第60話 告白
夕食を食べ終え部屋に戻った晴也は、1ヶ月後に迫った定期テストの為に勉強を始めた。
最近はゲームの事に集中しすぎていたので、とりあえず勉強も頑張らないといけない。
学年1位を取らないと進級させないとかバカなことを言っている大人達を言い負かすために必要な材料に関してはしっかりと用意しておかなければならない。
別に進級できなくても良いけれど、大人たちの悔しそうな顔は見ていて面白い。
自分達が必死に授業して教えているのに、授業も受けていないクソガキにドヤ顔されるのはさぞかしイライラするだろう。
しかし、相手は学年1位なので何も言えない。そんなの、愉快でしょうがない。
性格が悪いのは分かっているけれど、大人達には散々ゲームの事でバカにされてきた。その復讐をしているだけなのだ。
いつまでも時代遅れの思想に囚われている人達に用は無い。
勉強を初めて2時間弱経ち、一旦休憩とスマホを取りだす。
すると、ライから1時間前に連絡が来ていた。内容は、ハイネスさんの事についてだ。
(本人が今日の夜話したいと言っている……ね)
何を言われるか少し怖いけれど、今のままは嫌なので、とりあえず了承しておく。
約束の時間まではちょうど残り30分なので、いち早くギルドに行っておこう。
謝罪する側が相手を待たせるなど論外だ。
そんな気持ちでログインした晴也は、会議室に座っているハイネスを見つけると思わず変な声を出した。
誰もいないと思っていた場所に人がいたら当然ビックリするだろう。そんな感じだ。
「あ、どうも……。早いですね」
「い、いや……なんとなくですよ」
オドオドしながらもハイネスの向かいに座る晴也。
得に話す訳でも無く、ただ時間が過ぎていく。
静寂の中、2人が呼吸をする音だけが会議室に響いていた。
「良し! 後15分……って! もう揃ってるの!?」
そんな状態をぶち壊したのは、普段の澄ました態度からは想像できない声を上げたライだった。
向かい合わせに座っている2人を見て呆れたような、微笑ましそうな笑顔を向けると、場所を変えようと言い出した。
「……ライさんは、なんでここに?」
隣の応接室に移動する短い間、晴也はそう聞いた。
あくまで2人で話すのかと、てっきりそう思っていたのだ。
「私が、お願いしたんです……。ライにも話したい事があるって……」
「そう、なんですか……」
なんだろう。このチームを抜けたいとか言われたら、僕はどうすればいいんだろう。
ハイネスさんという最高の頭脳が味方だから、僕は世界大会に行く覚悟を決めた。
だから、色んなチームに頭を下げてチームメイトを揃えたし、真面目に勉強もしてきた。
ここで抜けたいと言われたら、僕はちゃんと立ち直れるだろうか……。
応接室のソファに座ると正面にハイネスさん。その横にライが座った。
そして、先ほどのような沈黙が場を支配し、数分経ってようやくハイネスさんが口を開いた。
「ネクラさん。まずは、謝罪します。勘違いをさせてしまった事を……。申し訳ありませんでした」
「……勘違い、ですか?」
「はい。ネクラさんは、私になにかしてしまったと思っているみたいですけど、そんな事はないんです。ただ、私が臆病と言うか……なんというか」
そう口ごもると、慎重に言葉を選ぶように何度か考え、決心したように頷いた。
「私、ネクラさんの事が好きなんです。それで……あの……避けちゃってました! ごめんなさい!」
「……はい? ご、ごめんなさい。ちょっと状況が……」
僕のことを好き? あ、ファンとして好きってことだよね?
ライも、ハイネスさんはネクラのファンって言っていた気がするし、その件かな?
最近急激に絡むようになったから、ハイネスさんには少し厳しかったとか、そういうことかな?
「違います! 私、ネクラさんの事を男性として好きなんです。ゲーム内で現実の話をするのはご法度。それは承知しています。ですが、私はネクラさんの事が好きです!」
「ち、ちょっと待ってください……。それは、あれですか? 恋愛的な意味でですか?」
「はい! そうです!」
元気に「はい」じゃないんですよ……。
僕が付き合ったことが無いってことも、女の人に免疫が無いこともこの人なら知っているはずだ。
その上で、僕のことが好きって言うのは……。エイプリルフールはまだ先ですよ? そう言いたい気分だ。
「ハイネスの気持ちを疑っているのなら、それは私が保証します。彼女は、本気であなたの事が好きなんです」
「……待ってください。その気持ち自体に疑いを持っている訳ではありません。ハイネスさんはそんな人ではないですしね? ですけど、ネット上の関係でしか無い私に、好きという感情が湧くのかどうか、それが疑問と言うかですね……」
最近は珍しくも無い、ネット彼氏等の存在はもちろん知っている。
しかし、僕にはその考え方が一切分からない。顔も知らない相手をどうして好きになれるのか。そしてそもそも、なんでそれが好きだと言えるのか。それが分からない。
遅れていると言われても結構だけど、僕は流されるだけの恋愛はゴメンだ。
恋愛経験が無い男が何を言っているんだ。
そう思うのは勝手だが、元々恋愛に興味が無い以上、そういう考えに至るのは自然だろう。
なぁなぁで付き合うのは相手にも失礼だし、なにより誠実では無い。そう感じる。
「私は別に、このゲーム内でしかネクラさんと会っているというわけではありません。ちゃんと現実世界でネクラさんにお会いして、その上で好意を持ちました。もちろん、ネット上でのネクラさんも好きでしたけど、ネクラさんという背景が無くとも、私はあなたの事を好きになったと思います」
「……はい? ま、待ってください! 私と……会った事があるんですか?」
「はい。つい数週間前にお会いしました」
それはおかしい。だって、僕はここ1ヶ月程家から出ていない。
1番最近家を出たのは、引っ越しをした時だ。
それ以降は外に出ていないし、何より僕は身元を特定されるような発言は極力しないと心に決めている。
誰かと勘違いしている。そう考えた方が自然だ。
「それはありません。これは確証があります。ライも聞いて? ここからは大事な話」
「う、うん……」
ライも晴也も、ハイネスから紡がれる真実を今か今かと待っていた。
そして語られる、信じられないような現実。
「まず、ライもネクラさんも、最近引っ越されましたよね?」
『はい』
「そして、ネクラさんはプリン事件でご家族にプリンを配られましたよね?」
「……まぁ、予想以上に貰いましたので、多少は……」
200個以上のプリンなんて、1人で食べきれるわけが無いしね。
せっかくもらった物を悪くするくらいなら誰かにあげた方が良い。そう判断をしたまでだ。
「そしてライは、最近家族から大好きなプリンを箱で貰ったと言っていました。そうだよね?」
「……そうね?」
「次に、ネクラさん。これは私の想像ですが、妹さんがいますよね?」
「います、けど……。なんで分かったんですか?」
「それは後で。ライも、お兄さんがいるって言ってたよね?」
「うん。言ったね」
結局、ハイネスさんは何が言いたいんだろう。そう思ったのと、彼女の口から信じたくない真相が語られたのは同時だった。
「ネクラさんとライ。お2人は兄妹です」
『……は!?』
思わずハモった。そして、お互いがお互いを見て、いやいやと首を振る。
あんなヒステリックで暴力の化身みたいな妹が、こんなに落ち着いていて、仲間思いのライな訳が無い。
確かに妹にも貯金はかなりあるようだけど、それは流石に無理があるだろう。
そして、相手も同じ考えらしい。
ライのお兄さんがどんな人かは知らないけれど、僕とは正反対のような良い人なのだろう。
「いや、本当ですって。共通点だって話したじゃないですか。お互い同じ時期に引っ越しをしていて、同じ時期にプリンを渡したり貰ったりしているって。私、それでお2人が兄弟だって気付いたんですよ?」
「……偶然ですよ。ね?」
「そ、そうですよ。大体、私の妹はあなたのように良い人ではありませんし」
震える声でなんとかそう言葉を出す。
「……ちなみに、ライのお兄さんは眼鏡をかけています。そして、人見知りです。だよね?」
「そう、だね?」
「ネクラさんはどうですか? あなたの妹さんは、高校生だけど、ブランド物のバックなんかを持っていませんか?」
「……言われてみれば、そう……ですね」
「これでもまだ、信じられませんか?」
そうハイネスが告げて、もう1度僕らは向きあう。
そしてお互いに、いやいやと手を振る。
しかし、両者とも最初ほど自身に満ち溢れてはいなかった……。
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