第73話 意外な弱点
無人島の海岸に生まれたハイネスは、周囲を見渡してステージを確認すると、早速マイへと電話をかけた。
数秒して電話の向こうから聞こえて来たのは、妙に緊張している様子のマイだった。
「大丈夫ですか?」
「い、いえ……。でも、わざと負けるって言われると、やっぱり大丈夫なのかなと……」
「ネクラさんが必ず勝ってくれますので問題ありませんよ。世界大会や日本予選で負けるより全然良いでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「とりあえず、指示は一切出しませんので自分の感覚を頼りに動いてください。残りの子供が1桁になった時点で、マイさんは捕まえるの禁止です」
「了解です!」
ミナモンさんの方にはあえて電話をせず、彼の好きなように行動させてみる。
この狭いマップでは、彼も多少は活躍するだろうが、1人で9人も捕まえられるほど今回の相手チームは弱くない。
なにしろ、10段の子供が5人と、その1段下の9段が10人。その他が8段という構成なのだ。
まぁようは、そこそこ強いよね~という感じのチームだ。
小さな大会なら平気で優勝を狙えるだろう。
鬼の方の強さは確認していないけれど、ネクラさんは滅多なことでは負けない人なのでそこは安心して良い。
そう考えていると、手元の電話がけたたましく鳴り響き、シラユキさんからの電話を告げる。
「はい、もしもし?」
「あ、シラユキです。北の海岸に生まれましたので、ご指示をお願いします」
「……いえ。今回指示は出しませんので、ご自分の意思で動いてください。もちろん、例の索敵能力を生かしていただき、私に報告してくださるのは構いませんけど」
「あ、あの……それはどういう……?」
「まぁ、いずれ分かりますよ。今回は相手が強いので、油断なさらないようにしてくださいね」
それだけ言うと、電話を切って目の前の森へと足を向ける。
負けるつもりの試合とは言え、引き分けの場合は従来の大会と同じように2回戦が行われる。
その時の為に、相手の考え方の癖や戦術。指揮官の有無やそれが誰なのか。それを調べるのだ。
鬼の全員が海岸に生まれたということは、子供全員が中央に広がる森の中に生まれたということになる。
索敵を苦手とし、注目を集めるのに特化した私のアバターでは、トップクラスに強い子供陣営の相手を捕まえることなど不可能だろう。
「まぁ、なんとかなるか!」
そんな独り言を漏らしながら、私は森の中を1人寂しく歩き始めた。
――2時間後。
「1人で森の中を歩いてたら迷子になって、仲間に助けを求めたら安心して泣いちゃって、誰も捕まえられなかったと?」
「……ごめんなさい!」
「い、いえ……。ハイネスさんでもそんなことあるんですね……」
「いつもは誰かに指示を出したり、色んなことを考えながらやってるので大丈夫なんですけど、それが無くなったら急に怖くなって……」
1回戦が終わり、無事にこちらは13人逃げることに成功し、引き分けとなった。
2回戦が始まるまでの少しの間、ハイネスさんがライに慰められている光景を見て、晴也は何とも言えない気持ちになっていた。
確かに指示を出さないと言っていたけれど、それでもマイさんがいるので1桁までには減るだろうと予想していた。
それが、20人全員が逃げることに成功したとあって、なにがあったと心配したのは確かだけど……。
「はいはい。誰も怒ってないから大丈夫よ? お兄......ネクラさんが絶対勝たせてくれるから、あなたはゆっくりやりなさい? ね?」
ハイネスの頭を撫でながら、もの凄い目で睨んでくる自らの妹に怯えながらも、晴也は苦笑いを零した。
春香の本意は、だいたいこんなところだろう。
『こんな可愛いハイネスを振るとか頭おかしいんじゃない!? 子供が負けたらこの子がもっと泣いちゃうじゃない! 負けたら許さないからね!』
兄妹だからか、そんな本意に気付いてしまう自分が嫌になる。
まぁ、ハイネスさんが責任を感じるっていうのには同意するので、負けるつもりは無いけども。
「ハイネスさん、例の件はどうなりました?」
「……効果のほどは分かんないです。私、ずっとマイちゃんに慰められてたので……」
「......そうですか。まぁ、こちらは問題無いと思いますので、春……ライさんじゃないですけど、ゆっくりやって貰って大丈夫ですよ」
「ありがとうございます……」
その数分後、2回戦が始まり幽霊病院へと生まれた晴也は、鬼側でまたハイネスが怯えている姿が想像できて、この試合もいつも以上に丁寧に指示を出そうと心に決めたのだった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




