第77話 ネクラ杯1日目 終了
無事に作戦がハマり、晴也達のチームが勝利した所で1日目の試合は終了した。
本来晴也達はあと1試合ある予定だったのだが、その対戦相手のチームが未だ決まっていないのだ。
引き分けが2回続き、今から3回戦目という報告があったので、晴也達のチームの今日の試合はこれ以上行われることは無い。
こういうことはゲームの使用上良くあることで、引き分けが何回も続く場合を考えると、先に勝ち上がったチームの次の勝負は翌日へ、ということになるのだ。
そのため晴也達は少し早く解散し、各々が現実世界へと引き上げて行った。
「はぁ~、疲れた……」
部屋に戻ってきた晴也は、人知れず大きなため息をついた。
ライが自分の妹だと知ったあの日から、やんわりとプレッシャーをかけられることが増えたのだ。
それに、周りには当然兄妹だと明かしていないので気付かれないようにうまく立ち回る必要がある。
春香にそんな器用な真似は出来ないので、晴也が春香のミスを本人に気付かれないようカバーしているのだ。
(もうやだなぁ……)
今日子供が負けることは無かったけれど、毎試合負けたら許さないというプレッシャーがあるのは少しキツイ。
それに、ゲーム中はライにも偉そうに指示を出さないといけないので、仮に負けた場合は欲しい物リストの購入と並行して暴力という最終手段に訴えて来てもおかしくない。
豆腐メンタルの僕にとって、それはかなりきついのだ。
「はぁ……。こんなことしてる場合じゃないか……」
しばらく現実逃避した後、学習机の上にあるパソコンを起動する。
トーナメント表の進行は新しく買ったパソコンの方で問題無く行えているので、今からするのは別のことだ。
それは、今回の大会を通して見えてきた課題や、今後相手がどのような対策を取ってくるのかなどの想定。そして、その対策をどう潜り抜けるかの作戦を纏めるのだ。
理論上隙がないと思っていた作戦だったが、実践してみてやはり色々課題も見えて来た。
そして、今回の大会を通して少なからず自分達のチームの情報は出て行くだろう。
試合相手についてのコメントは別に制限していないので、ネクラのチームがどんなふうに戦ってきたのか、それは上位プレイヤー間で必ず共有されるだろう。
そして上位プレイヤーであれば、数日の内に対ネクラチームの対抗策も編み出してくるはずだ。
普通の大型大会であればそこまでするプレイヤーもあまりいないかもしれないが、今回は世界大会だ。
日本予選にはもちろんプロも参戦するだろうし、本気で勝ちに来るチームもかなり多いと予想される。
さらに言えば、そういうチームにとって1番の障害となるのは恐らく僕達のチームだ。対策をしないという方がおかしいだろう。
なので、その対策案を予想した上で、更にその対策案を対策する案を考えるのだ。
こうすることで、相手がこちらに対応してきた時、指示が出しやすくなる。
試合中に考えるのと、試合前に考えておくのとでは対応の速さに嫌でも差が出る。
その差が勝負を分けることだってあるのだから、そこら辺は指揮官を務める者の責務として最低限やっておかなくてはならないだろう。
ヘッドホンで音楽を流しつつ、ついでに今日戦った相手に対しての分析も入力しておく。
そうすることで、日本予選で同じ相手と当たった時に対応しやすくするのだ。
これは、相手の段位に関係無く必ずしておく。じゃないと、今回大会を開いてまで実験した意味が薄れてしまうし。
パソコンに情報を入力し初めて30分程が経った頃、ヘッドホン越しにドアを叩く音が聞こえて来る。
軽く返事をすると、夕飯が出来たと返答が来る。
本当はもう少し情報を入力していたいのだが、ここに引っ越してきた時に決めた約束がある。守れと言ったのは僕なので、僕から先に破る訳にはいかない。
「パソコン持っていって良い?」
「食べながらいじるなんて行儀悪いよ? そんなことも分からないの?」
「……はい、すみません」
自分だって、時々スマホいじりながら食べてるじゃん。そんな本心は言わぬが吉だ。
渋々パソコンを閉じて部屋から出ると、なぜか不機嫌そうな顔をした春香が出迎えてくれた。
いや、出迎えてくれたというのは正確じゃない。正しくは、扉の前で仁王立ちしてたと言った方が良い。
「……なに? 僕、何かした?」
「いや? ただ、大会終わってすぐにパソコンいじってるとか、気持ち悪いなって」
「……いや、なんで?」
「お兄ちゃんがいつか言ってたじゃん。モテない訳じゃないって。その意味がようやく分かったなぁ~と」
「……何か勘違いしてない? 僕は別に――」
「別に良いよ? ハイネスは振ってるし? 舞ちゃんにも興味ないってハッキリ言ってるからね? 誰とも付き合ってないお兄ちゃんが、世間の女の子達からキャーキャー言われてるの見てニヤついてても? 別に何とも思わないし?」
どうやら、こちらの反論には耳を貸す気は無いらしい。
ただ、日本予選で勝つ為の情報を纏めていただけなんだけども……。
「後でハイネスに報告しとくね? あなたのことを好きになる努力するとか言ってた人が、顔も知らない人からちやほやされてニヤついてたって」
「……それは良いけど、ハイネスさんなら、僕がそんなことしないってすぐに気付いてくれるよ。捏造したことを伝えて、ハイネスさんからの信用を失わないと良いね」
「……ふん!」
「うっ!」
晴也はみぞおちに良い感じの一発を貰い、思わず膝から崩れ落ちた。
事実というのは、時に人を傷つけるということを、彼は学んだ方が良いだろう。
なんでもかんでも正しいことを言えば良いと言う物では無い。
時には、理不尽だろうと耐えることも大切なのだ。
「やっぱり、今日の夕飯は無しね。さっさと部屋に戻ってパソコンとイチャイチャしてれば?」
「……はい、そうします……」
弱々しく部屋の扉を閉めた晴也は、数分床で蹲っていたが、回復した後改めてパソコンに情報を入力し始めた。
その際、同時に栄養ドリンクと猫との遊び道具を数個購入したのは彼だけが知る秘密だ。
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やる気が、出ます( *´ `*)




