第66話 結末が必ずバッドエンドになるゲーム
とりあえず考えさせてくださいと伝え、ログアウトした僕は、ノックをせずに部屋に押し入ってきた春香にリビングへと連行され、案の定正座させられた。
なんでこんなことになったのか、本当に分からない。
「で? なにか言い残したことはある?」
「待って? 僕、殺されるの確定?」
「私から大事な存在を2人も奪っておいて、生かしておく訳ないでしょ? バカなの?」
「……弁明の機会を与えてはもらえませんかね?」
「言い残したことはあるかって聞いたんだけど? 弁明くらいなら聞いてあげるよ」
指の関節をポキポキと鳴らしながら悪役のように微笑む春香。
ここで答えを間違えると、即座に僕の命は消えて無くなる。
考えるんだ。いくらバッドエンドしかない選択肢だったとしても、その程度には違いがあるはずだ。
国外追放や、誰かに殺される。バッドエンドにもその種類はある。
実質的な死亡だとしても、殺されるのと国外追放されるのには違いがある。ならば、被害を最小限にすることだけを考えるんだ。
それしか、僕の生きる道は無い。
「そもそも考えて欲しいんだけど、ハイネスさんはありがたいことに、僕を好きだと言ってくれているでしょ? ネクラとしての僕ではなく、僕自身って意味ね? その点、マイさんはネクラとしての僕が好きなのであって、僕自身が好きってわけじゃないんだよ。その点、分かる?」
「……簡単に言いなさいよ」
「つ、つまりね!? 例えるなら、アイドルだよ! アイドル本人が好きなのか、アイドルとしてのその人が好きなのかって違い! マイさんは僕じゃなく、ネクラという存在が好きなだけで、僕が好きな訳じゃないんだって! だから、友達を2人も奪うっていうのは少々語弊があるのでは……と」
必死に身ぶり手ぶりで弁明する僕を、春香は腕を組んで見下ろしていた。
額に汗を浮かべて必死に弁明する僕の姿は、さぞ滑稽だったことだろう。
しかし、僕自身としてはこの一瞬でよくもまぁこんなことが言えたと思っている。
もしかして、意外と弁護士とかに向いているのではなかろうか。
「つまり、舞ちゃんは重度のネクラファン。ハイネスはお兄ちゃんのことが好き。この違いがあるってのが主張?」
「そう……だね。あくまでネクラという虚像を好きな彼女に対しては、多分……いや、純粋に僕のことを好きだと言ってくれているハイネスさんの方が、僕は好感を持ちやすいかな」
恋愛感情を持てない。そういうのは簡単だ。実際その通りだし。
しかし、目の前の妹はマイさんに女としての魅力が無いと言われていると、そう勘違いするかもしれない。
そうなった場合、僕は見るも無残な姿でそこら辺に転がっているだろう。
咄嗟に表現を変えたのは、今世紀最大のファインプレーだったと思う。
「は、春香だってそうじゃない!? ライが好きな男より、春香を好きな男の方が好意はもちやすいでしょ!?」
「……まぁ、言われてみればね」
「だから、マイさんは単なるネクラの大ファン。奪う奪わないの話以前に、僕にはこれっぽっちも興味が無いんだよ!」
「なるほど……。確かに筋は通るわね……」
もう少しでこの状況を切り抜けられる。そう思ったところで、春香の爆弾発言により、この弁論の重大な穴を自覚した。
それは……
「じゃあ、ハイネスとは付き合うってことで良いの?」
「……あ」
「だってそういうことでしょ? 舞ちゃんがネクラの大ファンで、あの子が少し混乱しているだけなのだとしても、あの子とハイネスを比べた時、ハイネスの方が好感は持てるんでしょ? なら、その要領で好きってことになるんじゃないの?」
春香が言いたいのはつまり、そこら辺の女の人とハイネスさんを比べた時、どちらが魅力的に見えるのか。そう言いたいのだろう。
例えば幼馴染と今知り合ったばかりの人に告白されたら、どちらの方を選択するか。ほとんどの人は幼馴染を選ぶだろう。
それは好きかどうかとはまた別だろうが、今僕が思いついたことをポンポン口に出した結果、それが僕の恋愛観。そう春香に認識されてしまったのだ。
つまり、今僕が言ったことにあてはめるなら、僕はハイネスさんのことが好きだということになる。なってしまうのだ。
「今お兄ちゃんが言ったこと、ほとんど私には分からなかったけど、舞ちゃんよりハイネスの方が好きなんでしょ? なら、私とハイネスを比べた時も、当然ハイネスの方が好きなんでしょ?」
「……そうだね。春香に恋愛感情とか湧かないし」
「じゃあ、さっさと告白して付き合ってよ。そしたら、あの子を泣かせない限り何もしないって約束してあげる」
うわ~とっても魅力的な提案だね!と言いたいところだけど、こんな気持ちで告白しても良いのか?
確かに殺されるのは先延ばしになるし、僕がハイネスさんと真剣に付き合うことになれば、それこそ相手には真摯に向き合う。
泣かせるようなことは......多分無い。一応ポジティブに考えよう。
出来るだけポジティブに考えたとして、マイさんが近々ここに来る。
その時に、やっぱり僕自身のことが好きですとか言われた場合はどうすれば良いのか。
今考えろと言われても、それは無理だ。
(ハイネスさんに頼っても……仕方ないよな)
いや、待てよ? 元々グッズを作ろうと言い出して、僕を嵌めたのは誰だった?それは他ならぬハイネスさんだ。
ならば、彼女もここに来てもらえばいいのだ。
告白云々は置いておいて、僕自身を好きな人が側にいてくれれば、マイさんもアタックしにくいだろう。
そうすることで、春香にボコボコにされるという最悪の事態は、少なくとも免れるはずだ。
「来週、マイさんが家に来るって言ってたでしょ!?」
「……なに急に」
「その場にハイネスさんも呼ばない!? そしたら、僕も自分の気持ちに確信が持てると思うんだよね!」
「……それで確信が持てたら、告白するって理解して良い?」
「良いよ!? その代わり、このことはもちろん本人には言わないでね!?」
「言わないわよ。まぁ……そういうことなら私から話は通しておいてあげる」
ため息をつきながらソファに腰掛け、携帯をいじる春香を見て、僕はどうやら最善の選択をしたらしいと安堵した。
行く先がバッドエンドしかなかったこの状況を、なんとか答えを先延ばしにすることは出来た。
何の解決にもなっていないかもしれないけれど、先延ばしにすることで状況が好転する可能性だってあるはずだ。ならば、その可能性に賭けるしかない。
(あれ……? 確信が持てなかったとか言ったら、優柔不断とか言われてぼこられるのでは?)
僕がそれに気付いたのは、不幸にもハイネスさんから了承の返事が来てからだった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




