第70話 募集
ミーティングがあった翌日の昼、晴也はユーザー大会の募集要項をまとめ、自分のSNSにて発信した。
その内容は、ミーティングで話した内容とほぼ同じだ。
日本予選に向けて、アバターのみで戦う大会を開くこと。
全試合1本先取で、中継はしない。
参加するプレイヤーのランク帯に制限は無く、日本予選に参加しない人でも参加は可能。
優勝チームにはネクラの自腹から賞金、もしくはその他が配られるとのこと。
〖その他って、例えばなんですか!〗
〖ネクラさんのサイン入り公式グッズとかでも貰えます!?〗
そんな声がネクラのSNSにこれでもかと届く。
その他の物と提示したのは、自分達が優勝した場合はどうするのかと突っ込まれた時用、もしくは大会の賞金が安いので参加はしないという人を出来るだけ減らすためだ。
まぁ、マイさんと相談して参加賞をネクラ公式グッズのハンカチとかだっけ? そんな物を配るようにするけど……。
なんでも、ハンカチに関しては量産がかなり楽なので、いくら配っても別に損にはならないそうで……。
一応僕も貰ったけれど、他のグッズと同じでネクラのアバターが描かれているだけの普通のハンカチだった。
これを欲しいと思う人なんているのか……?
(そんなこと気にしても仕方ないか……)
とりあえず今は、大会に参加してくれる人を出来るだけ多く集めることだ。
多く集めれば、それだけ自分達の今の実力、その戦法がどの程度通じるのかを試すことが出来る。
言い方は悪いが、実験台は多い方が良い。
〖私のサイン入り公式グッズでよろしいのでしたらお渡ししますよ。その際はチームで相談してくださいね〗
あくまで優勝賞品、そして僕達も参加すると公言しているので、本人達も難しいことは分かっているだろう。
賞金女王とランクマッチ無敗、そして最近何かと話題の女王・アバター使いがいるチームなど、そう簡単に勝てる訳ないと、皆分かっているはずだ。
懸念はそこにもあった。
参加してもどうせ勝てないので、こちらの手札を見せるなら参加しない。そう思う人達だって絶対にいる。そう考えていたのだが、それは間違いだったらしい。
どうやら、自分達の手札を見せることを嫌がる人などほぼおらず、むしろネクラ側の手札を見たいと思う人達が予想以上に多かったのだ。
本気で日本予選優勝を狙っているような強豪チームはもちろん、腕試し的に世界大会へとエントリーしているチームもそう思っているらしく、参加チームはかなり多くなりそうだった。
運営なんかは自分でやらないといけないので多少面倒だが、各チームのリーダーから勝敗を知らせてもらったり、トーナメントを作ってその行方を参加者に伝えれば良いだけなのだから普通よりずっと楽だろう。
万が一自分が負けても続けないといけないのはあれだけどさ……。
募集から1日ほど経った頃には、2ヶ月ほど前に行われたグランドスラムと同じくらいの規模となっていた。
この時点で、大会が数日かけて行われることが決定した。
しかもその期間がテスト期間と被っていることは、晴也にとって最大の不幸だろう。
(最近ゲームで忙しかったから碌に勉強できてないんですけど……)
しかし、ネット上では自分の年齢など明かしていないので、テストがあるから大会の日程を遅らせたい。そんなことは言えない。
なんか、最近僕の周りで苦行が流行ってない?
神様、僕は本当に、知らない間に何か罪を犯してしまったのでしょうか……?
その2日後には受け付けを終了し、参加チーム数は3000を超えるという、正直意味のわからない状態へと発展した。
こうなると、高校生1人の手にはとても負えないので、ESCAPEの運営チームに相談することにした。
普通はユーザー大会なんて勝手にしろと言われるだけだろうが、ゲーム内ではそれなりに名が通っている僕が頼んだら何人か人は貸してくれるのでは? そんな、希望的観測の元だ。
そしてその結果は、もちろん……
(ダメですよね~。知ってた!)
いくら名の知れたプレイヤーだと言っても、特例は認めてくれないらしい。
いや、それは分からんでも無いけどね!? 人手が足りないんだよこっちは……。
中継させてくれるなら考えるとも言われたけれど、それは絶対に譲れないところなのでNGだ。
大体、中継されるなら普通の大会に出れば良いだけだし。
こんな時、丸投げ出来るような人脈があれば困りはしないんだろう。
無い物を嘆いても仕方ないので、とりあえずネットでハイスペックのパソコンと、かなり大きめのモニターを3つほど購入する。
今のパソコンだけだと絶対に間に合わないし……。
今回ばかりは学年1位を獲るのは無理かもしれない。
そう思ったのと、台風が日本に接近しているとの情報が目に入ってきたのは同時だった。
かなり大きめの台風がテスト期間中に直撃してくれれば、当然学校は休みになるだろう。
家で授業を受けることは出来るけれど、流石にテストは無理なのだ。
そうと決まれば、早速作らねばいけない物がある。
最近頭を酷使しすぎているので、癒しを求めて手毬の部屋へと遊びに行き、そこである物を製作する。
途中手毬と戯れながらも、一心不乱に、まるで何かに取り憑かれたかのように、何十個も作る。
「……なにこれ」
「逆テル」
「……お兄ちゃんってさ、時々バカみたいなことするよね」
「他に思いつかなかったんだから仕方ないじゃん」
テストと大会の開幕が数日後に迫った9月末。
我が家のベランダには、僕が必死で作った逆テルテル坊主が数十体ぶら下がっていた。
僕らを照らす夕日が、無駄だと笑っているような気もするし、その願いを聞き届けてやろうと偉そうにふんぞり返っているようにも見える。
そして僕の横にいる春香は、その逆テルテル坊主を見ながら呆れ果てていた。
唯一の希望だった台風は大会開幕の前日に直撃し、今は遥か彼方だ。本当に役に立たない台風だ。
ああいうのって、待ちに待った遠足の日とかには直撃する癖に、待ってもいないテストの日に限って急に進路ずらすよね。ほんと役に立たない。
春香は自分のSNSにて〖テスト前に兄がバカなことしてる〗と発信し、それがプチバズりしていた。
ライのお兄さんがなんか可愛いとか、そんなことを言っている人もいるし、僕と同じくテスト期間の学生は分かる~!と、共感を示していた。
ライの兄が僕だと知っているハイネスさんからは、その画像と共に可愛いですねと送られてくる始末。
女の子に可愛いとか言われて、どう反応したら良いのか分からなかった僕は、なぜか〖どうも〗と血迷った返事を返した。
そしてその翌日、都内は数十年に1度と言われる規模の洪水に襲われた。
朝起きて外が凄いことになっていると知った1人の少年は、人生で1番となる、歓喜の声を上げた。
投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>
やる気が、出ます( *´ `*)




