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第68話 修羅の道

 打ち合わせが終わった翌日の夕方、学校から帰ってきた春香に呼び出された僕は、最近恒例になっている正座タイムへと入っていた。

 ブラウンのソファにふんぞり返って座っている春香の前で、なぜか正座をしているというわけだ。


 ちなみに今関係無いけれど、昨日打ち合わせしたグッズに関しては、かなり話題を呼んでいるみたいで量産が大変だと舞さんが嘆いていたっけ……。

 本当に、今は関係無いけど。


「で? お兄ちゃんは確信とやらを持てたの?」

「あ、やっぱりそのこと?」

「他のことだと思った? 昨日は遠慮してあげたんだから、早く答えなさい」


 1時間程度の打ち合わせ、それもほとんど話さなかったのに、自分の気持ちをどう確認すれば良いのか。恋愛経験0の僕に教えてくれる?

 いや、分かったことも色々あったけどさ……。


「まず、やっぱりマイさんは僕を好きってわけじゃないから、その点で僕が舞さんに流れることは無いって伝えても良いかな……?」

「お兄ちゃんの癖になまいきだけど、まぁ私もそう感じたし、問題は無いわよ」

「良かった……。で次に、ハイネスさんが僕自身を好きなのかどうかだけど、それはその……間違いなさそうだなと」

「何偉そうに語ってんの? 張り倒すよ?」

「はい、ごめんなさい……」


 春香の場合、張り倒すではなく殴り倒すが正解な気もするけれど、黙っておこう。

 自分でもなに言ってんだこいつって思ったし……。


「ハイネスのこと、どう思ってんのか聞いてんの。他の話なんてどうでも良い」

「デスヨネー」

「嫌いとか言ったら、この世を離れる覚悟して貰うけど?」

「言う訳ないでしょ~。ハッハッハ」


 乾いた笑いを洩らしながら、僕は必死に逃げ道を考える。

 付き合うとか、まだ現実味が無さ過ぎて答えが出せない。いや、出したく無い。

 恋愛に興味が無いと言うのもそうだけど、マイさんとギクシャクするのも面倒だし、その他諸々の面で面倒になるのは間違いない。

 これだから恋愛は嫌なんだ。


「そもそもさ、僕がハイネスさんを好きなのか以前に、恋愛すること自体が面倒だって、仮にね!? 仮にそう言った場合はどうするの?」

「……なんで面倒なの」

「僕が人との付き合いが苦手なの知ってるでしょ? その間に恋愛感情があろうが無かろうが、僕は人と関わるのが苦手なんだよ。だから、人と付き合うっていう行為そのものにあまり向いてない人種なんだよ」

「それは、昔虐められていたから?」

「……そうだよ」


 ちょっと他より頭が良いからと調子に乗った結果、小学生の頃にいじめられ、そこから不登校になりゲームに逃げたんだ。


 人間は、いつ裏切るか分からない。

 仲間だと思っていた友達でさえ、自分の身が1番可愛いのだ。

 その点、実力が反映されるゲームは良い。そう思って逃げて何が悪い。


「開き直りね」

「……事実だよ。実際、小学校の頃同じクラスだった人の誰よりも、僕は成功している自覚があるよ。その代償として人との関わり方が分からなくなったとしても、充分すぎるね」

「はぁ。そんなだから、妙にひねくれてるって言われるのよ」


 僕のことをそう言ったのは他ならぬ春香だけどね!

 いや、でも実際これは僕の本心だ。

 恐らく、日本に存在している高校2年生の中では1番成功していると思っている。

 そこら辺の企業の社長が高校生とかならまだしも、そんな事例は滅多にないだろうし。


「それにさ、ハイネスさんを始めとしてネットの人達は、僕の過去のことについて何も知らないでしょ? ハイネスさんの好意を否定するわけじゃないけど、そんな人から好きと言われても、って感じ」


 虐められていたと素直に話して、軽々しく同情されるのはごめんだし、そんなことをされても何も嬉しくない。

 いわば、ハイネスさんは僕の表面しか見ていない。

 その点で言えば、僕の分身しか見ていないマイさんと何も変わらないのだ。

 生存ルートどうこうの前に、重大なのはその点だ。


「春香が僕と同じ立場だったらどう思う? 自分の表面しか見ていない男に好きって言われて、なびくと思う? そりゃ、自分の分身であるライだけしか見ていない人より好意は湧くさ。それでも、好きになれるかどうかはまた別じゃない?」

「……言い分が分かるだけに、余計腹が立つんだけど」

「でも、理解は出来るでしょ? 今の僕の気持ち」

「……理解、しようと思えば出来なくもないって感じ」


 結局は結論を出すことに逃げているだけ。そう言われても結構だ。

 だけど、ひねくれている人はその人なりの考えの上に立っているんだ。

 僕は、そこら辺の人よりは流されにくい。そう自負している。


「じゃあ、ハイネスにそのことを話せば良いじゃん。あの子なら分かってくれるんじゃない?」

「……同情はされたくないって言ってるでしょ? 別に、育ってきた環境が不幸だなんて思っていないし、自分が今までしてきたことに後悔はしないよ」


 もちろん、ヤバい状況になったら後悔するだろうけど、本気で後悔することは今後も無いだろう。

 虐められていたおかげで今の自分が作られている。そう前向きに考えるんだ。


 生きている価値が無いと後ろ向きに考える人もいるかもしれないけれど、いじめて来るようなくだらない人達の為に自分の人生を放棄したくは無い。

 放棄するなら、自分のせいで何か失敗を犯した時だけにしたいね。


 まぁ、こんな考え方が出来るのも、ゲームで成功してるからなんだけどさ......。


「考え方がさ、お兄ちゃんの場合独特すぎる気がするんだけど……」

「世間的には人生で負けているとしても、僕はそうは思わないってだけだよ。それこそ本人の気持ち次第さ。僕は、自分の人生を他人に左右されたくは無い。家族にだって、それは同じだよ」

「じゃあ聞くね? ハイネスとは付き合わないってことで良いの? 理由は、自分がそういうことに向いていないからっていう、自分勝手な理由で? あの子の気持ちは一切考えない、そんな身勝手な理由であの子を振るってことで良いの?」


 以前のように殺気は放っていないけれど、改めて的確に指摘されると、今僕が言ったのはそういうことだ。

 相手の気持ちは一切考えず、自分はそういうのに向いていないからと一蹴して告白してくれた人の気持ちを踏みにじる。最低だ。


「……良かった。一応、そう感じる人の心はあるんだ」

「……僕をなんだと思ってるの?」

「考え方が異常というか、一般論からかなり外れているというか? そんな人だから、人の心が無いんじゃないかって」


 春香にボコボコにされた時、人の心が無いんだったら手毬に癒しを求めないよ……。

 考え方が少しおかしいって言うだけで、勝手に人間を辞めさせるのは勘弁願いたいね。


「結局どうするのか、つまるところ私が聞きたいのはそこだけなんだけど? お兄ちゃんがいくら難しいこと言ったとしても、私は分からない。それこそ、ハイネスともう1度よく話すべきだと思うの。その上で、もう1度だけ聞くね? あの子のこと、どうするの?」

「……もうちょっと時間をくれない? そんなに早く、結論は出せない」

「……具体的には?」

「......日本予選が終わるまでには出すよ」


 今は9月の中盤。日本予選は確か12月だったはずなので、後3ヶ月程だ。

 流石にそれくらい考える時間をもらえたら、僕だって答えは出せる。


「日本予選も半年近く行われるはずだから、正確には6月とかね。……遅すぎる」

「でも――」

「9月に告白されて、こっちから再度告白させろとか言っておいてさ? なんの音沙汰も無く半年も待たせるとかありえないから。日本予選が始まるまでに答え出しなさい。色々大変なのは重々承知の上だけど、お兄ちゃんが答えを出すまでは、私は口出ししないって約束してあげる」

「……分かったよ」


 こうして僕の、日本予選が始まるまでの悩みの種がまた1つ増えたのだった……。

 そしてその後、春香の勉強を手伝ったことで機嫌が回復したのか、今日までご飯抜きだったのが無しになった……。

このお話で4章は終わりなので、前もってお知らせしていた通り月・水・金・日の週4投稿に変わります。


時間はいつも通り18時に更新予定です。

※忘れて19時になる可能性はあります。


週4日投稿が肌に合わず毎日投稿に戻すかも知れませんし、さらに投稿頻度が落ちるかもしれないです。

その時も今回のようにお知らせして章が変わるタイミングで変更致します。

面倒かもしれませんが、どうぞお付き合い下さい。


あと、最近徐々にブクマ数が増えてきて非常に嬉しい限りです!

モチベが滅茶苦茶上がるので、大変励みになっております!

( *´ `*)


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