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第59話 ネクラの悩み

 現実世界へと帰還した晴也は、そのままライへとメッセージを送って一旦眠ることにした。

 その内容は、最近のハイネスさんについてだ。

 自分が何をして相手を怒らせてしまったのか分からないとは情けない話だが、1人でうだうだ悩んでいても解決しない。

 なら、彼女と親しい人から探ってもらうしかない。


 それから彼が起きたのは翌日の夜19時前だった。

 1週間ぶりによく眠れた事で体調が良くなり、最近食べられていなかったプリンを1つ冷蔵庫から取り出す。


 それをほおばりながら携帯を見てみると、ライから探ってみるとの返答が来ていた。

 それ以降返信が無いってことは、まだ探ってくれているんだろう。

 彼女とこの気まずい雰囲気の中でプレイするのは嫌なので、なんとか頑張ってほしい……。


 それからしばらく部屋でダラダラしていると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。春香が夕食を作ってくれたらしい。

 ドアを開けると、また神妙な顔をした春香が立っていた。


(この顔の時は必ず何かしら相談してくるときだ……)


 別に面倒だとは思わないけれど、下手な事を回答すると自分に返ってくるので、いちいち神経を使うのだ。

 まぁ、最近は手毬も来てかなり安定しているので、多少の失言は見逃してほしいな……。


 テーブルに座ると2人分のオムライスを運び、予想通り相談がある……と持ちかけて来た。

 そしていつものように、食べながらその悩みを聞く。


 どうやら今日は恋愛相談らしい。

 恋愛経験ゼロだと分かっている人にそんな相談なんてしないでほしいよね。


「分かってるけどさ、お兄ちゃんって妙にひねくれてるでしょ? なら、客観的な事をズバズバ言ってくれそうだなって」

「褒められてる気がしないんだけど……」

「褒めて無いもん」

「あっそ……」


 仮にも相談したいって相手のはずなのに、このふてぶてしい態度はなんなのか。

 まぁ、不良と言わないまでもひねくれているというのは同意するけど……。


「友達の話ね? あくまで友達の」

「……それ、隠す気あるの?」

「実は私の話ですとかいう訳ないでしょ。本当に友達の話なの! 話気いてりゃ分かるから黙ってて!」

「……はい」


 調子に乗った結果、妹が目の前で拳を振り上げている。

 久々に殴られそうになった事で、春香がこの家において誰よりも決定権がある事を思い出した。

 もう余計な事は考えず、ただ失言しない事だけに全神経を集中させよう。


「友達に好きな人が出来たんだけど、ほら、好きだから顔が見れないとかあるでしょ? あれのせいで、その好きな人に勘違いされてるらしいの」

「……好き避けって本当にあるんだね」

「その子の性格的に仕方ない部分はあるんだけどね。でも、私の話じゃないっていうのは分かったでしょ?」


 そこでうん。と言ってしまうと地雷を踏み抜きかねないので無言を貫く。

 確かに春香であれば何も考えず特攻するだろうけど、それは地雷な気がする。


 今の僕の状態を例えるなら、地雷が無数に埋められている地面を丸裸で歩いているような状況だ。

 1つ回答を間違えるだけで人生が終わる。不思議と、そんな気がする。


「で、その好きな人は避けられている事には気付いているのね? だけど、自分が何かしたのかと思って悩んでるの」

「じゃあ春香は、その友達とその好きな人双方から相談されて、僕に聞いてるって理解して良いの?」

「厳密には、好きな人の方から探ってほしいって言われて、探った結果そんな答えが返ってきたって感じ。で、お兄ちゃんならこの事実をどう依頼主に伝えるか聞きたいなと」

「僕にはそんな事を相談してくる異性の友達も、まして同性の友達もいないと知っている上で、なお?」

「……自分で言ってて悲しくならない?」

「別に?」


 友達なんていなくても生きていくのに支障は無い。

 確かにいた方が生きていくのは楽で楽しくなるだろう。

 しかし、そういった理由で友達を絶対に作らないといけないか。そう問われると否と答えるだろう。

 それは個人差のある答えであって、自分の意見を押し付ける理由にはならない。


「話戻すけど、お兄ちゃんならどうする?」

「……待って。考える」


 そもそもの話、状況が特殊すぎて分からん……。というか、現実味が無さ過ぎる。

 例えるなら、魔法が使えるんだけどどうすりゃいい?と聞かれている感じだ。

 そんな事聞かれても知らんと突っぱねたいが、相手は真剣。そんな具合。


 まぁ、そんな御託を並べても何も解決しない。

 分からない。そう答えるのは簡単だが、春香が納得するかどうか。これを考えた時に、この答えはダメだと結論付けることが出来る。

 つまり、ちゃんと考えた上で結論を出さないといけないのだ。


「そもそもの話がさ、好き避けしている子は女の子だよね?」

「……当たり前じゃん」

「じゃあ、その女の子に全部話していいかどうか聞くかな。良いんだったら正直に話せばいい。ダメと言われたらその時考える。自分が好意を寄せている相手に勝手に想いを伝えられるのは結構辛いからね」


 小学生でよくある虐めと同じだ。

 友達に好きな人の事を相談すると、次の日にはクラス中に広まっていて収拾がつかなくなるあれだ。

 結局こっちは告白すらしていないのに振られる形になって、人を信用出来なくなる。


 それが原因で、数年後に好きな人が出来たとしても素直に相談が出来なくなるのだ。

 同じクラスに好きな人はいるけれど、そう言ってしまえば明日にはクラス中に広まっているのではないか。そう考えるだけで、他校の人が好き。なんてくだらない嘘をついてしまう。

 そして結局、その子に告白する時に周りにその嘘がバレ、付き合えたとしても嘘つきのレッテルを貼られることになる。


(ああいう人達は、真実より自分達が考えたくだらないストーリーの方が好きだからな……)


 どれだけ違うと弁明したところで、絶対に分かってくれない。

 自分達が作り上げた2股疑惑の方が話していて楽しいのだろう。虚しい人達だ。


「お兄ちゃん……?」

「え? あ、ごめん。なんか言った?」

「いや、その子がもし嫌って言ってきた場合はどうするのかなって」

「それはその時で考えるって言ったでしょ?」

「今考えて」

「……はい」


 小学生のいじめ問題について考えていた僕は、真面目に本題を考えざるを得なくなった。

 まぁ、あれ以上暗い事は考えたく無かったのでちょうど良いか。


「相手に『このままじゃ誤解は解けないけど良いの?』って念を押す。それでも嫌だと言うなら、自分で解決しろって言うかな」

「依頼人には?」

「近いうちに相手から話してくれるって伝える。話してくれなかったらドンマイで済ませる」

「……それで済ませるの?」

「依頼人に罪は無いけど、好き避けしている友達が自分じゃ解決できないなら仕方ないじゃん。他にどんな事をしろって言うの? 嘘を吐いても結局その場しのぎにしかならないし、むしろ状況が悪化する可能性もある。好き避けしてて相手が気付いてるなら、もう気持ちを伝えるしか無いんじゃない?」


 まぁ、付き合いたいって気持ちが無いのなら嘘を吐くのも良いかもしれないけれど、そういうわけじゃないんだろう。

 そうでないと、わざわざ本当の事は言わないはずだ。

 付き合いたくないけど好き避けしています。そんな事を正直に言う必要性は感じない。


「しかも、依頼人が避けられてるってわざわざ春香に相談してきてるなら、少なからず好意はあるんじゃない? それが友情的な物であれ、恋愛的な物であれ、好意がないと相談しようとは思わないと思うよ」

「……そうなのかな?」

「一般的な男の考えは分からないけど、僕ならそうだね。避けられたくない。けど、自分じゃどうしようもないから他の人に頼る。相手が避けられても構わないと考えてる人なら、放っておくよ」


 実際、僕もハイネスさんに避けられていてライに相談している訳だし……。

 ハイネスさんのことをどうでも良いと思っているなら、わざわざライに相談はしない。


「お兄ちゃんはさ、普段は頭良いのに、自分のことになると凄くネガティブになる人のこと、どう思う?」

「……なに急に」

「その友達のこと! 頭は良いのに不器用って言うか……なんというか?」

「……その人の事をどう思うかは人それぞれだよ。僕はその子の事をよく知らないし、何を言っても薄っぺらい言葉になる。そういうことは、あまり言わないようにしているんだよ」

「……そう」


 やけに沈んだ顔をした春香は、それ以降静かになった。

 毎度思うけど、この人は何でこんなに感情の起伏が激しいのか。相手をしていて疲れる……。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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