第76話 謎と考察
本文に謎解きがあります。
宜しければご一緒に頭を悩ませてはどうでしょうか。
話の終わりに問題の解説を乗せますので、どうしても気になった方は目を通されるとよろしいかと!
試合が開始して1時間、晴也は己に出された試練の内容を見て顔をしかめていた。
強制試練は既に発令されており、晴也の指示の元、クリアすることに成功していた。
まぁ、指示を出している最中に鬼側が勝利したとの通知が来て多少混乱していたが、今ではすっかりその混乱も落ち着いていた。
ハイネスならば、そのくらいやってのけるかもしれないと半分呆れていたのだ。
話は戻るが、今晴也の携帯に表示されている難易度9の謎解き問題。これが、彼を悩ませている原因だった。
このゲームのトッププレイヤー達は、3つ発令される試練の内、余程のことが無い限り3つ目の試練が発令されるまでに1回は試練をクリアする。
その理由は簡単で、1個目・2個目とスルーして、3個目に難易度10の試練が出て来たら目も当てられないからだ。
その際、奥の手としてわざと鬼に捕まるという手もあるのだが、子供の人数を無意味に減らす行為になるので嫌うプレイヤーが多い。
勝てる可能性を少しでも上げる為に、多くの上位プレイヤーは2つ目の試練が出たタイミングで必ずクリアしに動くのだ。
特にこのマップ、幽霊病院はプレイヤー以外に人間がいないマップだ。
つまり、試練の内容が超簡単か、超難しいの2択なのだ。
最初、晴也に提示された試練は同じく難易度9の、鬼から逃げ切れという物だった。
しかし、強制試練中に指揮官が鬼に追われるなんて悠長なことをやっていて良いはずが無い。そのため、その試練はスルーしていたのだ。
(困ったな……。大会モードでの謎解きはちょっと面倒なんだよなぁ……)
ランクマッチで謎解きの問題が出されたとしても、そこまで迷うことは無い。
余裕のある時に問題の内容を考え、サッと解けば良いのだ。
むしろ謎解きは得意な方なので、簡単にお金を稼げると飛び上りたくなるほどだ。
しかし、大会モードになるとそれは一変する。
指揮官を担っている以上、余裕のある時間がランクマッチに比べて激減する上、ポイントも入らないのでお金も稼げないのだ。
さらに言えば、大会モードでは謎解きの難易度が上がる傾向もある為、それ相応の考える時間というのも必要になってくる。
(しかも問題文長いし!)
晴也に提示された謎解きの問題はこうだ。
『ある村には全部で26人の村人がいた。
村長は曲がった事が大嫌いだった。
だから曲がりモノを10人始末した。
村長は偏った奴らも大嫌いだった。
だから偏った奴らを7人始末した。
村長はタクシーも嫌いだった。
だからタクシーを始末した。
村長は滑り台も嫌いだった。
だから滑り台を持っている奴を4人始末した。
ついにこの村は村長1人だけになってしまった。
村長とは誰の事か?』
通常2.3行で出題される謎解きだが、今回は13行もの長さで出題されていた。
全文を確認するだけでも一苦労だし、オマケに答えを考えなければならない。
スルーしても良いのだが、次の試練がこれより簡単な物という保証は無く、むしろ難しくなる可能性も高い。
ならば、是か非でもこの問題を解くしかないのだ。
(ていうか、始末したって言われてる人21人しかいないじゃん……。大体、タクシーを始末したって、日本語的におかしいでしょ)
そんな、言っても仕方のないような愚痴を心の中で吐いてしまう。
指揮官が出来るような人が他にいない以上、指揮役を誰かに任せて自分は謎に集中するということができない。
いや、各自で考えて動いてくださいと指示を出すのは簡単だが、子供が圧倒的に不利なこのマップでそれをするのはリスクが高い。
ただでさえ、残り1時間というのに子供の数が10人になっているのだ。
索敵班も1人捕まってしまっており、囮班が2人と隠密班が7人という、余裕の無い状態なのだ。
隠密班は隠れることを主としているので、階段を利用しての階層移動が少し厳しいのだ。
無敵や瞬間移動を保有している人がほとんどなので、1つの階層に追い詰められて詰むという展開にはならないのだが、それでも厳しいことは確かだ。
〖2階、中央階段付近にて2人の鬼を確認しました。1人ずつ上下階へ移動するとのことです〗
どうするべきか悩んでいると、索敵班のミルクさんからそんな情報が入る。
現在、3階にいるのは僕1人なので問題は無い。
ミルクさんは、2階にいて情報収集をしてもらっているが、捕まっても問題は無い。
問題は、5人の隠密班がいる1階へ向かった鬼への対応だ。
ここまで戦ってきた中の情報で、相手の鬼に索敵の能力を持った鬼が居ることは把握済みだ。
残りの3人はそれぞれ、瞬間移動が2人と無敵を所有しており、どちらも既に発動済みなので、そこまで警戒する必要は無い。
この場合、どう指示するのが最善なのか。
謎解きのことは一旦頭の隅に置いておき、どうするべきなのか考える。
(今現在、3階に鬼2人。2階と1階に1人ずつ。索敵持ちの鬼がどこに居るのかが最も重要。僕……いや、ハイネスさんならどこに配置するか……)
相手もバカでは無い。
1戦目の戦いで、こちらのアバター設定の特徴には気付いているはずだ。
ということは、索敵の能力を使うにしても1人の為に使うとは考えにくい。
どうせなら、2人や3人を一気に索敵範囲内に入れてから使いたいはずだ。
つまり、やたらめったら索敵の能力は使ってこないということだ。
使うなら、ここぞというタイミングで使うはずなのだ。
それを考慮し、ハイネスさんならその大事な索敵の能力を持っている鬼をどこへ配置するのかを考える。
恐らく、3階に2人の鬼を配置していることから、ここに索敵の能力を持っている鬼がいるとは考えにくい。
大事な能力を2人がいるフロアで使うなんてこと、もったいなくて出来ないだろう。
であれば、索敵の能力を持っている鬼が2階と1階のどちらかということなのだが、2階に居る鬼はゲーム開始時からほとんど動いておらず、西側の階段付近に滞在しているという情報がある。
つまり、これが指揮官の鬼なのだろう。
西側の階段を封鎖しつつ、指揮を出すのに徹している様子から察するに、ここが索敵の能力を持っているとも考えにくい。
さらに言えば、指揮官がいるチームなのに、誰かが指揮官の命令無しに動くとは考えにくく、1階へ向かった鬼が指揮官の指示で動いているのはほぼ間違いないだろう。
つまり、3階は2人で捜索する。
2階はある程度探索し終えたので、1階へ索敵の能力を持っている鬼を向かわせ、大量確保を狙う作戦だろう。
仮に捕まえられなくとも、3階で何人か捕まえられるだろうという思惑もあるはずだ。
どちらの階でも成果が乏しければ、瞬間移動で2階に逃げたということなので、残る2つの階段に鬼を配置しつつ、2階を捜索すればゲームセットとなる。
(ん~。まぁ、多分合ってるな。間違ってたらドンマイってことで)
間違っていれば、最悪隠密部隊1人の所へ自分が瞬間移動して、その人を最後まで守り切れば良いのだ。
そこまでして負けたとしても、鬼側が勝っているので2回戦へ突入するだけだ。
春香の欲しい物リストを買うのは嫌だけれど、多少の出費なら目を瞑るとしよう。
〖1階に残っている方の中で、瞬間移動を使っていない方はどのくらいいますか?〗
〖ジョーカー、余ってます〗
〖私も、残ってますよ!〗
ジョーカーさんはランキング常連者のプレイヤーで、今シーズンのランキングでも4位を維持しているプレイヤーだ。
アバターは某映画に出てくるようなピエロ.....ではなく、甚平を着た20過ぎのお兄さんだったはずだ。
本人曰く、新選組の隊士を参考にしているとのことだが、日本史には興味が無いので、元が分からないと苦笑した記憶がある。
もう1人のおまるさんは、名前のイメージとは真逆のアバターだったのでよく覚えている。
赤い髪と殺人を犯した人のような、返り血を浴びた服を着ていた女性だ。
彼女は今シーズンのランキングで10位を獲得しており、昨シーズンでは僕に続いて2位を獲得している実力者だ。
ちなみに関係ないかもしれないが、彼女も熱狂的なネクラのファンだそうだ。
マイさんが運営しているファンクラブに入っているそうで、よく楽しそうにマイさんと話しているところを見る。
アバターからは想像も出来ないほど優しい人で、女性に免疫のない僕でも比較的話しやすい人だ。
〖では、ジョーカーさんは3階の検査室へ移動してください。
おまるさんはミルクさんから所在地を聞いて、その場へ移動してください。
残りの方はお互いの位置を把握し、どこか1カ所へ密集してください。密集場所についてはお任せします〗
『了解です!』
とりあえず、これで僕の予想が間違っていなければ負けることは無いだろう。
仮に間違っていたとしても、立ち回り次第では全然勝ちに持っていける指示を出したつもりだ。
これでしばらくは余裕が出来るはずなので、ゆっくり謎解きが出来るようになる。
(26人の村人……。それに、21人しか始末されていないのに、残り1人になった……? 残り4人はどこで消えたんだ?)
ひっかけ問題とかじゃないのなら、『タクシーを始末した』という部分で4人が消えているということになる。
26人しかいない村になんでタクシーがあるのかは疑問だが、恐らくそういう屁理屈をこねても問題は解決しないだろう。
(タクシーで4人……。26人の村……)
数十秒悩んだ末、晴也はある答えに辿りついた。
焦っていたので難しそうに見えた問題でも、落ち着いて考えればそこまで難しくないものだ。
固定概念に囚われず考えることが出来れば、この問題はすぐに解けるだろう。
(意外と簡単だったな……)
晴也は答えの『H』を入力し、送信した。
数秒後、試練クリアの通知を受け、ホッと胸を撫で下ろした。
試練の暗号解説です。
26人の村人とはアルファベット26文字の事です。
『曲がりモノを10人始末した』とは、曲線があるアルファベットの事です。
つまり、BCDJOPQRSUの事です。
『偏った奴ら』とは、曲がりモノを除く左右対称でないアルファベットの事です。
つまり、EFGKLNZの事です。
『タクシー』とは、そのままスペルを指します。
つまり、TAXIの事です。
『滑り台を持っている奴』とは、斜めの棒があるアルファベットの事です。
つまり、MVWYの事です。
そして、そのどれにも当てはまらないのが答えの『H』となります。




