第7話 友好会
子供陣営の抽選も終わり、一段落したところで、これでもかと拡散されている講習の件に対応する。
対応すると言っても、結果が出たと報告している人にお祝いと改めての感謝を送るだけだが……。
だけど実際、なにもしないよりは周りからの好感が上がるだろう。
動画の件に関しては、これから大会があるのにわざわざ周りのレベルを上げる必要は無い。
後で色々言われないように、仲間となったメンバーに個別で指導してほしいと言われても断るつもりだ。
有名だからこそ、炎上なんかには気を付けなければならない。
有名という立場に甘んじて炎上を起こしていると、今の時代どうなるか分からないのだ。
真偽は不明だけれど、数年前に別のゲームの上位プレイヤーがチート行為で炎上し、数えきれない誹謗中傷を浴びて自殺をしたと聞いたことがある。
人よりメンタルが弱いのだから、そこら辺は細心の注意を払わなければならない。
1度本気で自殺を考えたことがあるとはいえ、今は死ぬつもりなど毛頭ないのだ。
それにしても、今回は本気で挑みたいと銘打ったおかげか、チームメイトの半数以上がランキングで名前を見たことがある人だった。
鬼陣営には今話題の女王と、過去の累計ポイントランキング1位のAliceさんが入っている。
これだけのメンツがいれば、鬼が負けることはまずないと考えて良い。
問題は子供陣営だったけれど、これも過去のランキングで上位に食い込んでいたヤバい人達がウヨウヨいた。
賞金の割合は今日の夜全員で話し合うことになるけれど、多分いつもの感じだろう。
〖では、今日の夜、チームメイトになった方は一時的に私のギルドへ加入して貰い、いつもの友好会を行います。
強制ではありませんので、参加するかどうかは皆さんにお任せします。
友好会は22時から開始です〗
賞金の分け前を話すとか正直に言うより、友好会と銘打った方が良いと思い、いつもこの手法をとっている。
まぁ、初めての顔合わせという事もあって、本当に友好会みたくなるのだけれど、人見知りの晴也にとっては、必ずしも良い会になるとは限らないのだ。
――21時 ギルド前
「さすがに早すぎませんか……?」
晴也は、念のため集合時間の1時間前からログインしていた。
しかし、フレンド欄からそれを知ったのか、1番初めにギルドにやってきたのは、昨日も顔を見たあの少女だった。
キラキラした羨望のまなざしを晴也に向けているその姿は、まるで彼を神だとでも思っているかのようだ。
「何回か応募していたんですけど、初めて通ったんですよ!? もう嬉しくて!」
「そうでしたか……。それにしても、1日で10段まで上がってくるとは思いませんでしたよ」
「いや~。実は、褒められたのが嬉しすぎて、そのままランクマッチに潜ってたら連戦連勝で楽しくなっちゃって!」
「それは、良かったですね……」
とても無邪気にはしゃいでいる目の前の少女の姿を見て、晴也は心の中でため息を吐いた。
いや、可愛らしくはある。可愛らしくはあるけれど……人見知りの晴也にとって、こんなにハイテンションの人を長い時間相手するのはかなり辛いのだ。
確かに話し相手は1人ほしいと思っていたけれど、これでは少し……。
「じゃあ、とりあえず中に入ってもらって良いですか? 他の人がいつ来るか分かりませんし」
「はい! お邪魔します!」
「あと、できればテンションをもう少し下げて貰って良いですか……? 私、あんまり人と関わったことが無いので……」
「あ、はい! 了解です!」
いくら神(勘違い)と思っている人を前にしても、流石に本人からそう言われたら従うしかないのか、その少女はそれ以降、あまり大げさな態度はとらなくなった。
それでも、他の人が来るまでの40分、彼にとってはひたすら質問攻めにされるという苦行を課したのだが……。
全員が揃ったのは集合時間の10分前だった。
晴也のギルド内にいるアバターの中には、彼が嫌いな種類の人は1人もいなかった。
各々が思い思いの服を着て、思い思いの装飾品を見に着けている。
男女の割合は少し男が多めだけれど、それでも7対3くらいだ。
しかし、晴也のように訳のわからない民族衣装を着ているアバターは1人もいなく、晴也の思い通り差別化出来ていることを象徴している。
「では、みなさん揃いましたので、始めたいと思いますがよろしいですか?」
『はい~』
何人かからそう言われ、晴也は少しだけビクッとしながらも司会を務める。
さっさと分け前の話をする程常識が無い晴也ではない。まずは、各々の自己紹介からだ。
幸いにも、全員時間はあるようなのでゆっくり行こう。
大会中は、試合中常に持っている携帯に、通話とチャット機能が追加される。
着信画面を見ずとも、声だけで誰だが判別出来る程度には味方を覚えておかなければならない。
それをしているかしていないかで、大会での勝率は大きく変わるのだ。
「じゃあ私から……」
――30分後
全員が使っているキャラと名前を紹介し終え、数分の間自由に喋ってもらった結果、いくつかのグループが出来る形となった。
グループと言っても、話が合う人同士が集まっただけであって、高校等のカースト制度的な物ではない。
・過去のランキング上位者が集まったグループ。
・元々面識のあったグループ。
・初対面だけど、趣味等で通じた人のグループ。
・ネクラのファングループ。
そして、馴染めず1人になってしまった人が1人という形だ。
無論最後の1人とはネクラ本人である。
(いつものことだけど……なんでこうなるんだろう)
こういう時、自分のコミュニケーション能力の無さにガッカリする。
家族が相手なら、それこそ優位に立ちまわれるんだけどな……。
そんないたたまれないネクラの姿が、ファンの間では可愛いと評判なのだが、そんな事実を彼が知ることなど無かった……。
「じゃあ、早速だけど大会について話しても良いですか……?」
『どうぞ〜』
「なら、一番大事な話から。一応聞いておきますが、大会に参加するのが初めてって人はいますか?」
大会に参加するのが初めてだった人がいる場合、やることが格段に増えるのだ。
まず、大会の内容についての説明。そして、オーソドックスな賞金の分け方。さらに、カスタムで大会と同じ設定にして他のチームと戦わなければいけない。
最後のやつは、初めての人がいなくともやる人はいる。しかし、単純にこっちの手札を他のチームに晒すことになるので、やらない方が良いのだ。
まぁ、初めてがいきなり大会ですと言われるより、手札を晒そうとも慣れておいた方がいいんだけど……。
床に座っている23の内、手を上げたのは1人だった。
流石に8段以上の人を募集しただけあって、初めての人はそこまで多く無いらしい。
そして、その1人とは……
「マイさんですか。確かに、昨日まで7段でしたからね」
「そうなんです。迷惑掛けて申し訳ないです……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。皆さん、マイさんのことは……?」
「知っています。今日の昼、ランクマッチでボコボコにされました」
そう答えたのは、子供陣営の現ランキング5位のトウモコロシさんだ。
その名前の由来になったであろう野菜をモチーフにしたユニークな服を着ている。
ていうか、粒みたいな物まで付いてる服なんてどこで買ったのか……。
「私も知っています。1度仲間になったんですけど、1人で10人近く捕まえられて引いた記憶が……」
次に答えたのは、鬼陣営現ランキング53位のAliceさんだ。
魔女の帽子を深く被っており、ローブのような物まで身に着けている。
さすがに杖までは持っていないが、一見すると魔女にしか見えない。
さらに言うと、身長が低いせいでハロウィンにお菓子をねだりに行く子供のようにしか見えない。
まぁ、SNSを見ている限りでは晴也より年上なので、そんなことは口が裂けても言えないのだが……。
「他の皆さんはどうでしょう? 知っていると考えて問題無いでしょうか?」
『はい』
「じゃあ、マイさん。大会の賞金についてだけど、分ける方法を説明しますね? 他の皆さんも、疑問があれば受け付けますよ」
今回の大会の賞金は2400万円だ。ESCAPEを運営している会社が主催している大会の為、金額は少なめだけれど、それでも1人100万円程度は貰える計算だ。
しかし、普通に1人100万を分け与えるほど、この界隈は甘く無い。
賞金を取った場合は、もちろん24人全員に分配されるが、試合後の会議によって、その人の活躍度に応じて貰える金額が決まるというシステムが一般的なのだ。
要は、全く活躍していない人と、もの凄く活躍した人。
極端だが、この2人が同じ額しかもらえないのはどうなのかということだ。
活躍度を決めるのはチーム全員なので、自分1人が活躍したと騒いでも、チームメンバーが認めなければ意味がない。
その反対もしかりであり、役に立てなかったと自虐的になっても、チームメンバーがその頑張りを認めれば分け前が増える可能性がある。という訳だ。
「分からないところはありますか?」
「いえ。問題ありません!」
「良かった。他の方も大丈夫そうですか?」
『問題無いです!』
全員からの承諾を経て、分け前の話はこれきりということになった。
誰だって、手に入るか確定していないお金の話を長々とする気は無いのだ。
ということで、その日は週末にまた集まろうということでお開きになった。
余談だが、晴也のギルドメンバーの表示欄が2桁になるのは、大会のある時だけだ。
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やる気が、出ます( *´ `*)