閑話 ライの期末テスト
― ライこと源春香は、目の前にある期末テストの1教科目、数学の問題用紙を見てポカーンと口を開けていた。
その理由は、つい昨日兄が「ここら辺は出るんじゃないかな?」と言っていた所がばっちり出題されていたからだ。それも、最初の1問目から5問目までだ。
流石にテストが始まる前なのであまり問題用紙を凝視するわけにはいかないけれど、それでも呆れるには十分すぎた。
(なんで自分が勉強してない所なのにそんなこと分かる訳? ほんと、バカじゃないの?)
いや、出題される問題をここまで正確に当てられるのはお兄ちゃんの頭が良いってことなんだけど、それでも、あの人はバカだ。
こんな事を平然としておいて、今回は学年1位取れないかもとか言ってたんだし。
「開始してください」
教室の前に居る試験官の先生がそう言った瞬間、私は答案用紙に自分の名前を書いて早速問題を解き始めた。
お兄ちゃんの教え方が妙に分かりやすいのと、絶対テストに出ると言われた所を重点的に勉強していたおかげで、面白いくらいスラスラ解ける。
(ていうか、今のところ全部教えてもらったところなんだけど……)
既に開始から10分しか経っていないが、50問中25問が解き終わり、その全てが今までお兄ちゃんに教えてもらったところからの出題だった。
10分でここまで解けるのだから、お兄ちゃんが2時間で8教科解ける理由が分かったような気がする。
ここまで綺麗に出題範囲を当てられたら、そりゃサッサと解き終わるはずだ。
家ではよく先生達の事をバカにしているけれど、これは先生がどうのというよりも、お兄ちゃんがちょっとおかしいんだろう。
よく、山を張ってその部分だけ勉強するといった手法をとる人がいるだろう。
私も、中学まではその手法を取っていた。
今ほどではないけれど、お兄ちゃんに勉強を見てもらい、自分でどこら辺が出るかと予想を立て、その部分を重点的に勉強する。
その予想が当たれば学年でも上位に入ることが出来たし、全く見当違いだったら学年でも下の方の順位を取っていた。
というよりも、一般的な生徒はこれが普通だろう。
だけど、お兄ちゃんの勉強方法は全く違った。
無駄を一切なくし、過去どんな問題が出題されていたとか、それをどこからか引っ張り出し、それから傾向と対策を立てている。
そこから独学で勉強し、学年1位を取るという、まさに化け物だ。
多分、学校の勉強だけで言えばハイネスでもお兄ちゃんには勝てないだろうという妙な自信がある。
(私の考えは、やっぱり間違ってなかった……)
学校の成績は別にどうでも良いけれど、一度でいいから学年1位を取ってみたい。密かにそう思っていたのだ。
それに、全国でも有数のこの学校で学年1位を取るのはかなり難しい。だから余計に、その栄光を掴んでみたいのだ。
お兄ちゃんが引っ越すと言ってきた時、咄嗟について行くと言ったのは、やはり正解だった。
来年は世界大会に出ているはずなので勉強どころじゃないかもしれないけど、これなら3年間で1回くらいは学年1位を取れるかもしれない。
(そう言えば、教えてないところが出ても殴らないでって言ってきてたけど……あれはなんだったんだろう)
勉強を教えてもらったというのに、なぜ私が殴ると思っているのか。
別に100点を取りたいと言ってるわけじゃなくて、単純に学年1位を取りたいと思っているだけだ。
お兄ちゃんは知らないかもしれないけど、この学校では全教科で8割強正解していれば学年1位になることが出来る。
お兄ちゃんは学年の順位表を見て無いらしいけど、私はこの学校に通っている2年生のSNSをいくつか知っている。
そのうちの何人かが、去年の期末テストの順位表を晒していたのだ。
もちろん名前は隠してあったけれど、学年1位の人が800点満点。その次が670点だったのだ。ついでに、3位の人は665点だった。
これを見ても、やっぱりお兄ちゃんがおかしい事が分かる。
なんでこの学校で全教科満点を取れるのか、本当に意味が分からない。
その人のSNSでも、冷静に意味が分からないとか、本当に全国有数の進学校なの?とか、そんな声が上がっていたし……。
(って、終わったんだけど……。なにこれ)
そんな愚痴を考えながら問題を解いていると、気付いたら答案用紙がすべて埋まっていた。
まだ、テストが開始して20分しか経過していない。
一応見直しはするけれど、凡ミスとか考え違いをしていなければ全て正解だろう。
なにせ、数学に関しては苦手教科だったので一番勉強時間を割いて貰ったのだ。
そして、出題された問題は全てお兄ちゃんが言っていた通りの所から出題されていた。
「……はぁ」
見直しが終わった春香は思わず深いため息をつき、そのまま机に突っ伏した。
その様子を見ていた試験官の男教員は、机の下で携帯でもいじっているのではと思いこみ、さりげなく春香の元へと歩みを進めた。
そして、その答案用紙がすべて埋まっている事に瞠目し、答案用紙の名前を見て呆れたように頭を掻いた。
この学校1の問題児の妹が今年入学したと言う事は、この学校の教師陣からすればかなりの懸念事項となっていた。
幸い妹の方は兄と違って素行も良く、学校内での態度は兄と違って聖人のようだと評判だ。
更には空手の全国大会にも出場経験があると、かなり期待が寄せられていた。
だが、本質はあの問題児の兄と同じなのだと、試験官の男は確信した。
なにせ、今年と期末テスト。特に数学は、かなり難しい問題が出来たと子供のようにはしゃぎながら同期(数学の教師)が言っていたからだ。
去年は散々だったので、今年は思いっきり平均点を下げてやろうと意気込んでいたにも関わらず、30分足らずで全問解くのはちょっと理解しかねる。
残りの試験時間の20分、この少女は何をして過ごすのか少し興味がある。
まぁ、流石に仕事があるのでずっとここにいる訳には行かないのだが。
(あの兄あってこの妹ありってか……。こりゃ、あいつ慰めるのは確定か?)
この試験が終わり次第財布の中身を確認しておこうと考え、男は黒板前の椅子へと戻って行った。
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やる気が、出ます( *´ `*)




