第82話 答え合わせ
日本予選でもっとも注目されていたと言っても過言では無いネクラのチームが、ネクラ杯2日目にして敗北したというニュースは、瞬く間に広がった。
世間は驚愕と、ネクラに対して「何かあったのか」と心配の声を寄せていたが、チームメイトやネクラ本人は特段気にしている様子は無かった。
「ていうか、ここまで反響あるとは思わなかったよ……」
珍しくリビングで寛ぐことを許された僕は、いつも食事するテーブルにパソコンを置いて、ESCAPE関連の記事を見ていた。
いや、寛ぐことを許されたと言うか、後数分もすれば来客があるので、ここに居ろと言われたんだけども……。
「当たり前でしょ。ネクラのチームが負けたってんだから、もう数日はこの騒ぎ収まらないわよ」
「……さいですか」
結局、あの後僕達に勝ったチームは僕らの次に戦った相手に負けていた。
そのため、そのチームを取り上げている記事は少なく、むしろネクラの体調を心配する人が大勢いたという訳だ。
酷い人になると、ネクラのチームに敵チームの内通者がいて――みたいな、デマ情報を流していたりする。
まぁ、そういう人には誰も反応していないけどさ……。
ちなみに関係無いけれど、春香の欲しい物リストから買わされた物は、無駄に高い加湿器だった。
美容とか興味なさそうなのに、なんで加湿器なんて買ったのか。
まぁ、意味も無くブランド品を買い漁るよりマシだけどさ……。
「ねぇ、やっぱりゲーム内じゃダメなの? どうも、現実であの人に会うのは――」
「あのさ、当日に予定キャンセルするとか最低だよ? ……いや、私に何されても良いなら、今から自分でそう連絡したら?」
「……はい、ほんとすみません……」
ダメ元で言ってみた結果、なぜかマジギレ寸前になった春香の態度に怯えつつ、僕は逃げるようにパソコンへと目を向けた。
そこには、ESCAPE関連の記事とは別に、ハイネスさんとのメッセージのやり取りが表示されている。
試合が終わった直後メンバーに軽く謝った後、春香が怖かったのでさっさと現実へ逃げた結果が今の状況なのだが、まぁ、自業自得だ。
〖お聞きしたいことがあるので、明日お部屋に伺ってもよろしいですか?〗
〖ゲーム内では、ダメですかね?〗
〖そうしようかと思ったんですが、せっかくなのでお邪魔させてください!〗
そのメッセージを見て、改めて深いため息をつく。
僕が試合後もいつものようにダラダラしていたら、ハイネスさんもわざわざこの家に来る必要は無かっただろう。
ゲーム内ではアバターを見慣れているので何とかなるが、現実のハイネスさんはまだ見慣れていないのだ。
要は、人見知りが発動して上手く話せるか自信が無い。
ゲーム内じゃ僕のアバターはめちゃくちゃ怖いラスボスのような格好をしているのでまだギリギリ誤魔化せる。
だけど現実ではそうはいかないので、人と会うのは精神的にかなり頑張らないといけない。
「ハイネスさんが聞きたいことっていうのも、ある程度予想はつくからメッセージ上だけでも良かったんだけどなぁ……」
「好きな人に会いたいってだけなんじゃないの? どっかの誰かさんは忘れてるかもしれないけど、ハイネスはお兄ちゃんのことが好きみたいだし~?」
「……独り言にいちいちプレッシャーかけないでよ……」
ボソッと呟いた一言ですら許されないのは勘弁してほしい。
この圧から解放されるには、ハイネスさんがこの場に到着する必要があるけれど、ハイネスさんが来れば僕は極度の緊張に襲われるだろう。
八方ふさがりとは、まさにこの事だなぁ……。
そんな呑気なことを考えていると、正面玄関のインターフォンが鳴り、来客が来たことを告げる。
相手はもちろんハイネスさんで、すぐさま建物内に通される。
「良い? 恥ずかしい態度取らないでよ? ピシッとして!」
「……はい」
「はぁ。なんでこんな人が好きなんだか……」
こんな人で悪かったね。これでもあなたの兄なんですけども……。
そんなことを心の中で愚痴りつつ、ハイネスさんが部屋のインターフォンを鳴らすまで大人しく待っておく。
「お邪魔しますね~」
可愛くぺこりとお辞儀をしながら入って来たハイネスさんは、なぜか学校の制服を着ていた。
紺色のピシッとしたブレザーと、その胸元には金色の刺繍が入っている。
同じ色のスカートは少し長く、春香の物と比べるとさらに長く感じる。
さらに、前に家に来たハイネスさんは髪を結んではいなかったはずだが、今日のハイネスさんは後ろで纏めてポニーテールにしている。
アニメでよく見る、運動部の子みたいで少し可愛い。
「……何で制服なんですか?」
「あ、ああ。気にしないでください。ちょっと試験の件で呼び出されちゃって、その帰りに寄らせていただきました」
「そうですか……」
以前と違う髪には触れた方が良いのか。それとも触れない方が良いのか。
僕にはそれが分からないので、一旦無視だ。
制服も春香のやつと似ている気がするけれど、そんなにジロジロ見たことが無いので確信が持てない。
まぁ似てたとして、だからどうしたって話だけどさ。
「それで、聞きたいことというのは?」
「はい! 昨日の試合で、ネクラさんがわざと負けたんじゃないかと思ってるんですけど、その理由が分からなくて!」
「やっぱりその件ですか……」
まぁ、ハイネスさんが浜辺で苦悩しているところを(幽霊になって)近くで見ていたので、大体そんなところだろうとは思っていた。
やはり、昨日さっさと帰ってしまったせいでこの事態に陥ったらしい。
僕の予想が外れていて、ゲームとは全く関係無いことだったなら、まだ現実逃避できたんだけども……。
とりあえず春香が座っているソファへと腰掛けてもらい、僕はテーブルの方から椅子を持ってきて近くに座る。
春香の横に座るなんて自殺行為なので、どれだけハイネスさんに勧められても座る訳にはいかないのだ。
「それで、昨日の件ですよね。まぁ、ハイネスさんなら多く説明しなくても良いと思いますが……。要するに、僕の考えたアバター設定は初見殺し性能が高かっただけで、対策しようと思えば容易だったというだけです」
「……なるほど。対策されて、索敵の能力か何かを持ちこまれたんですね? それで、勝てないと判断したと」
「まぁ、打開策自体はありましたけど、相手に自分を見くびらせようかと思いまして……」
「私も最後はその案を採用したのでそれは分かりますけど、なんでネクラさんは索敵を躱すことが出来たんですか?」
「……本題はそこですか」
僕がそういうと、ハイネスさんはニコッと微笑んで肯定する。
索敵の能力を持った鬼が居たというのに、隠密部隊の僕がなぜ捕まっていないのか。それを聞きたいのだろう。
まぁ、ハイネスさんはチームメイトだし、春香もチームメイトだ。話してしまっても問題は無いだろう。
「隠密部隊の人達と頻繁に連絡を取って、鬼の位置と移動する場所を導きだしたんです。後は、逃げるのではなく鬼に近付いて行けばいいだけです。まぁ、多数の犠牲の上に成り立つ作戦なので、普段の戦いでは使えませんけど」
「……それをする目的は?」
「1番は、僕自身を発見させないことですね。ご存知の通り、僕は子供全体の指揮を執っているので、1番捕まってはいけない位置です。なので、捕まらない為の訓練と言いますか……。確かにあの場でやる意味はありませんでしたが、試練の発生からすぐに負けてしまうと、強制試練での敗北を疑われる可能性があったので」
「……やっぱり、あの場では私達に負けてほしかったんですね? 勝ち目が無いというのはもちろんのこと、大会をスムーズに行う為に」
「そういうことです。まぁ、ハイネスさんが勝った場合はまた別の手を打っていましたし、気付いてくれるだろうと信用してました」
ハイネスさんが勝った場合には、囮役と隠密役の役目を一時的に取り替えて、索敵班にはいつもより甘めに索敵してもらうようにしていただろう。
要するに、隠密役として隠れている人達を餌にして、囮役の人たちに逃げてもらうように指示を出したという事だ。
まぁそれでも、半数以上が囮役に変わることになるので勝率はかなり低くなっただろうが……。
「なるほど……。では、今後はどうするつもりなんですか?」
「そうですね。一旦大会が終わるのを待ちながら、新たな策の構築を進めますよ。それと並行して、この大会に参加している人の、相手チームについての記事を見つつ、その特徴なんかを纏めるつもりです」
「……お1人で、ですか?」
「まぁ、私もテストはありますけど、それくらいなら何とかなりますよ」
「そういうことじゃないんですけど……」
なんで呆れられているのか分からないけれど、僕としてはこれでも最低限しか出来ていないと考えている。
勉強とかはこの際どうでも良いので、海外のチームについてサッサと検討を始めたいのだ。
ハイネスさんや春香が化け物と呼んでいるのも気になるし、その辺の情報はアバター戦についてザット調べた時にチェックしただけなので、もう少し調べておきたいのだ。
「ネクラさんは、キツくないんですか? あの情報を纏める作業……。私も真似してやってみましたけど、ハッキリ言って苦行ですよ、あれ」
「苦行ですか……。まぁ、僕はしっかり纏めるというよりは、自分が分かる範囲でメモをとっているので、そこまで辛いと思ったことは無いですね。ほら、授業とかでもそうじゃないですか? どうでも良いところをダラダラノートに写していたら疲れますけど、大事なところだけメモすれば、そこまで辛く無いでしょ?」
「……な、なるほど? あの、参考のために、どんな感じで纏めているのか、見せて貰っても良いですか?」
減る物じゃないし、ハイネスさんにここ2日で纏めた情報を見せる。
まぁ、ほとんど子供側から見た鬼の対策なので、ハイネスさんにはあまり参考にはならないと思うのだけども……。
「......ねぇお兄ちゃん、これ、本当に大会のたびに毎回やってるの?」
「うん。やってるけど、それが?」
「……あっそう。別に……」
なんか、若干引かれている気もするけどまぁ良いや。
だって、これしないと負ける可能性が高くなるんだからするのは当たり前じゃん。
今回は試合後にやってるから、いつもより詳しくなってるってことは考慮してほしいけどね。
その後1時間程ハイネスと話した晴也は、春香とハイネスが遊びに行くというのでさっさと部屋へ戻り、情報の入力を再開した。
彼が2人の本心に気付くことは、恐らく一生無いだろう。
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やる気が、出ます( *´ `*)




