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第57話 研究結果

 研究成果と言っても、ここ1週間で気付いたことを共有するだけだ。

 あらかた調べてあるので抜け目は無いと思うが、気になる所や疑問点があればどんどん言って欲しいとあらかじめお願いしておく。

 自分が最強と思っていても、他視点から見ればそうでも無い。そんな事はザラにある。


「まず、多分薄々気づいている方はいるかもしれませんが、背を必要以上に低くすると、いくら足の速さを上げたところでさほど意味がありません。なので、足を早くしたい場合は身長をなるべく高く設定した方が良いと思います」

「え!? そうなんっすか!?」

「……当たり前。身長を低くするってことは歩幅まで小さくなる。大人でいう足が速いと、小学生の足が速い。これは別物」

「香夜さんの言う通りです。背を小さくして足を早くしたところで、小学生の中で足が速い。高々その程度です。なので、あまりお勧めはしません」


 この、誰でもすぐに気付きそうな事実に気が付いていなかったのはミナモンさんだけらしい。

 攻略サイト等にも当たり前すぎて書かれていなかったから分からんでも無いけど、この人は本当にアバターの調整を何度か試したのだろうか……。


「次に、攻撃速度を上げると、鬼の場合はもちろん言葉通り攻撃時の速度が上がります。子供にはほとんど必要のない個所ですが、視力を上げるとその攻撃も避けやすくなる。というのはご存知ですか?」

「……分かるようにお願いします」

「すみません、説明が下手な物で……。えっと、子供目線だと相手が攻撃を振りおろしたタイミングで回避して逃げますよね? それが、視力を上げるとしやすくなる、という事です」

「つまり、鬼の攻撃がいつもより避けやすくなる。との認識で良いですか?」

「まぁ、厳密には違いますけど、その通りです。こちらの目が良くなるというだけで相手の攻撃速度は変わりません。ただ、攻撃が見やすくなるってだけです。その副次的効果で避けやすくなるって感じです」


 いや、自分でもなに言ってんのか分からないけど、視力を最低の10と100にして比べた時、100の時はなんでか攻撃を避ける事が容易に出来た。

 多分、本人の反射神経が影響するんだろうけど、参考程度に話しておく。


「次です。鬼の方はまだ試していないので分かりませんが、子供の皆さん。足の速さを上げるのはあまりお勧めしません」

「それは、なんででしょう?」

「じゃあライさん。私から質問です。仮に相手が自分と同じ。もしくはそれ以上の足の速さに設定していた場合、逃げ切れると思いますか? あくまで体感ですが、今回のアップデートで鬼として使う際のアバターと、子供として使う際のアバター。この運動性能に少しだけ差が出ています。もちろん初期状態で」

「そうなんですか?」

「はい。なので、双方が足の速さを最大まで上げていた場合でも、永遠に逃げる事は不可能になっています。何分かは持つでしょうが、以前のように一生距離が縮まらない。なんて事にはなりません」


 あくまで体感だが、これも間違いない。

 恐らく、今まではキャラの方を使ってほしかったのでここら辺を放置していた運営だが、世界大会を開催する事になったので急遽サイレント修正を入れたってところだろう。

 まぁ、世界大会の中継で永遠と追いかけっこしている様子なんて映したくないだろうし。


「じゃあ、従来通りアバター戦も鬼有利となってしまったと、その認識で良いですか?」

「まぁ、想像していたより酷い事態にはなっていないかもしれませんけど、鬼有利になったのは間違いありません。なので、足の速さを上げるなら他の部分にステータスを上げた方が良いです」

「はい! また自分から失礼します! じゃあ、子供は足の速さを上げてはダメってことですか?」

「……そうじゃないです。ある程度まで上げる分には良いでしょうが、必要以上に上げる事は止めておいた方が良いってことです」


 感心した様子で頷いたミナモンは、そのまま手を下した。

 ミナモン、君は鬼なんだから、何も考えず足の速さに極ぶりしろとハイネスさんから指示が出るでしょ。そう心の中でツッコミを入れておく。


 というより、こっちから説明するより色々聞いて貰って、それに答える形を取った方が僕には向いているかもしれない……。

 そしたら、相手の知りたい事を教えられて、僕は無駄な説明をしなくて済む。よし、これからもこの形式で行こう。


「あ、あの……私は説明が下手なので、皆さんが聞きたい事を順番に言って貰っても良いですか? 答えられる事なら答えますので……」

「じ、じゃあまず私から。ネクラさんが調べたのは子供だけですか?」

「……鬼はハイネスさんが調べてくれると思ったのでとりあえず後回しにしました。私が言えるのは、子供側がされて嫌だと感じる事……くらいですね」


 ハイネスさんからの質問に苦笑で返す。

 さすがに、たった1週間で鬼と子供、どちらも調べるのは無理だ。

 もちろん将来的には調べるけれど、まずは自分の陣営優先だ。


 相手を知るのは、自分を知ってからじゃないと話にならない。

 自分が何を出来るか分からないのに、相手の事を研究するのは愚か者のすることだ。

 何より優先すべきは、自分に何が出来るのか。それを把握することだ。


「子供側がされて嫌な事でも良いので、教えてください」

「ん〜と、そうですね。先ほど足を早くしても意味が無いと言いましたが、そうしたら子供が取るべき行動はなんだと思います?」

「……背を出来るだけ小さくし、見つからないように努める。とかですかね? 足の速さで勝てないのなら、そもそも見つからなければ良いと……」

「その通りです。まだこの仮説が正しいのか自信はありませんが、私はアバター戦においてはかくれんぼのような物にしなければ子供は勝てないと思っています。なので、相手が索敵を持っていた場合は、かなり面倒ですね」


 考えてみれば良い。

 極端だが、鬼が短距離走・長距離走の世界記録を持っている人なら、見つかってしまえば絶対に捕まる。

 なら、そもそも見つからないように努めれば良いのだ。


 従来のアバター戦はそこら辺でウロウロしていても特に問題にはならなかったけれど、アップデートが入った今、アバター戦に限っては鬼ごっこというよりはかくれんぼに近くなった。

 最悪見つかったとしても、瞬間移動なり無敵なりで逃げれば良いのだ。


「これも鬼視点では確認していないので定かではありませんが、身長を最低の10に設定していると、小学生並みの身長になります。それだけ小さくなれるなら、皆さんであればいくらでも隠れ場所を見つけられるでしょう? しかも、相手の身長が高ければ高いほど、自分は見えづらくなるのも利点です」

「こちらの身長が高いと子供が見えないというのは……?」

「鬼が身長を高くするほとんどの目的は目線の高さや視界を良くすることです。なので、自然と高い位置に焦点が合わさり、低い位置は嫌でも疎かになります。理論上はかなり見えづらくなるのでは、と」


 何度も言うが、まだ試せていないので鬼目線は不確定な事が多い。

 しかし、自分の考えに間違いが無いのなら、今言ったことは間違っていないはずだ。

 間違っていたらめちゃくちゃ恥ずかしいけども……。


「では私から」

「どうぞミラルさん」

「ネクラさんが考える、今のところの最適解を教えていただきたい」

「......そうですね。大会モードだと仮定する場合、視力と聴力に長けた人を2人程置きたいと考えています。それ以外では過半数が先ほど言った身長を低くした隠れる部隊。残りの方は足を極限まで速くして鬼の気を引いて貰う囮をしてもらうのが最適解かなと。細かい調整なんかはその人個人に合わせた方が良いでしょうが、基本中途半端に割り振るなら特化させた方が強いと思います」

「……そうですか」


 なんだか複雑そうな笑みを浮かべた後、ミラルさんは席に座った。

 その後立ちあがったシラヌイさんが「説明が足りていないのでは?」と言ってくれるまで、僕は彼女の困ったような態度の意味が全然分かっていなかった。

 1度謝罪した後、説明を始める。


「偵察部隊の役割としては、聴力と視力に極ぶりしてもらい、鬼の情報を集めて貰います。その情報を指揮官へと送り、指揮官がそれに基づいて指示を出す。こうする事で、相手の位置や仲間が捕まった場合のある程度の位置が推測出来るようになります。指揮官としては、かなり指示が出しやすくなると同時に、鬼からしてみれば非常に面倒な立ち位置になるはずです」

「では、その他の役割は……?」

「隠れる部隊はその名の通り、試練開始まで隠れてもらい、試練をクリアした後再び隠れます。囮部隊は隠れている部隊の試練遂行をやりやすくするため鬼の気を引いて貰う役です。この囮役の方は試練に挑まなくて問題ありません。捕まる前提ですので」

「最悪、隠れている部隊の中から2人が見つからず隠れてきれていれば良い。そういう事ですか?」

「頭の中で考えているだけですので、実際にうまくいくかどうかは分かりませんが、今のところこれが最適解だと思います。ハイネスさんから見ても、結構面倒だと思うのですが……」


 恐る恐るハイネスさんの方を見てみると、彼女は腕を組みながら考え事をしていた。

 やっぱり今日も目を合わせてもらえないけれど、終始何かを考えているみたいなので以前より気にする必要は無いかもしれない。

 嫌われたとなると……ちょっとだけ悲しいけど。


「え? あ、ごめんなさい。そうですね……隠れている部隊がどの程度見つけにくいかによりますね。なんちゃらを探せの激ムズ版レベルなら、恐らく勝てません。まぁ、これもやってみるしかないでしょうね」

「では、とりあえずお試し会をしてみて、ですかね。感じた事などはその後で……ということで」

『はい!』


 こうして、アップデートが来てから初めての練習会が幕を開けた。

 ハイネスさんには一応、索敵の能力は無しでとお願いし、相手が索敵を持っていない場合どの程度見つけられるのかを試すつもりだ。

 唯一の懸念はマイさんだけど、彼女の索敵能力に通じるかも見てみたいのでその点は黙認した。


 結果として、その練習会で捕まったのは囮役の5人だけで、見事僕の仮説が正しかった事の証明がなされた。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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