ってしまえば、わざと間違えて、答え合わせしたと認識させる為に赤ペンで正しい答えを書き込む。とかね?
(いや、今はそんなくだらない事考えてる場合じゃないか……)
夏休みの宿題なんて碌にやった事の無い僕がこんな事を言っても仕方ない。
それよりも、今は目の前の春香だ。
これ以上殴られないようにする為に、必死で逃げ道を考える必要がある。
「お兄ちゃんの方はどうだったの? 今回のテスト」
「……まぁまぁだと思うよ。春香の方はどうだったか分からないけど、こっちは結構レベルが高かったような気がするし?」
「……なんで疑問形な訳?」
「だって、去年と比べると応用問題の数が多くなってたし。まぁ、僕にはあんまり関係ないけどさ」
「……あっそ」
応用問題はその問題の基礎と柔らかい頭さえあれば誰でも解ける。いや、基礎を徹底的に叩きこんでいればある程度なんとかなるだろう。
進学校と言っても、平均点が低いのは学校の授業では基礎部分をサッと教えてすぐに応用問題に行くからだ。
進学校だから授業内容が難しいのは仕方ないかもしれないけど、応用問題を永遠とやるよりも基礎をしっかりしないとダメだと思うんだよね、僕は。
かくいう僕も、今年から始まった日本史は興味が無かったので試験範囲を丸暗記して、更に問題が出そうな部分をもう一度重点的に暗記しただけなんだけども……。
世界史だったら結構自信はあるけれど、日本史にはまるで興味が無いんだよね。
なにせ、ESCAPEは基本世界の偉人からキャラが作られているので、日本のキャラからゲームのキャラが作られるのはかなり珍しいのだ。
キャラのモデルとなった人物のことを調べる内に、勝手に世界史は学べる。
僕が世界史を好きな理由はこれだったりする。
分かりやすく言うなら、探偵はあの世界的に有名なシャーロックホームズをモデルに造られているし、女王はマリーアントワネットがモデルになっている。
唯一日本のキャラと言えば、子供側にいる僧侶とか鬼くらいだ。
どっちもかなり抽象的な物なので、日本をモデルにしているというのは諸説あるけども……。
「それよりさ、なんか変わった事無かった? 今回の試験で」
「……いつも唐突すぎるんだよ。もう少し文脈の繋がりを――」
「殴られたく無ければすぐに答える!」
拳を握りしめた春香を前に、それ以上なにかを言うほど僕は愚かではない。
大体、春香はいつも何の文脈も無く唐突にこういった事を言ってくる。
語彙力が乏しいという証明なのかもしれないけど、僕がそれを言ってしまうと体に痣が増える可能性があるので、これ以上余計な事は考えない方が良いだろう。
「……と言ってもねぇ。変わった事か……」
「お兄ちゃん、いつも別室でテスト受けてるんでしょ? 今回、同室になった子がいたんじゃないの?」
「あ~、そう言われたら確かに……って、なんで春香がそのこと知ってるの? 僕、話して無いよね?」
「……なんでも良いでしょ。で?」
「で? って言われても……」
確かに、今回はいつも1人でテストを受ける部屋にもう1人別の生徒がいた。
チラっと横目で見ただけだけど、背丈から考えれば1年生っぽかった。
教室には他にもたくさん席があったはずだけど、なぜか僕の右隣に座って、チラチラこっちを伺っていたような気がする……程度かな。
向こうがこっちを2年生だと知っているはずが無いので、答えを覗こうとしてたのではなく自分以外に別室で受けている人が珍しいから覗いていただけだと思って無視していた。
仮に先生に僕が2年生だと言われていたとして、僕はあの時点でテストの半分は終わっていたので、カンニングしてもほとんど意味は無かっただろう。
「……それだけ?」
「……それだけって言うのは?」
「いや、1年っぽかったって言うのと、お兄ちゃんの方をチラチラ見てた気がするって言うのだけ?」
「そうだね。強いて言えば、こっちを覗いているって言うのは僕の自意識過剰かもしれないけど……」
「……はぁ。さいですか」
なぜか呆れたような、残念そうな春香は、それ以降腕を組んでうーんと唸っていた。
僕は春香が許してくれるまで自室に帰る事は出来ないので、その様子を怯えながら見ていた。
春香の考えがまとまった後、僕が殴られない事をただただ祈る。
「一つ聞くけど、お兄ちゃんはその人の事どう思ったの?」
「……はい? どう思ったも何も、顔もろくに見てないのに何の感情も湧く訳ないじゃん」
「……そりゃそうか。じゃあ、ハイネスが前に家に来た時、あの子が髪型変えてたのは気付いてた?」
それは恐らく、ネクラ杯で僕らが敗退した翌日のことだろう。
確かにあの時、ハイネスさんは学校の制服を着て、髪を後ろで纏めていた。
当然気付いてはいたけれど、それを指摘して良い物なのか分からなかったので黙っていただけだ。
「……お兄ちゃんってさ、アニメ見てたって言ってたよね? ジャンルは?」
「ん~、シリアス系? 探偵ものとか、たまに戦闘系のやつ見てたかな」
「恋愛ものは?」
「興味無いのに見る訳ないじゃん。たまにそういう描写はあったりしたけど、ふ~んくらいに思って見てたよ」
「……分かった。帰って良し」
「はい......」
なぜか再び呆れられた僕は、その真意が分からず大人しく自室へと戻った。
部屋の扉を閉める瞬間、春香が誰かに電話している声が聞こえたけれど、特に気にすることなく扉を閉めた。
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