第69話 第2回 ミーティング
1週間ほどが過ぎた頃、ハイネスさんから鬼の調整が完了したとの報告があり、第2回のミーティングが行われることになった。
僕も最近色々調べて分かったことがあるので、この機会に共有しておこう。
集合時間の22時には全員がいつもの会議室へと揃っていた。
いつもと違うのは、僕の隣にハイネスさんが座っており、向かいにマイさんとライが座っていることだろうか。
決まった席順という物は無く、基本は来た順番に座るので、早い者勝ちなんだけど……。
「ではでは~、早速行きましょうか~」
「な、なんか上機嫌ですねハイネスさん……」
「そりゃ~! まぁ、色々ありましたから!」
そう満面の笑みで同意を求められると、気付く人は気付くのでやめて欲しい……。
いや、別に付き合っているとかでは無いのでバレても問題は無いかもしれないけどさ?
僕の目の前にいる2人の視線が凄いことになっているから少しは自嘲してほしいな……。
「早速、私達鬼側が最終的に決定した調整ですが、1人は子供側と同じく索敵に特化して、捕まえることは後回しにする人を用意しました。その役はシラユキさんにお願いしています」
「……ハイネスさんでは無いんですね」
「シラユキさんは特殊な考え方をする人なので、それを最大限生かす道を見つけたんです。各々の弱点はその他のメンバーでカバーする。弱点を補おうとするよりは長所を伸ばした方が良いとの判断です!」
まぁ、その考えは分からなくもないのでとりあえず頷いておく。
僕も、弱点を補うよりは長所をとことん伸ばすことを優先するし。
分かりやすい例で行くと、足は速いけど体力が無い人。
この場合、さらに足を早くするか、体力を付けるかの2択に迫られる。
僕もハイネスさんも、この場合は足を早くすることを優先するという考えを持っているということだ。
どっちが良いとかの正解は別として、この考え方はゲーマーならではの考え方というか、それぞれ派閥があるといった感じだ。
「それで私ですけど、実際は指示を出すだけでそこまで捕まえることに焦点は起きません。身長を高くして注目を集める。そんな役割を担います」
「……マイさんとミナモンさんだけで確保役は足りる。そう判断されたということですか?」
「そうですミラルさん。ミナモンさんは私が指示を出して何も考えず相手を捕まえに行く機械になって貰います。それ以外のことはさせない方が賢明かと。マイさんに関してはうちのエース的存在なので、1番苦労する位置になりますね」
「……マイさんは大丈夫なのですか?」
そんなミラルさんからの懸念に対し、複雑そうに僕とハイネスさんを見ていたマイさんは、慌てて視線をミラルさんの方へと向ける。
「私は全然問題無いですよ!」
「まぁ、元より彼女の索敵能力は海外の化け物達相手にも充分通じる物です。さらに言えば、確保する技術等も十分すぎるほどあります。皆さんもご覧になられたであろうネクラさんの解説動画、それを見てからさらに磨きがかかっていますので、問題はありません」
「そんなに、ですか?」
思わず僕がそんなことを聞くと、マイさんは力強く頷きながらとんでもないことを口にした。
「ランクマッチで15人捕まえてきました! 『アバターなのにクソ強い奴がいる』ってめっちゃ拡散されちゃいました! 知りません、か……?」
「最近アバターに関して調べていたので、そっち系の情報は……。でも、15人ですか……」
それって、ひょっとして世界記録とか出ているのでは?とうっすら思う。
そもそもこのゲームに世界記録なんて物があるかは分からないけれど、あるのだとすれば間違いなく世界記録を樹立しているだろう。
鬼は子供を19人捕まえれば終わるのだ。その内の15人を1人で捕まえられる人など、そういないだろう。
(いや、そんなポンポンいたらゲームバランス崩壊するわ!)
そんな乗りツッコミを1人で決める。
目の前で嬉しそうに微笑んでいる女の子がもの凄く怖い……。
春香とはまた別種の怖さだ。
「まぁこんな感じですので問題は無いでしょう。それに、シラユキさんと私も、索敵に特化した能力を保有するというだけで、捕まえようと思えば捕まえられますよ」
「そ、そうですか……」
若干引きながらミラルさんがマイさんを見る。
いや、気持ちは分かるけど顔には出さないであげてください……。
「鬼からの情報はこんなものです。次にネクラさんどうぞ」
「あ、はい……。まず、アバターについて色々分かってきたので報告を。と言っても、私は語彙力があまりありませんので、分からないことがあればどんどん質問してください」
苦笑しながらそう言うと、僕の周りに座っている3人以外が苦笑を洩らす。
春香さん、その、可哀想な人を見る目、止めてもらって良いでしょうか……。
「えっとまず、子供と鬼双方に共通する部分から。身長を最低に設定して足の速さを最速にした場合の走る速度と、身長を最大に設定して足の速さを最遅にした場合の走る速さ。これは同じと考えてもらって良いです」
「……マジですか?」
そう言ったのは、他ならぬミナモンさんだ。
彼以外にも、多少困惑している人が複数人いるみたいだ。
前誰かが言っていたけれど、大人にとっての足が速いと、子供にとっての足が速い。これには天と地ほどの差がある。
この差がかなり顕著に表れているのだ。
「このためにゲームをもう1個揃えたので間違いないです。なので、やはり身長を低くする場合は足の速さに振るのは無駄。そう捉えてもらってよろしいかと」
「……買ったんですか?」
「買いましたよ。臨時収入が嫌ってほど入りましたので……」
それが、例の解説動画の件という事はこの場の全員が察している。
そして、その動画が予想以上に伸びていることからネクラが怯えていることも、このチームのメンバーは全員が知っている。
受け取る人によっては嫌味に聞こえるかもしれないが、全員そうではないこともしっかり認識している。
「そしてその身長の件ですが、身長を低くすると不利になる。皆さん、そう認識をされていますよね?」
「……そうですね。ネクラさんは全く違う見解を出されていて、それで結果も出ているのであれ? と思っていました」
「僕と世間の考え方に違いがあるのは昔からなのでこの際良いです。身長を低くする事で与えられるボーナスが鬼と子供双方にあるのをご存知ですか?」
シラヌイさんからの質問にそう答えると、この場の全員が「なに言ってんだこいつ」と言いたげな目で僕を見る。
実際は違うのかもしれないけど、そう捉えてしまうのでその目は止めてください……。
「正確に言うと、身長を低くすることで、子供の場合は普通では隠れられない場所に隠れることが出来るようになるというボーナスが付きます。鬼の場合は攻撃速度がかなり速くなるというボーナスが付きます」
「……具体的にお願いします」
「えっと、通常の150センチ程度の身長だと、観葉植物などに完全に溶け込むことはできません。しかし、最小の1メートルに設定していると、完全に同化できるんですよ。服までこだわったりすれば、カメレオンとかそんなレベルで同化するのを確認しています」
これは実戦で試したので間違いない。
カメレオンが敵から身を守るために周りの環境と同化するのと同じように、それと全く同じことが出来るようになるのだ。
さらに言えば、無人島で木に登れば、まず見つからなくなるという事も検証済みだ。
これは、索敵能力云々の話ではなく、ジャングルの中にいるカメレオンを目視で見つけろと言われているような物。
つまり、無理ゲーなのだ。
一応、索敵の能力を使えば見つける事は出来るのでそこまで理不尽では無いのだが……。
「この情報を知らないと、そもそも索敵を設定しよう等とは思わないでしょう。反対に、鬼の攻撃速度が上がると言うのは、子供と大人では攻撃を出す腕の長さが違います。届く距離が短くなる代わりに、振りおろす速度が上がっているんです。最速にすれば、探偵なんて目じゃない程早くなります。まず、見てから避けるなんて芸当は無理ですね」
「……マジですか?」
「マジです。アバター戦は鬼ごっこではなくかくれんぼ。この真理に気付けるかどうかで、勝率が大きく変わると、私は思っていますよ」
「......世間では、身長を低くするのが弱いと言われているのは、その真理に気付けていない人が大半。ということですか?」
「そういうことです。まぁ、このゲームが鬼ごっこをモデルに作られている関係上、どうしてもそっちに意識が向いてしまうのは仕方ないですけどね」
頬を掻きながらそう言うと、呆れたような深いため息があちこちから聞こえて来た。
そんな呆れられるようなことをした覚えは無いんですけども……。
聞いてきたシラヌイさんも、狐のお面をズラしてその綺麗な顔を歪めているし……。
「流石ネクラさんです! 情報収集能力と行動力、判断力には感服します!」
「あはは……。それは僕も同じですよ、ハイネスさん」
「私なんてそんな! そうだ! ちょうどいい機会ですし、近々行われる大会にアバターで出てみませんか? 手の内を晒すのは癪ですが、仲間内でやるよりは良いかと!」
「……でしたら、いっそのこと私が呼びかけましょうか? 日本予選に向けて、アバターのみの大会を開催すると。中継等はしないと呼びかければ、数組は参加してくれるでしょう」
「そうですね! では、その方向で! 皆さんも大丈夫ですか?」
やけに張り切っているハイネスさんがチームメンバーにそう呼びかけると、乾いた笑いを零している面々が頷く。
その後にもいくつか掴んだ情報を共有し、この日のミーティングは終わりを迎えた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




